『ネコがメディアを支配する』を読んで考えたこと

June 03 [Sat], 2017, 1:40
ネコがメディアを支配する -ネットニュースに未来はあるのか (中公新書ラクレ)
奥村 倫弘
中央公論新社 (2017-05-08)
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 読売新聞記者→『Yahoo!ニュース』編集本部長→『THE PAGE』編集長と進んで、オールドメディアとネットメディア、プラットフォームについて知り尽くしている奥村倫弘氏の著書は、副題に「ネットニュースに未来はあるのか」と問いかけている。この本を読んで、ネットメディアに関わる端くれとしてさまざまなことを考え込まされたので、ざざっとメモしておく。

 まず、スマホの普及によりネットでニュースを読むことが普通になったということがどういうことか、といえば各メディアの競争が激化していくだけでなく、ユーザーの可処分時間をSNSやゲームなどと取り合いになっている、という現状がある。そんな中、ユーザーは不快な情報でなく自分にとって「心地よい」コンテンツに触れるという傾向になっていく。その典型が、本書で触れている「ネコ」だということになるだろう。このほか、有名人の炎上ネタやゴシップも一般人のよく言えば好奇心を刺激する。特に広告モデルの無料メディアの場合、PVがそのサイトの価値を担保している。本書でいうところの「PV至上主義」になるのは、そういったビジネスモデルに起因している。

 個人的な考えではあるが、「ネットで起きていること」あるいは「ネコ」がユーザーにとって無価値だとは思わない。無価値でないからこそ読まれるわけだし、それを否定するのはメディアにとっては読みに来てくれるユーザーの否定になる。求められているコンテンツを出すこともメディアの仕事だ。ただし、「パクリ」のような著作権の侵害をはじめとするような法令に違反することなく。
 一方で、メディアとして「出したい」コンテンツをユーザーに届けることによって、そのメディアのブランドを作っていくということも同時並行でなさなければいけない。その一つの形態として「ジャーナリズム」というものが必要になる局面もあるだろう。メディアによってはそれが「エンタメ」になるかもしれないし、「調査報道」なのかもしれない。後者の場合、新聞・テレビといったレガシーメディアの方が人的・財政基盤といった面から見てもまだまだ強いのは認めなければいけない。

 とはいえ、そういったレガシーメディアも、ネットの情報に「引っ張られている」というのが現状ではある。先日もフジテレビがスタジオジブリの宮ア駿監督の引退発言をTwitterのネタツイートから誤って引用するようなことがあった。SNSの普及が進めば進むほど、真偽があやふやな事象が増えていき、それにメディアが乗ってしまう事態は増えていくことになるだろう。そういった意味では、散々釣られてきたネットメディアの方が真偽を判別する能力があるかもしれない。だから、メディアの数がネットによって増えていくということは悪いことでないと思う。

 本書では「ポスト・トゥルース」「フェイクニュース」にも言及している。ただ、これは今にはじまったことではない。最近では朝日新聞の「吉田調書」特集の例があるし、従軍慰安婦の報道も訂正に追い込まれた。結局のところ、これらは古くて新しい問題だと言えるだろう。これによって朝日新聞に限らず、レガシーメディアの信用は若年層になるほど失墜しているし、もっと言うならばメディア全体が一般の人から嫌われているということに対して、本書でいうところの「原点回帰」ということだけでは甘いように感じる。

 一方で、財政基盤を持たない新興メディアや、別業種が運営するオウンドメディアは、広告収入が途絶えたり親会社の方針が変わった際に一発で終わる可能性がある。そういうメディアは短期的な「業績」を求められるし、それが「ネコ」へと走らせるという側面もあるだろう。では、そういったメディアはなくなっていいのか。まぁ、ユーザーからしてみれば「暇つぶし先」がひとつなくなるだけかもしれないが、ネット全体から見れば多様性が失われるし、何より中の人の仕事がなくなる。ネットメディアの人間だって霞を食べて生きているわけではない。
 それに、どんな記事にだって、多かれ少なかれ「社会貢献」といった側面を持っている。どんなメディアだって全ての事象を拾えているわけではない。大多数にとっては無価値な情報でも、1人でも価値があると感じるユーザーがいるのであれば、そのコンテンツを出すというのが、ネットメディアのあり方だと個人的には信じているし、信じたい。

 とはいえ、ユーザーがニュースアプリやプラットフォームのアルゴリズムによって選別されたニュースに触れているという現状がある以上は、本書における「流通ブランド」がその質を上げるカギを握っていることは間違いないだろう。最近では『Yahoo!ニュース』も自前のコンテンツを配信するようになっていて、アパレルにおけるSPA(製造小売業)のようになってきている。しかも、各プラットフォームはさまざまな事業を展開していて、それに対して不利になる情報を積極的に配信するのか疑問符がつく。個人的には、彼らの「編集」あるいは「キュレーション」の質あるいは透明性、公平性が担保されない限り、ネットニュースに未来はないと断言できる。本書では、コンテンツアグリゲーターに絞って課題や将来像を描いているが、プラットフォームへの言及については少なくやや不満に思った。

 どんなにメディアや個々のライター・記者が自律したコンテンツを配信したとしても、それが適切にユーザーの元に届く情報流通環境がないと、結局はビジネスとして「ネコ」で食べていかなければならないところもあるだろう。逆に『THE PAGE』のようにヤフーの100%子会社でPVに拠らないコンテンツを出せるというところならば、「調査報道」に注力すれば良い。なんだか冷たい物言いになってしまうのだけれど、ネットで売文をしている身からすると本書は総じていささか理想論に過ぎるという印象を受けた。


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