感想:『イリヤの空、UFOの夏』

July 05 [Thu], 2007, 18:47


『イリヤの空、UFOの夏』 秋山 瑞人

評価
1巻:★★★★☆
2巻:★★★★
3巻:★★★★★
4巻:★★★★★★★★★★


(頑張って詳細ネタバレを避けてみせるぜ!)

【六月二十四日は、全世界的に、UFOの日だ。】

この作品は、新刊を出すと「デストロイの季節はまだですか」と言われることで有名な秋山瑞人のヒット作。
ライトノベル読者の過半数が既読で、約半数がなんらかのトラウマを持ってます。

しかし書き始めてみたはいいけど、どう書けばいいのかさっぱりだ。
読んでる間はいろいろと思うことがあるんだけど、読み終わると空虚感で一杯。
物語の力に負けて、手持ちの言葉が全部蒸発していくって感じか。
感想なんて余計な不純物を作りたくない、ってのが感想なんだけど、それじゃあ記事埋まらないしな。
よし、各地の感想を組み合わせて文にしてしまおう。


【一九四七年から戦争は始まってた。みんな気づいてなかっただけ。】

主人公で中学生の浅羽直之は、入っている新聞部の先輩で熱烈な超常現象マニアという水前寺邦博に引っ張られて山にこもり、裏山に出現するというUFOの観測を行っていた。
休み中を費やしても収穫は一切なく、もちろん宿題なんかひとつもやっていない。
過ぎ行く日々への最後の抵抗として浅羽は夜の学校のプールに忍び込む。
しかし、夜のプールにはスクール水着に身を包み、手首に不思議な金属の球をつけた、なぜか時々鼻血を出す先客がいた。
それが伊里野加奈との出会いだった。

おおまかな人物紹介は、ジュブナイル感溢れるあらすじで代用しときます。
てかあるじゃん便利なものが!
そういうわけでネタバレも薄いようだから、wikiを貼っておきます。→コレ
これで人物名を多用しても問題ないよな?


【わたしたちはみんないらない子なんだ――って、そのとき思った。】

この話では、常に第三者の大人―榎本とか椎名真由美たちの目線から、浅羽と伊里野を温かい目で見守っているという構図が繰り返されています。
何も分かっていない浅羽の視点で話は進んでいくけど、全てを理解している榎本の視線が常に隣にある。
そのおかげで「中二臭い」「独善すぎ」といわれてる同セカイ系作品に憑いて回る薄っぺらさを脱却し、奥行きのある作品世界が成立しています。
また、背景である社会・世界の描写がしっかりとしていて、単なる小道具に終始していない。
その背景にいる登場人物も全員立っていて、一人一人が主役で成立するほど書き込まれている。
これも『最終兵器彼女』や『ほしのこえ』なんかとは正反対で、設定厨の当方の興味を惹くところです。
そしてその社会・世界を前に、結局なにもできない己の小ささを思い知らされることで成長していく、というのがこの物語の本筋だと思います。


【悪役の不在は、正義の味方の不在より千倍も万倍も悲しかった。】

前述の通り、これはどうしようもなく敗北を認めてしまう物語です。
浅羽と伊里野の行動は全て、残酷な動機による『子犬作戦』の掌中でのもの。
全てを滅ぼそうとする浅羽の決意も、死を賭した最期に獲得した伊里野の自由も。
子犬の牙は、誰にも届かなかった。
それでも、他の誰が悪いわけでもない。
他でもない伊里野本人から浅羽は敗北を宣言されているのであり、伊里野の勝利も全く孤独なものだ。

しかし自由を得て空に帰る伊里野は、とてつもなく切なく美しいイメージに溶けていく。
高く遠く澄んだ誰も届かない大空へ、息もつかせない速度で。
「物語の終わり」は、全て夏の空に溶けてしまう。
そしてその溶けてしまった世界を、浅羽は肯定する。
「伊里野の愛した世界」としての世界像を。
エピローグでの行動は、世界を愛そうという浅羽の決意の現れであると同時に、そこに閉じこもらず前に歩いていこうという決別の印を作るというものでもある。
だからこそ、この終わり方を感動的だと感じるんです。


【これが最後だ。この夏を終わらせよう。自分の手で幕を引こう。】

まぁとにかく作者の筆力が尋常じゃないってことです。
構成にしろ伏線にしろ、恐ろしいまでの求心力をもって書かれてるよ。
世界の構造を見せていく語り口なんかは、とてつもなく巧妙。
いろいろなものをぼかしながら少しずつ進んでいき、ふと気が着いたときには奥深くのとんでもない場所まで連れてこられている。
浅羽と伊里野の逃避行、最後の道での伊里野の記憶退行が、全ての始まりに繋がっていく演出なんかも尋常じゃない。
これまでの物語がこのシーンの為に最初から計算されていたんじゃなか、って思わせるシーンを何度も作り出せるような人間は、秋山の他にそう多くはないだろう。
その才能が渾身の技術で書いた作品、それが『イリヤの空、UFOの夏』なんです。



よーし、書けたぞ。
書き上げるのに約5時間かかったってことから、自分にとってそれだけ考えさせられる作品だった、ということが伝わったなら幸い。
あと新規にこれを読もうって人は、先に秋山作品を何冊か読んでおいたほうが良いよ。
いきなりこのシリーズを読んだら、戸惑うこと間違いなし。
『猫の地球儀』読了後の今回がやたら楽しく読めたのも、きっとこの影響。
でもうっかり『E.G.コンバット』なんかに手を出すと、デストロイの季節へ突入するから気をつけろ。
それじゃあここらで投稿だ!
しあわせでした――――――――――――――――――――――――――――っ!!
  • URL:http://yaplog.jp/old_willow/archive/478
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