ジャンフェニ

October 08 [Mon], 2012, 3:01
白と赤の対比とはかくも美しきものなのか。彼女はまたひとつ学習する。
人は識る生き物である。識る事はすなわち生きることであり思考する術をなくす事はいわば生きる行為を失うに等しい。
分かりやすい例をあげるならこの地のそこかしこに溢れる亡者がそれにあたる。
何をとってして生きているとするかはそれこそ個人の価値観の位置づけに委ねられるが、
小人として言葉を失い、意思を失い、
生そのものを終える事もできぬあれらが”生きている”と云える者はあまり居ないだろう。
そう考えると、本当の意味で死を迎える事こそが生への立証なのかもしれない。
話はそれたが、今彼女は生きていく上で重要な識る行為を見事達成した、訳だがだからといって
この状況がすばらしいと称えられるものなのかはまったくの別問題だ。
10分ほど時を巻戻す事が可能なら先程までこの絵画世界に生きていたのは4人だ。
彼女と、この世界の主と、その主に呼び起こされた二人。
呪われた地へ誘われた者ならまあどういう状況かは把握できるだろう。しかし10分たった今生きているのは1人。
彼女独り。
うさぎという生き物がいる。動物だ。メジャーなものは白が多いが、黒や茶色もままよく見る。
迷信を出ないがそれは一匹でいると精神衛生上よくはないらしい。簡単にいえば、寂しければ生きていけないのだ。
彼女は白くはない。肌は白いがそういう意味ではない。それどころか今の彼女は頭から足の先まで、
それこそ先ほどいった白いうさぎの目の様に赤一色に染まっていた。
赤いうさぎはさすがにいない。だが彼女はうさぎに似ている。
広い雪原を思い浮かべてほしい。そうちょうど、この絵画世界のような真っ白な世界だ。
そこには獣がいる。3匹ほどいればいいだろうか、その真っ白な世界にたとえば赤いうさぎがやってきたらどうだろう。
悩む事はない。むしろ面白いほどにそのうさぎは目立っているに違いない。
しごく簡単な事だ。うさぎは恰好の獲物だろう。
まあ たとえばの 話だが。

「そういえば」
彼はいっていた。正面から動脈を切るのは非常によくない。
やってみれば分かるが小人というのは一つ糸が切れればあっけなく吹き出てしまうものなのである。
腹部の骨折で思いががけず内蔵が飛び出すのと一緒だ。
彼はこうなった状態の彼女を目視するのを非常に嫌った。
何故かは彼女の思考に迄ばないが、どう思っているかは痛いほど分かった。
彼の目。
気高さと誇りと、威厳で保たれた薄い氷の様なあの目が傷つき、危うく揺れる様は彼女がこれまでみたどんな光景よりも美しい。
積雪に飛びうつ赤色よりも、彼女の脚をぬらつかせる醜いまでの生への主張など対象の内にも入らない。
ずっと見ていたいと、思う反面彼がそういった目で彼女を見つめると、先ほど3人ほど殺めて何の揺らぎもない彼女の心情はひどくぐらつくのだ。
そういえば先程から妙に頭が重い。
訳半面責ほど顕になった肌がずっと雪と密着していたせいで彼女の体は冷え切っている。
ここには風邪をひくと言って、暖かい毛布とかぼちゃのスープをいれてくれる彼はいないのだと今更ながら彼女は重くなった頭で思考する。
考えることの、なんとすばらしき事か。
こうして虚ろになった彼女を微弱ながら覚醒させ歩みを進めさせる活路さえ見出すのだから。
(かえろ)
動いた瞬間申し訳程度に暖かい粘液が脚を伝い凍える風に当てられ一瞬で冷える。伝う道筋だけ妙に冷たくなって鬱陶しい事この上ない。
もう一歩進むと更に溢れてきたのでさすがに気持ちが悪かった。
彼女はもちろん医者ではないし人体の構造などまったくわからないし興味もなかったが
異性の小人とやらのあの蓄積量の多さと分泌密度は毎回謎に満ちている。
不死人となった今でも未練がましく失わず、巡回しているその体のサイクルは
独り、この世にただ独り、
静かに最初の火を我が物とした小人の自我欲の強さを今も物語っている様な気がする。

「おなかすいたー」
体が冷えれば自然とひもじくもなるものだ。これこそ神話の時代から変わらぬ小人の摂理である。
言い忘れたがうさぎは草食なのだ。獣が3対目の前に転がろうともそれを食べようとは思わないだろう。
思考せずとも分かる事だ。

足跡と共に滴るはまるでその身を置いていくかの様に、白い雪原から赤いうさぎは姿を消した。
P R
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