うみのうま 

June 07 [Sun], 2009, 12:40
私は海馬に戻って、海を泳いだ。沖の漁船を追い越し、水平線の彼方まで勢いをつけて走った。
いくつもの夜と昼を走り過ぎた、四人目の子供が北の海に漂っているのを、走りながら見た。
子供の笑い声が、耳もとに響いた。
私はそのまま走りつづけた。昼も夜も尽きるところをめざして、どこまでも、走りつづけた。

『竜宮』川上弘美、文藝春秋社(文春文庫)、p220
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短編集。最後の作品である「海馬」の締めの文。
この開放感というか、果てしない自由さの表現と、私の波長は合うようだ。
最初に読んだ時は目から水があふれて止まらなかった。

海馬は、人間社会になじんで暮らしている海の生き物で、人間の女性の姿をとっている。
何人もの人間の主人次から次へと譲り渡され、所有されていた彼女が、海に還る場面。
束縛から自由へ。どこまでも。
人間の現実と願望を暗喩しているようで、うすら寒くなる。

過剰の季節 

June 03 [Wed], 2009, 20:45
「麗子は冬が好きでもあり、また夏が好きでもあった。
なべてはげしい過剰の季節は、彼女のなかの小さな獣が歓喜して踊り狂うようで、精神は(肉体さえ)この酔っ払った獣のあとをついて行くだけで、何もしなくても十分に興奮と疲れを得るのである。
夏と冬とは豊饒と痩枯の違いこそあれ、どちらも露出症的だ。
だから麗子のように、自分のなかの獣を純粋に育てているひとは、大げさな身ぶりを何一つしなくとも、そこに色情的な自然を理解する透視力に恵まれる。」


『犬狼都市(キュノポリス)』澁澤龍彦、福武文庫(福武書店)、p23-24

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歓喜して踊り狂う小さな獣、っていう表現が好き。
わたしの獣は春のほうが活発なきがする。春はやばい。
収縮していた全身の血管が一気にひらいて、けだるさをもたらす。日照時間の増加が視床下部に作用して、四つ足で駆け回りたくなるようなざわざわした感覚を呼び覚ます。
裸だった木々が芽吹き、花を咲かせる。
死の季節から生の季節へ。
冬の終わり、春が一歩ずつ近づくのを知るたびにわたしの耳はぴんと立つ。
身近にいる女の子をすきになるといったろくでもないことが起こるのも、いつも春だ。
そういえば変質者も春になると沸いて出てくるね。

ちなみにこの本はもう絶版で、高校の時古本屋で見つけました。
今思えばラッキーだった。

海が見たくなった 

June 03 [Wed], 2009, 20:16
「海がお好きなのでしょうね、船長。」

「そうです!好きです!海はすべてです!
海は地球の十分の七をおおっています。その息吹は純粋で健康です。
広大な砂漠ですが、人はそこで決して孤独ではありません―かたわらには生命の躍動が感じられますから。海は超自然的で驚くべき存在の運び手です。海はすべてが動きであり、愛なのです。それはあなたの国の詩人が言ったように、生ける無限です。

そして事実、先生、自然はそこで鉱物界、植物界、動物界という三つのすがたによって示されているのです。動物界の代表として多いのは、植虫類が四種、節足動物三種、軟体動物五種、脊椎動物が三種、それは哺乳類、爬虫類、それから無数の魚類です。一万三千種以上におよぶ魚類のうち、淡水に住むのはわずかに十分の一です。海は自然の広大な貯蔵庫です。

地球はいわば海からはじまったもので、海によって終わるかもしれません!
そこには最上の静けさがあります。海は専制君主のものではありません。
海面では、不正な法律がまだおこなわれ、戦争し、殺し合い、地上の恐怖をそこに及ぼすことがあります。しかし、水面下十メートルになると、かれらの権力は及ばず、彼らの影響は消え、かれらの能力はうしなわれるのです!
ああ!先生、海のなかで生活なさい!そこにだけ独立があるのです!そこでは、わたしは支配者を認めません!そこでは、わたしは自由です!」


『海底二万里 上』ジュール・ヴェルヌ、石川湧訳、岩波少年文庫、p125-126

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かっこいいなぁネモ船長。小学生のころ何度も読みました。
今でもわたしの中のかっこいい大人ベスト10くらいには入るとおもいます。
急に海が見たくなりました。海はいいです。様々な顔を見せてくれます。
天気がよいとき、夜の海の波打ち際に座って無心でいるのがすきです。
そうしていると眠くなって、そのまま波にさらわれてもよい気になります。
P R
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