京極夏彦「魍魎の匣」@raymay 

August 25 [Tue], 2009, 1:03


【あらすじ】

 匣の中には綺麗な娘がぴったり入ってゐた。箱を祀る奇妙な霊能者。箱詰めにされた少女達の四肢。そして巨大な箱型の建物―箱を巡る虚妄が美少女転落事件とバラバラ殺人を結ぶ。探偵・榎木津、文士・関口、刑事・木場らがみな事件に関わり京極堂の元へ。果たして憑物は落とせるのか!?日本推理作家協会賞に輝いた超絶ミステリ、妖怪シリーズ第2弾。(「BOOK」データベースより)

【感想】

 本作は京極堂シリーズ2作目で、世間的にはシリーズ5作目の『絡新婦の理』と並んで人気の高い作品である。ページ数が文庫サイズで約1000ページと尋常ではないので、読む前は時間がかかるだろうなと思っていたのだが、読みはじめたら止まらなくなり結局一晩で読んでしまった。正直、1作目の『姑獲鳥の夏』は面白かったけどそれほど引き込まれなかったため、これが微妙だったらこのシリーズはあきらめようと思っていたのだが、これはもう5作目まで読まなければならないという感じ。

 さて、本作は2つの事件と一編の小説(の一部)が代わる代わる語られる構成となっている。1つめは、刑事・木場が偶然関わることになった列車事故、さらにはその際に重傷を負った患者が運び込まれた箱型の治療施設で起きる人体消失事件。もう1つは、文士・関口の元に雑誌記者からネタにならないかと持ち込まれた連続バラバラ殺人事件である。それに加えて匣詰めにされた美少女をめぐる一編の小説「匣の中の娘」が挿入されるので、事件の不可思議性や猟奇性と相まって独特の怪しい雰囲気が出ている。もちろんシリーズの売りである京極堂の妖怪蘊蓄も健在で"魍魎"という妖怪の特異性、さらには妖怪以外でも動機というもののあやふやさやオカルトの定義など京極堂は軽やかに論じていく。そしてこういった蘊蓄や本書の構成は事件とは無関係ではなく、この事件の真相や事件の関係者の心情を理解するのに一役立つので読み飛ばせない。逆に言えばこの辺の蘊蓄を読み手が鬱陶しいと思ってしまったら本書の魅力は半減してしまうだろう。

 本作のクライマックスはもちろん事件の謎解き、つまり京極堂が関係者の"魍魎"を祓う場面である。そこで明かされる事件の真相と魍魎に取りつかれた関係者の狂的な行動はある程度は予想できるものではあるけれど、それなりにインパクトのあるものになっている。特に私が本作を読んでいてもっとも印象に残ったのはその中で明かされる本作のヒロイン加菜子に対するある人物の想いである。この想いは比喩できないほど凄まじく、おかげでその人物への印象が一変してしまった。このどんでん返しは本当に素晴らしい。ともすれば暗澹たる読後感になりそうな物語だが、この人物の存在によってそういう暗い気持ちは吹っ飛んでしまった。みな魍魎にはやし立てられながらもこっち側にいるのに、一人、向こう側に行ってしまったその人の存在こそある意味で本書最大の魅力かもしれない。

 物理的にも厚くて重い本であるが、それに見合うだけの物語は提供されていると思う。1作目のネタバレは無いので、興味を持たれたらこの作品からでもぜひ読んでみてほしい。

 ちなみにこの作品は映画化とアニメ化しているみたいなので、分厚くて読む気にはなれねぇよ! という人はそちらを観てみるのもいいかもしれない。

Q-Max「処女宮〜栗毛の潮吹少女たち〜」@たゆな 

July 29 [Wed], 2009, 20:37
Q-Max「処女宮〜栗毛の潮吹少女たち〜」

※ゲームの方の画像は自重してなかったので小説版の画像です。

100%ロリ、100%貧乳、100%処女
同性愛のParadigm Shift

【あらすじ】
 厳格なカソリック女子校「聖マリエル女学院」に通う友原春菜(主人公)は、卒業式を間近に控えたある日、後輩の少女から女の子同士の恋愛を描いたインモラルな小説を渡される。イケナイと思いながらも、次第に、その内容に惹き込まれていく春菜。しかし、ちょっとした不注意から、そのイケナイ小説を所持していることが転校生の川瀬ユキに知られてしまい、あまつさえユキにファーストキスを奪われてしまった。時を同じくして、卒業の条件に「処女検査」が実施されるという噂が……。
http://gyut.to/category.phtml?enc=ybob9m5zGreLeqe1
より引用


【キャラクタ】
http://www.qmax.co.nz/mini/syojokyu_chara.html
をみてください。
二人を除くみんな可愛いです。


【感想】
とりあえずユキは要りませんね。
ネクラすぎてやっていて鬱になりました。
声が駄目です、もう無理です。
ボソボソ声で、聞いてて不快になりました。
エロゲーだから仕方無いとはいえ、展開がすさまじい。
ばんばんやりあいます。
登場人物がそこそこいるのにメインルートが3つなのは残念でした。
なんでこのみちゃんルートが無いんだ!
厳格なカソリック校という雰囲気はでてると思います。
シスターが怖かったです。


【批評】
一般的な異性愛では男性が能動側で、女性が受動側です。
それでは同性愛ではどうなのでしょうか。
男性同士の同性愛では受動側と能動側がはっきり分かれます。
paradigmはshiftしません。
しかし女性同士の同性愛では受動側と能動側はshiftします。
この作品でも初め春菜はユキの毒牙にかかっちゃうのですが、そのことで性に目覚め、今度は他の女の子を毒牙にかけちゃいます。
Paradigm shiftですね。
これがレズの魅力です。
こういうのはエロゲでしか描けません。

性の安売りだとか言う人がいるかもしれませんが、現実的には性交するのは好奇心からでしょう。
大きなイベントを乗り越えて最後に性交するなんてエロゲ的な発想です。

そういえば、話の区切りで聖書の一部を引用した文が表示されるのですが、
その文が何を意味しているか私には意味不明でした(笑)

海堂尊「チーム・バチスタの栄光」@草一郎 

June 12 [Fri], 2009, 23:53

海堂尊「チーム・バチスタの栄光」(宝島社)




医療小説の新時代!

 医療小説のほとんどは人間ドラマを主軸にしたもので、医療に深く切り込んだ作品は少ない。特に医学知識を文章内にふんだんに取り入れている小説はないに等しい。その理由はもちろん、物語を描く際に医学知識がそこまで重要でないからだが、それ以上にその手の知識を得る難解さもあろう。当然、医師や看護師でもない限りそういった知識は持ち合わせていることはない。

 とはいえ、医療小説を書くのは何も医者や看護師だけではない。医療というものが命と切り離せないものであることから、様々な経歴の小説家が取り組んでいる。特に山崎豊子の『白い巨塔』はその手のなかでもひと際素晴らしい。が、やはり医者が書いた小説にはリアリティの点でかなわないのも事実。殊に現役医師が書いたともなればその差は歴然だ。

 本書『チーム・バチスタの栄光』の作者は現役医師だ。しかも外科医(現在は病理医)という、珍しい経歴を持つ小説家である。加えて本作は医療小説にはまれなミステリー。南木佳士や北杜夫のように人間を描いた純文学的なものでなく、密室内殺人を取り扱っている。トリックは医療関係者でなければ到底思い付かないものだが、手術室を密室に見立てているのはおそらく本書が初めてではないか。

 驚いたのは、文章の極めて高い論理性だ。特に台詞にその高さがうかがえる。これほどのロジカルを持った小説家はなかなかお目にかかれないだろう。容疑者を余す事なく導き出し、殺人の可能性についてひとつひとつ吟味し丁寧に消していく過程は、まさに本格そのもの。

 キャラクターもそれぞれ魅力的。展開も悪くない。何より「Aiの普及のため」という信念を貫く執筆態度には頭が下がるばかりだ。メッセージ性も高く、非常に読みやすい。物語自体はそれほど目新しいものではないが、描き手が違えば同じテーマでもこれほど重みが増すとは。素晴らしい。


あらすじ(「BOOK」データベースより)
 東城大学医学部付属病院は、米国の心臓専門病院から心臓移植の権威、桐生恭一を臓器制御外科助教授として招聘した。彼が構築した外科チームは、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術の専門の、通称“チーム・バチスタ”として、成功率100%を誇り、その勇名を轟かせている。ところが、3例立て続けに術中死が発生。原因不明の術中死と、メディアの注目を集める手術が重なる事態に危機感を抱いた病院長・高階は、神経内科教室の万年講師で、不定愁訴外来責任者・田口公平に内部調査を依頼しようと動いていた。壊滅寸前の大学病院の現状。医療現場の危機的状況。そしてチーム・バチスタ・メンバーの相克と因縁。医療過誤か、殺人か。遺体は何を語るのか…。栄光のチーム・バチスタの裏側に隠されたもう一つの顔とは。第4回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。

竹内薫「ねこ耳少女の量子論」@草一郎 

June 02 [Tue], 2009, 1:21

竹内薫「ねこ耳少女の量子論」(PHP研究所)




萌える最新物理学!


 黎明の心を掴んで離さない「量子論」とは一体何なんだ、と非常に興味が湧いたので、本書を手始めに読んでみた。萌えた。けど、頭の中も燃えた。意味分からん。量子テレポーテーション? 超ひも理論? 量子暗号? なんじゃそりゃ。

 「ストーリー漫画とビジュアル解説ではじめてわかる!」なんてキャッチコピーがあるもんだから、てっきり分かりやすく書かれてあると思った。けど、何てことはない。難しいよ、量子論。なかでも特に頭を悩ませたのは、「あのね、量子は『態度』なんだよね」の一言。はあ? 態度? 態度ってあの態度ですか? 量子に態度があるってどういうこと?

 よくもまあ、こんなに難しい学問があるもんだ、と妙に感動した。「量子テレポーテーション」やら「超ひも理論」やらを一章ずつ分けて漫画で解説、章の最後には文章での解説、という二段構えでの説明だが、正直まったく理解できん。いや、言ってることは何となく分けるけど、分かった実感がない。そんな感じ。でも、前述したように、なんか感動。こういう未知の世界がまだまだあるんだ。へえ。

 「量子暗号」はコンピュータのセキュリティなんかに使えそう。ちなみに題名の「ねこ耳」にもある「ねこ」は、「シュレディンガーの猫」の「ねこ」だそうです。

あらすじ
 失恋の痛手が癒えぬ少年勇希は、なぜか量子のことばかりを話す不思議な美少女あいりと出会う。しかし、いきなり読者だけに知らされる衝撃的な事実…。なんと、彼女の耳は猫の耳だった。

安孫子武丸「8の殺人」@草一郎 

May 30 [Sat], 2009, 0:49

安孫子武丸「8の殺人」(講談社文庫)




8の字屋敷で繰り広げられる殺人事件


 我孫子武丸の処女作。8の字の奇妙な形をした館で起きる二つの殺人事件を、刑事とその弟妹が解き明かす。推理小説にありがちな荘厳さを作者特有のギャグで払拭、本格に馴染のない読者でもすんなり読める。一方で、カーやドイルなどの古典作品を事件解決の引き合いに出し、本格を愛する読者にも楽しく読めるように配慮している。


 容疑者としてあげられる人物は、みな型にはまったキャラクターばかり。たとえば、館の所有者である老人は頭がぼけているし、その孫は口の利けない美女である。他にも酒におぼれた熟女やギャンブルにのめり込んだ放蕩息子など、いかにもなキャラクターがほとんど。それゆえ、すべての登場人物を把握・整理しやすく、簡単に物語に入り込める。


 二つの殺人事件のトリックは画期的なものではない。俗にいう『密室殺人』である。ただし一つ目の事件は、死体のあった場所ではなく、犯人がいた部屋が密室。二つ目の事件は、完全に密閉されていないが誰も出入りしたはずはない『準密閉』だ。一つ目のトリックはぼんやりと分かったが、二つ目のトリックは全く思い付かなかった。


 特異なキャラクター、不可思議な密閉殺人だけが、本書のアピールポイントではない。本書の一番の特徴は、やはり作者ならではのギャグである。本筋とは無関係な会話、コントのように怪我の度合いが重くなる主人公の部下は、それを指摘するいい例だ。特に少し上ずった声が特徴の田村和正警部はギャグそのものだろう。くだらない茶番劇に、何度も笑ってしまった。


 島田荘司からの四人目の刺客、我孫子武丸。綾辻行人や歌野晶午と比べるとやや違うタイプの小説だが、なかなか面白い作品だった。『弥勒の手』とは全く違う作風に、我孫子武丸という推理小説家を見直した。


あらすじ
 建物の内部にある中庭が渡り廊下で結ばれた、通称“8の字屋敷”で起きたボウガンによる連続殺人。最初の犠牲者は鍵を掛け人が寝ていた部屋から撃たれ、二人目は密室のドアの内側に磔に。速水警部補が推理マニアの弟、妹とともにその難解な謎に挑戦する、デビュー作にして傑作の誉れ高い長編ミステリー。

 

木下半太「悪夢のエレベーター」@草一郎 

May 20 [Wed], 2009, 21:22

木下半太「悪夢のエレベーター」(幻冬舎文庫)




痛快・サスペンスミステリー!

 ジャンルこそ異なるが、小説の形式は山田悠介を連想させる。つまり、非常に読みやすいのだ。まるで脚本を読んでいるようだった。

 場面はあまり変わらない。ほとんどがエレベーターの中だ。それは、部屋の一室で繰り広げられる映画「キサラギ」のような濃厚な面白さがあった。よく練られていると思う。普通に楽しめる。

 三章で構成されている。それぞれの章の終わりでどんでん返しがあり、それが実に驚かされた。何も共通点のなかった四人が一気に線で結ばれていくところは、本書の見せ場だろう。会話も非常にユニークである。

 ただコメディなので安っぽく感じるかも。殺人の動機を気にするミステリー好きには、あまり合わないと思う。軽いノリで話が進むので、スナック菓子感覚で読んでみることをおすすめする。息抜きに次作が読んでみたいな。

あらすじ
 後頭部の強烈な痛みで目を覚ますと、緊急停止したエレベーターに、ヤクザ、オカマ、自殺願望の女と閉じ込められていた。浮気相手の部屋から出てきたばかりなのに大ピンチ!?しかも、三人には犯罪歴があることまで発覚。精神的に追い詰められた密室で、ついに事件が起こる。意外な黒幕は誰だ?笑いと恐怖に満ちた傑作コメディサスペンス。 (by amazon)

三浦しをん「格闘する者に○」@草一郎 

May 18 [Mon], 2009, 20:17

三浦しをん「格闘する者に○」(新潮文庫)





笑えること間違いない!


 処女作なのに完成度が高い。なんと執筆時の年齢が24歳という。直木賞を若くして受賞できたのも、本書を読んで納得した。


 文体は一人称。地の文では主人公が一人でボケて一人で突っ込んでいる。とても軽快な調子で進み、非常に面白い。展開も早くなかなか飽きせない。


 就職活動を題材に、大学生の恋愛模様や将来の悩みなどが描かれている。登場するキャラクターはみな変わった奴ばかり。ホモや肉食系女子、脚フェチや電波など、どれもこれもこれも濃い。


 あらすじは以下の通り。文学部四回生の可南子はマイペースな女の子。漫画大好き、現在老齢書道家と付き合っている。父親は政治家、腹違いの弟と義母との三人暮らし。


 そんな可南子は、当然周りと同様に就活を始める。希望の業界は出版業界。K談社や集A社などの大手を狙う。入社理由はただ漫画が好きだからというだけ。


 しかし、あえなく撃沈。面接官の冷たい態度に憤りを覚え、厳しい現実に打ちのめされる。内定ゼロのまま、時間だけが過ぎていくばかり。


 それでも可南子は得意の妄想で、疾風怒濤の日々を乗り越えようと奮闘。その甲斐あって、丸川書店の最終面接までこぎ着ける。果たして合否の行方はーー。


 今まであるようでなかった題材を書いているので、意外と楽しめる。どれだけ出版社が難しいかを知りたい方は、ぜひ参考にどうぞ。解説は重松清。


あらすじ
 これからどうやって生きていこう?マイペースに過ごす女子大生可南子にしのびよる苛酷な就職戦線。漫画大好き→漫画雑誌の編集者になれたら…。いざ、活動を始めてみると思いもよらぬ世間の荒波が次々と襲いかかってくる。連戦連敗、いまだ内定ゼロ。呑気な友人たち、ワケありの家族、年の離れた書道家との恋。格闘する青春の日々を妄想力全開で描く、才気あふれる小説デビュー作。(amazonより)

本多孝好「FINE DAYS」@草一郎 

May 18 [Mon], 2009, 0:49

本多孝好「FINE DAYS」(祥伝社文庫)




【感想】
 とりあえず驚いたのは、中古本なのに作者のサインがあったこと。買う前はまったく気付かなかった。購入後に、家に帰ってページを開いて見つけてビックリ。



 さて、短篇四つが収められている。なかでも「イエスタデイズ」は映画化されたらしいので、その感想を。


 あらすじは、「主人公がタイムスリップ→若かりしときの父と遭遇」という話。


 詳しく説明すると、


 家出している三男の「僕」は、死期の近づいた経営者の親父に、昔の恋人を捜して欲しいと頼まれる。手渡されたのはスケッチブック。親父はかつて画家を目指していたらしい。
 そこに描かれてある親父の恋人の絵を頼りに、「僕」は彼女を捜し求める。そして、かつて彼女が住んでいた住所を頼りに古いアパートにたどりつく。しかし、そこで僕は信じられない光景を目にする――。


 作品を一言でまとめると、タイムスリップを通じて「僕」は軽蔑する父親の本当の姿を知ることができた、といったところか。


 画家を目指していた父が、家の事情でしぶしぶ経営者にならざるを得なかった、という経緯を垣間見ることで、「僕」は「世間の厳しさ」を味わう。そんな青年が大人になっていく過程を描いている。


【あらすじ】
 死の床にある父親から、僕は三十五年前に別れた元恋人を捜すように頼まれた。手がかりは若かりし頃の彼女の画。僕は大学に通う傍ら、彼らが一緒に住んでいたアパートへ向かった。だが、そこにいたのは画と同じ美しい彼女と、若き日の父だった…(amazonより)
 

 


 

フランク・シェッツィング「深海のYrr」@raymay 

May 12 [Tue], 2009, 14:45

【あらすじ】
ノルウェー海で発見された無数の異様な生物。海洋生物学者ヨハンソンの努力で、その生物が海底で新燃料メタンハイドレートの層を掘り続けていることが判明した。カナダ西岸ではタグボートやホエールウォッチングの船をクジラやオルカの群れが襲い、生物学者アナワクが調査を始める。さらに世界各地で猛毒のクラゲが出現、海難事故が続発し、フランスではロブスターに潜む病原体が猛威を振るう。母なる海に何が起きたのか?(amazonより)

【感想】
ドイツ発の海洋SF。率直な感想としては、とにかく長かった。まあ、文庫本で上中下合わせて約1600ページもの分量があるし、翻訳ものはあまり読まないので当然と言えば当然ではあるが、読むのに1週間くらいかかったのは久しぶりである。アマゾンのレビューを見ると訳の悪さを指摘するものが結構あるのでそれも影響していたかもしれない。

ざっくり内容を説明すれば、上巻から中巻前半にかけて世界各地で海を起点にさまざまな異変が起こる様子を描き、中巻の中盤ほどでようやく異変を引き起こしている原因に関する理論が持ち上がり、下巻でそれを元に解決策を模索していくという流れになっている。

まず特筆すべき点といえば、種々の描写の深さである。流石取材に4年もかけただけあってリアリティが半端ない。前半で語られる異変や深海に潜むYrrの正体は当然としても、印象に残っているところで言えば、津波の発生原理やメタンハイトレードができる仕組みなど、登場する自然現象すべてにその都度丁寧で分かりやすい説明が入る。もちろん筆者は専門家ではないので、本当にすべて正しいのかはわかならいが、地球科学を世間に広く知らしめた個人や団体に贈られる賞であるドイツ地球化学者賞を受賞したことからも科学者間での評判は悪くないのであろう。ただ、その正確さ故に少し冗長な面もあったのだが、それは仕方無いだろう。

物語としても面白く、前半の異変にとまどう人々や中盤以降徐々に明らかになるYrrの正体、そして最後の対決と飽きずに読み進めることができた。また、本作はキャラクターがきちんと立っており、特にメインであるヨハンソンやアナワクについてはかなり紙面を割いて描写してあったので、翻訳ものだとよくキャラの名前が覚えられなくて読んでて混乱することがあるのだが、本作ではそういうことは全くなかった。ただ、アナワクに関してはYrrに関するヨハンソンの理論が出てきて、これから盛り上がるという場面で延々と話が挿入されるので、正直言って読んでいて退屈ではあった。

ラストがハリウッド的展開で盛り上がった割には、エピローグがあっさりしていたのが拍子抜けであったが、海洋SFとしてもエンタメとしても十分面白い作品だと思う。

余談だが、あとがきによれば本作は映画化が決定しているらしい。どう考えても丸まるスクリーンに収めるのは不可能なので、優秀な脚本家がつかない限り良いものは出来ない気がする。某なんたらコードみたいにならなければいいのだけれど……。

東野圭吾「パラドックス13」@草一郎 

May 02 [Sat], 2009, 0:46

東野圭吾「パラドックス13」(毎日新聞社)





 東野圭吾の新たなる挑戦!


 間違なく映像化されるだろうな。読んでいてそう思った。「東野圭吾」というブランドがなければ、ただのSFエンターテイメントだが、それでも彼にしては珍しい種類の小説ではないだろうか。今までは画的に迫力のある作品は少なかったので、本著は作者の更なる飛躍のため、映画用に書かれたようなものだ。展開はある程度読めるだろう。それでも面白かったので暇があるなら読むべし。


 設定はこうだ。登場人物たちの身にに起こったのは「漂流教室」や「漂流ネットカフェ」などと似たような状況。平行世界へのスリップだ。ただ、その世界はもとの世界と外見こそは変わりない。家もあるし道路もある。信号機も高層ビルもある。しかし、なぜだか人間がひとりもいない。ついでに犬や鳥などの動物もいない。彼らは無人の東京にスリップしてしまったのだ。


 そして、そこで地震や豪雨が起こる。連続してだ。するとどうだろうか。地下に張り巡らされた地下鉄は崩れ落ち、東京は壊滅状態に。排水機能を失った都市は泥水に沈み、あたりは陥没してひどいことになる。文字通り、東京は人も歩けぬコンクリートジャンルと化してしまう。


 もちろん食べ物など容易に手に入らない。安心して暮らせる建物もない。食と住を失った人物たちは、東京を彷徨いながらサバイバル生活を営むことを余儀なくされる。その生きようとする様は「蠅の王」の少年たちさながらだ。醜い争いはないが、食料調達はひどくリアルで面白かった。缶詰生活はたしかに嫌だろうな。


 で、彷徨の過程で何人もの仲間たちが命を落としていく。また仲間内でも対立し、いがみ合うことにもなる。でも、彼らは諦めない。ひたすら安全な場所を求め、内閣官邸を目指す。そして紆余曲折を経てようやく到着。だが、そこに待ち受けていたのは、この一連の出来事に関する驚愕の真実だった!

 結局のところ

 @P-13現象”とは何か。
 Aなぜ13人だけがスリップしてしまったのか
 
 の二点の謎を辿るようなストーリー展開だが、さてさて終わりはハッピーなエンドか、バッドなエンドなのか。これが意外に待ち遠しい。大方このタイプの小説はバッドエンドが主流なのであるが、本作はどちらで幕を引くのか。それは読んでのお楽しみである。


 最後に一言だけ。既読の方向けに。何がよかったって、やっぱり誠哉さんでしょ。キャリアの警察官僚というのは、やっぱりカッコいいっ! 常に冷静で論理的に物事を考えられるスマートさは素敵だ。言葉を拝借するなら「惚れてまうやろうがー!」。しかも、終盤でのあの活躍! ちょっとやりすぎだ。


あらすじ
 13時13分からの13秒間、地球は“P‐13現象”に襲われるという。何が起こるか、論理数学的に予測不可能。その瞬間―目前に想像を絶する過酷な世界が出現した。なぜ我々だけがここにいるのか。生き延びるにはどうしたらいいのか。いまこの世界の数学的矛盾を読み解かなければならない。


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書評を中心に大学生たちが創作物について熱く議論を繰り広げる場所です!

研究員
草一郎/ケンヂ/たゆな/raymay
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