部屋のにおい 

September 03 [Sun], 2006, 0:12
沙織は歩き出した彼の後ろを歩いた。
彼が立ち止まったのは1階の奥から2番目のドアの前。

ここがロバーソンの家だ。

ロバーソンは鍵を開け、ドアを手前に引くと、
先に沙織を部屋の中へ入れさせた。

沙織は部屋に入った瞬間、独特のにおいを感じた。
彼の部屋のにおい。
初めて嗅ぐにおい。

とても印象的だった。

沙織は初めて彼のプライベートに立ち入った気分になった。

沙織は部屋を見回した。

部屋は6畳くらいの広さで、大きなテレビとソファーが置かれている。
テレビの脇にはDVDがずらりと並んでいる。
プレイステーション2とX−Boxもある。
テーブルはオシャレなデザインで、表面はダーツの的の模様になっている。
部屋の端に、はしごがある。
はしごの先を見るとロフトが付いていた。

沙織はとても素敵な部屋だと思った。
外国人のセンスは、やはり日本のものとは全然違う。

沙織は「オシャレな部屋だね」 と彼に伝えた。

しかし彼には『オシャレ』という意味が理解できなかったのであろう。
彼は沙織に『オシャレ』の意味を聞いた。

沙織は『オシャレ』を英語で何と言うか考えたが、思いつかなかった。

そして「素敵」と、別の日本語で言い換えた。

彼はその言葉は理解できたのであろう。
「アリガト」 と嬉しそうな顔で沙織を見つめた。

着いた場所は・・・ 

September 02 [Sat], 2006, 1:55
しばらくして車が止まった。

どうやら目的地に着いたようだ。

ロバーソンは車を降りた。
それにつづき沙織も車から降りた。

沙織の目にはアパートが飛び込んできた。
ロバーソンの家だろうと沙織は思った。

沙織は運転手の彼と新奈を見た。
2人は車から降りてこない。

沙織は確信した。ここからは別行動になることを。
向かう先は彼の家。

沙織の鼓動は急に速くなった。
やっと落ち着いてきた心臓が再び暴れだした。
彼に話しかけられたときと同じくらい、いや、それ以上の緊張だった。

沙織は少し恐い気持ちもあった。
彼の家に入ったら、もし逃げたくなってもそれはできないだろう。
もう後戻りできない状況まできている。
やはり出逢ったばかりの男の人の家で2人きりになるのには抵抗があった。

それでもきっと好奇心の方が強かったのであろう。
初めて彼を見たときに思った、彼と恋人同士になりたいという夢が
もしかしたらこの先に待っているかもしれない。
自分が望んだことだ。
沙織はそう自分に言い聞かせていたのかもしれない。

沙織はふと新奈のことが気になった。

新奈をあの彼と2人きりにしていいのだろうか。
新奈は2人きりになるのが嫌かもしれない。
もしそうだとしても、きっと私のためを思って我慢しているのだろう。
自分のせいで新奈に迷惑はかけたくない。

新奈もあの彼に恋心を抱き始めていればいいのだが・・・。


沙織はそんなことを思いながら、冷静を装って新奈に手を振った。

そして去っていく車を彼と2人で見送った。

映画の話 

August 30 [Wed], 2006, 23:10
3人は道路の脇の階段に腰をかけ、もう1人の彼を待った。


映画の話になった。

彼は映画が大好きだと言う。

沙織はちょうどこの頃映画館でアルバイトをしていた。
もちろん映画は好きである。

そしてアルバイトの話に移った。
沙織と新奈は塾の非常勤講師をやっていた。
何を隠そう、この2人は塾がきっかけで仲良くなったのであった。


1台の車が目の前で停まった。彼である。
新奈は助手席に招き入れられた。
沙織とロバーソンは後部座席に座った。

ロバーソンはなにやらウキウキしている様子だ。
事情を聞くと、どうやらこの車はロバーソンのもので、
後部座席に乗るのが初めてで不思議だという。


そしてロバーソンは運転している彼に何かを説明しだした。
よく聞くとそれはカタコトの日本語だ。

ロバーソンと沙織は映画が好きであり、彼と新奈はBon Joviが好きである。
だから沙織たちは映画を観て、新奈たちはBon Joviを見る。

彼はこのようなことを言っていた。
沙織と新奈はいまいちよくわからなかったが、聞き流した。

しかし車は確実にどこかへ向かっていた。

It's My Life 

August 29 [Tue], 2006, 3:11
4人はエレベーターを待っていた。

話題はBon Joviである。
彼ら2人はBon Joviの「It's My Life」を口ずさんだ。

新奈と話していた彼は、自分の右足をギター代わりにし、
歌っている曲に合わせてギターを弾くふりをした。

新奈もそれにあわせて口ずさんでいた。


沙織はこの曲を知らなかった。
Bon Joviの存在は知っていたが、曲は聴いたことがない。
洋楽を聴いてこなかった自分を悔やんだ。


エレベーターで1階までおりると、4人はそのままスペイン村を離れることになった。


新奈の彼は車を出すために1人駐車場へ向かった。

残りの3人は道路の方へと歩いていた。


歩いている途中、新奈が彼に質問をした。

「What is your name ?」


彼は大きなリアクションをとった。
お互い名前を聞いていなかったことに驚いたのであろう。

「ロバーソン」

みんなからは「ロバちゃん」と呼ばれているらしい。

沙織は、「ロバーソン」という名前が覚えにくく、少し残念な気持ちだった。
「ジャック」などといった、ありきたりな名前を想像していたからだろう。

しかしやはり彼の名前を知れて嬉しかったことは確かだ。

彼について知っていることは、まだほとんどない。
名前を聞けただけだが、また少し距離が縮んだ気がした。

着うた 

August 18 [Fri], 2006, 1:17
すると突然、着うたが流れ始めた。
沙織の一目惚れの彼の携帯が鳴っている。
沙織の聴いたことのない曲だった。

しかし彼はなぜか携帯に出ようとしなかった。


沙織は彼に「出なくていいの?」と質問した。

彼は笑顔で「ショクジチュウ」と答え、
その着うたのリズムに合わせ、顔の前に突き立てた両人差し指を左右に、
まるでメトロノームのように動かし、おどけてみせた。

沙織はそんな彼を見て、一気に緊張が溶けていくのを感じた。
ユーモアで優しく、とても素敵な彼にどんどん惹かれていく自分にも気がついていた。


彼は食事が終わると、席を立ち、少し離れたところで
先ほど電話をかけてきた会社のボスに電話をかけなおした。

沙織は、電話をしている彼を見つめ考えていた。
船の中ではあんなに遠い存在だったのに、
今はもうあの時とは状況が違う。
今まで運命というものを信じてこなかったし、感じたこともなかった。
でも今は彼との運命を感じている。
今回ばかりは神様も自分の味方だと思った。


彼の電話が終わると、沙織たち4人は食堂をあとにした。

言葉の壁 

August 17 [Thu], 2006, 3:49
沙織は、新奈たちの会話が気になったが、
それ以上に目の前にいる一目惚れの相手に夢中だった。

沙織は英語を話すことができないので彼との会話が不安だったが、
彼はカタコトの日本語で沙織に話しかけ続けた。

沙織は、少しでも彼に自分の言葉が通じるように、ゆっくりと日本語を話すように心がけた。
それが沙織にできる精一杯の努力だった。

それとは対照的に、新奈は英語で会話を弾ませている。
そっちの方が相手に喜ばれるに違いないし、なにより見ていてかっこいい。
沙織は新奈がうらやましかった。

決して高校時代は英語は不得意ではなかったのに、実際英語を話すとなると別問題だ。
沙織は、英語を話せない自分にコンプレックスを抱き始めた。

それと同時に、この難しい日本語をカタコトでも話せている彼を尊敬した。

沙織は彼に質問した。

「日本に何年いるの?」


「7ネン!4ネン ト 3ネン アワセテ 7ネン!」


彼は昔日本に4年住んで、1度場所を移したのち、再び日本に戻ってきたようだ。

彼の母国語はポルトガル語であり、英語、日本語、スペイン語の計4ヶ国語が話せると言う。


沙織はますます彼を尊敬した。

が、ここで1つの疑問が生じた。
ここはスペイン村である。
だから沙織はてっきり彼はスペイン人だと思っていた。
しかし彼の母国語はスペイン語ではなく、ポルトガル語である。
彼はきっとスペイン人ではない。

しかし沙織はそれを彼に英語で聞く自信がない。
日本語で伝わるかもわからない。

結局、沙織は彼への質問を諦めてしまった。

沙織は悲しかった。
普通ならお互いに質問して会話を弾ませられるのに、
自分は相づちを打って笑うことしかできない。
言葉を交わすというとても簡単なことが、
言語の壁によって、ここまで難しくなってしまうとは・・・。

着いた先は・・・ 

August 13 [Sun], 2006, 3:14
彼は、従業員専用の建物に入っていった。
沙織と新奈は若干ためらったが、彼が手招きをし、中へ入れてくれた。

エレベーターに乗り、着いた先は社員食堂だった。

他の社員達は不思議そうな顔で沙織と新奈を見ていた。

彼が案内した席には、さきほどのスペイン人が座っていた。
彼は本を読んでいた。
沙織たちに気づくと、彼は笑顔で彼女達を迎えた。

彼の目の前の席には食べかけの定食が置かれていた。
どうやら夕食を抜けて沙織たちを迎えに来た彼のものらしい。

沙織は本を読んでいた彼の隣に座った。
新奈は沙織の隣に腰を下ろした。

沙織が一目惚れした彼は、沙織に飲み物をおごった。
そして、定食についてきたグレープフルーツを沙織と新奈に勧めた。

彼らと沙織は格闘技などの話で盛り上がっていた。


そんな中、新奈だけはまだ少し打ち解けずにいた。
初対面の人と仲良くなるのが苦手なのであろう。


沙織の横に座っていた彼が突然こう聞いてきた。

「Can you speak English ?」


沙織は新奈を指差し、「She can.」と答えた。

彼は嬉しそうに新奈の目の前の席に移動した。


沙織は、ここまで自分と彼のことで頭がいっぱいだったが、
もしかしたらこの2人にもなにかあるかもしれないと嬉しくなった。
いや、2人になにかあってほしいと願っていたのかもしれない。
自分だけ浮かれ気分で、申し訳ない気持ちがどこかにあったのだろう。

沙織は、新奈が彼に恋に落ちてくれないかと思った。

男の色気 

August 13 [Sun], 2006, 2:31
沙織と新奈は興奮しながら話をしていた。
あまりにも急な展開で、沙織は信じられない気持ちだった。
2人はチュロスを買い、ベンチに座り、彼からの連絡を待った。

沙織は、こんな気持ちは初めてだった。

全てがうまくいきすぎている。
今さっき恋に落ちた相手と、これから会う約束をしている。
やはり信じられない気持ちの方が大きいかもしれない。
もしかしたら、このまま連絡が来ないのではないかとも思った。

そんな不安を抱きながらも、沙織はしっかりと携帯電話を握り締め、
今か今かと彼からの連絡を待ち焦がれていた。


そして沙織の電話がなった。


「もしもし」

「モシモシ、イマ、オワッタ。
 モン ノ トコロニ キテ 」

「分かった!」


沙織たちは門の前に移動した。
彼の姿はまだない。

1、2分経っただろうか。
むこうから人が歩いてくる。
暗くてよく見えない。

「彼かなぁ?」

しかしそれはすぐに確信に変わった。

さきほどとは服装が変わっていた。
黒いTシャツに黒いパンツ。

沙織は、さっきとはまた違った魅力にどきどきしていた。
なんていうか、「男の色気」というものを感じたのである。


「ツイテキテ」

そう言うと、彼は自分が歩いてきた方に向かって歩き出した。
沙織と新奈は彼の後ろを歩いた。

もう1人のスペイン人 

August 13 [Sun], 2006, 1:29
ふとまわりを見回すと、まだ乗客が何人か船に残っていた。
もう少しだけ彼と一緒にいれると沙織は密かに喜んだ。


彼が沙織に質問をしてきた。

「ナンサイ?」


「はたちです。」

「ハタチ?ハタチッテ、ナンサイ?」

「にじゅうです。」

なんでもない会話のやりとりであったが、
沙織は、2人の距離が縮まっている気がして、嬉しくて仕方がなかった。


新奈は彼に質問をし返した。

「How old are you ?」


「ニジュウナナ」


沙織は、27歳という年齢は程よく大人で、いい年齢だと思った。



「トモダチ、ツレテイクヨ」

彼はそう言うと、近くにいた海賊の格好をしたスペイン人を手招きした。

その彼は近づいてくるやいなや、新奈の手の甲にキスをし、
続けて沙織の手の甲にもキスをした。

沙織と新奈は、いかにもな外人のあいさつに少しばかり興奮した。

そして優越感もあった。
あれだけいた乗客の中で、沙織と新奈だけが彼らの特別に選ばれたのだ。



気がつくと乗客は沙織たちだけになっていた。


「アトデ、デンワスル」

沙織は大きくうなずき、新奈と一緒に船を降りた。

携帯電話 

August 12 [Sat], 2006, 23:00
うつむいている沙織に対し、彼はこう言った。

「ホントニ、シズオカ、アンナイスルヨ」

沙織は顔を上げ、彼の顔を見つめた。
彼は微笑んでいる。

沙織は、彼が本気で言っていることに気づき、動揺した。
ふと新奈の方を見ると、新奈は嬉しそうに沙織と彼のやりとりを見守っていた。

沙織は急に嬉しくなった。
もしかしたら、彼となにかあるかもしれない。
たとえ恋愛に発展しなかったとしても、
今ここで何もないまま帰るよりはずっと幸せだと思った。

そして彼にこう伝えた。

「是非案内してください。」


彼は、沙織と新奈が宿泊している場所を聞いた。
2人が宿泊しているホテルの場所は、ここ静岡市からは少し遠い。

彼はそれを聞き一言、「ダイジョーブ!」と言った。

沙織と新奈は、いざとなったら車で送ってくれるだろうと勝手に判断した。


彼は携帯電話を取り出し、携帯の番号を沙織に教えた。
沙織はその場で、自分の携帯から彼の携帯にワンコールを入れた。

お互いの携帯に相手の番号が伝わった。


「シゴト、オワッタラ、デンワスル!」


沙織は笑顔で答えた。

「オッケー!」
P R
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