ありがとうございました。 

November 08 [Tue], 2005, 2:39
第十四話を持ちまして「フラグメント」は完結とさせていただきます。

かなり間隔が空いてしまい、多少辻褄が合わない点が見られますが、ご了承くださいませ。

何度も書きますが、フィクションを混ぜた話なので、軽い気持ちで読んでいただければ幸いです。

なお、このブログは2005年12月31日を持って閉鎖させていただきます。

長い間ありがとうございました。

                 作者 小山田織音 2005.11.8

第十四話 

November 08 [Tue], 2005, 0:00
 夕方5時、いつものようにClover fieldに行くと富樫先生が事務所の奥のデスクに座って書類の整理か何かをしていた。

「おう!ジキ。ちょっと待ってな。先にスタジオに行って声だししといてくれ。あとで俺もそっちに行く。」

 部屋の中は特に音楽が流れているというわけでもなく、誰も居ない放課後の教室みたいに静かだった。デスクの脇のパソコンのモニターにどこかのバンドの静止画像が映っていたのが見えたが、それが誰だったのか聞くに至らずスタジオへ移動した。

 もうかれこれ半年になる。富樫先生に会うのもここと関わるようになるのも。だけど僕は先生に失礼のない振舞いを心がけるあまり、緊張しすぎる自分に不甲斐なさを感じて息が止まりそうになる。対人恐怖症とか人ごみが嫌いとか、そういうのはないのだ。中途半端な教養を身に付けた自分の最大限の気遣いが、偉大な人の前でやっと普通のレベルで話ができる気がして仕方がないのだ。

 ギターのチューニングを済ませ、15分くらい自分の歌を歌ったところだろうか。「ごめんごめん、遅くなった。」と言ってスタジオの中に入ってきた。ステージングの指導が始まると、富樫先生は着ていたスーツの上着を脱いで「こうやったほうがかっこよく見えるだろ?」と、僕のギターを持って弾いて見せてくれた。その後はメトロノームでリズムの取り方の練習やステージのあり方について語り合った。

「ジキ、晩飯食べたか?おごるよ。」

 僕は少しびっくりした。

第十四話の続き 

November 07 [Mon], 2005, 0:33
 僕は少しびっくりした。というより少したじろいだと言った方が近いかもしれない。粗相のないようにしなくては、などとくだらない身構えをしてしまった。

「何が食べたい?」

「あ、な、何でもいいです!」

敢えて選択肢を相手に選んでもらうという、譲る手。

「あそこの定食屋でいい?結構好きなんだ個人経営の定食屋。営業のやつともたまに行くんだよ。」

「本当ですか!?行ってみたいです!」

賛同し、喜ぶ手。

「何がいい?肉野菜炒め定食にしようか?足りるかな?冷奴も食べる?」

「野菜食べてないですからねぇ。それにしたいです。冷奴ですかー。どうしよっかなぁ。」

「遠慮するなよ。」

「ではでは、遠慮なくいただきます!」

控えめにしつつ、相手の好意をちゃんと受ける手。

「足りるかな?」

「いや、もう大丈夫です!すいません!」

遠慮の手。

 僕はやはり八方美人なのかなぁと時々思う。相手の気を悪くしないように顔色を伺っては無難に会話をしたりする。それを打破するためにおどけてみたり、何か面白いことを言ってみたりするけど、このときばかりは何のギャグも浮かばなかった。だからまあ、平凡な質問から切り出してみた。

「先生は昔なんのバイトをしていたのですか?」

「飲食店だよ。深夜だったからね。昼と夜が逆だったね。後はティッシュ配りとかかなぁ」

 会話をするのは難しいっていつも思う。特に1対1の場合は。沈黙にならないように何とか持ちこたえて、自分の体験談や時事ネタにうまく自分の考えを織り交ぜなければならない。知識や教養、新しい情報を備えていなければ上級な会話はできない。

第十四話の続きの続き 

November 07 [Mon], 2005, 0:13
「最近はどうなの?」

「最近ですか?まあ、ぼちぼちですかねぇ。いやな出来事がありましたが」

「えー、何があったの?」

「この前ライブをやったときに客席からブーイングをされてしまいまして。」

「なんか下手な演奏でもしたの?」

 そのときのことを簡単に説明しよう。

 9月のとある日、渋谷のライブハウスで歌った時だった。その日もお客さんの数はまばらで暗い雰囲気がちょっとあった。3曲目が終わったあとMC中に「バーカ!」という罵声が聞こえた。驚いて何も言えず発信源を探っていると、奥のほうからおもむろに歩いてくる一人の男が居た。前にも見たことのある気がしたが、思い出す暇もなく。

「何でお前の歌に金を払わんといかんのじゃ!」

 いや、呼んだ覚えはない。むしろ誰だお前はと言いたい。

「なんて生ぬるいんだ!ま、お前だけの話じゃないがね。結局そこに立ってるのも薄っぺらい労力だろ!演劇は違う。本番までに何ヶ月も前から稽古をして身を削るような生活をして、何十万と言うノルマを抱えているんだ。お前はたった数時間の練習でそこに立つのか!千円のチケットを10枚売るのに辛いだとか、客が来ないとか嘆くのか!」

 この人は演劇の人なんだなと推測した。酔っているんだろうか。僕はただ「今日はまったりしていますね」とさっきMCで言っただけだ。ま、こんなに冷静な自分もどうかしているか?

「コメディーより音楽のライブハウスに来いなんて誹謗中傷しやがって!!」

 そのとき彼はステージに上がってきた。と、同時に思い出した。前に四谷のライブハウスで怖い顔つきで話しかけられたやつだった!僕は逃げることもできず立ち尽くした。殺されるのか…。彼の持っていた飲みかけのドリンクが僕の顔面を直撃。ライブハウスのスタッフも走ってきて何とか取り押さえ、その間に僕は楽屋に逃げ込んだ。ライブは中断。数分後に警察が来たが男は逃げてしまった。

 誹謗中傷。そんなつもりはなかった。以前四谷でそんなMCを言った気がする。僕を観にくるみ知らぬ誰かは彼だったんだろう。ビールまみれの顔を洗って、警察の人に状況を説明して、ライブは再開したがとてもいい演奏はできなかった。

第十四話の続きの続きの続き 

November 07 [Mon], 2005, 0:00
「へー、そんなことがあったのかい。それ以後のライブに支障はないかい?」

「ないです。特にステージへ立つことへの恐怖心もないし、やつの言葉を真に受けることもないです。ただ生ぬるいなぁって言うのは否めないのかもしれないですね。だからこそ今まで以上に意識は高まりましたが。MCで言う言葉も少し気をつけようとも思いましたね」

「その男がまた来たらどうするの?」

「また来るってことは逆に捉えれば、僕の音楽を少し気にかけてくれていると思うんですよね。違いますか」

「ただの酔っ払いが?」

「えー、まあいずれにせよ、次に出くわしたときは僕の演奏力で圧倒させてやるつもりです。何も言えなくなるくらいに。」

「来るものは拒まずか。まあ、俺からしてみればまだまだお前は未熟だけどな。」

 定食屋を出た後、軽く挨拶をして僕は家路に向かった。そのとき感じたのは、今まで富樫先生に感じていた緊張感が薄れたような気がした。これからはもっとくだらない話ができると思う。本当の自分、素の自分で。

 僕はこう考えている。すべては踏み出すことから始まる。音楽がどうこうじゃなくて全てのことに関して。今自分の置かれている環境から分からないなりに試したことが現実、一歩下がって見てみると生ぬるいものだったりするのかもしれない。あの男が言っていたように、高々数時間の練習で望む本番、千円のチケットノルマ10枚で嘆くこと。それは違った分野から観たら生ぬるく見えるのかも知れない。でもそれは置かれた環境の違いもある。分からないなりにたどり着いた場所がClover fieldであり、出逢った人が富樫さんであり、あの男である。踏み出さなければきっと何も問題意識がないまま終わってゆくだけなんだ。

                             フラグメント・完

第十三話 

August 29 [Mon], 2005, 23:49
 Clover Field主催イベントに出るのは今回で3度目だ。やっぱりバンドさんと一緒にライブやるのはいつもと違う緊張感がある。江古田マーキーや渋谷多作でライブするときはたいていアーティスト同士みんな一人なので話をしたり、そこから交流が深まることもあるのだが、バンドさんと共演すると、控え室ではそれぞれバンドのメンバー同士で固まっちゃうから僕は一人ぼっちなんだよね。今回は2バンドにコンタクトを取ってみた。

「2番目に出るジキと申します!今日はよろしくお願いします!」

「あ、こちらこそよろしくお願いします。リハ少し見させていただきました。すごくいい声していますね。一人でライブ活動するのはすごいですね。今日はいいライブにしましょう!」

と、返してくれたのは3番目に出るブランコというバンドのボーカルさん。全然オープンじゃん!うーむ、やはり人見知りしていると損するなあ。

「ギター何年弾いてるんですか?アルペジオいいですね。路上とかやってるんですか?」

「路上はやってないです。」

「絶対やったほうがいいよ。今度うちのボーカルと二人で出ようかなんて話しているんだ」

と、返してくれたのは独楽(こま)というバンドのギターさん。やさしい目をしたにいさんだ。

 オープン時間になるとBGMが流れ、パラパラとお客さんも入ってきた。今日の目玉はなんと言ってもClover FieldからCDデビューしている深沢つぐみである。ファンらしき人や友人知人らしき人と深沢さんが話をしている。深沢つぐみは僕の1っこ下で富樫先生のもとで3年近く指導を受けているらしい。

「深沢は毎日5時間は歌の練習をしているんじゃないかなぁ。あいつのがんばりは誰にも負けていないよ。ジキも見習わないとだめだよ。」

 と、富樫先生はいう。深沢つぐみのステージは、Clover Fieldが集めたバックミュージシャンの中でハンドマイクで歌うから、ギターを弾きながら歌う僕のスタイルとは違っても、お客さんに見せるために洗練された歌唱力、ステージングはプロ並みだ。あと、僕と違う点は、彼女は可愛い。いや、変な話じゃなくてね、外見を磨くのもステージに立つ上では必要かなと感じたんだ。服装、髪型、アクセサリー。少し僕も気を配らないといけない部分なのかもしれない。

 

第十三話の続き 

August 29 [Mon], 2005, 12:53
 ライブが終わると、深沢つぐみCDを買っている人がちらほら見受けられた。僕も買ってしまった。歌詞カードを見てみると、作詞作曲が富樫一朗になっている。僕はてっきり女の子っぽい歌詞だから深沢つぐみ自身が作詞したのかと思ったが、先生の作品だったとは。もしかしたらジキの作詞作曲作品も深沢つぐみが歌う日も近い何て思っちゃったりして。

 荷物をまとめて帰ろうと、表に通ずる階段を上ろうとした瞬間、背後からいきなり何者かに肩を捕まれた。ぱっと後ろを振り向くと40歳位のヤンキース野球帽をかぶった男が後ろに立っていた。その男はかなり大柄で腹もでっぱってて、目も見開いた表情をしていた。

「えっと、どなたでしたっけ?」

と、僕が尋ねると、彼は申し訳なさそうにも威嚇しているようにも見える表情で、

「アップストロークが甘いな…」

といって去っていってしまった。ちょっと変わったシチュエーションにダウンタウンのショートコントを彷彿させてしまった。その時は「世の中いろんな人がいるもんだ」としか思わなかった。

んにゃんにゃ 

August 25 [Thu], 2005, 2:23
んーちょっと文章に雑が垣間見られるぞー。いくら趣味の範囲だとは言えだめだなー。がんばれー俺。

第十二話 

August 22 [Mon], 2005, 0:28
 幼少のころはミニ四駆というものにはまっていた気がする。ただ単に流行っていただけなんだな。アニメとかもTVで放映していたし。親にはレーシングコースも買ってもらった覚えがある。そう考えるとずいぶん裕福な家庭に育ったんだな。そこだけ切り取れば。父親はTVゲームとか嫌いなんだ、結局は。スーパーファミコンと元祖ゲームボーイが家にはあったけど、いやな顔をするんだよ、たかが2、3時間やっただけでも。しかもゲームソフトって高いしね。たかがマリオがピーチ姫を助けるために何時間もかけてステージクリアを繰り返し、コインを貯めれば死んでも生き返る1Pup。まさにバブル黄金時代の象徴。そんな時代の中父親はピーチ姫救出劇よりも、プラモデルがスイッチひとつで動くことのほうが意味のあることに感じたのだろう。23になった今、車の免許は取ってない。だからまあ、ミニ四駆レベルなのかなぁ、とか笑ってられていた。ついこの間までは。

 渋谷多作でのライブ、そこでは100前後の観客で溢れていた。理由は共演者の一人が60人以上もお客さんを呼んできたのだ。しかも僕より2歳年が下。彼は東京育ちなので知り合いが多いから、と話していたが、力の差を見せ付けられたのは言うまでもない。僕の出番は彼の前だったので60人+他の共演者のお客さんそのままの人数の前で歌った。緊張、というよりはむしろ悔しさの方が大きかった。あまりにも場違いだ。僕なんか一人しか呼んでないのに。罪悪感に似た何かは掌の汗となってギターの弦に滲んでいった。

 あまりにも大勢の前ではひどい僕の演奏とは裏腹に彼のステージは生きいきとしていた。僕は言うなればミニ四駆を改造して走らせることに必死になっていたけど、彼はスポーツカーに乗って走行方法を色々なギアーで変えながら走っている気がした。格が違う。

第十二話の続き 

August 22 [Mon], 2005, 0:27
 次の日になっても多作で録音してもらった音源を聴く気にはなれなかった。バイトに行く途中楽器屋に寄ってダダリオのカスタムライトが3セットお得用の弦とピックを買ったのだが、ふと彼の機材を思い出した。「確か、ギブソンのギターを使っていたな。シールドも高そうなのをつかっていたな。」なんて独り言を言いながら、彼の使っている弦は何だろうと案じながらレジのところへ行った。僕の使っているギターはアリア ドレッドノートという御茶ノ水で買った3万の安物にフィッシュマンという1番安い1万のピックアップをサウンドホールにつけてライン取り演奏をする。チューナーはメトロノーム機能付で2千5百円。ギターケースは買ったとき付いてきたソフトタイプ。ホントに安物ばかりで惨敗だ。富樫先生は「別にギタリストじゃないんだから、高い機材は必要ないよ。それより歌唱力を磨きなさい」と言ってくれた。でも今回ばかりは先生の言葉にも救われない。

 買い物を済まし、レジ下のショーケースを見るとチューナー関連の機材が並んでいた。60人お客さんを呼んできた彼は二つチューナーを持っていた。その両方とも同じものが目の前に並んでいる。一つは足で踏むエフェクター型でシルバーの正方形。「うーむ、8千円か。」もう一つはヘッドに挟んで振動でチューニングするタイプで5千円。「うーむ、カッコイイ。」音にもこだわれば歌も変わってくるのかなぁ。

 音楽以外で、自分の生活の中にこれだけはこだわって高い買い物をしているぞというものは果たしてあるのだろうか。服にしたって家具にしたって中途半端に安物だな。どっかで身を削るようにして節約をして、こだわりのあるものはしっかり選んで買わないといつか自分は潰れる。中途半端な貧乏性は自分をだめにするだろう。車の免許を取らないのもそのせいかな。欲に溺れて周りが見えなくなるのは嫌いだけど、それを恐れて安全圏に入ろうとする自分もよくない。いっそ全ての機材を買い換えるほどお金に余裕はないが、高いギターを購入することを目的に歌を練習することで今は留めておこう。今はこの悔しさを忘れないことだけ祈りながら。僕の歌はミニ四駆なんかじゃないさ。
2005年11月
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