映画『天国と地獄』

May 08 [Tue], 2012, 2:56
監督黒澤明、脚本小国英雄、黒澤明ほか、主演三船敏郎、仲代達矢、香川京子、山崎努、音楽佐藤勝、1963年昭和38年、143分、白黒。
黒澤明には珍しい社会派サスペンスの傑作。
誘拐事件を取り扱った作品で、この作品や吉展ちゃん誘拐殺人事件により、刑法が改正され、身代金目的の誘拐罪の刑罰が重くなった。
横浜の高台に立つ、製靴会社重役、権藤夫妻三船敏郎香川京子宅で、権藤付きの運転手の息子が、何者かに誘拐される。
犯人は権藤の息子を誘拐したつもりであったが、実は直前に、二人の子供が着ているものを取り替えていたことによる勘違いであった。
戸倉仲代達矢ら刑事が権藤邸に入り、犯人からの電話を逆探知しようとするができない。
しかも犯人はhttp://www.matsuaa.com/、権藤邸の見えることろから電話をしてきているようだ。
犯人から身代金要求の電話がかかり、誘拐した子供が権藤の子でなくても、権藤に3000万円の要求を突きつけてくる。
しかし権藤にとって、身代金を払うことは、今、社内に置かれた自分の立場からして、とてもできない相談であった。
5000万円の小切手はあったが、それは自らの主張を通し、他の重役に打ち勝つ切り札としての金であった。
映画後半に出てくるが、オムライス100円という時代の話であり、権藤の自宅にあるシャワーつきのバス、居間に据えられたエアコン、権藤の専用車ベンツ、ジョニ黒のロック、撃つと音の出るおもちゃのライフルなど、当時の日本の金持ちはこんなふうであったと思い知らされる。
犯人に指示され、金の詰まった二つのかばんを列車から落とすスリリングなシーンは、手に汗握る迫力だ。
権藤は特急こだまの洗面所から、酒匂さかわ川を渡ったところでそのかばんを落とす。
刑事たちは先頭と最後尾の車両の窓から、8ミリをまわす。
このシーンのためだけに、川沿いにある民家の二階を壊すことにしたというのは有名なエピソードだ。
そのまま子供は解放され、これを境に、力唐ヘ警察が捜査に全力を上げる状況へと移る。
この前半でちょうど1時間である。
この後半の展開を飽きさせないようにするためにも、おそらく4人もの脚本が必要であったのだろう。
脚本が用意周到で細かい。
後半に前半以上の時間を割いたのは、このドラマが単に身代金目的の誘拐事件を描くサスペンスではなく、人間ドラマの領域に食い込んでいることに執着していたからにほかならないからだ。
運転手とその息子親子が再会するシーンは、刑事たちを手前にした遠景であり、犯人が靴屋のウィンドウを見て歩く権藤にタバコの火をもらうシーンも警察側からの視線が生きており、刑事の乗る車を満席にしていることなどと同様、後半は警察の捜査の力強さに力唐ェ移ったことを物語っている。
身代金目的のため子供を誘拐するという卑劣な犯罪に対し、正義をもって捜査に当たる刑事たちの姿は、黒澤の主張そのものだ。
燃えたら色の付いた煙を出す粉の袋を権藤がカバンに仕込むシーンをでは、手元はアップにされない、ようやく解放された息子と父親が対面するところも、ツーショットやアップにしない、この映画ではほとんどアップが出てこない。
おそらく社会派の映画として、人間同士の関わり合いに比重を置くため、余計な心理を描きたくなかったし、その必要もなかったからだろう。
フレーム内の立ち位置にしても、黒澤らしい、ある意味あくの強い演出が効いている。
特に、権藤邸の居間に複数の人物がいるときの演出とカメラワークは、そのまま舞台劇かと思わせるような、しつこいほどにわざとらしい演出がなされている。
イカれた犯人山崎努を映画中でもキチガイと呼び、アヘン窟が街の一部をなしている横浜の面影を残す時代だからこそ、戦後の跡を引きながらも、人間としての正義と悪が、社会において、見るからにすっきりと相対している。
だから権藤の存在そのものと、身代金を払った権藤への世間の同情は、映画のストーリーとして素直に受け入れられる。
このアヘン窟は横浜黄金町にあり、隣は横浜の繁華街、伊勢佐木町で、後半の犯人尾行のシーンで、猥雑な街として出てくる。
犯人が麻薬を、ス中に女から手渡しで受け取る店は、おそらく後の中華街だろうと思われる。
今のJR関内駅から、みな徒歩で動ける距離だ。
この麻薬受け渡しの大衆中華料理屋には、白人も黒人もいる。
この映画の封切数年後に青江三奈の伊勢佐木町ブルースが大流行したことになる。
まさにこの後半では、その中華料理屋のフロアでのスシーンが見られ、汗の匂い、タバコの煙の匂い、あぶらっこい料理の匂い、アヘン窟の悪臭、そういったものが匂ってきそうな映像の連続だ。
前半の権藤邸の舞台空間のような居間と対比されて、カメラが一挙に外へ出て、夜の繁華街や鎌倉の海を映していく。
ラストには、権藤と、死刑直前の犯人との対面シーンが用意され、犯人のセリフの中に、天国、地獄という言葉が現れる。
権藤の背中で終わるのもよかった。
ストーリーの発端となる医学部インターン生の起こす誘拐事件として、動機の描写が不十分であり、それについてはラストで犯人にしゃべらせるだけにとどまっている。
その唐除cbば、サスペンスのみならず映画としては教科書になるような作品であり、途切れることない緊迫感、職人芸的カメラワークにより、エンタメ性も高い作品に仕上がっている。
犯人役は、後にマルサの女で有名になる山崎努、その他をベテランのわき役陣が占め、ワンシーンだけにも、当時のベテラン俳優を贅沢に使っていて、観ていて楽しい。
権藤の子供の役は江木俊夫で、のちにフォーリーブスの一員となる。
誘拐事件を題材に、地獄にいると自覚する医学生が、天国にいて何不自由なく生活している権藤に、空しい挑戦をしかける内容だが、映画的迫力や切れ目ない緊迫感など、いま観ても色褪せない作品である。
同年に起き有名となった吉展よしのぶちゃん誘拐殺人事件の犯人は、後に、この映画の予告篇から身代金目的誘拐を思いついたと言っている。
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