ん 日本語最後の謎に挑む 

December 23 [Thu], 2010, 1:14
「ん」と言う発音について、江戸時代の国語学者である本居宣長は、「上古の日本語には<ん>が存在しなかった」と言い切っている。しかし現代では、本書の「はじめに」にあるように、東京メトロ東西線の日本橋駅には、「Nihombashi」と表記されていると言う。このような不思議から、「ん」について纏めようと思う。
「ん」とは元々、五十音図の外にある仮名とされていた。そしてその音について遡っても、古事記や万葉集には、「ん」と言う仮名は一度も出てこない。
「ん」が必要とされ始めたのは平安時代が始まる800年頃からで、民衆の文化が言語として写されるようになる平安時代末期に、音を表すための文字として姿を現したと言う。
では、この「ん」が現代のように言語文化の内に馴染んでいったプロセスとは何なのだろう。日本に住む人間なら誰しもが当たり前に認識し、日々の会話で発している五十音の中で、「ん」だけが曖昧なままであるのは何とも不思議な話である。
本書によれば、仏教の面から見ると、延歴二十三年に空海がサンスクリット語を研究し、「ン」と言う音を書き表す文字を持ち帰ったと言う。それまでは「ン」を書き表す事が出来ず、「イ」や「ニ」で代用していたらしい。この事から、「ン」とは他の仮名と比べてかなり特異なものである事が感じられる。
そして「ん」が浸透していくには、かなりの時間がかかった。「土佐日記」では除外され、「源氏物語」では「ん」は下品であるとされた。元々書き表す事が出来ない音だった為、捨て置く事が定説だったのだろう。
「ん」が庶民に広がるのはもっと後で、リズムを取る為に発せられるけれど表記はされない音として存在していた。江戸時代には「ふどし」と書いてあっても「ふんどし」と声に出すように、「書かずにおいて、読む人の判断で『ん』を入れて」読んでいたのである。

現代でこそ自然に発せられ、そして表記される「ん」及び「ン」であるが、音を表記する為に現れるまでは相当な時間を要した不思議な仮名である事がわかった。
しかもはっきりとした出現時期はやはり曖昧で、「ん」は濁音であり穢れであるとか、散々な扱いを受けているような気さえしてくる。
しかし「ん」と言う文字が現代から消えてしまったら、私たちは混乱するしか無い。どう読んだら良いのかわからなくなってしまうだろう。
ともすれば、この「ん」と言う文字及び音は、画期的だったからこそ、特殊で不思議な文字として生まれ、ひっそりと存在し続けているのではないだろうか。
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