北野めぐみ │ 差別的なギャグ多数でも、エミー賞に最多ノミネートされた『30 Rock』

July 29 [Fri], 2011, 11:32

『30 ROCK』シーズン1 DVD-BOX1/
TCエンタテインメント
 一時の勢いは失ってしまったものの、アメリカではリアリティー番組が相変わらず高い人気を誇っている。オーディション番組の『アメリカン・アイドル』は今期も圧倒的な高視聴率を誇っているし、キム・カーダシアン一家の日常を追った作品は好調につきスピンオフが制作。大家族のすさまじい日常を包み隠さず紹介する番組、10代で未婚母となったシングルマザーの呆れた生活を追いかけまわす作品など、多くのリアリティ番組がテレビ電波を占領している。
 リアリティー番組が、これほどまでに人気があるのは、「他人の生活を覗き見する」というコンセプトがうけたからである。自分とは別世界に住む人たちが、一体どのような日常を送り、どのような問題を抱えているのか。体裁やキレイごとにウンザリしているアメリカ人にとって、内情や裏舞台を知ることができる番組は、大いに興味をそそられるのだろう。
 この波に乗るように、業界の裏舞台を描くテレビドラマが制作されるようになった。ハリウッドで頂点に立とうと奮闘するイケメン俳優とその取り巻きの姿をコミカルに描いた、『アントラージュオレたちのハリウッド』は大成功を収めており、現在シーズン8が放送されている。そして、2006年秋。テレビ番組を手がける制作プロダクションが舞台の、業界暴露系番組が放送スタートした。時事ネタ満載のスピーディなストーリー展開が魅力の30分爆笑コメディー『30 Rock』である。
 物語の主人公は、人気深夜バラエティー番組の女性主任脚本家リズ・レモン。独身アラフォーで、結婚や子育への夢は捨てていないが、ひっかかる男は見事ダメンズばかり。キャリアは順調だが、私生活は悲惨極まりないという「マンハッタンのキャリアウーマンにありがちな中年女性」という設定だ。
 主人公の上司は、一流企業によくいる「上品で高級志向の強い自信家」。思い込みと男尊女卑がひどく、リズの私生活までにも口を出すが、自分のことを「理解あるダンディーで素敵なボス」だと信じて疑わず、どこか憎めない。番組を背負うスターは、自画自賛の激しいアラフォー女優と、精神的にイッている天才コメディアン、微妙な物まねが売りのコメディアンの3人(シーズン1)。部下たちは才能には恵まれているが外見は悲惨で、ひとくせもふたくせもあるオタクぞろい。リズは彼らに毎日振り回され、クタクタヘトヘトになっている。
 テレビ業界でクリエイティブな仕事をしていると聞くと、憧れる人も多いが、現実はかなり悲惨なのだと、この作品は教えてくれる。職場はまさしく戦場であり、残業どころか泊り込みで徹夜することもしばしば。上司に直訴したところで、面白い番組を作らなければ、視聴率が悪くなり番組は打ち切られ、職を失ってしまう。文句を言いながらも全力で頑張るしかないのである。アメリカ人は、生涯平均して8回転職するといわれ、ドラマの登場人物のように不安な気持ちを抱きながら働く経験を持つ者が少なくない。誰もがうらやむような憧れの業界に属していても、一寸先は闇。リズが髪を振り乱し奮闘する姿に、人々は笑いながらも深く共感しているのだ。
 実は『30 Rock』放送開始時、もう一作品、バラエティー番組制作の裏舞台を描くドラマの放送がスタートした。『ザ・ホワイトハウス』を手がけた大物プロデューサー、アーロン・ソーキンが制作し、『フレンズ』でブレイクしたマシュー・ペリーが主演した『Studio 60 on the Sunset Strip』という作品である。このドラマは、美男美女揃いでスタイリッシュな雰囲気のオシャレな暴露系であり、大々的に宣伝されたこともあり、誰もが成功を確信した。一方、『30 Rock』は、登場人物の年齢層が高いうえにバタ臭く、ワンシーズン持てばよいと思われていたのだ。
 しかし、ふたを開けてみると視聴率では苦戦したものの、評判がよかったのは『30 Rock』の方だった。テレビ界のアカデミー賞と呼ばれる、エミー賞に22部門ノミネートされ、作品賞などを獲得するなど業界からのお墨付きも得た。短命になるとの予想を吹き飛ばし、アメリカで最も注目を集めるコメディーへと登りつめていったのである。
 ここまで成功したのは、番組の製作総指揮者で主役も演じてるティナ・フェイ自身が、『サタデー・ナイト・ライブ』のカリスマ女性脚本家だったからだろう。実際に裏舞台で活躍してきた彼女ならではの絶妙な描写が、業界人をうならせ、視聴者を魅了しているのである。奇想天外なストーリー展開が多く、突拍子もないシーンが次から次へと流れるのだが、不思議とリアルに感じてしまうのは、まさにティナの力量のなせる業なのである。
 時事ネタをアメリカン・ジョークとして取り入れているのもこの作品の特徴の一つ。人種、格差をネタにした差別的なギャグも多いのだが、テレビ業界らしいと受け入れられており、アメリカ人の本音が見えるものとなっている。このあけすけな作風を気に入ったジェニファー・アニストンやマット・デイモンら大物スターがこぞってゲスト出演しているのも見所だ。
 またこの作品、実は、かなりの親日派でもある。主人公の上司で、インテリを自称するNBC制作担当副社長のジャック・ドナギーが、時折日本の文化や実業家の名を口にするのだ。師を仰ぐ人物と「センパイ、コウハイと呼び合う仲だった」と告白し、「センパイ、センパイ」と連呼するエピソードもある。日本語を笑いにしているわけではなく正しく使われており、日本人にとっては嬉しいものとなっている。
 爆笑バラエティー番組の裏舞台は、さぞかし楽しいことばかりだろうという想像を打ち砕く『30 Rock』。それでも業界への憧れを与え続けてくれるのは、エピソードを重ねるごとに職場の人間関係が深まっていくからだろう。社会現象を巻き起こしたこの作品は、テレビ業界の裏側だけでなく、職場の人間関係の大切さを再確認させる番組として人気を集めているのである。

北野めぐみ(きたの・めぐみ)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。