―言霊師― 9 

2005年09月26日(月) 0時09分
「もう、行っちゃうなんて…」
その言葉に花影は苦笑しつつ、身支度を進めていた。奏はと言うと先程、取り乱した面影も見せず
花影の身支度を手伝うわけでもなくドアの所に立ち見ていた。
「僕は所詮、旅人だからね…。」
花影は自分で言って少し苦い顔をした。その顔を見逃さなかった。
「旅…辛いの?」
「……辛…くはないよ。相方も居るし。でも……。」
「でも?」
花影はまた、笑った。
ここ数日だけで、花影はよく笑う事に奏は気づいた。初めは、本当に綺麗な笑顔だなっと漠然に
考えていた。でも、さっきからの笑顔は無理やりすぎてこっちが辛くなる。
「…怖いかな?……旅が終わってしまうことが…。終わりの果てに待ってるモノが…。」
「???」
いま花影は笑っていない。本当に辛そうな顔だ。
でも、奏には難しくて、分からなかった。
「お兄ぃ……。」
「…奏君?……お母さんの声……聞こえない?」

―言霊師― 8 

2005年09月26日(月) 0時08分
「お兄ちゃん?起きてる??」
突然、ドアの向こうから聞こえて慌てて再び鏡の前に立った。
身なりを整えると、急いでドアを開け、前に立っていた奏に笑いかけた。
「おはよう、奏君。」
息を乱しながら、笑顔で話しかけたのに奏の顔は何やら浮かない顔をしている。
奏君、と言いかけて花影は止めた。昨夜の事を思い出したからだ。
おそらく、母親の具合がよくないのだろう、花影はそう自己解釈した。
「行こう、ご飯なんでしょう?」
そう言うと花影は奏の手を握って階段を下りていった。

「え?もう、行っちゃうの!?」
テーブルに着いていた奏と花影は、奏の父親が作ってくれた朝食を食べながら言った。
「うん、相方もそろそろ来るし…。僕の相方は身体強くないし、疫病も…あ。」
途中まで言いかけて花影は口を塞いだが、もう遅く奏は俯いてしまった。
花影が困った顔をしていると、奏が何か静かに言った。しかし、その声はあまりにも小さすぎて聞き取れなかった。
「えっ…何?」
「…全部魔族がいけないんだ!!」
その声はとても怒りが篭っていて、花影も一瞬固まってしまう。
「あ……そう…く。」
「この世界に魔族なんかがいるから、疫病なんかが流行るんだ!!」
確かにそうなのかもしれない。元々疫病は魔族がこの世界に放ったものだ。
無論、魔族より身体の作りが弱く、病原菌に打ち勝つことなど到底無理な話。
人間は魔族の前では、ただ死を待つのみーーーーー。

―言霊師― 7 

2005年09月25日(日) 23時59分
翌朝、花影はまだ日が昇らないうちに目を覚ました。もちろん、部屋はまだ闇。
まだ寝ぼけ眼だったが、さっとベッドから降りて鏡の前に立った。
旅の途中、野宿などの時は水鏡だが、これが花影の日課だった。
「…もう、そろそろかな?」
ふとそんな事が頭を過ぎった。すると、花影の表情が段々険しくなっていく。
「全く、たかが剣の修理で俺のこと1人にするなんて!」
いま思い出しても腹立たしい、あいつは自分のこと一体なんだと思っているのだ!
別れ際に交わした会話は…先に行っていろ。それだけ、そうその一言だけだった。
そう言って彼は一緒に留まると言って拗ねた自分の首根っこを、まるで猫にするかのように持ち上げ
前の町から追い出したのだ。
「あぁ!もう…。」
確かに武器を持たない人間がいれば、仲間に迷惑を掛けるのは目に見えている。
…この魔族が存在する世界では――――――。

そう、この世界には間違いなく魔族と人間が存在していた。
もちろん2つの関係は平行線で、力を持つ魔族を人間は忌み嫌い。また魔族は力を持たない低俗な人間を見下していた。そんな相容れない関係がどこまで続くのかも、この世界は知らない。
魔族は人間を襲うし、人間は魔族を受け入れない。
それだけが真実。

―言霊師― 6 

2005年09月25日(日) 23時58分
「おやすみ」
とだけ言って、奏は花影の部屋を出て行った。

少し時間が経った時だった。なんだか寝付けず、花影はただベッドの中で目を閉じていた。
「………ん?」
ふと静かな闇夜に荒い息の音が聞こえてきた。どうやら隣の部屋からのようだった。
気になってベッドから降り、そっと隣の壁に耳を傾けた。
会話が聞こえる。
「…母さん。」
奏の声だ。でもなんだか悲しそうな声だ。
「ねぇ、苦しいの?痛いの?」
今度は泣きそうな声で囁いていた。
「かあ…。」
「奏…、此処来ない約束でしょ?あなたにも感染してしまうわ…。」
「でも!」
「早く行きなさい。」
奏はそこで声を伏せて、辛そうな雰囲気を纏いながら部屋を出て行った。
花影はそっと壁から耳を離し、再度ベッドに戻った。
奏が言ってた“医師”の本当の目的は母親の病か…。母親の声色からしてカナリ容態が悪いようだ。
「母親…か。」
ぼぞっと呟いた声を後に花影は眠りについた。

―言霊師― 5 

2005年09月25日(日) 23時57分
花影はひとまず心を落ち着かせて、バスルームを出た。
「……………。」
「あれ?奏君?」
寝室へ入るとそこには奏の姿があった。おそらく遊びにでも来たのだろうと、笑って見せた。
しかし、その顔は心無しか少し赤い。
「お兄ちゃん、…お姉ちゃんだったの!?」
驚いたように聞いてくる奏に、花影は一瞬ビックリして瞬きを数回繰り返したが、奏の姿を見つつ
大きな声で笑い出した。
「あははっ、そうだよね。こんなに髪が長くちゃ女の人だと思うよね?でも僕は正真正銘、男。」
そう言って、花影は再び笑い出す。
確かに、花影の髪の毛はその辺の女よりも長かった。
腰をゆうに越す綺麗なウェーブの掛かった黒髪。
ソレを見て奏は自分を女などと思ったのだろうと解釈した。
「それだけじゃないけど…。」
奏は花影に聞こえないようにぼそっと呟いた。
奏の言う通り、花影の顔も随分と女顔負けの美人顔だ。
昼間に会った時は、頭から大きなフードをかぶり、顔さえも判断できるか否かの風貌をしていたからだ。
「この髪はね…僕の相方が『綺麗』だって言ってくれたから…。」
会ったのは今日、しかも昼。まだ数時間しか花影と話をしていないのに…
奏には何となくだが分かった。花影は…。

(だって、花影…すごい嬉しそうな顔をしてるー。)

―言霊師― 4 

2005年09月25日(日) 23時56分
ザァーーーーーーー。
明かりをつけず、ただただ花影はシャワーを浴びていた。
バスルームには、無常に水音が響くだけ…。
「………ん。」
ふと、我に返った。
しかし、花影は何処か罰が悪そうに目を伏せると、再びシャワーを頭からかぶり直した。
「あと…何日掛かるのかな…。」
独り言は、木霊して再び舞い戻ってきた。
【オマエハーーーーーダ。】
「!?」
突然、頭の中でした声に花影は肩を震わせた。
震えが止まらない。熱いお湯を浴びているはずなのに…。
【ショセンーーーーデシカーーーーナイーーンダ】
「っ!…やめろ!!!」
無理やり大きな声を出して、頭の中でする声を掻き消した。
その場所には、再び水音が響いた。
「はぁ…はぁ…。」
息が乱れるー。花影はノズルを回し、シャワーを止め、その場にしゃがみ込んだ。
丸まるように、自分を確かめるように…。

―言霊師― 3 

2005年09月25日(日) 23時56分
花影が中に入ると、そこはそれほど広くは無かったが、汚くは無かった。
一晩泊まるには申し分ない。
促されるように、テーブルへとついた。
「すまないね…町がこんな状態だから、まともなものは出せんが…」
男はそう言うと、花影にコーヒーを手渡す。
「いいえ、泊めて貰えるだけで充分ですよ。」
花影がそう答えると、またニコっと笑った。
手渡されたコーヒーが熱い。
「あれ?お兄ちゃん!?」
突然、頭の上の方から声がすると思ったら、そこには階段から降りてきた奏の姿があった。
「奏君?…もしかして此処、君の家?」
「そうだよ。すっごい偶然だね。」

「こっちが寝室で、あっちはバスルーム。そしてここは…。」
二人が知り合い?だという事もあって、花影は奏に部屋まで案内してもらっていた。
詳しく、それでいて丁寧かつ簡潔に説明するその姿はもう立派な宿の主人だ。
「ありがとう、奏君。」
「どう致しまして。分からないことがあったら、何でも聞いてね。」
そう言うと、奏はそそくさと花影の部屋を後にした。
「ふぅ…。」
一息着いて、花影は窓の外を見る。荒廃した町。疫病は物凄い勢いで町の人間を襲っている。
こうなってしまっては必死になって“医師”を連れて来るか、町を焼くしか…。
そして或いは……。
「…さて、シャワーでも浴びてきますか。」
途中まで考えて、花影はその思考を無理やり終わらせた。
後に残ったのは、ローブを脱ぐ音と、水音。

―言霊師― 2 

2005年09月25日(日) 23時54分
「なるほど、医師…ね。」
花影は移動して、町へと入り、先程奏が呟いた言葉の原因を知った。
道端に無造作に転がる、皮膚の変色した死体、死体、死体。
「…疫病か。」
思わず口元押さえ、足早に通り過ぎようとした。
が、しかしーーー。
「おわっ!?」
羽織っていた大きなローブをイキナリ掴まれ、思わず転びそうになる。
すんでんの所で状態を元に戻し、脱げかけたフードを再び深く被り直した。
「あんた!旅人さんか!?」
転びそうになった原因の人物が、声をかける。
まだ病気になっていない町の住人のようだった。
「もしや…医師では…。」
「ありませんよ。」
冷たいようだがきっぱりと花影は答えた。なまじ期待させるのもどうか、と思ったからだ。
「そうかい…。いや、すまなかったね、引き止めてしまって。」
ははっと、乾いた声で笑うと男はとぼとぼと、通りを歩き自宅であろう家へと入っていった。
「あ、あの!」
「…はい?」
花影は男が家に入るすんでんのところで、呼び止めた。
「もしかして、そこの宿屋さん?」
「え、えぇそうですが。」
迫るように聞いてくる花影に、一瞬おびえながらも男は答える。
「安い?」
「まぁ、ここら辺では、うちが一番かと…。」
ソレを聞くと花影は、軽くニコっと笑うとそのまま無理やり二人で家へと強引に入っていった。

―言霊師― 1 

2005年09月25日(日) 23時52分
その世界には沢山の職業が存在した。
医師・教師・占い師・魔術師・精霊師。
そして、この物語は「言葉」を操る言霊師のお話…。

【ー言霊師ー】

「はい、お兄ちゃん。食べ物買ってきたよ。」
十歳位の小さな子供に手渡されたリンゴを、その男はおぼろげな手つきで受け取ると静かに食べ始めた。
ここは町から少し離れた丘の上だから、風が気持ち良く吹いた。
「全く、今の時代に空腹で行き倒れ…ありえないよ?」
「う〜ん。普段は相方がいるんだけど、この町に来る途中で別行動になっちゃったから…ありがとう。」
「僕が偶々、森へ行って良かったね。」
ははっ、と笑ってその男は二個目のリンゴに手を出した。
男の子はというと、呆れてその場を離れようとしていた。
「お兄ちゃん、旅人さん?」
突然の男の子の質問に男はリンゴを食べるのを止め、ちらっとこちらを見て、軽く笑いながら言った。
「まぁ、そんなもんかな?」
「そっか…。お兄ちゃんが『医師』だったら良かったのに…」
少年の声は風に吹き消されそうなくらい、か細かった。

「そういえばお兄ちゃん、名前は?」
「僕?……僕は花影。君は?」
「僕は奏。」
名前だけ告げると奏は、手を振りながら町へと消えてった。
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