思春期のぼくら 17 の言葉 

February 15 [Thu], 2007, 16:05
1:劣等感はぬぐいきれず
2:切れないナイフで林檎を剥くように
3:いくら包帯を巻いても 
4:出した分だけ還る涙
5:君じゃ駄目 君だから駄目
6:キャッチボール
7:理性と本能と稚拙な弁論
8:真実よりも追い求めたのは都合の良い空論
9:フェンスと鳴き声
10:悲しみの訳、怒りの理由
11:免罪を求めて
12:居場所探し
13:何処へ通じるこの空洞
14:取り入れたのは君の水分
15:吐き気と共に憂鬱な感情
16:成長過程への嫌悪
17:受け入れる覚悟

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(無題) 

November 20 [Mon], 2006, 10:15

言われ慣れた言葉だったけれど、あんなに冷えた声で言われたのは初めてで、頭を殴られたようにガツンとキた。
どうして、なんて言われても斬っていいと、斬れと言われたからだとしか言いようがない。
たまたまオレが、その日死番で、単純に上の命令に従っただけ。
ひとりの人間を、たった一枚の紙切れに従って、何の躊躇もなく斬る。
彼女の言った言葉は、とてもとても的確だ。そしてその言葉は幾人もの人達によって使い古されたものだ。
「アンタなんか人間じゃない。この幕府の犬、犬以下だわ。」
「・・・・・・」
三歩、正確に言えば二歩半ほど前を歩くムカつく背中に声色変えて言ってやったら、思いっきりのしかめ面で振り返った後、ため息を吐かれた。
「って言われたんです、さっき」
きっと土方さんも言われ慣れているのだろう、それで、と短く返しただけだった。
一雨来るかな、呟いて歩調を合わせてきた。
その言葉に合わせて空を見上げると今にも泣き出しそうにぐずっていた。
出るときに傘は持たなかった、自然と早足になる。
「なんか、その女の人がすげえ静かに言うもんだから、」
「キズついたちゃったってか、ガラにもねえな」
ククッと嫌味に笑うからオレは一瞬で気分を害する。
ついでにその煙草の煙は、オレの健康も害してるし、オレらはいろんな人に害を与えて生きている、加害者なんだろうな、殺人者が長生きしてどうするつもりだろう、少
し笑える。
「土方さん、」
キスしようかなんて、オレが言ってもいい言葉なのかな。
人を愛するってこと、オレらがしてもいいことなのかな。
自分から誘っといて、未だに路のど真ん中に突っ立ってるオレの腕を引っ張って土方さんは狭い路地に入り込む。
どうやら先客がいたようで、野良猫が二匹寄り添っていた。
ごめんねと心の中で呟いて静かに瞼を閉じる。
ただ押し当てていただけの唇を離すと、見計らったように頬に雫が落ちた。
ポツリポツリと降り始めたソレはあっという間に土砂降りに変わった。
土方さんがオレの腕を引っ張って走り出す、オレは腕を引っ張る手に自分のソレを無理矢理絡めて付いて行く。
周りに気づかれたらどうしようなんて考えたけど、みんな雨から逃げるのに必死でオレたちのことなんて見ていない。
手を繋ぐことなんて滅多に無いから、なんだかキスをするよりもずっとずっとドキドキする。
ただただ心音が伝わらないことを願うばかりだった。

***

「それでテメェはどうしてえんだ」
わからない、ぽつんと呟いた言葉は予想に反して浴室いっぱいに響いた気がした。
掌に掬った湯水に映る自分をじっと見つめる、殺人者もじっとこちらを見ていた。
「真撰組を辞めようなんてこれっぽっちも思わないし、この仕事を正当化する言い訳だって思いつかねぇ」
掌に映る殺人者をぐしゃりと崩して、土方さんに縋り付くように腕を回した。
肩越しに見える水面にはさっき崩したはずの顔が映っている。
「ぐしゃぐしゃにしてくだせぇ」
ぎゅっと腕を締め付けるオレを宥めるようにキスをするように、土方さんは優しいからきっと、オレ以上に何度も何度も傷ついてきたんだろう。
オレなんかに優しくする必要なんて無いのに、土方さんはきっとオレに一番優しいんだ。
優しい土方さんが愛しくて愛しくてたまらないオレは苦しくてたまらない。
その優しさにお返しするものなんて、オレはひとつだって持ってはいないよ。
泣き出しそうな殺人者がオレを見てる。
解っている、消えることなんてないんだ。


 

November 02 [Thu], 2006, 22:40
「御訪ね者のオレ捕まえなくていいわけ?あ、もしかして罠とか」
「心配しなくても此処等にはオレ以外いないですぜ」
「ふぅん」
「どうせほっといたって直ぐ死ぬだろィ」
「ああ、」
「「アンタもオレも」」
「いいのか?大好きな土方さんじゃなくて」
「へ、あの人に移しちまったらオレァ極楽に行けねぇよ」
「極楽ねぇ、イイトコなのかねぇ」
「さぁ、」
「それにしてもこの世は」
「「てんで地獄みてぇだ」」
滴は赤に堕ちてにじむ。抱き合ったのは愛があるからじゃなくて、ほんの少しの寂しさをまぎらわす為。
哀しいんじゃない、辛いんじゃない、悔しいんだ。なんでオレが。どうしてオレたちが。

指輪 

November 02 [Thu], 2006, 22:30
「ゆびわ、」
「ん?」
「指輪見せてよ」
「………」
「大丈夫、とったりなんかしやせんから」

「いいなぁ」
「あ?」
「だって指輪って飼い犬の首輪みたいなものでしょう」
「犬と一緒にすんなよ」
「一緒じゃん」
誰かのモノである証拠、あたしのものだという主張。その指も掌も腕も肩も脚も胸もとがった犬歯だとか心臓でさえ、
「全部あのオンナのもんになっちまった」
俺も欲しい、全部だなんてワガママ言わないから、でもできれば全部欲しいけれど、ひとつでもいいから、
「俺のモノになって」
俺のモノじゃないあのオンナのモノの土方さんの綺麗な顔が困惑に歪むのがわかって笑ってみた。笑顔塗りたくった顔で冗談ですぜ、馬鹿にしたように呟いて眠くなんかなかったけれど眠いふりをして布団の中に隠れた。濡れたシーツは明日の朝までには乾くはず。

土方さんのなにひとつ俺のモノにはならないのに、俺の流れおちた雫までも土方さんのモノなんだと思うと世の中ってなんて不公平なんだろうと今更だけどあたりまえなことに笑えた。

(無題) 

October 01 [Sun], 2006, 23:38
「ッア」
「…っ」
ジュッと音がして、あまりに吃驚したものだから思わず目の前の男に蹴りを食らわしてしまった。自分でも無意識のうちに涙が落ちてきて、額を占める感覚が痛覚なんだと気付くまでに時間がかかった。何か、熱いものが額に、いや熱いものっていうか煙草の熱が。
「ごめん」
「…や、やまざきッ」
思わず助けを求めて呼んでしまったのは 山崎で、土方さんが噎せながらこちらを睨んだけど、第三者にどう認識されたってこの場の加害者は土方さんなのだから文句は言えないはずだ。動揺が隠せない頭の中で先程から繰り返される記憶は随分と昔のもので、ゆっくりと丁寧に奥に奥に追いやったはずだったのに、糸が絡まって一気に引きずり出されてしまった。
「出ていって」
「ンだよ、謝っただろ」
「いいから、どっか行って」
目は合わせないで言った。気持ち悪い、頭が痛い、呼吸するのがこんなに難しいことだったなんて。山崎と入れ代わりに土方さんが退出したのを見て、少しだけ安堵する。退出際に土方さんがもう一度ごめんと言った。

大好きでした 

September 21 [Thu], 2006, 22:28
言えやしない。絶対に言えやしない。
先日、珍しく化学のテストでいい点をとった大ッ嫌いなアイツが羨ましかったとか。
羨ましかったから苦手な化学の赤点脱出を試みて徹夜で化学限定の集中勉強してたとか。
絶対に絶対に。言えやしない。

睡眠不足、保健医のセンセェがそう指摘した。
睡眠不足による貧血が原因で、俺は全校集会中に倒れた。
誰が運んできたのか覚えていないがおそらくは御節介大好き人間の土方さんに違いない。
微かだけれど土方さんの家の匂いが鼻についたのでそう思った。
保健医の小言を聞き流しながら天井のタイルを数えたりしているとギィとドアが鳴いたのが聞こえた。
ぺたりぺたりと床に吸い付くような足音には心当たりがある。

「調子はどぉ」

黄ばんだカーテンをめくって除いた顔はやっぱり銀髪のひとだった。
俺ってスゲェ、心の中で賞賛して誇らしく思った。
センセェは保健医と一言二言話してからベッドの隣に置いてあるパイプ椅子に座った。
ヘビィスモーカーでもないのに、ニコチンの香りにくらりとする俺は病気なのだろうか。

「お前なぁ、ひょろっちぃんだから徹夜とかしないように」
「えー、俺結構マッチョさんですぜー」
「マッチョさんでも徹夜はダメ」
「だってもう少しでクリアだったんでさ、ゲーム」

口からでまかせ言って悪戯に笑ってみたらぺちりと額を叩かれた。

「そんだけじゃないでしょ、授業中も目開けたまま寝てるし」
「そんな器用なことできやせんって」
「ボーッとしてるって意味ですぅー赤点ゲッターくん」

赤点ゲッターっていうのは自覚があるけれど、あからさまに考え事しているような自分に溜息が出そうだった。
でも、考え事の中身が気付かれていないならばそれでいい、気付かれて欲しいような気もするけれど。
遠くで校長の声が微かに聞こえる、未だ集会は終わっていないらしい。
このままでいられるならもうずっと終わらなくてもいいや、生徒からブーイングの出るようなことを願った。

「・・・なんか悩みがあんならセンセーに相談しろよォ」
「えー金取るんじゃね?」
「今なら期間限定無料だよ〜勉強から恋煩いまで幅広く」
「恋愛相談とか参考になんの?」
「うわー、それ以上えぐんないで」

センセェは大袈裟に心臓に手を当てて痛い痛い叫んだ。
俺はケラケラ笑ってみせたけれど、本当は面白くなかった。
今まで付き合った女の人とか、好きだった女の人が今も彼の中で生きているんだと思うとどうしようもない。
名前も顔もしらない彼女たちが羨ましくて羨ましくてどうしようもない。

「秘密」
「ん?」
「センセェなんかに相談しやせんって」
「あらら、サミシー」

世界中の人にこの思いを晒したって貴方だけには教えない。
俺は傷つきたくないだけの弱虫。貴方の口からはっきりとノーを聞くのが怖いからこのまま曖昧にしていたい。
この嫉妬に燃える汚い心もいつか燃え尽きてしまったら、捨ててしまおう。
そしたら新しくなったソレで女ッたらしの土方さんでも落としにかかってやろうじゃないか。
成功率は99%、何故なら俺は何もかも知っているから。
目の前の銀髪があの桜色を異様に気に入っていることも。そしてその桜色が化学のテスト頑張った理由も。
御節介な土方さんが何故俺に対して更に御節介やきなのかも全部。
ああ、俺ってば世界一可哀想。悲劇のヒロインぶって揶揄ってみた。
なんだかムシャクシャしたので今日は土方さんを困らせて楽しんでやろうじゃないか。
大丈夫、俺は愛されている、例えそれが俺の愛する人からでなくてもそれはとてもしあわせなこと。
そのしあわせがいつか愛に変わるといいな、そしたら俺は世界一幸せになれるかもしれない。

終了のチャイムが鳴り、生徒達の話し声の中で慌てた足音を確かに聞き取って可笑しかった。
もうすぐドアが開いて入れ替わりに見慣れた顔の彼がやってくるに違いない。
お大事にと言って離れていく背中を見送って独りでこっそり笑った。

いつかこう言いたい。センセェ、

彼の独り言 

September 21 [Thu], 2006, 22:26
爆発でもおこったかのような大きな音が聞こえたので行ってみると案の定、沖田と土方がいた。
屯所内で何か揉め事が起きたときは必ずといっていいほどに原因はこの二人なのだ。
穴の空くどころか原型を成していない障子を発見して溜め息を吐く。
火の粉を被らぬように陰からコッソリ見守ることにする。
ああ、厠の修理もままならないのにあの障子を直す費用がどこにあろうか。いや、ない。
反語なんて使ってみたところで状況が変わるはずもなく、いつ次の被害がでるか心配で目が離せない。

「先につっかかってきたのはテメェだろーが」
「なんでィ機嫌がワリィとすぐ俺のせいにしやがる」
「俺はガキに構ってる暇なんてネェーんだ」

鼻で笑って煙草の煙を沖田に吹きかけるとクルリと方向を変えて去っていく土方を、煙のせいでむせながら沖田が引き留めた。

「何処行くんでさァ」
「部下に世話焼かせられてばっかの可哀想な土方さんは綺麗なオネェサマ方に慰めてもらうんですぅ」
「へぇ、女と遊ぶ暇はあんだぁ、そんなに暇なら副長の座譲れよ」
「は、女の一人でもできたらな、どうせまだ童貞なんだろ」
「ッセクハラで訴えますぜ」
「へーへー、俺のことそんなに嫌いならもうつっかかんなきゃいいだろう」

ハァ、態とらしい溜め息と共に煙草を投げ捨てて去っていく、今度は沖田がとめることもなく、足音は段々小さくなって消えた。残された沖田は土方の姿が見えなくなってもそちらの方向を睨みつけるようにじっと見つめている。どうやら嵐は去ったようだと油断しているとドカン、と騒音が響く。みれば障子がもう一枚昇天していた。

「違う、」

(え)

山崎の溜め息に被るように、屯所の庭の壁の向こうがわの騒音に掻き消されそうな声で沖田が何か呟く。山崎は思わず耳を済ましてしまう。

「好き、なんだけどなぁ……」
そう呟いた沖田の表情に思わず息を飲む。
今にも泣きそうな強がりの笑顔に周りの音と景色が一瞬だけ消え去ったような気がした。

(どうか沖田さんが報われますように)

微かな優越感を覚えて障子被害の件を報告に向かう。

好きかもしれない 

September 21 [Thu], 2006, 22:25
「好きです」

その女がそう言うであろうことはあらかじめ予測できたので、女の唇の動きに合わせて呟いてみた。
二階の渡廊下から見下ろした中庭に美男美女。嗚呼、麗しき青春。なんつって。
中庭は、うちの学校では所謂告白スポットとかいう場所で、オレだって1学期はよく呼び出された。
まぁ、2学期になる頃には減っていったけれど。理由は、土方さんに言わせれば本性が出てきたから、らしい。
遠回しに「顔だけ」と嫌味を言われて、米粒ほどのショックを受けた。
嫌味を言った本人は今真下にいて、くやしいけれどその美男の目の前には美女。
美女の方は男子間での恋愛談義の際によく出てくる名前で、結構有名な子だ、と思う。

「前田・・・ちか、だっけ」

(おそらく)前田の真っ黒なストレートの髪の毛が揺れて土方さんに背を向けて走り去った。
ああ、またあの女ったらしはいたいけな美少女をひとり突き放したのだ。勿体ない。
好きでもないヤツとは付き合えないなんて、古い考えのあの人がどうしてそんなにモテるのだろうか。
顔だけならオレだって負けてない、と思うのに。土方さんは性格がいい?イヤイヤありえない。

「ひゅー、相変わらずモテるねオニィサン」
「!」

冷やかしてみたら土方さんが振り返って「見てたのか」って思い切り顔をしかめた。その顔サイコー。
女の子ってなんで必要としているところには寄りつかないのに、こんな男に夢中になるのだろう。
それを理解するために一度女の子になってみたいものだ。いや、やっぱり理解したくもないな。
土方さんが誰にも言うなよってお願いしてきたから無理矢理にアイスを奢って貰うことを決定した。

「あはは、これで何人目?」
「んなの覚えてねーよ」
「サイテー、そんな土方君が好きだゼッ」
「ふーん、なら、付き合う?」
「えー、ガリガリ君奢ってくれるなら」
「よっしゃ、何本でも奢ってやらぁ」
「へ、」
「あ、オレマジだから」

ニカッと子供らしく笑ってそこで待ってろよ、って駆けだした彼を何も言えずに見つめる。
マジって言うのは本気と書いてマジと言うことなのでしょうか。それ意外当てる文字は浮かばない。
イヤイヤ、オレはどっからどう見ても男ですけど、土方さんってまさかそういう趣味をお持ちで?
そんなわけはない、オレの知る限りあの人は普通に女の子が好きなはず。
やっぱり冗談なのだろうか、というか冗談に決まってるじゃあないか。なんでオレは焦ってるんだ。
しゃがみ込んで落ち着け、落ち着け、自分の心臓に言い聞かせた。心臓はなかなか言うことをきいてはくれない。
階段を上ってきた土方さんがオレを見て「バカじゃねーの」って言って笑いモノにされるんだ。
タンタン、タン。勢いよく地を蹴る音が近づいて、もう心臓が飛び出しちまうんじゃないかって思ってしまう。
一体どうしちまったんだ。動悸は止まない、ああ、もしかしてこれは恋っていうやつ。もう脳もイカれちまったようだ。
ああ、でも、もしかしてオレは本当は、もしかして本当に、あの人のことが。

迷子の僕と魔法の言葉 

September 21 [Thu], 2006, 22:23
アスファルトがじりじりと鳴いている、そんな幻聴が聴こえそうなほどに太陽は自己主張をする。
もうちょっと控えめになればいいのにと、近所のおばさんみたいなことを呟いてみた。
屋上の貯水タンクで造られた影に横になった目線の先では陽炎が揺らぐ。
揺れる世界の向こうに見えるドアが開いて青いラバーの上履きが登場した、
陽炎のせいで書かれた名前はわからないけれど、擦るような引きずった歩き方に思い当たる人物はひとり。
ざりざりと砂っぽい足音で忍び寄る影の上半身を見ようとは思わなかった。
なんだか、眠い。今眼を閉じれば極上の眠りを手に入れられるはずだ、けれど目は閉じない。
足音は音量を増し近づいてきて目の前で止まった、上履きにはやはり知った名前。

「オイ、んなトコで寝んなよな」

かったるいけれど、うざったいけれど、本当は嫌だけれど体を仰向けにしてみる。
太陽の眩しさにぼやけた視界の中に彼は居た。

「あーひじかたさんだ」
「ひじかたさんです」
「・・・・・・おやすみ」
「寝るな」

睡眠欲は人間の三大欲求のひとつなんですぜなんて素敵なセリフも浮かんだけれどとりあえずは「えー」と言ってみた。土方さんは「えー、じゃない」なんてお母さんみたいなこと言って顔を顰めた。
その顔好きだな、そう言ったら今度はどんな顔に変わるかな。汗がまた一滴頬を濡らした。
暑い、ただでさえ暑いというのに貴方がいるともっと熱い。

「ホラ、帰ってエアコンガンガンかけて気持ちよく寝たらいいだろ」
「・・・アイス食べたい」
「早く起きろ」
「・・・アイス、
「買ってやるからッ」

やけくそに叫んだ土方さんを見て「やった」って叫んで飛び起きた。
こうでもしなきゃもう動きたくなくなりそうだったから。
立ち上がってもやっぱり暑くて、夏なんて早く終わっちまえと半年前と逆のセリフを言ってみた。

土方さんはどんなに忙しくても暇でもオレと一緒に帰りたがる、
オレが何処にいたって見つけ出して必ず家の玄関まで見送る、お前は彼氏か。

「ねーアンタなんでオレと一緒に帰りたがんの」
「お前・・・屋上とか公園で居眠りこいて周りに心配かけたの一度や二度じゃないだろ」
「ですねぃ」

そうかそうか、オレはひとりにすると帰ってこなかったり行方不明になってしまうらしい。否定はできないなと思った。
なんとなくで知らない裏路地に入って迷った事だって確かに一度や二度ではないけれど。
土方さん曰くそこで焦らないから逆に心配だそうな。
それは違うな、だっていつも迷子になったときは土方さんが絶対絶対探し出してくれたもの、だからオレはいつからか迷子になっても安心してアンタを待つことに慣れてしまったんだ。

「アンタのせいですぜ、自業自得」
「はぁ?わけワカンネ」

約束したでしょう、ずっとずっと昔の話。
「迷子になったって絶対俺が探し出してやるから、」
あの日の約束はまだ鮮明に残っているよ、知らない世界でいつも唱えた魔法の言葉。

(無題) 

September 16 [Sat], 2006, 12:53
姉ちゃんがいなくなってひと月たちました、僕は少し元気です。

土方はん、京の遊女のように鼻にかかった声で呼びかけるとぺちんと額を叩かれた。いてぇ、思わず出た声と共に額を撫でる。前髪がずいぶんと延びた。
「土方さん」
「はい」
「こっち向いて」
土方さんの肩が少し揺れて、振り返ったけれど目線は何もないところへ泳いでる。そこには日焼けした畳しかないよ、何を見ているの、違う、そうじゃないのは知ってる。
「なんでオレを見ようとしねえんです」
実は挨拶と連絡事項以外で言葉を交わすのはあれからひと月ぶりで、けれど目線が合わないことにはずいぶん前から気付いていた。そろそろ精算しなければならない頃だとそう思う。
「オレは沖田総悟です」
ミツバじゃありやせんと、付け足した。土方さんの目線はまだ部屋のなかを彷徨いている、土方さん、もう一度呼ぶけれど返事はない。土方さん、胸ぐらを掴んで引き寄せたところでようやく目が合う、結局オレはこんなやりかたしかできないのだから嫌になる。
「すまねぇ」
「なにがです」
すまねぇ、またひとつ呟いてオレの腕を緩く抑える。欲しいのはそんな言葉じゃないのに、アンタは何もわかってない。
「よくみて下せえよ、ここにいるのは沖田総悟です、沖田ミツバじゃねぇ、アンタがオレに謝ることなんてありやせん、偽善者ぶるのはやめなせぇ」
「ちげぇよ」
もう10年近くお前を苦しめていたと、風でも吹けば消えそうな低くかすかな声で言った。引き寄せていた体を今度は押し倒した、覆い被さるとまたひとつ謝罪の言葉を投げかけられた。
「抱いて下せえ」
自分でも思わぬ言葉が零れ落ちて、同時に両目から重力に従順に従う雫たちが音を立てて土方さんの頬に雨を降らした。
「他人の空似とでも思ってくだせえよ」
姉ちゃんはきっと幸せだった、土方さんが悪い奴じゃねぇことくらいオレだって知っていた、認めたくなかっただけ。惚れた女の弟だなんて考えないで、オレはオレだからもう謝らないで。そう思うけどズルいオレは土方さんの良心をうまく利用している。
「すきでさぁ」
土方さんは少しだけ笑った。その後オレの頭を撫でて、またごめんと言った。傷付いてもいい、周りに何と言われても良い、優先順位なんて気にしないから。
「オレを好きになって」
いつもいつも卑怯な手ばかり使って土方さんの関心をひこうとするから、張り裂けそうに溜まった本音を伝える言葉が見つからない。土方さんが嫌いで嫌いでたまらないのは、土方さんを好きで好きでたまらない自分が嫌いで嫌いでたまらないから。

姉ちゃんがいなくなってひと月がたちました。姉ちゃん、僕は少し病気です。
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