ご主人様を選択する自由と勇気

November 27 [Sun], 2005, 23:29
 11月24日の『ワールドビジネスサテライト』で、書籍流通についての特集があり、Amazon対取次という構図にスポットを当てていたそうだ。
 残念なことに私は見逃してしまったのでまた聞きになるのだが、オンライン書店=Amazonの勢いが優勢という色が濃厚な内容だったとのこと。バランスを取るためか、小谷キャスターが「私は本屋さんに行き続けます!」と言っていたと聞いて、思わず笑ってしまった。
 まぁ、ユーザーから見れば、同じ本を入手の方法として、Amazonを使うか本屋を使うか、ということになるよなぁ。
 この特集を詳細に紹介なさっている『貧乏だけど心は萌え』様のこのエントリーで「対抗すべきはネット書店vsリアル書店」と記されているのも同様の観点からだろう。
 
 だが、コンテンツの発信源である出版社(版元)の立場からしてみると、また別の風景が見えてくる。
 要は、取次に首根っこを捕まえられて右に左に振り回されている現状を何とかする方法論として、一辻社が取ったようなAmazonとのパートナーシップは魅力的な選択肢に映るよね、といった話なのだが。

 たぶん多くの方がピンとこないだろうから、一つ例を挙げてみる。
 ある出版社が、あるグラビアアイドルの写真集を企画した。彼女はデビューしてから今ひとつパッとしなかったが、深夜番組に出演するようになり、独特のツッコミが妙に視聴者の琴線に触れはじめ、某掲示板に専用スレが立つまでになった。まさに出すなら今しかないというタイミングだ。担当者は趣意書を徹夜して練り、ある大手取次の担当者へと持っていった。
 だが、反応は必ずしも芳しいものではない。先方の担当がグラビア方面に全く不案内で、経歴や写真を見ても「知らないなぁ」と気の抜けた声で言うばかりだ。
 そうなると、過去の出演作の数字を参考にするのだが、2年前に出した彼女の写真集は全く売れていなかった。もちろん、「その頃とは知名度が違うんですよ」と抗弁する。が、残念なことに、彼の出版社が一年間で出した出版物も結果が出ていない。……。
 結局、制作費との比較で原価を回収出来るかどうかという数字まで部数は抑えられてしまう。
 他の取次に持ち込んでも、全て右に倣えで、最小の数しか獲得できない。
 部数が決まったとして、その後の配本がどうなされているか分からないから、都市部の大規模店舗に行き渡らないということもあり得るし、地方の小さな駅の書店に10冊くらい積まれてしまう、ということもないとはいえない。勿論それもデータを精査した上で決定される数字だから、それなりの根拠はあるのだが、一度売れた本がまた売れる保証はない。
 そうなると、各書店の仕入れ担当者の手腕に縋るしかないのだが、取次と同様、専門分野に明るいとは限らないし、異動や退職も多い。
 結果、売れる本屋には一冊もなくて、「どこに売っているの?」という話になる。
 
 取次や書店に対する不信めいたことを書いてしまったが、彼らは売れ残りが出てもカバーされる仕組みになっている。
 ほとんどの書籍は委託なので、期限内には(場合によっては期限が過ぎても)無条件で返品できるし、取次は「部戻し」という名の手数料が取れるから、撒けば撒くほど儲かる。
 で、版元は返ってきた大量の在庫に途方に暮れ、損益を叩いて顔色を青くするというわけだ。

 もっとも、彼らの「もっと売れるもの作ればぁ」という言い分も正論すぎる正論だし、月に刊行されている出版物の数を考えれば、一冊一冊に充分なケアを望むのは酷というものだ。大手出版社が打つ広告展開に支えられた話題作に期待が向くのも当然。
 が、弱小版元として、忸怩たる思いを抱えているのも正直なところなのだ。何しろ、作りたいモノが作れず、時により作りたくないものを作らされることだってあるのだから。

 それでは、Amazonはどうか。
 大手が初版で数万部出すというモノならば話が違ってくるだろうが、それよりも一桁少ない数字でやっている版元にとっては、顧客管理・販売データを豊富に有し、メルマガなどを駆使しターゲットユーザーを絞った展開が可能な彼らと組むことには大きなメリットがあるだろう。
 1冊売るのに、5冊を抱えなければ売れないなんてこともないから、無駄な在庫がどこかに眠っているなんて心配がない、ということもある。より確実に売るためのシステムでは、Amazonの方に一目の長があるんじゃないだろうか。

 じゃあなぜどこも一辻社と同じようにしないのかという話になるが、それはオトナの事情。取次を恐れない版元などないし、書店もそれは同様だ。言葉は悪いが、出版業界は事大主義で染まっている。
 そういう風潮の中、「出版社とリアル書店が卸抜きで取引できるITシステムを開発」したところで利用する社はないだろう。

 もちろん、Amazonに期待したところで、彼らも万能ではない。ユーザーばかりか出版側を意のままにする可能性はある。というか、規定の未来のように思える。
 だが、現状だって取次に支配されている状況なのだから、ご主人様が替わるだけじゃん、という考え方もある。どうせなら、物分りがよくておこぼれを沢山くれるご主人様の方がいいに決まっている。

 で、問題は、全ての版元にはそのご主人様をチョイスする自由は与えられている、ということだ。ユーザーがオンライン書店を使うかリアル書店を使うか、自由に選べるように。

 まぁ、既存の枠組みから離れて勝負する、というのは並大抵の勇気ではないからなぁ。
 そういった意味からも、一辻社の決断はその成果がどうあれ、賞賛に足るものだと私は思う。
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parsley
 そういえば、『ブログ・ジャーナリズム―300万人のメディア』がAmazonで流通するまでの経緯をガ島@藤代さまにお会いした時にお伺いしようと思って果たせなかった。
 やっぱりメモは必要だなぁ。
 12月16日はアンチョコを用意することにします。
November 28 [Mon], 2005, 3:08

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