久しぶりに真幸を書きたい気分になったんですが全然ダメでした……ちょっと違和感があると思います……
全国と新プリで幸村が可哀相で、可哀相って思ってることがまた可哀相で、なんかもうすごくいたたまれなくて誰かに救ってあげてほしかったんですが逆にまた可哀相になってしまった気がします。誰か幸村の支えになってあげてください。
ところで私はほとんど真幸を読まないので同人界の幸村の解釈とかよくわからないんですが、メンタル弱ってる神の子を見たくない方は見ないほうがいいかもしれません。以下は真幸SS。
【水泡】
ふと気がついたら崖の淵に立っていたような、そういう心境になることが何度もある。背中を氷のような空気が駆け上がり、危険を知らせるかのように体毛が背筋を伸ばす。
駆け抜けた日々を後悔するつもりは一切無かったが、時折、重いと思って持ち上げた箱の中身が空っぽだったときのような拍子抜けな気持ちになるのだ。それは堪らなく痛かった。あまりの痛さに呼吸の仕方を忘れてしまうほど痛かった。だがそれに気付かれて誰か他人に慰められるのはもっと痛かった。
あの試合があって、気付かされるものはあったはずなのに、何も変われなかった。悔しさに何度泣いても根本的なものは、何も、変われなかった。
何よりも負けるのが怖かったからだ。いつでも心は崖っぷちだった。その自尊心が無駄なものだと気付かされてもまだ捨てられないでいた。
「なあ真田、変な話だよな」
汗をかいたスポーツドリンクの缶を傾けると、喉を通って腹に落ちる感覚が生々しく伝わる。汗をかいているのは缶だけではなく、幸村も、その前に立ちラケットを握りしめる真田も汗だくだった。
「何も変わってないんだ。負けたという事実が出来ただけで、なんにも変わってない」
「……そうだな。そしてまたこうやってラケットを振っている」
「滑稽だよな。……笑っちゃうよ」
最後まで飲み干そうと天を仰いだが、今度は器官を流れる感覚はわからなかった。幸村が少し離れたごみ箱目掛けて缶を投げると綺麗にその中に収まった。
「……何に苛立っているんだ?」
「何?別に苛立ってなんかないよ?」
笑って真田の方を見たつもりだった。しかし偽りの笑顔はただの引き攣りになって崩れ落ちた。真田の目がじっと幸村の目を刺す。真っ黒の瞳がじりじりと焦がすように見つめていた。
別に苛立っていたわけではない。だが、今は真田のその真摯な視線に苛立ちを感じている。途端に、額や背中に流れる汗や張り付くユニフォームにまで激しい苛立ちを感じはじめた。なんにも知らないような顔をする世界が憎たらしかった。握りしめたラケットだけがこの世界との楔になっているような気がして、思わず手に力を込める。
「俺は……」
テニスをしてて、いいのかな。
その先は言葉にならなかった。何があってもやっぱり変われなくて、一人で泣くことは出来ても誰かに頼ることは出来なかった。
言葉を失った幸村に、真田は静かに問い掛けた。
「テニスが好きか?」
「……当然だ」
「なら、何も気にすることはない」
そう言い切った真田の声に淀みは無かった。渦巻いた感情をせき止めるように幸村の心臓の中に落ちていった。
「なんで」
「勝つことに執着するのは悪いことじゃない。テニスが好きならそれで良い。……だから、お前がやってきたことは間違いではないし、過ちでもない。だがテニスを楽しめないほどに勝利に固執する必要はもうない。これから………また、これから、一から楽しめば良い……一緒に」
まるで、底の見えないような崖から落ちてしまったかのようだった。暑さにやられた頭に雷が打たれたかのようでもあった。頭の中が真っ白になって、目が見えなくなって、息ができなくなった。そして立っていられなくなったのはきっと、ラケットが楔じゃなくなってしまったからだ。
頭に何かが触れた。真田の手だった。前が見えるようになったのはきっと、真田が楔になってくれたからだ。
「やりたいことをしたら良い。テニスがしたいなら続ければいい。苦しいなら……泣いてもいいんだぞ、幸村」
その言葉でようやく、目が見えないのが涙のせいだと気がついた。焼け付いた喉からは上手く息が出来なくて、思わず真田の襟元につかみ掛かってしまった。真田の手がその上に被さり、指をひとつひとつ解いていく。支えるものがなくなった体は真田の中に倒れ込んだ。頭を撫でる手が酷く優しくて、まるで何年分もまとめたかのような涙が出た。
崖の上にいた。落ちるのは怖かったが、後に戻るのも、振り返るのも怖かった。だがいざ振り向いて見ればなんということはない、そこには腰に巻いたロープの先を持ってくれている人達がいたのだ。待っててくれる人がいるから振り返るのも怖くない、戻るのも怖くない。ロープがあるから落ちるのも怖くないのだ。
いつかテニスを心の底から楽しんでやってみたい。でも今はまだ変わるのが怖いのだ。それを真田は、それでいいと言ってくれた。それでよかった。救われた気がした。
「テニス、いつか、勝ち負け関係なく楽しんでみたい」
「ああ、いつか」
だから今はこのままで。時が来たらきっと歩きだすのだから。