『プラネタリウム』 

2006年07月20日(木) 22時50分
ゆっくりと、スコープから夜が流れていく――。
そっと瞼を重ねるように。
囁きも光も閉じ込めて。闇が静かに空気を染めていく。
スクリーンに映し出される宝石達に伴って、意識まで遠いところに連れていかれそうになる。
人口の空の上では夜の粒子が星を磨き、細い月の切っ先が闇に刺さっていた。

『北斗七星の柄杓の先にあたるα星とβ星を結ぶ線をα星側に5倍ほどのばした先に、 白っぽい2等星の北極星があります。 この星は特に明るい星ではありませんが――』

スピーカーから届く古くさい説明に合わせ、宝石の海の中でも一際大きなモノ同士が線を結ぶ。お馴染みの口頭については耳から耳に流れるに任せ、僕は深くシートに腰掛け直す。スプリングが僅かに軋み、僅かに室内の冷気が肌を撫でた。
誰の気配も視線も感じずに、それでいて安らかにヒトリになれるこの空間が、僕は好きだった。日曜だと言うのに席はガラガラで、プログラムも同じものばかり。そんな小さなプラネタリウム。そこが僕の居場所。
それと、ここに来るもうひとつの理由――

「……今日は高校、ないの?」

ひとつ空席を挟んだ横の席から、落ち着いた女性の声。おそらく目線は闇夜のまま。僕もそれに倣って、目線を泳がせたまま返答する。

「休みました。自主的に」

「…そう」

笑うでもなく、呆れるでもなく、彼女はそれだけ言った。

『北極星は、一晩中真北の空にあって方角を知るのに便利ですが――』

彼女と出会ったのはまだ僕が小学生の頃。初めて話しかけたのは中学の終わり。最低月に一度はこのプラネタリウムで顔を合わせるようになり、少しずつ話すようになっていった。

『ここは静かな機械都市』 

2006年05月30日(火) 22時32分
ここは全てが歯車で動く機械都市。
朱の夕陽も、薄く伸びた雲も、風に揺れる草木も、息づく命さえも全て。
長年に渡る戦争と資源搾取の果てに人が行き着いた世界。
人口の99%がサイボーグの都市。
カタカタと車輪の回る音がいつも聞こえる都市。
争いも娯楽も無く、一定の調和が保たれ、サイボーグの脳も機械に管理されたセピア色の都市。その静かなその中に突如、慌ただしい二つの足音と大声。

「こんなトコもーたくさんだっつの!」
若い男の吐き捨てるような怒声。だが表情は喜々としていた。

「サイボーグ共のクソクラエ! ディー、逃げッぞ!」

声の主は「ド」がつくほどに派手な青年だった。

『命のsign』 

2006年05月30日(火) 22時29分
初めて出会った頃を思い出すよ
小さな体 小さな勇気を右ポケットに詰めて
背中に揺られ 大きなぬくもりの隣 ずっと夢見てた
世界はどこまでも どこまでも 優しかった

あれから星が周り 時計の針が巡り 夢は醒める

頂は雲に隠れ 風の冷たさを知り 道の真ん中には深い水溜まり

夢の代わりに見るべきもの
それを探して 君は旅立つ
擦りきれた右のポケット 希望と憧れ 少しの恐れ 詰め込んで

時には立ち止まり 傷つくとしても

旅立つ人よ 忘れないで
何度季節が巡っても 何度星が昇っても
僕らの場所は 僕らの中にある

旅立つ人よ 引き返さないで
何度見失っても 何度涙を流しても
命のsignはその手にある
笑顔はいつも側にある

僕は見守るしかできないから
せめて行く先を照らしてあげよう
僕は変わらない
いつまでも 何が起きても 君を信じてる

弱くても 微かでも
歌うように 微笑むように
この坂道を登り続けよう

いつまでも どこまでも
迷いながらでもいいから
歩いていこう 永遠に

旅立つ人よ 未だ旅は途中
破れた右のポケット 手の平には新たな命のぬくもり
固く 強く 結んで 離さぬよう ずっと ずっと

『一発芸ニャ!』 

2006年05月22日(月) 22時31分

あいーん!

『エンドロールは鮮やかに』 

2006年05月10日(水) 20時39分
たかが子供の恋愛。されど、一途な恋心。
彼女は彼に恋文をしたためる。口に出してはなかなか言えなかったことを言葉に宿して、想いを織り交ぜるように文字を紡いでいく。

『いつもあなたを見ています。あなたの事を想うと夜も眠れません』

数学Uの授業中、持ち込んでいたタウン情雑誌のとあるページを破り、空白に赤いペンでそう書き留める。報われなくともよい。ただ、気持ちを知って欲しい。二年間一途に想い続けていたこの恋を、大切にしたい。
彼女はそれを優しく丸め、目を閉じて願いを込める。教師の目を見計らい、隣の席で勉学に励む彼へと手渡した。
彼はそんな思いの丈が書かれているとは露ほどにも思わず、丸められたページを読みほどく。
ただし、彼女が書いたページとは逆を。
そこには大きな字でこう書かれていた。

『便秘に悩む生活とはオサラバ! 爽やかな朝、快便モリモリ!』

『G.W』 

2006年05月08日(月) 0時50分
置いてきた想い出がある。どこに忘れてきたかも分からない、いつ失くしたのかも。

テレビの電源を切り、転ばないように慎重に体を起こし、固くなった指先を見つめる。そのまま自分の頬を撫でる。ひどく、乾いているような気がした。
「ただいま」
玄関の引き戸が開く音、僅かに遅れて気怠げな息子の声。そして鍵の閉まる音が寝静まった家の中に残響する。
「おかえり」
それが届くかは分からないが、私は呟いた。思い描いていたよりも、疲れた酷い声だと思った。

息子は浪人生活を経て大阪の大学に通い、サークルに熱中しすぎて進級が危ぶまれた年もあったが、晴れて卒業を迎え、なんとか三月ぎりぎりに就職に漕ぎ着けた。それと入れ替わるように私は今年で定年を迎える。これで安心やわぁと妻は言うが、私の心にはいつも不安と僅かばかりの疑問にも似た感情が棲み着いていた。

「おつかれ」
「別に。仕事やし」
「今度のゴールデンウィーク、仕事休みなんやろう? せっかくだから母さんも連れて家族で旅行でも」
「いや、俺いーわ」
息子は携帯をいじりながら、こちらを見ようともせずに答えた。
「大阪の彼女を家に呼ぶつもり。俺の部屋に泊めるから」

秒針の動く音が、いやにはっきりと聞こえた。
そこでは決定的な何かが、遮断されていた。ここの領域には入ってくるなと、その背中が語っていた。私は黙ったまま、息子の部屋の扉をそっと閉めるしかなかった。

ただ、闇雲に働いて。初めての我が子を幸せにするために、時には休みも返上して汗にまみれて。
そしてそれも、もうすぐ終わる。解放される。だが私は、それを拒んでいる自分に気付いていた。怖かったのだ。自分の居場所が無くなってしまうような気がして。
何十年と引き替えに残ったのは、一体何だったのだろう。私は息子に感謝されたいのだろうか? よく分からない。

「初めまして。三日間ですが、よろしくお願いします」
そうして、息子が就職して初めてのゴールデンウィークになり、我が家にやって来たのは礼儀正しい、可愛らしいお嬢さんだった。
「これはこれは、わざわざ遠いところからどうも」
「いーから、部屋行こうぜ」
もてなそうとしたのだが、息子は彼女を私から引き離すように部屋に籠もってしまった。妻は、二人きりにさしたげなさいな、と私の肩を叩いた。頷くしかなさそうだった。

『月と夜桜とメロンパン』 

2006年04月27日(木) 23時43分
とても、静かだった。
誰も居ない、寂れた公園の隅にある鉄柵にもたれていると、所々に浮いた錆を手の平に感じた。
そうやって冷たい人工物を肌で感じる度、かえって目の前に並ぶ桜の樹が息づいて見えた。
街灯がない分、それらは月明かりのみに照らされてほんのりと薄く、まさしく天然の桜色だった。
細々と、だが狂ったように必死に咲き誇り、風が撫でる度、喘ぐようにざわめいていた。
(チューハイでも持ってこれば良かったな……)
と少しばかり後悔しながら、コンビニで買ったメロンパンのパッケージを破く。ほんのりと甘い香りが鼻を擽った。

街、復興。 

2006年04月27日(木) 23時28分
街のおしらせです。こんにちは、にゃんぴです。
卒業やら引っ越しやら仕事始めやら、おまけに新居はネットも繋がってないもんだから長い間更新できませんでした もしも、自惚れてるわけではありませんが、にゃんぴの街更新してないかな〜と覗きに来てくださった方が居たのなら本当にごめんなさいです

にゃんぴの街、本日より復興させていただきます。

仕事柄、2・3日に一回更新できたらいいなあと思っています(できるかなあ
ちなみに仕事は忙しいですが、楽しく充実しています。
これからもにゃんぴの街をよろしくお願いします。気が向きましたら毎日の息抜きがてらにでも気軽に覗いて見てください

『卒業』 

2006年03月23日(木) 13時18分
今から四年ほど前、一人の少年がいました。
根暗で、冷めていて、何も語らず、親と環境に文句を言うだけの少年でした。
心を許せる友人などいない少年でした。
少年はただ逃げ出したくて、にゃんぴの街にやってきました。
開放感はありましたが、やはり少年は一人でした。
怠惰な毎日を過ごしていました。

『2人のトレモロ』 

2006年03月14日(火) 23時23分
「ほらっ、ホワイトデーのぷっ、プレゼント」

僅かに午後の春色を帯びた風が吹き抜ける、図書館の帰り道。
思いの外照れくさくて、俺は綺麗に包装された小箱を彼女に押しつけるように手渡した。

「わ」

目を点にして、彼女はそれだけ言った。

「な、なんだよ」

「一ヶ月前はキスだったから今度はカラダ要求されるかと思ってた」

「す、すすすするか!」

声が裏返り、体温が沸騰する。
全く……そーゆーことをさらっと言うからなコイツは……。
そ、そりゃあ、ほんっっっっっっっのちょっぴり想像はしたさ! そ、そーゆー展開もアリなんかなって……

Neko

にゃんぴの街へ     ようこそ。
にゃんぴの街は飛行船の飛ぶ街。 にゃんぴの街は静かなモノクロの街。 小さな街ですが、街の影にはひっそりと息づく、たくさんの「人」がいて、ちっぽけな「夢」があって、それぞれに「物語」があります。 どうぞ、街の「住人たち」と仲良くしてやってください。
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