沼地のある森を抜けて 梨木香歩

November 23 [Fri], 2007, 22:51
『沼地のある森を抜けて』 梨木香歩 第16回紫式部文学賞受賞
 「私」は、亡くなった叔母のマンションを相続する代わりに、一家に代々伝わるぬか床の世話を押しつけられる。そのぬか床にはなにやら重大な秘密が・・・。酵母菌研究者・風野さんとの出会い。叔母の日記。ぬか床を返すために、「私」は風野さんとともに一族の故郷の島へ渡る。そこでの不思議な体験。幽霊譚のような始まりの前半から、最終的には進化の秘密にまで及ぶ壮大な展開へと物語は深化する。
原始の、生命の交わりに思いを馳せ、恍惚となってしまった。


この小説はちょっと理系っぽい要素があるけれど、梨木果歩の手にかかると物語は理系の堅さがとれ、ふわりと上品な不思議な柔らかさに包まれる。目を見張る展開の物語にするすると入っていける。


生物学って未だに謎が多くて、特に進化論にはトンデモに近いものもたくさんあって、非常に人間的な分野だと思う。そこがまた面白い。進化はもちろん、遺伝子の多様性、生物の多様性によるものだが、それは現在においては大体分子生物学的に語られる、と思う。この小説のなかで無性生殖を経て、有性生殖が生まれる、有性生殖の意味が問われる箇所がある。無性生殖生物と有性生殖生物を比較すると、明らかに後者の方が繁栄していて、それは無性生殖は自分の分身を生むのに過ぎず、有性生殖は他者と交わることにより、大きな変化、多様性を生み出すからだ。この辺は自己と他者、境界線という、梨木さんの作品に一貫するテーマへとつながると思う。


ところで、無性生殖の方が効率は悪いけれど、それって人間の恣意的な見方だよなあと思ったりもした。でもやっぱり、初めて他者と交わるという決意をした細胞は「勇気があった」んだろうね。人間は孤独というけれど、細胞もそうなのかも。私たちの免疫系は常に自己と他を識別し自身を守っている。孤独、決して混じり合うことのない境界が、ある。けれどそれを超えて交わり新たな生命を生み出す有性生殖は、考えてみれば本当に奇跡的だ。


なんだか話がぶれてきたけれど、かつて植物分類学マニアだった私には大変うってつけの一冊でした

TB:月灯茶会別館さん
  映画と読書の感想ブログさん
  沼地のある森を抜けて
始まりは「ぬか床」だった。先祖伝来のぬか床が、呻くのだ。変容し、増殖する命の連鎖。連綿と息づく想い。呪縛を解いて生き抜く力を伝える書下ろし長篇。
  • URL:http://yaplog.jp/peco0102/archive/181
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pecoさんおはようございます♪
Linkありがとうございます.。o○
わたしも早速追加します

わたしのブログはまだまだなので
pecoさんみたいな 
ステキなブログにしていきたいと思ってます

どうぞよろしくお願いします♪
November 24 [Sat], 2007, 8:47