『仕事をするのにオフィスはいらない』を読んだ。

August 14 [Fri], 2009, 11:20
仕事するのにオフィスはいらない (光文社新書)
佐々木俊尚
光文社
売り上げランキング: 205

 献本を頂きました。ありがとうございます。
 だから言うわけではなく、冗談抜きで、新卒社員・就職活動中の学生から、経営者まで、皆すぐに入手して熟読するべき。これまでのところ、今年の新書ナンバー1は、『モデル失格』などではなく、本書です。

 「ノマド」とは、本来「遊牧民」という意味で、ここでは「オフィスのない会社」「働く場所を自由に選択する会社員」といったワークスタイルを実践している人のことを指す。イギリスの『エコノミスト』が、2007年に「ついにやってきたノマド時代」という特集で始めて使われ、「テクノロジーで武装したフリーランサーたち」のことを指している。それを筆者は、会社員にまで広げて、そのようなワーキングスタイルを推奨し、実践のためのノウハウを指南している。
 こういったスタイルがどうして可能になったのか。筆者は、ブロードバンドの普及、サードプレイス(スターバックスやルノアールといったカフェ・喫茶店)、クラウド(全てのデータをPCのハードディスクではなくインターネット上に保存すること)という3つのインフラの発達・普及を挙げている。
 ノマドワーキングを実践するために、時間や膨大な情報をどのように個人がコントロールするのか、仕事をしていく中でどう他者と協力してビジネスにしていくのか、実例をもとにその方法を紹介している。
 そしてクラウドの活用法。、gmailからiPhoneといった代表的なものを効率よく利用するためのTIPSが満載で、これだけでもこの本を一読する価値はある。個人的に驚いたのは、日経テレコン21が証券会社の口座を開くと、高額な使用料が無料になるということ! これは即、野村證券の口座を開きたい。

 梅田望夫氏の『Web進化論』は、主に人間・マインドの変化にフォーカスした本だった。本書はそこから一歩踏み込んで社会のありかたの「進化」までを語っているということは、極めて重要だ。
 「ノマド」が何が凄いかといえば、仕事のスタイルにとどまらず、ライフスタイルや社会のありかたまで大きく変容させる可能性があること。オフィスに通勤しないのならば満員電車に乗る必要はなくなるし、会社という組織自体に所属しなければならない、ということもなくなる。そして、そういった生活では、時間のコントロールだけは克服しがたい問題として残る、というわけだ。逆にいえば、時間を有効活用出来る人材が「ノマド」スタイルには求められているということになる。筆者は、ジャック・アタリの『21世紀の歴史』から引用して紹介している(このあたり、筆者のSF好きが垣間見えて微笑する)。

 しかし、本書で描かれるようなスタイルが定着するためには、まだまだ障害がたくさんあることも事実だと思う。
 事例として紹介されているヨセミテは、さまざまな状況や要素が重なり「オンライフ」はサービスを終了することになっているし。(参照
 理由は簡単で、現在40〜60歳代のハイヴロウなひとたち〜政治家・官僚・識者、経営者や管理職など〜が、このような生活の変化が起きているということを、そもそも知らない(だからこそ、そういうひとたちこそ本書を読むべきなのだが)。そして、その多くが、その変化を望まず、変化が起きているということさえを認めないだろうから。
 ピラミッド型の社会を、義務教育期間から高校・大学で叩き込まれ、社会人となったときに新人研修で自己啓発的なメゾットでルールを刷り込まれた経験を持つ人間が、「ノマド」のような生き方に今更シフトするのは、相当難しいのではないか、と考えざるをえない。

 もし、そういった状況をブレークスルーする方法があるとすれば、ノマド的な人間が集まったゆるやかな組織(有機体というべきかも)が、ある業界のあり方を変容させるくらいのインパクトのあるビジネスモデルを構築することに成功する、という条件が必須なんじゃないだろうか?
 本書で登場する「ノマド」なひとたちは、Webデザイナーだったりプログラマーといった「ギーク」がほとんどだ。だが、ボランティアレベルならともかく、ビジネスとしてマネタイズしていくためには営業だったり経理だったり総務だったりという「スーツ」の存在が必要な場面もあるわけで、そういったひとたちが、「ノマド」な生き方に引き込むためのスキームやマインドが、現状ではほとんどない。
 つまるところ、懸念されるのは、本書が「ギーク」の生き方として限定され、多くの人にとっては対岸の出来事と捉えられることだ。「そんなことはないんですよ」といえるような、システムなりアーキテクチャなりが出現することが望まれる。「ギーク」な皆さん、頑張ってそういったサービスをリリースして!(笑)

 余談になるけれど、筆者がハイペースで単行本を出して連載を抱えて、それを効率よくこなしているのかについても「ノマド」なワークスタイルで実現しているわけだけど、「文章を書く」ということに特化したことは『ひと月15万字書く私の方法』がより詳しい。出版・編集・ライター業のひとはこちらもおススメ。

ひと月15万字書く私の方法
佐々木 俊尚
PHP研究所
売り上げランキング: 5972

     
  • URL:http://yaplog.jp/parsleymood/archive/825
Comment
小文字 太字 斜体 下線 取り消し線 左寄せ 中央揃え 右寄せ テキストカラー 絵文字 プレビューON/OFF

不正な自動コメント投稿を防ぐため、チェックボックスにチェックをしてください。

利用規約に同意
 X 
禁止事項とご注意
※本名・メールアドレス・住所・電話番号など、個人が特定できる情報の入力は行わないでください。
「ヤプログ!利用規約 第9条 禁止事項」に該当するコメントは禁止します。
「ヤプログ!利用規約」に同意の上、コメントを送信してください。
parsley@休職中
 >トさま
 おっしゃるとおりで、経団連的には労働力が日本人である必要性はまったくないわけでして。そうでなくても製造業から知財産業に移行していく前に逃げ切れるのだし、はっきりと変化は期待できなかったりするのですよね。
 だからこそ、「結果」なんじゃないかなと思うのですよ。
August 15 [Sat], 2009, 22:45
そしてそういう社会を否定するか少なくとも対抗しうるビジョンを、彼ら日本のエスタブと年寄り連中に突きつけない限り、彼らは日本が滅びようともその地位や権利を手放さないよ。
彼らのビジョンは「たとえ日本人が都合よく使役される世界の奴隷であって、自分たち日本エスタブがその現場監督レベルであっても、それはそれで構わないし、むしろそういうビジョンしかWW2戦後持ち合わせていない」
だから末端の労働者が、押さえつける手段があればコストの高い日本人でなくて適当な移民であっても構わない、って事じゃね?
日本エスタブの中身が構造的に個人の資質を押さえ込んで土方を顎で使う末端現場監督レベルの小者臭漂わせるのは、世界の中の日本の存在感から無理がある。
団体戦で言えば、所属組織単独でなんて恐ろしいので逆に言わないが、同僚上部団体と協調してグランドデザインやスタンダードを腹芸で進められるような面白人材をどの細胞も一人や二人常時抱えるようにしないと、ジリ貧で駄目になるだろうよ。これって従来の日本の組織にあっては一見蝙蝠男かスパイ、そうでなくても組織の秩序を乱す者なんだけどね。
August 14 [Fri], 2009, 22:57
竹やりで戦う事しか認めない者が指導するのが似合う社会レベルが一番安値安定するという仮説を否定し切れないんだよなぁ〜。
つまりこの場合問題なのは円高や雇用者保護政策なんだよ。
August 14 [Fri], 2009, 16:26

profile
Name:Parsley
Birthday:1976/4/8
Point:首が長い。つまりエロい
Favorite:エイガにケイバ
タバコ:Davidoff GOLD
ウィスキー:アーリータイムズ
おしごと募集!!
カワサキシティーで布団と同化中
コメントは返したり返さなかったりです。
parsleymood@gmail.com
さらに詳しいことはこちら

2009年08月
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
ランキング