湖月:07 

2006年10月29日(日) 17時18分
「【浪〜row〜】・・・・ここだ。」
せいなは普段、帰り道に通り過ぎるだけの店の前で立ち止まった。
まるでウッドハウスのようなその喫茶店は、なんだか温かみがあって一度入ってみたいと思っていたのだ。
太い枝をそのまま取り付けたようなドアの把手を押すと、カランコロンとドアの内側についているベルが鳴った。
「いらっしゃいませ。」
カウンターの中の男、店のマスターだろうか。せいなを見るとにっこりと優しそうな笑顔で迎えてくれた。
店内を見回し、誰もいないことを確認すると奥のテーブルに着いた。
「メニューになります。」
カウンターの中から出てきた男がせいなにメニューを渡して、テーブルには氷の入った水を置いた。
「ホットのストレートティーを下さい。あ、あとでもう一人来ますから。」
「かしこまりました。」
男はメニューを受け取るとカウンターに戻った。
せいなは手にスカートのポケットから落し物の携帯を取り出し、じっと見つめる。

(本当に沖田先生にそっくりだった・・・・・似てる人っているんだなぁ・・・)

(もしかして甦り?・・・・ばか、そんな映画みたいなことあるわけない。)

自分の考えのばからしさに思わず噴出す。
すると、またカランコロンとベルが鳴り、ドアの開く音がした。

「遅くなって申し訳ない。」
「あっ、いぇ――――」
その声にせいなが立ち上がって振り向く。
瞬間、2人は絶句し、各々の目を疑った。


「ひ・・・・・・土方・・・・副長・・・・・?」
「・・・・・かみ・・・・谷か・・・・?」

湖月:06 

2006年09月01日(金) 16時28分
「では、私はこれで。」
「本当に有難うございました!」
カゴを元通りに積み上げ終わると、男は笑顔で一つ会釈をすると去っていった。
「・・・本当に沖田先生にそっくりだったな・・・あっそうだ!お肉!!」
セイは本来の目的の為にスーパーに入った。


「せいな?」
「え?あ、山口先輩。」
買い物を終えスーパーの自動ドアを出ると、竹刀袋を肩にかけた一に声をかけられた。
「部活お疲れ様です!」
「あぁ」
一はせいなの持つスーパーの袋に視線を落とした。
「今日は家族みんな遅いから私が作るんです。」
せいなは得意げに腕こぶしを作ってみせる。
ふと、先程倒したカゴのあたりを見ると、黒い携帯が落ちていることに気が付いた。
「あ、れ?」
「どうした?」
一もせいなの視線の先を追った。
「もしかして・・・。」
携帯を拾い上げる。とりあえず外側だけ確認するが持ち主の手がかりは見つからなかった。
(あの人のかな・・・。)

 《ピリリリリ ピリリリリ》

突然外側の小さな画面が光り、着信音が流れた。
すぐ切れないところを見るとどうやら電話のようだ。
「どうしよう・・・?」
「取ってみればいい。知り合いの携帯かもしれないんだろ?」
「う、うん・・・・・・・もしもし?」
携帯を開いてボタンを押し、耳に当てる。

『あっ、と・・・その携帯の持ち主の友人ですが―――』
かかった相手は先程の男とは別の男だった。
それだけ言うと何やら電話の向こうで言い合っている声が聞こえる。
しばらくすると電話に男の声が戻った。

『失礼しました。拾って頂いて有難う御座います。お礼も兼ねて引き取りに伺いたいのですが、今どちらに居られますか?』
「今は携帯の落ちていたスーパーの前にいます。」
せいながそう答えた。
『ではそこは人も多いですし、少し先の【浪〜row〜】という喫茶店でお会いできますか?』
「分かりました。」
そう言うと電話は切れた。
「私、この携帯を持ち主に渡しに行ってきます。」
せいなが一に言うと、一は少し眉を寄せた。
「俺も一緒に行こう。」
「いえ、一人で大丈夫です。先輩は部活でお疲れなんですから早く帰って休んでください。渡したら私もすぐ帰りますから!」
「せいなっ!」

せいなは早口でそう言うと走り出して、あっという間に人込の中に消えてしまった。

湖月:05 

2006年08月31日(木) 16時14分
(あれ?痛くない・・・)
大量のカゴに直撃したはずなのに痛みのない自分の体を不思議に思った。
ゆっくりと瞼を持ち上げてみる。するとワイシャツと思われる物が目に映った。
どうやら自分は誰かに抱きしめられているようだ。
「あ、あの・・・・。」
顔を胸に押し付けられているので顔を見ることが出来ない。
「いたた・・・。」
「!!大丈夫ですか!?」
どうやら自分を庇ってカゴを受けてしまったらしい。せいなは声だけで男と思われる相手の安否を問う。
「あは、大丈夫です。あなたは怪我はありませんか?」
「私は大丈夫で―――」
腕から開放されたせいなは相手を見ようと顔を上げた。
そしてその顔は、

「お、きた・・・せんせい・・・・?」

呆然とした顔で男の顔を見つめる。
男は夢に見た、あの沖田総司の面影に生き写しであった。

「・・・えっと・・・誰かとお間違えではないですか?」
その言葉に我に返ったせいなは慌てて立ち上がった。
「す、すみません!!知り合いに似ていたものですからっ!」
「いえいえ〜。それより周り、大変なことになってますねぇ。」
よっこいしょ、と立ち上がった男は周りを見渡して困ったように笑った。
「うあっ!?大変だぁ〜〜っ!!!」
自分の周りに無数に散らばるカゴを見たせいなは急いで片付け始めた。
男もせいなに従ってカゴを集め始めた。
「あっ!私がやりますからっ!」
「いえ、お手伝いしますよ〜」
せいなは止めるが男はにこにこと笑ってどんどんカゴを集めていく。

カゴを片付けながらせいなは男に何度も視線を向けた。
髪は勿論短いが、少し平目顔な所も仕草や声も総司に瓜二つだったのである。



湖月:04 

2006年08月31日(木) 15時10分
「・・・な・・・いなっ・・・・せいなってば!!」
「はいっ!?!?」
せいなは自分を呼ぶ声と大きな瞳に睨まれてることに気が付くと、思わず裏返った声で返事をしてしまった。

「今うちが言うこと聞いとった?」
「あは、は〜・・・・・・ごめんなさい。」
苦笑いで誤魔化すことも出来ず、項垂れるように頭を下げた。
相手はやれやれというように溜息を吐く。
「あんな、今日うちデートやから一緒に帰られへんねん。」
「あ、そうなんだ。うん、分かった!」
「ほな、うち行くわ。遅なったらまた『まっさちゃぁ〜ん☆』とか言って乗り込んできそうやし。」
「あははっ!原口さん・・・だったっけ?付き合ってる人。」

せいなは以前学校に出現した長身で陽気な男を思い出した。
あの時は文化祭の準備中で、放課後残っていたら突然やってきてあんまり大声で彼女の名前を呼ぶものだから、教育指導の教師に追い払われていた。

「そ。ほんまに、ややこしい人やわ。」
そう言って手を振って教室を出て行く彼女はどこか嬉しそうに見えた。
「いいなぁ〜まさちゃん・・・・さて、私も帰ろうかな!」
せいなも自分の机の横に掛けていた鞄を持つと誰も居なくなった教室を後にした。


「あっ!!お肉が安いっ!!」
帰り道スーパーの前を横切ろうとすると、普段よりも随分安く値段の書かれたチラシが目に入った。
「今日は豚カツにしようかな・・・でもお父さん最近油物摂り過ぎって言われてたしなぁ・・・」
せいなは立ち止まって、看護士で仕事が毎晩遅い母と医者であるにも関わらず、最近太り気味な父のことを考えた。

「よしっ!やっぱり買おう!」
メニューを決め、自動ドアに近づこうとすると、突然中から出てきた男に押し飛ばされた。
「っきゃぁ!!!痛っ!!!」
積みあがっているカゴに思いきり体をぶつけると、ぐらぐらと揺れた大量のカゴが雪崩のように落ち始めた。大きな影がせいなに覆いかぶさってくる。
「わぁぁぁぁっっ!!!!」
「危ないっっ!!!!」
咄嗟に頭を抑え目を閉じると周りは崩れ落ちた音だけがせいなの耳に響いた。

湖月:03 

2006年07月08日(土) 23時28分
「え〜新撰組の副長であった土方歳三はぁ〜頭は切れたが冷徹非道でぇ〜仲間からは嫌われていたぁ〜・・・あ〜らしい。」
カツカツと音を立てて黒板に年表を書き、独特な口調で話す。
せいなはその言葉にノートに書き写し始めていた手を止めた。
「(冷徹・・・非道・・・?)」
記憶の中の土方歳三は確かに頭の回転も速く、常に何手も先を読んでいる人だった。
しかし、彼が仲間に嫌われていたとはどうしても思えない。
何故なら彼の行動には必ず何らかの思いやりがあったからだ。
仲間達もそれを分かっていた。

さらに教師の話は続く。
「局長であった近藤勇はぁ〜最期まで武士であることを認められずぅ〜切腹ではなくぅ〜斬首されたぁ」
癇に障る声はせいなの胸を苛立たせた。
「(聞きたくない・・・。早く終わって・・・!)」
シャーペンを握り締めながら時計の針を見つめる。
授業終了まであと2分だ。

「ぼかぁ〜近藤勇は最期に仲間を見捨てたんだと思うねぇ〜うん〜」
プチッ
頭の中で、何かが切れる音がした。

「嘘ですっ!!!」
気が付くとそう言って立ち上がっていた。
クラスの視線がこちらに集まる。
だがそんなことは気にならなかった。許せなかったのだ。
「ん〜?富谷ぁ〜・・・お前新撰組ファンかぁ〜?」
教師がそう言うと、どっと笑いが起こった。
それと同時にスピーカーから終了の鐘が流れる。
むかむかとした気持ちのまま、日本史の授業は終わった。

湖月:02 

2006年06月30日(金) 22時55分
「せいな」
見ていた本を閉じて、名前を呼ばれた方に顔を向けた。
「あ、山口先輩。」
一がゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
せいなは普段『一』と呼ぶのに学校では『山口先輩』と呼ぶ。
曰く「年上なんだから先輩と呼ぶのは当たり前です!」らしい。
せいならしいというか、律儀なところは今も昔も変わってはいないようだ。
「・・・歴史書か?」
一はせいなの持つ本の表紙を見た。
 
『新撰組』

「あ、はい。えっと、今日本史の授業で江戸時代をやってて、それでちょっと興味があって。」
「そうか。」
しどろもどろに答えたせいなに気付いたのか否か、無表情のまま本から目を逸らした。

せいなの本音は違っていた。
授業で幕末を勉強をしているのは確かだったが、それはただの口実に過ぎない。
知りたかったのだ。自分の死後のことを。
夢の中――記憶の中には自分の死後は映されてはいなかった。
新撰組がその後どうなり、近藤勇が、土方歳三が、沖田総司がどのように生き、死んでいったのか。
一には信じてもらえないと思った。それどころか呆れるだろうと。
誰かに前世新撰組隊士であったなど言われても、作り話だとしか自分だって思えない。
今はもう『富谷せいな』なのだから。

本を元の場所に戻して一を見た。
「先輩、部活は?」
「今から行く。」
紺色の胴着を着て袴を穿いている。
これから竹刀を持ち汗を流すのだろう。
「頑張ってくださいね!」
「あぁ。」
せいながそう言うと一は口の端をを少しあげて優しく微笑んだ。

せいなはこの表情が好きだった。

湖月:01 

2006年06月20日(火) 15時47分
――膨大な過去の記憶を頭に放り込まれた。

――涙が溢れる。

――それは悲しみも、懐かしみもなく、ただ流れ続けるだけだった。


『富谷せいな』17歳になった朝のこと。

「せいな〜?まだ寝てる・・・って、どうしたの!?」
ガチャリとドアが開いて母親が顔を出すと、そこには虚ろな表情で涙を流すせいながいた。
「あぁ・・・おはよ。」
「怖い夢でも見たの?」
母親は机の上に置いてあるティッシュケースを渡した。
「怖い夢?なんで?」
「だってあんた泣いてるじゃない。」
せいなは不思議そうにケースを受け取る。
「あ!本当だ・・・なんでだろう。」
せいなはティッシュを1枚引き抜くと涙をふき取った。
「変な子ねぇ。ま、いいから早く起きなさい。遅刻するよ。」
「うわっ!何で目覚ましなら無かったんだ〜!?」
母親が出て行くとせいなは洗面所へ駆け込んだ。

バタバタと準備をして食事もせずに家を出ると、そこには幼馴染の山口一が立っていた。
「ごめんっ!寝坊した〜!」
「・・・泣いたのか?」
表情の無い顔でせいなの赤くなった目を見て言う。
「え?う、ううん。強く擦り過ぎただけ!さ、行こっ!」
せいなは一の腕を引っ張ると走り出した。


せいなは夢を見ていた。
自分が男として何人もの男達と共に暮らしてる。
そして腰に挿した2本の刀で人を殺す夢。
夢の中で自分は『神谷清三郎』と『富永セイ』という2つの名前だった。
思い出すのは色々な人たちの顔。
美味しい和菓子の味。
一番多かったのは、愛しい人・・・沖田総司の姿だった。
それが自分の前世だったということは、当然だというように思われる。
なぜならあの頃の感じた強い思いが今でも残っていたからだ。

『神谷さん』

あの私を呼ぶ優しい声が心の中に響きだす。

小話開始? 

2006年05月29日(月) 18時06分
念願の連載・・・というか長編物を書こうと思ってます☆
とりあえず今回はテストを兼ねて投稿。

激おそ投稿なので気が向いたら読んでやってくだされ。
おそらく内容は浮気系?(そこまではいかないかな)
ちょっとドロドロしたのに挑戦してみたいので、暗い話になりそう。
そして歳セイかな・・・なんて思っていたり。
P R
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