『東京下町殺人暮色』読みました
2008.02.29 [Fri] 12:27

女流ということで またミステリーということで宮部作品を食わず嫌いの人は案外多い。もったいないなあというのが実感。 この人 オンナであることに甘えた作品はほとんどない。 それに完全無欠 どこへ行ってもなぜか事件に出くわす いくらなんでもそりゃないだろう的な探偵の存在もない。 密室やトリックにこだわるあまりにドラマを軽視することもない。 そういう意味では実は正統派ミステリーファンからは本来評価されないのが適当なのかもしれない。 お得意の少年もの これまた彼女の作品には頻繁に見られる自然な親子愛。 そして不条理な甘えが犯す罪とそれを許そうとするシステムや「実は他人事としか考えていないゆえの」人権擁護派の人たちをいやらしくない程度にチクリと。 彼女の作品では罪は許されない 罪は罪としてきちんとあがなわれねばならない。弱さや年齢を理由にそこから逃れようとする者 あるいは逃れさせようと手を貸すことによって良心的な存在になったかのように悦にはいる者。 宮部作品が決して万人にハッピーエンドを用意していないにもかかわらず後味がさわやかなのはそのせいだろう。 かつて「殺しは殺しだった」 「間違えて言ってしまったことは」たいてい「真実だ」 「殺されても殺されても黙って我慢してる私たち」 「『許せませんわ』型の女」 どきりとするような鋭いフレーズが要所にさりげなく散りばめられている。 どんなに声高に「年齢や精神の弱さを理由に罪を逃れることは不当だ」と叫ぶよりも そういう人たちには「まあ 騙されたと思って これ読んでご覧よ」と語ったほうが早い。 もちろんメッセージがお仕着せっぽいものでなく 極上のエンターティメントそれ自体を楽しめることもお約束できるだろう。
 

『クロスファイア〈上〉』読みました
2008.02.29 [Fri] 12:24

宮部作品のありがたいのは 弱者であることだけを理由に罪を逃れている者の横暴なふるまいや それを許す「人権擁護派」への警鐘を イヤミっ気なく 自然なストーリーの中で語ってくれること。 年齢が若いとか 精神状態が不安定だとか それはいずれも人を殺めていい理由にはならないし 殺めた場合の罪を許される理由にもならない。(現行法では責任能力の阻却事由となっているが) (何人か殺している連中を)「人間と呼べるか? 呼んでいいか?」 「彼らこそ社会の犠牲者だと、なんとでも呼べばいい」 (第一容疑者の少年たちは)「自ら冤罪の犠牲者と名乗り」「一部のマスコミや人権擁護団体はこれに賛同」「第一容疑者の青年など、ちょっとしたタレント並みの扱いを…」 いまブラウン管の向こうにある世界が そのままになっている問題が実に見事に描かれる。 人をクズ呼ばわりする若者がほんとうに恐れる言葉。 自分は特別の存在であるという根拠のない誤解。 それらを遠慮なく描いてくれる姿勢には溜飲が下がる。 それでいて冷静な現実も。 社会が機能する生き物である以上 その灰汁である「悪」もまた根絶することはできない。 さらには「場」というものの持つ力への考察 これにはおそれいった。 でも前半通じて嫌な気分にならないですむのに大きいのは何と言っても ちか子 の存在。 この冷静でやさしさを持った中年女性の存在が救いを与えてくれる。 念力放火能力という設定にリアルさはたしかにないが、この作品は純文学じゃないし 権力やその他の他人に秀でた力 と置き換えても 問題はないと思う。 とりあえず ここまでは(前半のみ)イントロが冗漫であるとは言え 良質な作品。 充分楽しめます。
 

『堪忍箱』読みました
2008.02.29 [Fri] 12:17

怖いのは、ホラー系統は苦手なわたしなんですけど、何気なく読んでみると・・・じわっと染み込んでくる怖さにぶるっとしたりしたんですが、面白かったです。 一番ほっとするのは『敵持ち』でした★ 一番好きな話は『お墓の下まで』です☆ それぞれに言えない秘密がどんどん明かされて、どの話にもいえたのが、展開が予想のつかないということでした。 宮部作品はこれが初めてだったのですが・・・あっぱれです/(^0^;)
 

『初ものがたり』読みました
2008.02.29 [Fri] 12:15

NHKで「茂七の事件簿」を放映していましたが、あれを観てから原作を初めて手に取りました。 こっちのほうがおもしろくて、宮部さんの江戸物にのめり込むきっかけになりました。(テレビの脚色も作品としておもしろいと思いますが、原作と全く違った物になってますね。それはそれ、ということで。) 江戸の庶民のなかの事件を解いていく、それも、ささいではあるものの、それぞれの人間模様をあぶり出しながら。 庶民の生活を生き生きと感じさせてくれ、季節の行事、食べ物の歳時記のようでもあります。 願わくば、屋台の親父の正体を突き止めるまで、短編として続けて欲しいです。(テレビ版の最終回はどうにもこうにも・・無理矢理つじつまを合わせたような印象。宮部さんなら、あんな書き方しないだろうなあ。)
 

『蒲生邸事件』読みました
2008.02.29 [Fri] 12:12

単なるタイムトリップミステリーとは異なる、考えさせられる作品である。  平成6年から昭和11年の2月26日にタイムトリップしてしまった大学受験に失敗した高校三年生が主人公。入試には出ない現代史になんか少しも興味も関心もなかった。  平成の世から戦前の日本に遡った少年と、逆に戦争の時代に向かう戦前の日本から、平成の世を垣間見た元陸軍大将。もちろん、蒲生邸に住む人々の人間模様や、元陸軍大将の自決をめぐる事件、少年の女中ふきに向ける淡い恋心などもおもしろいが、最大のテーマは「歴史」「その時代に生きるということ」である。  もし、未来を知って、元の時代に戻ったら、人は何をしたいか。過去の時代を経験して、また現代に戻ったら、どう生きるか。  「歴史的な事実は変えられても、歴史そのものは変わらない。」というタイムトラベラー平田のセリフが本作品の神髄である。  何しろ600ページを超える長編。読みごたえがある。読後感は、極めて爽やかである。