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October 11 [Sun], 2009, 1:17
ボクの名前は相川千尋。
ボクは嫉妬深い。
ボクの愛する人が他人と話をしているだけで許せない。
ボクの愛する人が他人のそばにいるだけで許せない。
ボクの愛する人が他人の話をするだけで許せない。

いつからボクは、こんなジェラシーの塊みたいな男になってしまったのだろう。
ボクは幼いころ、お世辞にも裕福とは言えない家庭に育った。
父は、毎日工場で働き、母も毎日近所のスーパーで働いていた。
でも、ボクはそんな両親を嫌いではなかった。逆にそんな忙しい中でも、ボクにたくさんの愛情を注いでいてくれていることは幼心にも分かっていた。僕が甘えて近づいていっても面倒くさがらず話を聞いてくれ、食事中にもかかわらず遊び相手になってくれた。
「千尋。パパご飯食べてるんだから、そこどきなさい」と、何度母に言われたことか。しかし、決まって父は「良いじゃないか」と言って、ボクをどかすような事はしなかった。
母も、家事の一切を休むことなくこなし、全てを終了させると、僕のそばにずっといてくれた。ボクは、両親のそばにいることが大好きだった。
まとまった休みが取れた時には、必ず旅行に連れて行ってくれた。ゴールデンウィークにお盆休み、春と秋の行楽シーズンなど、精一杯のことをしてくれた。父も母も、この時のために一所懸命お金を貯めていたんだということは後から知った。
兄弟は三人。ボクは末っ子。普段両親が家にいなくても、兄弟がボクを可愛がってくれていた。テレビゲームやキャッチボールをしたり、宿題を教えてもらったりした。お菓子の箱やダンボールを使ってロボットを作ってもらったこともあった。
ボクは、ずっと家族に愛されて生きてきた。
だからなのだろうか。僕は疑ったことが無かった。ボクというものは、人に愛されるものだと思っていた。人は、ボクという人間以外には見向きもせず、唯一心にボクを愛してくれるものだと思っていた。

そうして、二十ニ年の人生を生きてきた。
千尋は、現在、同期入社の持田あずさと付き合っている。
千尋は、去年、工業系の専門学校を卒業後、地元長野にある精密機械の総合会社に入社した。あずさは、大卒なので千尋より二歳年上。すらっとしたスタイルといつも絶やさない笑顔が魅力的な女性だ。人当たりのいい性格から誰からも好かれ、あずさもまた、分け隔てなく誰とでも波長を合わせることが出来る。そんなあずさだから、アイドルのように人気がある。
入社時のレクリエーションで、千尋とあずさが同じグループに振り分けられ、そこで始めてお互いを知った。当時の千尋は、今まで見たことがない爽明な笑顔にドキドキしてしまい、うまく口が回らず、顔を赤らめながらあずさと話をしていた。一方、あずさは、不安だらけの新入社員たちをうまくまとめあげ、リーダー的な存在になっていた。その正反対な様子を見ていた周りの女子社員から、千尋はよく冷やかされたりした。
一週間のレクリエーション期間が終わり、次第に落ち着いてきた千尋は、他の誰よりもあずさと仲良くなっていった。
それから一ヵ月後、研修期間も終わり正式に配属が決まった。千尋は設計部に、あずさは生産管理部に配属された。
研修期間中は、グループ毎に各部署での研修を行っていたので、二人は一緒にいる機会が多かったが、正式配属されてからは、それぞれの職場で慣れない仕事を覚えるのに精一杯で、次第に二人の接点は無くなっていった。
千尋は、配属から一ヶ月も経たないうちに、精密機械の設計という細かい仕事に早くも参っていた。 
数字ばかりの図面に、まったく興味の無い機械。嫌味な上司や厳しい先輩に囲まれ、同期が同じ部署に一人もいないという悪環境。
そんな味気なくつまらない生活を続けていたある日、自宅に帰った千尋の携帯に、あずさから電話がはいった。
あずさも千尋と同じく、慣れない環境に悩んでいた。そんな時、いつも気持ちを優しく和ませてくれた千尋のことを思い出し電話した。それからというもの二人は毎晩のように、お互いの仕事の悩みを打ち明け合うようになっていた。時には、朝まで話をする日もあった。話の内容は、最初こそ仕事の愚痴ばかりだったが、何度も話をしているうちに趣味の話だったり家族の話だったり、自分の過去だったりと変化を見せていった。 
そして、電話でお互いを知り尽くしていった二人が付き合うことは、ごく自然で当たり前のことだった。
P R
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