「押印師」総合目次 

December 01 [Wed], 2004, 14:50
移転しました。
新しいブログはこちらです

よろしくお願いします。



◇◆「押印師」 目次◆◇

序章
◇ACT1:ジャックニコルバイエンの押印師 : 01/02/03/04/
◇ACT2:灰色の逃亡者 : 01/02/03/04/05/06
◇ACT3:銀と濃紺の渦 : 01/02/03-1/03-2/04/05/06
◇ACT4:無限の零 : 01 /02/03NEW 6/20更新

※申し訳ありません、ちょっと仕事が立て込んでおりまして、更新ペースが遅くなっています。

作品について 

January 01 [Sat], 2005, 14:35
作品「押印師」について。
この作品は、同人物書き北野冬柚子が、長年暖めてきたネタを集約した長編ファンタジー小説です。
ブログを使って、少しずつ連載している形式をとっております。
この作品のキーワードは、
・軍
・戦記物ファンタジー
・アクション
・シリアス
といったところです。
我々が住む世界とは異なる世界にある、アリタスという軍事政権国を中心に、様々な登場人物が登場して、アリタスの運命を辿っていく物語です。
北野は仕事の関係でどうしても遅筆にならざるを得ませんが、根気良く書き続けて行きたいと思いますのでよろしくお願いします。

本サイト「北極苑」(ブログ)
http://yaplog.jp/shibainuhazuki/
・NARUTOパロディ小説(イルカ先生最強説)
・幻想水滸伝2パロディ小説(マイクロトフ至上主義)
・オリジナル(押印師、その他)

管理人:北野冬柚子
hokkyokuen@yahoo.co.jp

序章 

January 27 [Thu], 2005, 11:46
序章
 ベッドタウンにある6階建てのアパートメントがある夜突如、戦場と化した。
 12歳のエルリオ・グレンデールは父と共にこのアパートメント最下階の105号室に住んでいる。母はすでになく、物心ついた頃から既に父と二人だった。

ACT1:ジャックニコル・バイエンの押印師:01 

January 27 [Thu], 2005, 17:14
01
 軍事政権を中枢に据える小国アリタスの首都は、その名の通り「アリタス・セントラル・シティ」と言う。略してACC。
 町の中心、ハート・オブ・アリタスと呼ばれる巨大な噴水広場を中心に八方にメインストリートが伸びており、噴水広場から半径5キロメートルの範囲に、国の中枢機関が点在している。
噴水広場の中心には、巨大で見事な塔造りの噴水がある。首都郊外からでもその尖端が見えるほどに高い塔をアリタス歴代の英雄像が囲み、そのさらに外周を囲む丸い噴水池はロータリーの中心となっている。首都内、また首都内外を結ぶ全ての交通機関が経由する「ACC中央駅」も、この噴水広場の地上、地下に設けられていた。

ACT1:ジャックニコル・バイエンの押印師:02 

February 08 [Tue], 2005, 16:42
02
 椅子の一つに腰掛けて、訪問者を待つ人の姿があった。
 パイプの机に、パイプの椅子という無機質な中で待っていたその人物は、中肉中背の背格好の男。年のころは30代半ばといったところだろう。ところどころブラウンがかかった金髪で、まっすぐ人の目を見つめてくる男だった。
「あんたが、押印師ワイヴァン・グレンデールか」
 訪問者の問いに、男は頷く。まるで必要最低限の言葉しか持たぬかのように。

ACT1:ジャックニコル・バイエンの押印師:03 

February 14 [Mon], 2005, 22:57
03
 契約書と契約金を己の傍らに退けると、ワイヴァンは胸元から赤い棒を取り出した。赤い染料と鉛を混在させた粘土を固めて周りを乾燥させたパルプで幾重にも巻いて固めたもので、一見、手作りの鉛筆といった風だ。
「では、利き手を出してください。甲を上にして」
 少々の戸惑いを含んだ物珍しげな眼差しと共に、男の厚い手の平が机の上に差し出された。
 その手に向けてワイヴァンは卓上電灯の首をひねって光を当てる。男の手を取ると、その広い甲に染料の先端を当てた。
「は〜い、痛くない痛くない」
 軽い言葉と共に男の手の上で一気に筆が動かされる。肌色の上に、朱色の円陣が描かれた。円の中に、なにやら文字らしき模様が複数描かれているが、男にはそれを読む事は出来ない。染料の湿り気が残る円陣の上に、ワイヴァンが素手をかざす。そして小さくなにやら呟いた。

ACT1:ジャックニコル・バイエンの押印師:04 

February 15 [Tue], 2005, 20:48
04
「…む……?」
 男の指先が止まった。
 否、それ以上指を押し込む事ができないのだ。
「なっ…何だこれは!」
 躍起になり男は更に腕に力を込める。男の意思により滾り立つ強力(ごうりき)の精霊は男の腕に青白い血管を浮き立たせるが、男の指はこれ以上ワイヴァンの肌に指を押し込ませる事はできなかった。
 柔らかく、熱をもっていたはずのワイヴァンの首がいつの間にか、冷たく、そして硬く変化している。
「だから、申し上げましたようにですね…」
 男の手の下から、ワイヴァンの薄い笑いが漏れてきた。
「その印では『鋼鉄』をつぶす事はできないんですよ」
 項垂れていたワイヴァンの首が、上がる。真正面から男を見据えた。
 その面持ちには苦渋の様子が一片たりとも見えない。それどころか、最初と変わらぬ薄い笑みを湛えていた。
「な……」
 ワイヴァンの首を掴んだまま硬直する男の口が、戦慄く。
「放せ!」
 一喝と共にワイヴァンが右手を男に突き出した。と同時に凄まじい空気の圧力がまるで押し寄せる壁のごとく、男に襲いかかった。
「うぉっ!」
 たまらず男の手がワイヴァンの首から離れ、その体が吹き飛んだ。むき出しのコンクリート壁に背中を打ちつける。そのまま、力なくその場に崩れ落ちた。立ち上がれぬ男を一瞥し、ワイヴァンは己の首筋を撫で付ける。赤く、男の指痕が残っていた。その首筋を撫でる手の平には、ワイヴァンが男の甲に焼き付けた押印と似た円陣が刻まれていた。
「これはね、鋼鉄の印というのですよ」
 呆然と自分を見上げる男を尻目に、ワイヴァンは机上から契約書と男に積まれた札束を手にした。おもむろに契約書を破り、札束を男に放る。札束は座り込んだ男の膝上でばらけ、床に散らばる。
「ちなみに…」
 赤い腫れが残った首筋を撫でていた手の袖を捲くり、腕を空気に晒す。
 そこにも、また別の円陣が焼き付けられていた。
「こちらは風の印と言います」
「………貴様は……」
「その契約金を持って、帰って下さい」
 男の歯軋りを遮り、ワイヴァンは薄い笑みを浮かべた面持ちで、外への扉を指し示した。

ACT2:灰色の逃亡者:01 

February 18 [Fri], 2005, 20:44
01
 三年前に起こった悲劇のアパートメント事件。
 父ワイヴァンは死の直前に「まさか」という言葉を残している。考えすぎかもしれない、だがその言葉が始終、エルリオの脳裏から離れないでいた。喉に詰まった異物のような感覚。幾度と反芻を試みるのだが、昇華しきれないのだ。
 あのアパートに踏み込んだ人間がアリタスの軍人である事に間違いは無かった。見覚えのある武装服が、煙の充満した廊下でも確認できた。軍の報道によれば、あの惨状は、アパートを隠れ根城にしていた武装テロ組織の抵抗による止むを得ない判断の結果だという。現に軍も幾人かの人間を亡くしていた。
 アパートは最終的に地下に仕掛けられた爆発物により全壊、炎上。寝静まっていた住人の多くは銃撃戦の最中に射殺、もしくは爆発により死亡。死体はほぼ判別できない状態。  
 後々、軍が呼びかけた保障付与制度に名乗り出た者が一人もいなかった事もあり、住人は全員死亡とされた。さほど裕福でない層に属する人間が多く住むアパートメントであっただけに、報道規模も小さく、人々の記憶にも記録にも残る事はなかった。
 エルリオが生き残ったのは偶然の奇跡と言って良いほどだ。
 覆いかぶさった父親の遺体が、瓦解した建材から彼女の体を守り、なおかつ侵入者からカモフラージュの役目を果たしてくれた。正面の入り口から出ては危険と判断して一度部屋に戻り、裏通りに面していた風呂場から外に出かけた瞬間に、アパート全体が爆風により瓦解。エルリオの体は吹き飛ばされたが、それが幸いして侵入者からもアパートの炎上からも逃れる事が出来たのだった。

ACT2:灰色の逃亡者:02 

February 20 [Sun], 2005, 22:59
02
中央に近づくにつれ、石畳のきめが細かくなり、立ち並ぶ建設物の高さや横幅が増し、軍部施設が多く立ち並び始め、華やかながら厳粛な空気が色濃くなっていくようだ。
 路地裏から大通りに出くわしたところでエルリオが時計塔を見上げれば、もう昼間近の時刻。最も市場が混雑する時間は、正午前後の一時間と、夕方の閉店前の一時間。市場に行く時は、エルリオはたいてい、これらの時間を狙って出向く事にしていた。徐々に多くなる人波をかいくぐりながら進む。
「エル」
 キューがエルリオの耳元にささやく。声に、何かを訝しむ色が滲んでいた。
「いつもより兵の数が多くないか?」
「…………」
 言われてエルリオは改めて周囲に目を配った。人の列を潜り抜けてハート・オブ・アリタスのロータリーが見渡せる一角に出る。
 確かに、町中を巡回するACC警備隊の姿が、いつもより目立つような気がした。

ACT2:灰色の逃亡者:03 

February 20 [Sun], 2005, 23:07
03
 フューラー総統とイーザー将軍の名を耳にした時、エルリオは無意識に視を掲示板の向こうに見えるハート・オブ・アリタスの噴水に向けていた。噴水と塔の外縁には、アリタスの英雄像が建てられている。最も高い場所に、現総統フューラーの像。これは総統就任のたびに建て替えられる。若干三十ニ歳の若さでフューラーが総統の座に就いたのは二十年前で、現在五十二歳。歴代総統の就任時平均年齢を考えれば、未だ若い。