追悼・佐藤大輔 

March 27 [Mon], 2017, 2:15
征途〈1〉衰亡の国 (トクマ・ノベルズ)
佐藤 大輔
徳間書店
売り上げランキング: 15,541


 中高校生の頃、架空戦記を読みまくっていた。その多くが、どこか荒唐無稽で現実感のないものだとは、子どもながらに分かっていた。そんな中で手にして読んでみてショックを受けたのが、佐藤大輔氏の『征途』だった。
 捷一号作戦〜レイテ沖でもし連合艦隊が作戦に成功していれば、というIFから始まるこの物語は、それが太平洋戦争の趨勢に影響を与えず、むしろ北海道の半分までがソビエト連邦に占領されるという「分断国家」になるという帰結を生む。そして、朝鮮戦争と同時に「北海道戦争」が勃発し、ベトナム戦争に自衛隊が参戦し、「統一戦争」で「北日本」の戦術核が米海軍を壊滅させる。そして、その戦争の最中にクーデターが起き、樺太の核サイロを無力化させる作戦が敢行される……。その最中には、常に戦艦(戦後は護衛艦だが)『大和』がいた。

 佐藤氏の架空戦記は、歴史上のある転換点を、僅かに変えるところから物語がスタートする。『レッドサン・ブラッククロス』や『侵攻作戦パシフィック・ストーム』ならば日露戦争だし、『覇王信長伝』ならば本能寺の変、『遥かなる星』ならばパナマ危機……。その「IF」が精緻な、あり得たかもしれない「もうひとつの歴史」を紡ぎ出すという作業において、佐藤氏ほどのリアリティをもって成し遂げた作家を、私は他に知らない。

 佐藤氏の多くの作品は徳間書店から新書・文庫で発売されたが、90年代後半に架空戦記から撤退してしまったため、その遅筆さもあり、発表されていたほとんど作品にミッシングリンクが残されてしまったのは多くのファンにとっては残念に思うところだろう。『地球連邦の興亡』もこれからというところで途切れているし、『皇国の守護者』もあれでお開きというのは「そりゃないぜ」という感想をどうしても抱いてしまう。それらすべては読者の想像に委ねられてしまった。

 敢えて佐藤氏の功績をひとつ挙げるならば、架空戦記という児戯とも揶揄されるジャンルで、圧倒的な「現実主義」を貫いたということだろう。私は彼の作品で「仕事をする大人の流儀」というものを学ばされたし、無名有名関わらず人生というものがささやかな「一撃」によって劇的に変わる可能性があるということを教えられた。

 21世紀も十数年を経て、『スケルトニクス』のような動作拡大型スーツが開発されるようになっている。『遥かなる星』での硬式宇宙服が実現しようとしている時代に、ある意味でひっそりと亡くなってしまうなんて、「そりゃないぜ」と言いたくなる。ああ二度目だな、この言葉。
 いくら言葉を紡いでも、もう未完作は未完作のままに終わった。これは動かしようがない。『シン・ゴジラ』的に言えば「あとは好きにしろ」ということなのかもしれない。それでも、貴方の書く「未来」を、私は読みたかった。

 今はひとまず献杯を。その魂の安らかんことを。


 

フィルターバブルで困るのは実はメディアなのでは説 

March 23 [Thu], 2017, 2:40
 ちょっと込み入った作業が一段落したので、メモがわりに。

 最近、「フィルターバブル」という言葉について考えることが多い。要するにGoggleのパーソナライズド・サーチやFacebookのニュース・ストリームが、ユーザーの属性を解析することによって検索結果を出すことにより、その人が「見たくない」情報から隔絶され、文化的なバブル(膜)に閉じこもってしまうことを指している。この問題は例えばフェイクニュースに引っかかってしまいがちになる事と結び付けられていることもあり、NHKの『対立か共闘か? メディアとプラットフォーム』で、出席者がしきりにGoogleとFacebookのアルゴリズムをやり玉に上げているところからも、欧米メディアが真剣に捉えているところが見てとれるだろう。

 個人的には、売文屋として幅広いジャンルをカバーしなければいけないという事情もあって、この「フィルターバブル」を実感するまでに至っていないのだけど、多くのユーザーが「見たいものは見ない」という傾向になっているのは感覚レベルでわかるし、サイトを簡単に解析して属性やトラフィックを見ても何となく感じ取れる。

 加えて日本の場合、Yahooのトップページやアプリ、SmartNewsなどのニュースアプリなどが強いので、そこで表示されなかった情報=記事はユーザーにとって「なかったもの」になってしまう。そこではより表層的なニュース(もっと言えば短信)が多くなりがちだし、「読み応えのある記事」でもジャンルが滞ったりしてしまいがちになる。
 そうなると、メディアの側でも他の媒体と同じような情報を「出さざるをえない」状況になっていくし、ユーザーの属性を分析すれば分析するほど、ユーザーの「喜びそうな」コンテンツを作らざるをえない方向に追い込まれる。「メディア総夕刊紙化」といえばわかりやすいだろうか。

 最近、編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞に『週刊文春』の「ベッキー31歳禁断愛 お相手は紅白初出場歌手!」が選ばれたが、これも見方によっては「フィルターバブル」によってもたらされた現象と考えられなくもない。後発の週刊誌もこぞって彼女の話題をピックアップしたし、ネットメディアも「週刊誌が報じた」ことをそのままニュースとして記事にして出した。しかもそれが数字(PV)が取れる。だから乗らなければいけない。好むと好まざるとに関わらず、そういったニュースを「追う」ことをしなければ、バスに乗り遅れる。そういう状況になっているのではないだろうか。

 もちろん、ゲスな話題を取り上げていくことの免罪符にはならないのだけど。世の中には多様な伝えるべき事象があるにも関わらず、横並びに同じトピックを追っていって、ネット環境に適応しようとするのは、それぞれのメディアの輪郭をぼやけさせることになる。フェイクニュース問題は、数年前ならば「怪しげなニュースサイト」ということでリテラシーの高い人ならば信用に値しないと切って捨てただろうが、どこのメディアが出したものなのか、あまり問われなくなり、サイトでもそれが小さく表示されるのみになっている現在だからこそ起きていることだと思える。そしてその根幹には、メディアのブランディングが崩壊していると捉えるべきなのではないだろうか。

 そんなこんなで、「フィルターバブル」が起きることで困るのは実は各メディアなのではないか、というのが私の仮説なのだけど。多くの読み手がそれで「困っていない」ということも事実ではあるし、そこを打破するキーは何なのか、たまに自問自答する今日この頃だったりするわけなのです。

 今夜はもう少し働きたいのでこの辺で。
 

『不寛容の本質』を読んだ 

March 18 [Sat], 2017, 1:40


 最近、日本社会を評する上で「不寛容」という言葉が踊る機会が増えている。そんな中で刊行されたのが、西田洋介先生の本書。

 著者は、主に社会通念や制度において、現代社会に「昭和の面影」が残されており、それが現代社会の実態と乖離しているのが、若者世代と年長世代の乖離の大きな要因であると着目。とりわけ低成長世代を経験した世代が、昭和という時代を「安定の象徴」として羨望していると分析する。この「安定」とは例えばマイホームやマイカーといったものを差している。Parsleyのような40を超えた世代にとっても、各種ローンを組んで大きな買い物をするのが事実上不可能だというひとは多いから、「安定」というものが遠い存在であるということには頷ける。一方でかつての『小悪魔ageha』のように、「今さら不況だからどうとか言われてもよくわからない」 という人も多いはずなので、若者世代が明示的に昭和を「羨望している」のかどうかは正直分からない。

 第二章では各種統計を引用して、この10年間で平均給与が上がっておらず、生活意識が「苦しい」と答える人が目立ち、世帯数が増加し子育て家庭が減っていることが着目されている。その上で、税収がバブル期の水準であるにもかかわらず、豊かさを感じないことに「日本型システムの限界」を見ている。
 さらに、第四章では規制緩和を主張する起業家のような「イノベーター」と、生活水準の改善を求める「生活者」が対立構造にあるとしており、第六章では各教育機関が予算削減により喘ぐ現状が記されている(この章を入れたことに、著者の「らしさ」が感じられる)。

 前述のように、若年層が昭和時代を羨ましがっているかどうかは、果たして本当にそうなのか。30〜40代にかけてはそのような人の存在も多くなるだろうが、それ以降に誕生した「不況しか知らない世代」が「バブル」と言ってピンと来るのか、ヒアリングなどで補強が必要なように思われる。
 また一方で、第四章で語られた「イノベーター」と「生活者」の対立というのが、ほんとうにあるのか。これも今更長期雇用が望めなくなっているのは明白だし、「家族経営」的な日本型企業のあり方が崩れている以上、何らかのイノベーションによる雇用創出は欠かせないし、その先頭に立つ「イノベーター」の存在はむしろ「生活者」にとっては仕事のあり方の選択肢を増やす存在と捉えることも出来るのではないだろうか。

 とはいえ、著者が目的とする「社会に対する認識の更新」と、「不寛容の本質を再考するきっかけ」として、本書が果たす役割は大きいように思える。とりわけ、「年長世代」で若い層の考え方が理解できないというひとには、昭和末期〜平成生まれの世代の「認識」を把握し、その社会環境の違いについて思いを致してほしいな、と思わされた。

『BLOGOS』にピックアップされた人はハズレなのか 

March 17 [Fri], 2017, 3:10
 タスクが終わらずにむっちゃイライラしているので、数十分ほどエントリーに現実逃避することにする。

 北条かや女史が新著を出すようで、朝日新聞系『withnews』に記事が載っていた。

 インターネットで死ぬということ 1度の炎上で折れた心 北条かや(withnews)

 「あ、これ載せたらあかんやつや」と、何年もネットで生息していた人間ならば即座に感じるものだが、『withnews』の中のひとたちはそうは考えなかったのだろう。理由については各自ググって下さい。

 個人的にParsleyが感じたのは、「なぜ『BLOGOS』がピックアップした人材はハズレになっていくのか」ということだった。まぁ、私のブログも『BLOGOS』に転載されているわけなのだけど。
 それにしても、イケダハヤト氏は高知だかどこかでトマト栽培家になったようだし、梅木雄平氏は『東京カレンダー』でバブルの郷愁みたいな、それこそ西田亮介先生の言うところの「昭和の面影」を再生産しているし、ゲームアイドルとして活躍していた杏野はるな女史も一時期『BLOGOS』に掲載されていたけれど、それが所属事務所社長がゴーストライティングしたものだと後で明らかになり、極めつけが「人工透析患者はそのまま殺せ!」とやった長谷川豊氏である。そして、北条女史も一時期『BLOGOS』でかなりピックアップ率が高かった。なんでしょう、この高打率にヤバい人材を輩出している理由は?

 ただ、2009年以前よりブログで活動していた元切込隊長の山本一郎氏をはじめ、大西宏氏やシロクマ先生といった面々は、フェードアウトすることなく変わらずに健筆を奮っている。これは、2000年前後のテキストサイト時代から2003〜2004年のブログ黎明期よりエントリーを発表し続けて、何か書くたびに共感なり反論なり、論考が連なっていったトラックバック文化や、荒ぶるはてなブックマークのコメント欄などの洗礼を乗り越えてきている一方で、それ以降に出てきたブロガーのもやしっ子ぶりが際立っている。
 これにTwitterなどのSNSがどう作用したか分からないけれど、発信の場が多様になり、ネットの参加者の母数が増え、予期しないところからの「攻撃」の可能性も増えた中で生き抜いていく処世術を構築することができたか、あるいはできなかったの差のように思えるのだ。その「タマ」を、『BLOGOS』編集部が見抜けなかったということなのかしら、と感じているわけです。

 ま、私自身が「アタリ」だとは毛頭思えないし、自分自身も何度か足を踏み外しかけているから、「ハズレ」扱いされても仕方ないなぁ、と反省する部分も多いにありつつ、こんなことを書いちゃうあたりが懲りてない証拠とも言えるし、要は『BLOGOS』というプラットフォームがネットに果たした役割というやつを、そろそろ振り返るべきなのではないか、と思っているという話なのでした。

 そろそろ作業に戻らなければならないのでこの辺で。

シニア向け月刊誌『GG』への既視感 

March 12 [Sun], 2017, 3:00
 なかなか眠れないので、メモ代わりに。

 あの『LEON』の創刊編集長だった岸田一郎氏が、50〜60代に向けた月刊誌『ジジ(GG)』を創刊するそうだ。

 LEON創刊編集長による月刊誌「ジジ(GG)」創刊 ファッションから相続・遺産まで掲載(Fashionsnap.com)

 表紙は、いかにも『LEON』っぽいテイストで苦笑したのだが、「バブルを経験した彼らのモノやコトへの興味はいまだ旺盛」という分析にはちょっと笑えなかった。確かに会社役員クラスに就いている層はそうかもしれないが、同じ世代でリストラを経験して低所得に喘いでいるというひとも少なくないだろうし、マジョリティはファッションや車、旅行などに関心を向ける余裕とも思えない。決して「ゴールデン・ジェネレーションズ(Golden Generations)」だとは見えないのだけど……。

 ここで思い起こされるのが、2006年頃に刊行されていた『ジー(Z)』だ。拙エントリーをご参照頂きたいが、この雑誌も「青二才禁止!55歳以上限定!!」と謳っていて、シニア男性のライフスタイル誌として、とりわけ旅行のトピックを多く特集していた。

 『GG』を発行するGGメディアは、HISが37.7%出資しているのだという。ここからも旅行が大きな扱いを受けることは規定路線のように見えるが、同世代の女性ほど男性が旅行に関心が高いか、というと疑問符を感じずにはいられない。
 発行部数は5万部ということは、コンビニ展開を視野に入れていると思われるが、先程挙げたようなこの世代の富裕層が書店も含めてどれだけ足を運ぶのか未知数だし、感度の高い人ならばスマホを使いこなしているだろう。そのあたりも前途多難感がある。

 ちなみに、『Z』を刊行していた龍宮社出版はその後2010年に倒産しており、2007年に雑誌を買収したエムスリーパブリッシングは2008年に『Z』を休刊させた上で出版事業から撤退してしまった。資料によると、「上半期で約1億円の営業損失」だったという(参照)。

 そんなわけで、まったく上手くいく要素が見当たらない『GG』で、「よく刊行を決定したなぁ」という感想になるわけなのだけど。雑誌好きとしては怖いもの見たさで創刊号は買ってみようと思う。できればネタになるような誌面を期待したい。



昭和40年男 2016年12月号
クレタパブリッシング (2016-11-11)
売り上げランキング: 18,060



 

森友学園をネットメディアが取り上げるのは難しいと思う件 

February 26 [Sun], 2017, 3:55
 安倍晋三総理の奥さんの昭恵さんが名誉校長だった森友学園の瑞穂の国記念小学院。教育方針を読んだり園内にあるという瑞穂神社を籠池泰典理事長自らが斎主をつとめたというくだりに「ないわー」とゲラゲラ笑うくらいには不謹慎なParsleyではあるのですが。まとめサイトが森友学園問題をスルーして民進党叩きをしているという話を読んで考え込んでしまった。

 痛いニュース、ハム速、はちま、JIN……大手まとめサイトが森友学園問題を軒並みスルーで民進党全力叩きの怪(BUZZAP!)

 自分が森友学園を取り上げるなら、どういう切り口で出すか。国有地関連の問題を指摘するか、安倍総理と日本会議との関係性を指摘するのか、それとも教育方針がトンデモ(だと少なくとも自分は感じる)だと指摘するのか……。いろいろ考えてみたのだけど、民進党や維新の「失点」を叩くほどアクセスやSNSでのシェア数の獲得できず、なおかつ素材を集めるコストがかかるので、労力に見合わない、という結論に達しざるをえなかった。
 とはいえ、例えば『ハイフィントンポスト』はこの森友学園問題を継続して追っている(参照)。ただ、朝日新聞提供の記事もあるし、画像なども国会の画像(ハフポにとって著作権がクリアになっているもの)を使うことができる。多くのネットメディアには、それがない。
 一方で、匿名掲示板や『Twitter』でのまとめ=ネットでの反応を記事にしようとすると、不確かな情報(安倍総理と日本会議の関係も、「実証」されていない)や党派性の強い発言、単に「安倍嫌い」なだけの書き込みなどが多く、なおかつ「数」が十分でない。そもそも、日本会議の存在をわかりやすく説明すること自体が至難でもあるし、国有地が安く払い下げられたことに対する違法性をどこに求めるのか、正直なところ自分には手が余る。各新聞社の土地だって、かつては国有地では破格で譲られているわけだしね。

 唯一できるとするならば、森友学園問題についてのユーザーの関心度を明らかにするために、アンケートを実施することだが、それも「そこまで皆にとって重要なトピックなのか」と自問自答してしまう。数が集まらないかもしれないし、それを明らかにするだけのコストをかける価値があるのか、何ともいえないな〜という結論になってしまう。

 つまるところ、まとめサイトは結局のところ「皆の反応」を抽出することしかできないし、多くのネットメディアにとっては、「調査報道」をするだけの体力がない。オールドメディアの皆さん、頑張ってください、というしかなくなる。すべてのメディアが同じ問題意識でいる必要もないのだし、それぞれの得手不得手もあるわけだから、、森友学園問題をネットメディアが取り上げづらいというのは確かなのではないかな、と思った次第。

 ただ、政権批判をネットメデイアがしないか、といえばそんなことはない。著作権問題や表現規制、TPPといったところではどこも相当に踏み込んで発信している。一方で野党批判ばかりというのは、単純に脇の甘い議員の数が与党よりも多いというだけの話で、与党議員でも不可思議なツイートをすれば食いつくだろう。そのあたり、メディア戦略が自民党に比べて他の党が稚拙だという話でもある。

 そんなこんなで。森友学園問題をネットでピックアップしていくには、知識が発信側にも読み手にも必要で、コストをかけただけのリターンがあるか微妙だという以上の話ではない。ならば他のトピックにリソースを割く方がいいということになっているだけなんじゃないか、と思うわけです。

 以上、ネットの現場からお送りしました。

「フリーランス」は荒野で戦う姿勢が不可欠ですよ 

February 19 [Sun], 2017, 6:10
 久々に早起きでして、ひと仕事を片付けることができたので、さっくりと『弁護士ドットコムニュース』で5回に分けて連載されていた「フリーランスの光と影」の感想を記しておきたい。

 「会社勤めはイヤ」自由な働き方の裏側にある厳しい現実【フリーランスの光と影・1】(弁護士ドットコム)

 まず、大前提としてフリーランス=個人事業主という働き方は、「労働者」にあてはまらないため、労働法が適用されない。例えば、いつ・どこで仕事をするのか自分で決められるということは、使用従属性における「勤務時間、勤務場所の規律に従っている」ということに当てあはまらないことになるし、成果報酬だった場合、報酬が労務に対して支払われるというのに外れている。このあたりは連載の5回目で今泉義竜弁護士が解説している(参照)。

 私Parsleyの場合だと、2010年に勤めていた会社を解雇になって、なし崩しにライター業をするようになったというのが実際のところだった。最初の頃は転職活動をしていたけれど、150件以上面接して内定に至ったのがゼロという状態で心が折れた(摂エントリー参照)。そうこうしているうちに心身ともに身体を壊したし、普通に満員電車に乗って通勤する体力に自信が持てなくなっていった。
 一方で、幸運なことに「書き物」のお仕事は切れ目なく各方面から頂けるようになった。正直、メンタルが万全でない中で不安定な収入、不規則な生活になるというのも良いことではないと分かっていたけれど、当時の自分には選択肢がなかった。選べないとなれば、腹をくくるしかない。今もそうだけど、必死にネタを見つけて書くしかない。

 そんなこんなで、やむを得ずに「フリーランス」になった自分だけど、働き方は気に入っている。身体の調子が悪い時はいつでも横になることができるし、体調が戻ればまた作業に向かえばいい。ちょっと行き詰まりを感じたならば、首都圏から離れて温泉にでも行って、そこで作業する(ついでにネタも拾ってくる)。最近ではしゃかりきに働くのではなく、一日の作業時間をなるべく短く調節することもできるようになった。
 とはいえ、そういう状況もお仕事の発注のされ具合でいつひっくり返るかわからない。だからその時のために準備(もっと言えば貯金)が必要だし、誰からも守ってもらえないという意識は常に必要だ。要するに、「フリーランス」という身分になったからには、荒野で戦い続ける覚悟が不可欠なのだ。ここを理解していないと、上流の発注側に「捕食」されて終わる。

 今後のことを考えれば、一度フリーランスになって実績を重ねて、そこから契約社員なり正規雇用に「戻る」という選択肢も出てくるような労働市場になるべきだと、個人的には考えている。もっと言えば、労働法の外の「荒野」で戦ったということ自体が「評価」の対象になるような社会になると嬉しいなぁ、と思ったりもする。なにせ、リーマンなら確定申告すらする必要がないしね。

 ……と、ここまで書いて今年の確定申告がまったく手付かずだったことに気づいた。こんなこと書いている場合じゃなかったな。そんなわけで、今朝はこの辺で。


「有名・無名」の物差しにとらわれずにいたい 

February 15 [Wed], 2017, 22:55
 ちょっと仕事が一段落したので、ココアを飲みつつ。
 少し前に、『文春オンライン』がスマートニュースの藤村厚夫氏のインタビューを出していて、内容自体も興味深かったし、『週刊文春』が「文春砲」として存在感を発揮している中でユーザーへの「伝え方」をテーマにした記事を出している、という事自体も面白いな〜と思っていたのだけど、一点だけ気になった箇所があった。

 誰が書いたかが、重要な時代になってくる  おしえて、ウェブのセンパイ! (文春オンライン)

 書き手の価値はむしろ高まっていくんじゃないですかね。もちろんソーシャルな空間で、詠み人知らずで書かれたがゆえのおもしろさもあるんだろうとは思いますが、信頼性という意味でも「誰」が書いたかは重要な指標であり続けるだろうと思います。ネット空間の匿名の書き手も、プライベートな個人情報は開示しなくてもヴァーチャルな人格は同定されていきますし。

 私自身もネットのコンテンツの信頼性の拠り所として「誰が」というものが問われるようになっているように感じるし、そんな中でブロガーからライターになったという「何者でもない」自分の居場所はどこにあるのかな、ということはずっと考えているわけなのだけど。私のことよりも気になるのは、「有名人でないひと」≒「匿名・ハンドルネームのひと」の発言や声は、どこに行くのか、ということだ。
 現状は『Twitter』があるし、『はてな匿名ダイアリー』からは昨年「保育園落ちた日本死ね!!!」が流行語大賞トップテン入りするといったこともあって、無名の人の声が、その人自身の言葉として発信される場というのは存在している。
 一方で、友人しか見れない『Facebook』や、『LINE』メッセージアプリのグループなど、非公開の場で発信される事象も今後増えていくだろうし、そういったものは不可知のまま流れていくこともあるだろう。
 こういった「無名の声」を受信して、必要があれば取材してオピニオンにするというのもメディアの役割だと個人的には思っている(藤村氏のいうところの「ゼロ次情報」という概念に近いかもしれない)のだけど、近年のネットメディアは、有名人≒テレビの情報をネットに流す、ということでPVを稼ぎ出していて、むしろ新聞社や雑誌社の方が、そういったオピニオン化するということに意識的なような気がしてならない。まぁ、ネットメディアといっても千差万別だけど。

 私自身は、ネットがあったおかげで物書き仕事ができるようになった身でもあるし、ずっとブログをやってきた身でもあるから、有名無名といった物差しに頼らずに、「何を言っているのか」ということに敏感であり続けたいし、そういった感受性を武器にして、これからも仕事が出来ればいいな、と思っていたりする。

 仕事が一段落したと書いたものの、終わっているわけではないので、まとまりがないけれど今夜はこの辺で。

『Yahoo!ニュース個人』はまとめブログ並になっちゃうかもね 

February 04 [Sat], 2017, 1:00
 しばらく体調の浮き沈みが激しくてしんどいParsleyなのだけど、どーしてもモヤモヤしたので簡単に記しておく。
 上智大学の水島宏明教授の『Yahoo!ニュース個人』の記事なのですが。

 MXと似てる?TBS「ビビット」もヘイト放送!(水島宏明)

 実際に番組を見ていないので、内容については触れない。個人的に無茶苦茶気になるのは、番組の内容の画像を大量に使用していること。
 まず当然ながらテレビ番組の著作権はテレビ局にある。今回の場合もTBSが権利者となるだろう。そのため、ネットでは各ポータルサイトやメディアはホームページのキャプチャーや出演者を自前で撮った写真などを使用するか、著作物の利用の許可を得るなどの工程を経るなどしている場合がほとんどだ。個人的には、番組を録ったりテレビ画面に写したりした一般ユーザーのSNS(とりわけTwitterのツイート)の使用も避けている。

 『Yahoo!ニュース個人』の場合、特にスマホなどではYahoo!のトップに他メディアのニュース記事などと同じにリンクが並ぶ。そして画像のキャプションが表示される。つまりポータルサイトであるYahoo!のトップに、水島先生の記事のトップで使われている『ビビット』の番組内画像が載るということになるのだけど、いいんですかね……? 

 おそらく、著作権の「引用」の範疇で番組がヘイトであるというオピニオンを出した、というのが水島先生の立場なのは理解できるのだけど、ネットの世界ではまとめブログがさまざまなテレビ番組のキャプチャーを許可なく使っているという実態がある。さらに『NAVERまとめ』や『Spotlight』などのまとめサイトやキュレーションメディアの著作権違反の問題のほとぼりが収まっていない段階で、元テレビ局ディレクターで現職大学教授としてジャーナリズムを教える側が、堂々とそれらのまとめブログと変わらずに番組の画像を使用しているというのは、正直に言えばショックだ。もっと言うとテレビ局のHPのキャプチャー使うのにも気を使ってやっている自分がバカバカしくなる。

 前にもエントリーにしたが、個人的な意見として著作権はフェアユースにしてしまえ、と思っているので(参照)、重箱の隅をつつくようなことはしたくないのですが。現行法は現行法として守らなければいけないというのが法治国家の前提だし、メディアあるいはジャーナリズムもそうであるべきだろう(もちろん、「現状を変える」というオピニオンを出すのはまた別として)。

 まぁ、『Yahoo!ニュース個人』にも著作権コンテンツの使用に関する規定があるし、Yahoo!ニュースの編集チームがどのように今回の事態に対処するのかは、ワクテカで見守りたい。仮にコレが通るということになれば「そういうことなんだ」と思うし、自分がTBSテレビのキャプチャー使って著作権料請求されたり、『Yahoo!ニュース個人』に記事を書いて編集サイドから「待った!」がかかったなら「あーダブルスタンダードなんですね」と思うことにします。

 こちらからは以上です。



 

『ネットメディア覇権戦争』を読んだ。 

January 22 [Sun], 2017, 1:30
ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか (光文社新書)
藤代 裕之
光文社 (2017-01-17)
売り上げランキング: 1,089


 『ガ島通信』こと藤代裕之先生が、Yahoo、LINE、日経、スマートニュース、NewsPicksを中心に日本のメディア環境についての成り立ちと現状での課題をまとめた一冊。ここでは、「猫とジャーナリズム」という特に無料メディアが抱える問題と、「偽ニュース」の問題について感じたことを記しておきたい(特にYahooが抱えている「メディアかプラットフォームか」といった問題については、別途書こうと思う)。

 「猫とジャーナリズム」というのは、SNSでニュースが拡散していく上で猫に関するコンテンツが著しくシェアされるというBuzzFeed創業者のジョナ・ペレッティ氏の実験に端を発している。実際、BuzzFeedでは政治・社会系の記事からクイズまで硬軟相混ざった記事が並んでいる。ほかのポータルサイト=プラットフォームにしても、ウェブメディアにしても猫画像のような「柔め」な記事を多数配信しているし、本書で一章設けているスマートニュースにも『ねこチャンネル』がある。
 ただ、例えばSNSを駆使しているISISが「銃と猫」をあわせた写真をTwitterやInstagramで流している。これらを「面白コンテンツ」として流通させるのは本書では「偽ニュース」だと断じている。「事実」は「事実」でも文脈をぶった切って「面白い」「カワイイ」だけを切り取ると読者に誤解を与える可能性が高い、という実例といえるだろう。
 2015年のバイラルメディア騒動や、2016年末のDeNAの『WELQ』に端を発したキュレーションメディア閉鎖の問題は、クラウドソーシングサービスを介して「記事を書く人も読む人も不幸になる仕組みだった」と本書では総括している。ここ数年で、メディア運営をするにあたって「倫理」を欠いた場合、どのようなことが起こるか我々は目の当たりにしてきた。
 一方で、例えばファッションコンテンツが主だった『MERY』は女子から休止を惜しむ声もある(参照)。こういった無料で情報を受け取ることが当たり前になった読者の存在がある限り、この問題はついて回る。

 もう一つ、本書で指摘されているのはスマホでのニュースの「見え方」だ。特にネットメディアは、トップページ(ブランド)からのアクセスが1割に過ぎず、検索サイトに上位に来た記事やSNSからの流入が大半を占めるため、ユーザーは「見たいものしか、見えない」状態であるというグロービス経営大学院の川上愼市郎氏の「キメラ」説を紹介している。
 私もネットメディアでデスク・ライターをしているからよく分かるのだけど、例えばインタビュー記事のような「かため」の記事がプラットフォームやニュースアプリに拾われることが稀だし、「ネットで話題」=「テレビでの芸能系の話題」に偏りがちになり(スマートニュースにはそういう記事が掲載される傾向がある)ため、「ジャーナリズム」をやりたければ「猫」を数倍記事として出さなければならない、という状況に多くのネットメディアが直面している。ただ、上記のようなプロパガンダに引っかからず、ユーザーにとって有益な情報を出しつつ、「倫理」をもって「ビジネス」とバランスを取りつつ出して「猫」と付き合わないければならない。これは想像するよりずっと面倒くさい作業だ。

 個人的に気になるのは、「ネットの編集者やライターは質が低い」という言説(著者がそう断じているわけではない)。
 思うに、ネットメディアに人材が不足しているのは事実だろう。とはいえ、ページビューでもパイビューでもいいが、数字が厳然と示されるネットの世界ではKPIが紙の「媒体」よりも「記事」単体、もっと言うと書き手に向かう。その上、SNSなどでコンテンツの内容に関する反応に晒される。両者の耐性をつけることが出来る人間が果たしてどれほどいるのか。失敗をすれば盛大に叩かれ、よい記事を出しても大して褒められないという世界で、長くやっていける人材を育てるのは相当難しいように感じられる。それも人やメディアの「質」がなかなか上がらない理由として挙げられるように感じられる。

 いずれにしても、著者が書くようにネットメディアが「マスゴミ批判」や「ネットで話題」でアクセスを稼ぐ「ニセモノ」のままか、本物になれるのか、岐路に立っているということは肌感覚からも理解できる。個人的に、そこにどのようにコミットしていくのか、ということが課題として突きつけられた、というのが正直な感想になる。

 まぁ、そうは言っても、生活があるからね。そことの折り合いもつけながら、無理せずにやっていかないとね。
 

profile
Name:Parsley
Birthday:1976/4/8
Point:首が長い。つまりエロい
Favorite:エイガにケイバ
タバコ:Davidoff GOLD
ウィスキー:アーリータイムズ
おしごと募集!!
カワサキシティーで布団と同化中
コメントは返したり返さなかったりです。
parsleymood@gmail.com
さらに詳しいことはこちら

2017年03月
« 前の月  |  次の月 »
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ランキング