『山梔』のあらすじ

2009年06月11日(木) 2時42分
ではその『山梔』という小説は、一体どんな話なのでしょう。
本当は実際に読むほうがいいに決まっているのですが、ここでの説明を楽にするために、高原英理氏の『少女領域』という本の中にそれをよくまとめている文章があるので、こちらを参考にしてさらに簡略化してまとめてみたいと思います。


話は主人公・由布 阿字子(あじこ)の幼時の一場面から始まる。
山梔の花の下にいた阿字子のもとに、いつも本ばかり読んでいて子供達から『魔法使い』と呼ばれている寺の住職の娘(名は調(しらべ)という)がきて阿字子に話しかける。
娘は「あなたの家は学者の家だからよい本がたくさんある」と言い、それらを読むことを勧める。
阿字子は本を読むことを渇望するようになり、家人に隠れ土蔵の二階にこもって読みふけるような少女に成長する。

しかし祖父は学者であったが、その息子である父は軍人であり、家人に対しては常に暴君のようにふるまう人だったので、子供たちはただ父に打たれないようにすることだけを考えて過ごすような習慣ができていた。
由布家は一男三女。阿字子は次女で、姉の名は緑、妹は空(くう)という。
とりわけ長男・輝衛が入隊し、将来ある将校となってからは、父は彼にのみ望みをかけ、三人の娘たちを顧みることもなくなったように阿字子は感じている。
そして調との交流は、阿字子の兄、輝衛との縁談が、調の父によって破談にされたことで途絶える。

三女・空は、体が弱くて素直な娘であり、阿字子はこの汚れない妹の幸せのためになら喜んで自らを犠牲にしようといつも思っている。

一方阿字子は世の常識に染まない意志的な娘に成長し、周囲との齟齬がたえない。
女学校では、非常に活発で理髪、生徒らからは注目を浴び人気が高いが、教師達の多くはその奔放さをにがにがしく思っており、不興を買う。
が、時を経るうちに同級の首席宮の少女らの何人かも、阿字子への羨望と嫉妬から憎悪を向けるようになる。
阿字子に憧れる同級生は多くいたものの、それゆえに、阿字子が誰かと親しくしようとするたびに他の娘たちがそれを邪魔し、結局本当の親しい相手を得ることができない。
そのうち阿字子は級で「すたれ者」と言われるようになる。

姉・緑は、輝衛の同僚、鶴見と結婚することになった。
鶴見は阿字子にとってもその人柄のよさを認めることのできる人物であった。

兄・輝衛は、阿字子の従姉妹にあたる京子と結婚。
最初この結婚に、阿字子の父は反対していた。
そのため京子は父をはなはだしく誹謗し、礼儀を欠いた言い方で恥ずかしめたが、輝衛ばかりか母までもがそれに同調するのを見て、阿字子はあまりにもその公正さを欠くそのありように怒り、父の側にたってその結婚に反対する。
結局は父が折れ、結婚が認められたが、この出来事によって、京子はもちろんのこと、輝衛でさえも、以前のような親しさをもって接しあうことができなくなってしまう。

意志が強く誇り高く、世上の発想の凡庸さになじまない阿字子を、京子は、自分と相容れない存在と感じ、阿字子のいるかぎり自分の安寧はないと思うせいか、今度は家族から阿字子を孤立させようと陰口を吹き込むことが増えていく。

京子は「本を読み学識を得ると阿字子のような恐ろしい娘になってしまう」という理由で、母、父、夫に働きかけ、その結果空は高等女学校への進学を認められず、裁縫学校に行かされることになる。
その事情を空から聞かされた阿字子は怒りと孤独感、空への罪悪感から自暴自棄のまま一夜外を歩き回り、その結果、長く寝込まざるをえなくなる。

空の進学を兄たちが許さず、その決定が母、姉、自分にはできないと知った阿字子は、父に直談判を試みる。
しかし父からは、兄が家長であり決定権をもつのだから、お前は身の程を知れということを激しい怒りとともに言われ、そこで反論しようとしたところへ父が暴力に訴えてかかろうとしたところで阿字子は気を失う。
阿字子はまた病床につく。
阿字子は自分が嫂に憎まれているため、空が被害を被ったのだと思い、自殺を決意するが失敗に終わる。

ようやく病も癒えた頃、京子は阿字子を早く由布家から出してしまいたいという意図からであろう、阿字子とは幼い頃から親しい、これも軍人で輝衛の友人でもある柏木との縁談を勧める。
柏木とはかつて、幼時に海で戯れたことがあり、阿字子は懐かしむが、時を経て再びあった柏木には、かつてのようなうちとけた態度のないことを不服に思う。
そして、それは彼が阿字子のことを女性として意識しているからなのだと緑に諭される。
けれども阿字子は、柏木を嫌う気はないが、決定的に惹かれあう恋愛の相手とは感じない。
阿字子にとって、運命的恋愛こそ何より優先される決定であり、恋愛に沿わない結婚を認めたくない。
さらに本当のところは、女を家に隷属させてしまう結婚を厭うとともに、その根拠となる恋愛をも阿字子は警戒していた。

あるとき、阿字子は、父によってさんざん苦労してきた母が、「女が、ほんとに、ちゃんと食べていけさいすれば、結婚なんぞするものではありませんね」と言うのを聞いて心から同感と思う。
一方柏木は、かつての可憐で汚れない阿字子の記憶を、それまでの自分の支えとしてきた、と、阿字子に告げる。
しかも、彼は満州の守備についていた頃、当地で一人の女性と関係したが、それは決して心から愛したものではなく、結局自己を堕落させてしまったのだとも言い、しかしその地獄から天使的な阿字子の記憶だけが自分を救ってくれたのだとして、阿字子に結婚を申し込む。
阿字子は結婚に対して本当の幸福を見出すことができず、さらには今の柏木に恋愛感情を抱くこともないので、結婚を拒否。
柏木は失意のうちに去る。

この件から、京子は阿字子に侮辱されたと怒り、二人の関係はいよいよ険悪になっていく。
あしざまにののしる京子に、阿字子は激しい怒りと軽蔑を感じつつ、誇り高さと内省癖から答えることもできない。
阿字子は由布家を出て鶴見家の養子になろうし、鶴見からも同意を得る。
が、それを察知した京子は、輝衛に、阿字子が母を侮辱したと告げたらしい。
兄は激昂して阿字子を責め、父は阿字子にうってかかる。
このような経緯から、阿字子が鶴見家に入る話は厳禁となった。
阿字子はついにどこにも居場所をなくし、家を出ると、何かに追われるように駆け出していった。
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