30代前半の社員と話すと「優秀だな」と思う人がいる一方で、「これはひどい」と感じる人がいる。
どの世代にもそのような差はある。だが、30代前半のその差は非常に大きい。数カ月前にも、この世代のダメな編集者とこんなやりとりをした。
吉田 あの本を本屋で売るときには、目立つようにPOP広告をつけましょうか?
編集者 あれは意味がないですね。実は、たいして効果がないんです。
吉田 この本独自のブログを立ち上げましょうか?
編集者 そんなことは止めましょう。ムダですよ。新聞に本の広告を載せますから、それで十分。
本を売るために15くらいのアイデアを出したところ、彼はすべてに「NO」と答えた。その理由は、あいまいなものが多い。やりとりを通して「仕事の要領を心得ていないな」と感じた。実際、彼の先輩(40代前半)に聞くと、「まだ1人立ちとは言えないレベル」なのだという。ところが本人は40代後半くらいの編集長気取りになっていて、何でも知ったかぶりなのだ。
私が30代前半のころにもこういう人はいた。その後10年が経ち、彼らは40代前半になった。いま、その大半がまだ管理職になれていない。率直なところ、40代前半で同世代の社員と比べて昇進に遅れが出たときは、それを取り戻すことはできない。つまり、落ちこぼれである。そう考えると、いまの30代前半で何に対しても「NO」と言っているような人もきっと前途は暗いのだろう。
私が観察していると、社会人になり10年目くらいになる30代前半は曲がり角であるように思える。最低限のレベルだが、仕事をなんとか覚えて「俺は一人前」と思い込むころである。ここで2つのパターンに分かれる。
1つは、それまでの経験ですべての仕事を理解したかのように思い込み、成長が止まる人。もう1つは、さらなる成長のために新たにどん欲に経験を積んでいく人。私が観察すると、大体6〜8割は前者であるように思える。
●意固地になっている人たち
そこで経営コンサルティングを手掛ける、株式会社シャイニングの下田令雄成(しもだ・れおな)社長に「30代前半になると、なぜこのようなパターンに分かれるのか」と尋ねてみた。下田氏は、それまでの経験に必要以上にしがみつき、新たな経験を受け入れることなく、成長が止まる人を「思考停止状態に陥っている」ととらえる。そしてその理由には、上司などとの関係もあるのではないかと述べた。
「彼らも20代前半のころは、前向きだったと思います。しかし、この10年間に新しいことを提案しても、上司などに受け入れてもらえなかった経験が何度かあったのではないでしょうか。それらが積み重なり、何をやってもムダという思考になる。こうなると、変化を受け入れるために思考を働かせることが苦痛になるのです。だから、自分が提案を受けてもNOと言い始める」
そして、この思考停止状態に陥ると「過去の成功は自分の力だけで成し遂げたと思い込む」可能性が高くなるという。
「このような人は社内で認められていないので、せめて10年間の実績にしがみつき、自らをなんとか奮い立たせようとしているのではないでしょうか」
私の解釈で端的にいえば、こういう人はきっと意固地になっているのだろう。
●可能性を否定され続けると、思考は停止する
下田氏の話を聞いていくうちに、私の30代前半〜半ばのころを思い起こした。そのころ、異様な仕切り屋の上司(40代後半・部長)に仕えていた。こちらが何かを提案すると、「それはやらなくてはいい」「これはしてはいけない」という返事が返ってくる。彼は、あらゆることを却下した。私だけではなく、ほかの部下の案も同じような理由でほとんど否定していた。
こういう日々が続き、私はしだいにやる気を失った。会社に行くのも苦痛で、上司の心はおよそまともではないと思えた。そして、私は冒頭で述べた編集者のように「NO」を連発するようになった。素直に認めたくないところだが、意固地になっていたのかもしれない。
下田氏が指摘するように、このような思考停止状態になると、それまでの経験にしがみつくようになる。当時の私の心理はきっとこんなものではなかったのかな、と思う。「これだけ頭ごなしに否定されるならば、せめてこの10年ほどの経験をもとに上司に対し、反論をしよう」。つまり、自信のなさの表れとも言える。こうして私はだんだんと上司への攻撃心を強めていったのだ。
だが、こういうケースは少ないだろう。多くの人は「もうこんな上司はダメだ」とか「会社員ってこんなものか」とあきらめや悟りの境地に入っていくのではないだろうか。そして失意のもと、退職する。さらにエスカレートすると、心の病になることもあるのかもしれない。私が観察していると、そのように思える。
もちろん、上司の関係からだけで思考停止状態に陥るわけではないだろう。会社の人事制度があまりにも年功序列的であり、何をしようと同世代と差がつかないときにも、思考停止になるのかもしれない。あるいは、職場の同僚や取引先などとの人間関係が影響を与えているのかもしれない。
しかし、私は自らの経験を振り返ると、上司との関係が大きいのではないかと思う。言い方を変えると、人は自分の可能性を否定され続けると、見事に思考は停止するのである。新しいことに取り組む意欲もなくなる。
●周囲に感謝する姿勢を保つこと
では、この状況から抜け出すためにはどうするべきか。下田氏は「簡単なことではない」と前置きしたあと、「周囲に感謝する姿勢を維持すること」を説く。上司や周囲などに感謝することが過去の成功体験にしがみつく姿勢を打破することになる、と考えているのだ。このような上司に感謝することができるのかと疑問を投げ掛けてみると、こう答えた。
「逆転の発想ですが、まず感謝しようとすると、感謝するためのネタを探す思考が働き、その結果、周囲が尽力してくれたさまざまなことに気づく」
下田氏は「周囲に感謝しようとする姿勢」には、次の3つの効果があると語る。
(1)上司や周囲との関係を良好なものにしていく
(2)周囲の意見を聞き入れる姿勢になり、謙虚なワークスタイル(≒組織の中で好感を持たれるワークスタイル)を身につけることができる
(3)過去の成功体験にしがみつく、という姿勢を打破することができる
(1)〜(3)の流れを想像してほしい。このステップを踏むと、社会人になって以降の経験を客観的に見据えるようにならないだろうか。例えば20代後半のとき、営業マンとして大きな契約を取れたが、実はそれは上司のお陰だったという具合に。この振り返りによって「自分はまだ未熟だ」と思い、新たに仕事を覚えていこうという心理になるのではないだろうか。
逆の意味で言えば、いちばんなってはいけない思考は、これまでの成功をすべて自分の力によるものと思い込むことだ。これは今後のキャリア形勢を考えると、かなり不利な生き方だと思う。学ぶ意欲を弱くしてしまうからだ。冒頭で述べたような編集者は、この悪しきサンプルだろう。
確かに、上司をひたすら責めていても事態は打開されない。かつての私がそうだったので、このあたりは自信を持って言える。30代前半で息詰まっている人は不本意かもしれないが、上司を始め周囲に感謝することを試みてはどうだろうか。少なくとも、自分の力で相手をねじふせようとすることは避けたほうがいい。【吉田典史】
【4月30日12時23分配信
Business Media 誠http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100430-00000024-zdn_mkt-bus_all