スケープゴート 1

2007年12月14日(金) 16時51分
史実要素、捏造注意


































ああ、情けない。
ほんと俺、いま超情けない。どうしよ、ちょ、やべ、どうしよう。

とりあえず近くにベンチがあったから腰掛けた。そんで、さあここからが問題だ。足を組んだり踏ん反り返る余裕なんかなかったから自分の胸倉つかんで体を縮こめた。
ヒュッて空気が肺に入る変な音がする。するとすぐに今度はヒューッて、ぬるい風が喉から外へ出ていった。うっすら浮き出た喉仏がわななく。あ、やべ、まただ。ちょ、っと待っ

まさにその瞬間、道路越しに袋を抱いたチャイナが見えた。なにあれ、焼き芋?あーそういや最近食ってねえな。場違いなことを考えながら、俺は虚に浮かぶチャイナを噛み付くように見つめた。
(ああ、情けねえ)
どうせなら屯所に戻ってしまおうか、巡回中だけど。
(サボりって訳でもないんだものな)
何故だか一瞬己の行いを呪った。小柄なくせにやたら丈夫だった自分が妬ましくなった。
ふと、頭の中で近藤さんに相談しようかなどという阿呆な考えが浮かんだ。土方さんでも、山崎でも、うん、もうこの際誰でもいいや、とにかく誰かに自身のことを打ち明けたくなった。

(ど阿呆め)
考え直しだ。そんなことをしたら俺は二度と走れなくなる。折角取り戻した刀を一生奮えなくなるのだ。駄目だ、よかった、考えるだけでよかった。

だめ、もう無理。帰ろう、うん、帰って寝よう。よたよたと立ち上がった。と、視界の隅にいたチャイナは既に消えていた。あーあ、とか掠れた声が出てしまったのは秘密。情けない。どうせならもっと盛大に咳込みゃよかったなあ。とか。情けない面見られずによかった。とか、矛盾した気持ちが余計胸を締め付けたのも秘密。

屯所の門を潜って早速、巡回から早々と引き返してきた俺を見つけた奴が居た。お疲れ様です。って、別に疲れてなんかねえよ。あ、やっぱ疲れてるかも。ん、もうどっちでもいいや、早く寝転がりたい。
安っぽいラケットを握り締めて邪気無く話し掛ける山崎。素気なくはぐらかして側を通り過ぎた。二歩。三歩。あ、やべ、まただ、やめてくれ、こんなところでああああ無理、限界。

思わずしゃがみ込んだ。苦しい、やべ、シャレにならねえ、額に青筋が立ってるのが何となく分かった。口に手を当てても、どうしよう、止まらないんだけど、ごほっ、ああ。とまらねえ、これやばいな。もう咳込みすぎて苦しいどころか吐き気がした。

背後で隊長、と遠慮がちな声がする。ああ、山崎か。顔は見えないけれど心配でもしてるのだろうか、うわあ、俺心配されてるんだ、情けねえ。
だから目尻に涙を浮かべて一言言った。大丈夫、大丈夫でさあ。全然大丈夫じゃないのに大丈夫って言った。うん、言ったつもりだった。だけどむせまくってたから通じたかは定かじゃないんだけど。
そのうちじわりと滲んだ涙がどばどばと頬を伝った。目を開けてられなくなった。ごほごほ、ああ、これまずいな。

フッと背後の気配が消えた。あれ、山崎?己の咳の向こうで砂利を蹴る音がした。そうか、誰か呼びに行くのか。よせよ、こんな情けねえサマ土方さんや近藤さんには見せられねえ。ごほごほ。爪先立ちが辛くなって膝をついた。つもりだったのに、どしゃって音と同時に俺は崩れた。気がつけば身をよじって咳込んでいた。地べたに縋り付くように悶えていた。

(苦しい、苦しい苦しいくるしい、助けて)

もう情けねえだなんて言ってられなかった。咳込みすぎて喉はガラガラになっていた。声が出せない。
(た、すけて)
叫んだつもりだったのにそれは音にすらならず、ひんやりとした空気に溶けて消えた。



























つづきます
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