神無月の宴事、その真意を知る勿れ 

December 14 [Thu], 2006, 14:21
「人間を神とするなど・・・・!」
 青龍が目を剣呑に煌めかせた。侮蔑を含んだ口調で吐き捨てる。誇り高い彼からすれば、神と人間が同列に扱われるのが気にくわないのだろう。
 対照的な瞳を持つ勝先が、鼻で笑って呟いた。
「ふん・・・その人間の元に下った神がよくもまぁ偉そうに」
「何だと・・・!?」
 それははっきりと青龍の耳に届いた。青龍はいきり立ち、その気で纏う布が翻る。紅玉の瞳を冷たく光らせる勝先はそんな青龍を一瞥して、フッと口元に冷笑を浮かべた。
「神将とはいえ、まぁ所詮は、神の末席」


 神となった人間の、足元にも及ぶまい。


「貴様ッ・・・・!!!」
「やめなさい!」
 はっきりとした、強い大神の制止。立ち上がった青龍も挑発した勝先も、その行方を怯えながら見守っていた神将も月将も、その声に大神の方を見た。
 優しい目に光るのは強い力だ。
「勝先、私が招いた客人に無礼は許しません。下がりなさい」
「・・・・・・ッ」
 毅然と言い放たれ、勝先は頬に朱を上らせた。グッと睨み付けるように大神を見た後、衣を翻して足早に去る。
 足音が遠のいたのを確認してから大神は嘆息して、悲しげに目を伏せた。
「申し訳ありません。招いておきながらこの体たらく。誠に恥ずかしい」
「勝先は悪い者ではないのですが・・・・・・まったくしょうがない」
 小吉も困ったように顔をしかめ勝先が去っていった方向を見る。もう一人も無表情なその瞳にチラリと、呆れた色を見せた。
「何故か神に対抗心を持つ神でしてね、勝先は。元が人間だったのがどうも強い劣等感らしくて。私はそんなことどうでもいいと思うのに」
 優しい主神は心痛に顔を歪ませた。額のところで両手を組んで、頭を抱え込むようにする。
「まったく・・・・せっかく一年に一度だから、楽しい宴にしようと思っていたのに。これでは台無しだ」
「いえ、大神。お気になさらず。こちらにも非はあります」
 天空がそう言うと、青龍の鋭い視線が飛んだ。だが気圧されて悔しげに唇を噛む。

神無月の宴事、その真意を知る勿れ 

November 26 [Sun], 2006, 13:58
「・・・・・・こんなところにおられましたか、大国主神」
「我らが苦労して怒り狂い邸を一つ破壊した奥方様を宥めている間に、客人と友好を温めておいでとは」
「私たちのことも少しは慮って頂きたく」
「お、お前達・・・・・・」
 暗がりから現れたのは、地味な身なりの『人間』だった。
 大神はその三人のほうをゆっくりと振り返るとかすかに震え出す。高座を回り込んでやって来て正面に立った三人は、えもいわれぬ恐ろしい眼光で大神を差した。
「あなたはっ・・・・!!あなたという方はっ!!」
 麻の素材の服を纏い、旋毛あたりで髪を結った一人が大神に詰め寄る。年は三十終わりか、中頃か。とにかくそれぐらいで働き盛りだという印象を受けた。
 大神は怯えながら、もはや何度目になるかわからない謝罪の言葉を口にする。
「ごめんなさいごめんなさい!奥さんから逃げてたらぶつかっちゃって、それで・・・っ!」
「それで後始末は我らに任せたのですか?」
「情けない・・・!そんなのだから奥方様の尻に敷かれるのですよ!」
「ひ、ひどい!!本当のことだけどひどいですよっ!勝先のバカっ!」
 勝先、と呼ばれた人間はぴくりと眉尻をつり上げて、ふんぞり返って腕を組んだ。
 結ってある長い髪の毛は赤い。主神を見下ろすその目も同じく、紅玉のように光っている。
 その容貌に粗末な服装は、あまりに不似合いに思われた。
「バカ?よりによってバカ?ほう、私をバカと仰いますか大国主神サマ。わ・ざ・わ・ざ!奥方様を宥め!機嫌を取り!その怒りを沈静化させた私をバカと!!」
 その横にいた頭一つ分背の低い人間が、怒っているというよりは呆れているといった顔つきで大神を見て、漸うして口を開いた。
「大神、我らは便利屋でも縁結びでも何でもないのですよ。少しはお考え下さい」
「小吉までそんなことを言うのですか・・・・?」
 剣幕に押され涙ぐみ、グス、と鼻をすすった大神は小吉と呼んだ人間を上目遣いに見上げる。それに小吉は存外はっきりと、
「ええ。私とて勝先と心は同じですから。我らは十二月将、大神のお守りではありません」
「十二月将?」
 聞き慣れない単語に太陰が自然と繰り返した。皆も怪訝そうな顔つきで三人を眺め、その視線に勝先は不愉快と眉をひそめ小吉はにこりと笑う。最後の一人は無表情に見返した。
 大神が双方を交互に見て、軽く首をかしげる。
「月将を知らないのですか、もしかして」
「・・・・今まで呼ばれなかったもので」
「う・・・申し訳ありませんでした」
 棘のある言葉にシュンとして、そんな大神を月将は見ていられないと顔をそらした。自分たちを見上げる神将達の方に向き直って膝を折り、軽く会釈する。
 勝先は直立したままだったが。
 小吉が優しい微笑みを浮かべて口を開いた。
「初にお目にかかります、十二天将。我らは十二月将。以後どうぞよしなに」
「天将?」
「我らは神将だぞ」
 玄武がいささか気分を害したように言葉を発した。無表情でいた月将がそちらを向いて説明する。
「あなた方は人の思いが形作られたもの。そして北極星を中心とする星や方角を神格化したもの。私たちは元は人間で、死後神となりました。そしてあなた達と同様に太陽と月との会合点を神格化したものでもあります」
「元は、人間?」
「ええ」
 今度は小吉が答えた。服の端を摘んで引っ張る。
「この服を見ればおわかりでしょう?麻の服です。人間の農民が着る服です。これが何よりの証拠ですよ。ああ、それと月将と天将という呼び方ですが、ただ違いを明確にするためにそう呼んでいるだけです。天将という呼び方がお嫌いなら神将とお呼びしましょう」

神無月の宴事、その真意を知る勿れ 

November 25 [Sat], 2006, 12:19
「ん?」
「・・・・そんなつまらない理由で俺は・・・・俺は昌浩から引き離されたのか・・・・・!?」
 地底から響くような声音に、大神がザッと後ずさった。神将もほとんどがそれにならう。掲げられた右手には炎蛇が巻き付いてあぎとをクワッと開き、あるはずのない眼光を煌めかせる。
 炎が作る影から紅蓮の絶対零度の笑みが覗いた。
「いくら大神とはいえ、容赦しない」
「イヤァァァァ!!お、奥さん!奥さーん助けてーー!!」
 大神はまたもや半泣きで妻を呼ぶ。集まっていた神達がその光景を見て一瞬固まったが、しかしすぐに何も見なかったと顔をそらしてまた酒を酌み交わし始める。
 やはり自分たちの頂点に立つ神がこんな情けない神だとは認めたくないのだろう。
 泰然としていた天空がやれやれと嘆息し、杖で地面を数回叩いて紅蓮の注意を引くと、閉じられている目を向けて窘めた。
「いい加減にせんか、大人げない。たかだか三日の辛抱。それぐらい我らにとっては瞬き一瞬の時間であるのに」
「その間に昌浩に何かあったらどうしてくれる」
「何もありゃあせん。それとも何か。お前はあの子をそんなに信用できんのか」
「う・・・・・」
 言葉に詰まって目線を下げた紅蓮に天空はたたみかける。
「お前が信用しなければ、あの子もお前を信用しまい」
「・・・・・・」
 一拍おいて、絡まっていた炎蛇がスゥッと消えた。それと同時に殺気も消沈する。
 ホッと天空は胸をなで下ろし、他の神将も目尻を和らげる。だが一番安堵していたのは他でもない、大神だ。
「うっうっうっ、怖かった・・・・・」
 すごすごとむせび泣きながら高座に戻ってきた大神を見ると、しっかりしろよと言いたくなる。丸まりがちな背を叩いて背筋を伸ばさせ、しまりのない顔を軽くはたいて目を覚まさせたくなる。
(もう、本当にイライラしてくるわねっ!)
 紅蓮に気圧されて青くなり白虎にしがみついていた太陰だが、収まると元の元気を取り戻しキュッと柳眉をつり上げた。しかしいつものように即実行ということはさすがにせずに、じっと我慢する。
 大神は正座し直すと、ふにゃりと相好を崩した。
「助かりました大老。あなたのような人が側にいてくれたら、私は奥さんにあんなに怯えずにすむのですが」
「それはあなたがしっかりとなさればよろしいだけ。わしのような爺がいても、おそらく邪魔なだけでしょう」
「そんな」
 目を一本にして微笑んだ大神は、ふいにその笑顔のまま硬直した。
「?」
「あ・・・・・」
 笑った口から恐怖に引き連れた声が漏れる。神将達が何だろうと思っていると、大神の背後でゆらりと揺れる黒い影を認め、一斉に身構える。
 影は三つ。右側の影が最初に口を開いた。

神無月の宴事、その真意を知る勿れ 

November 23 [Thu], 2006, 15:09
 それは、大神は、高座に座って照れたように頭を掻いた。
「いやぁどうも、情けないところをお見せしまして。改めまして、大国主神です」
「はぁ・・・・」

 説得力がない。

 相貌は一見すると優男だ。色が白く、笑うと目が一本になる。発せられる雰囲気も決して威厳高くなく、春霞の雰囲気にそっくりだ。
 神将達はまじまじと彼を眺めて首をひねる。
 何かが、何かが違うような気がする。
「うちの奥さん怖いんですよねぇ本当に。ちょーっと失言しちゃってそうしたらもう怒髪天を衝き、ものすごい勢いで追いかけてきて。根の国にこんにちはってしちゃうところでした」
 どんな妻だよと一同思いながら、とりあえず遅ればせながらあいさつをする。
「この度はどうもお招き頂きまして、誠にありがとうございます」
 天空がそう言って頭を下げると、慌てたように大神も頭を下げた。
「いいえそんな、遠いところをわざわざお越し下さいまして。急な招待にもかかわらずこうして来て頂けて恐悦至極に存じます」
「一つ、お聞きしたいのだがよろしいか大神」
 匂陣が割って入るような形で、言葉だけ丁寧に尋ねた。他の皆はサッと青ざめて匂陣を見る。仮にも大神にこんな口調で話しかければ、機嫌を損ねてどんな罰がくだるのかしれない。
 しかし大神は笑ったままどうぞ、と頷く。
「どうして我らを今年に限り呼ばれたのか。今まで一度も音沙汰なかったものを」
「ああ、それはですね」
 申し訳なさそうに頬を掻き、大神は説明をし始めた。
「あなた方は人間の元へ下ったので、今まで遠慮していたのですよ。人間の元へ下ったとなれば私の支配からは実質外れることになる。そちらのご都合も考えた上の配慮だったのです。しかし今年はさる事情により、誠に勝手ながらお呼びした所存です」
「差し支えなければ、その事情をお教え願えるか」
「えー・・・・・・」
 大神は視線を彷徨わせ口ごもった。匂陣の柳眉がピクリと上がる。他の神将も怪訝そうな顔で明らかに様子を変えた大神を見た。
 さすがに本殿に上がる前に仮の姿から戻った紅蓮が、怒りも混じった視線を向ける。昌浩と離されたことは紅蓮にとって片腕をもがれたようなものなのだ。
 視線に気圧された大神が、ボソボソと話し出す。
「ここ数年、どうにも神たちの集まりが悪くて・・・・それでどんちゃんやりたい私としてはどうしても寂しくて、それで・・・・」
「・・・・・・要するに、人数合わせか」
「はぁ、まぁ・・・・そういうことです」
 こめかみを押さえて匂陣が小さく唸った。青龍はただでさえ鋭い視線をさらに鋭くし、剣呑なものを帯びさせる。天一と天后、太裳はしょうがない、という穏やかな笑みを浮かべ、太陰はなぁんだと期待が外れて面白くなさそうだ。一体どんな大それた理由を想像していたのだろうか。玄武は息をついただけで何もなく、天空も白虎も同じだ。六合は相変わらずの無表情で沈黙を守り、珍しく朱雀も黙っている。
 ただ紅蓮だけがやおら立ち上がると、右腕をスッと掲げた。

神無月の宴事、その真意を知る勿れ 

November 17 [Fri], 2006, 19:42
 出雲の国、大社。威厳を纏い佇む本殿を目の前にして十二神将達はそれぞれ神妙な面持ちで立っていた。周りは濃い藍色、または紫色に染まりつつある。吹き抜けた風が出雲山の木々を揺らし、その音はとても歓迎しているものとは思えなかった。
 誰も足を踏み出そうとしないのに、天空がため息をつき一歩前に出る。
「このまま、こうしてここにいるわけにもいかんじゃろう。大神もお待ちであろうし」
「大神が下っ端も下っ端の俺たちを待っているとは思えないがな」
 朱雀の言に天空は眉間の皺を深めたが何も言わなかった。ただ少し肩を落として背を向けて、ゆっくりと本殿に向かい歩き出す。こうなると他の神将達もいかないわけにはいかなくなり、それぞれ不承不承ながらも足を踏み出し、天空のあとをついていった。
 本殿まで、あと数歩。足の重みも増してきたそのところで、脇の茂みから何かがものすごい勢いで飛び出してきた。
「きゃっ・・・・!!」
「うわっ!」
「天貴!」
 それは天一に激突し、双方衝撃で弾かれる。地面に倒れる寸前で天一は朱雀に抱き留められ、ぶつかってきたほうは二度ほど転がってようやく止まった。
「大丈夫か天一?」
「ええ、ありがとう朱雀」
 天一を立たせると朱雀は愛しい恋人にぶつかって転がっているそれをすごい目で睨み付け、大剣に手をかけた。それはのろのろと立ち上がると自分を見下ろしている赤髪の青年を認めて、引き連れた声を出し平伏す。
「ごめんなさいごめんなさい!前方不注意でしたごめんなさい!ちょっと奥さんに追いかけられててもうすっごく怖くてっ・・・・!!!」
「俺の天一にぶつかってきて『ごめんなさい』ですむわけがないだろうが。覚悟しろ」
「ああああごめんなさいごめんなさい!えーと、君は確か朱雀くんだね!?お願いだから斬らないでっ」
「え・・・・・・」
 突きつけた大剣が、ぴくりと揺れた。
 天空が杖をつきながらゆっくりと近づいてきた。そして半泣きで震えているそれを見て、驚いたように声を上げる。
「大神っ・・・・・!!」
 それに十二神将は、思わずというように異口同音に叫んだ。
「これが!?」

神無月の宴事、その真意を知る勿れ 

November 13 [Mon], 2006, 15:10
「とは言うものの」
 物の怪は出雲へと向かう竜巻の中で腕組みをし、眉間に皺を寄せて呟いた。それを聞き留めた匂陣が少し首をひねり尋ねる。
「どうした」
「昌浩だ」
 簡潔な答えにああ、と合点がいった匂陣はそれきり興味を無くし、顔を元の位置に戻す。しかし物の怪は一人で話し出した。
「俺がいない三日間にあいつが浮気するとは思えない。だけど他の奴はどうだ!あいつは気づいていないが中務省だけじゃなく他の部署にもうじゃうじゃと昌浩を狙っている奴は大勢いる!!あいつは警戒心というものを持たないから心配なんだっ。俺が目を光らせているときはいいがそうじゃないときは塗籠にでも連れ込まれていいように襲われるのが目に見えている!おお恐ろしい!昌浩に迫り来る魔の手っ!!」
 考えすぎだ、とは思ったがそれを口に出すほど匂陣は軽率ではない。涼しい目元を呆れた風に細めて自分の想像に慌てふためく物の怪を見やる。諸手をあげてわなわなと震えている物の怪は、見開いた目でなおも言いつのる。
「嫌がる昌浩を押さえつけ、直衣をはいでいく間男!その口元には妖しげな笑みが浮かび顔は興奮で脂ぎっている。無骨なその手が昌浩の柔肌に触れた途端にっ・・・・・!!許すまじ間男ォ!!」
 口から炎、目から妖しい光線でも出てきそうだ。
 手の甲に顎をのせ珍妙な物の怪の行動を傍観していた匂陣は、顔を押さえて肩を震わせる。しかし物の怪はそんな匂陣の様子に全く気が付かずに怒り狂っていた。
「消し炭にしてやる間男め!俺の昌浩に手なんか出してみろ、跡形も残さず抹消だ!!そして末代まで呪うというオマケまでつけてやるっ!」
 竜巻の中でくるくると回りながら叫んでいるため聞き取りづらい。しかも語尾が間延びして変な呪文のようだ。神将なので酔うということはないが、それにしても凄いなと実はいた六合が薄く目を開けて物の怪を見ながら思った。
 出雲へと向かう竜巻は全部で四つ。それぞれ三人ずつ神将が入っている。風将である白虎と太陰がつくり出した竜巻で、やはり早さに差はあるものの神足で行くよりもよほど早い。この様子ならあと一刻もすれば到着するだろう。
 物の怪、匂陣、そして六合がいる竜巻の横を行く竜巻には天一と朱雀と白虎がいた。三人は竜巻の風の中で回りながら喚き散らしている物の怪を、唖然とした顔で見ていた。
「これが、あの騰蛇・・・・?」
「本当に・・・・」
「こんな色呆けした真っ白い生き物が・・・」
 三人は眉間を押さえると、そのまま考え込んでしまった。当の本人の物の怪は遠い地にいる恋人に向かって、
「まーさひろー!!無事でいてくれー!」
 回っているので聞きづらく、有り得ないと思いつつ決して届かないだろうと六合は思った。
 届いたとしても、それはきっと悪質な悪戯としか聞こえまい。

神無月の宴事、その真意を知る勿れ 

November 12 [Sun], 2006, 12:57
 物の怪は少し顔を上げて、鼻をすすって言った。

「神様会議」

「・・・・・・は?」
 神様会議。
 昌浩は頭の中で繰り返して、眉間に皺を寄せた。不可解だという表情だ。
「何それ」
 思わず聞くと物の怪は渋面を作る。昌浩から身を離し、脇にちょこんと座ると、はぁと重い息をついた。
「年に一度、十の月に出雲である神達の集まりだ。神無月と呼ばれるゆえんだ。で、それが明日からあって・・・・・」
 話しながらその集まりを思ってか、顔に暗い影が落ちていく。徐々に言葉を小さくしていき、ついにすっかり噤んでしまった。
 物の怪の雰囲気に昌浩は喉を鳴らし、どうしたものかと視線を彷徨わせる。こんなに嫌がる物の怪は本当に珍しく、実はちょっとおもしろいと思うのだけれどそれを言うと烈火の如く怒るのは目に見えているので、ここは賢明に沈黙だ。
 悄然と肩を落とした物の怪は、暗い気持ちを払拭するように頭を振ると昌浩にすり寄った。
「もっくん」
 抱き上げてやると、ペロ、と頬を舐められる。
「本当は行きたくないんだがなぁ。というか、今までお達しは一度もなかったんだ。それなのに今年に限ってわざわざ呼び出してきやがった。一体全体どんな風の吹き回しなのか・・・・神様上位の奴らの考えることはわからん」
 すっぽりと昌浩の腕に収まりながら物の怪は苦い顔だ。昌浩は苦笑して物の怪の頭に顎を乗せる。
「いいじゃないもっくん。良い方に考えなよ。末席も神様は神様。認められたってことじゃないか。三日間だけだしさ、ね?行ってきなよ」
 そう説得され、物の怪は不承不承という態で頷いた。真っ白い尻尾がパタン、パタンと床を叩いている。それを見た昌浩はまた小さく笑って頭を撫でてやった。
 物の怪は首をひねって昌浩を見上げると、その口元に淡い笑みを浮かべた。
「俺がいない間寂しいからって浮気するなよ?」
「しないよそんな!後が怖いのに」
 べっと舌をつきだしてやれば、ケタケタと物の怪が笑った。頭を小突いてやって昌浩も言ってやる。
「もっくんこそ浮気しちゃダメだからね」
「俺?うーん、どうかなぁ。三日間も昌浩に触れてないとふらふら〜と行っちゃうかもなぁ」
 悪戯っぽく目を輝かせチラリと昌浩を見やった物の怪は、口の端を持ち上げた。
「浮気して欲しいか?昌浩」
「して欲しいわけないじゃんかバカ!!」
 反射的にそう返した昌浩はハッと口を押さえたが後の祭り。笑みを深くした物の怪が昌浩の肩に手を置いて、のぞき込むようにジッと見つめてきた。そうして軽く首をかしげて何度か頷く。
「うんうん、そうだよなぁ。素直な昌浩くんは大変可愛い。まぁ君がそう言うのだから浮気はしない。だけどその代わりに」
「・・・・何?」
 何となく嫌な予感がして思わず後ずさると、満面の笑みの物の怪がその顔のまま一瞬で紅蓮へと立ち戻った。
 ヒッと息をのんだ昌浩を押し倒して覆い被さる。
「だから今たくさんヤっておこうな昌浩」
 昌浩の声なき叫び声は、残念ながら昼間の邸に響くことはなかった。

神無月の宴事、その真意を知る勿れ 

November 11 [Sat], 2006, 20:11
 何だか最近神様集まるの少ないなぁ。やっぱりご馳走が陳腐だから?
 うんうん、そうだよねぇ。うちの奥さん料理下手くそだから。
 ん?うおっ、奥さん聞いてたの!?ごめんなさいごめんなさいそんなことこれっぽっちも思ってないから!!
 ぐえっ。首締めないで奥さん!ちょっ、本当マズイっ!意識遠のく!!私死んじゃったら誰が日本の神様統治するの!?
 え?何?私が統治する?
 ダメだよそれは。独裁政権になっちゃうじゃないか。恐怖政治万歳だよ。
 おおおおごめんなさい!失言でしたっ!!
 だからお願い、髪の毛むしらないで!!




 のそり、と部屋に入ってきた物の怪は、どんよりとした顔で昌浩を見上げた。筆を走らせていた手を止めて昌浩はギョッとした顔で物の怪を見下ろす。こんな物の怪見たことがない。
「・・・・・どうかしたの?もっくん」
 恐る恐る尋ねると、力無く笑った物の怪が答える。
「悪い、昌浩。俺明日から三日ぐらいいないから・・・・」
「え?何で?」
 思わず聞き返すと物の怪がその大きな目を急に潤ませ、ガバッと昌浩に飛び付いた。驚いて思わず倒れ込んだ昌浩の胸に顔を押しつけ、おいおいと泣き始める。
「俺はあんなところ行きたくないんだ!!酒が何だ!馳走が何だ!!あんなの正式な神たちだけでやればいいのに、どうして今年に限って末席の俺たちまで・・・・・っ!!!」
「え、何?もっくんどこか行くの?」
 頭突きを喰らうような形になった昌浩は後ろに倒れるが、それについての文句は噤み、大声を上げる物の怪の頭をよしよしと撫でながらそう聞いた。
 すると、ピタリと声を止めて物の怪が、小さく答えた。
「・・・・・出雲・・・・・・・」
 それに、昌浩の顔が強ばる。
「出雲?」
 物の怪が顔を一層強く押しつけてきた。狩衣を握る手にも力がこもる。
 あの、忌まわしい記憶の場所へとまたこの物の怪は赴くのか。
「どうしてもっくん、出雲へ?」
 少し声が震える。癒えたはずの腹部の傷が、ズキンと疼いたような気がした。

昌浩の日記2 

September 05 [Tue], 2006, 14:49

 己の日。
 
 部屋に帰ったら何かのへんとそこらの猫のように伸びているもっくんと、わしゃわしゃとそのお腹をかき回している六合がいた。
 何してるのか聞いてみたら
「蚤取りと毛繕い」
 そう言ってもっくんは満足そうなため息。六合無表情。

 近日中に丸洗い決定。いるものは水、たらい、物干し竿。
 洗い方はやっぱり手で思いっきりだろうか、それとも足で踏んでだろうか。
 あとで母上に聞いておこう。


 追記。
 母上に聞いたらやっぱり足踏みがいいとのこと。そんなに疲れずしっかり汚れも落とせるんだそうだ。
 もっくん、足踏み丸洗いに決定。

昌浩の日記 

September 05 [Tue], 2006, 14:48
昌浩の日記

 字が下手すぎるので手習いついでに日記をつけてみようと思う。甲子の日より開始。

 本日の出来事。

 朝から何だか騒がしかったので自然に目が覚めた。正直彰子に起こされるのはいろいろ気まずいのでよかった。
 騒がしかった原因はもっくんと青龍だった。
 以下会話を記す。

「下を歩いてるお前が悪いんだ、お前がっ!あんなところ歩くな!」
「どこを歩いても俺の勝手だ。お前に指図される筋合いはない」
「かーっ!心底腹が立つなお前っ!」
「ふん」
「お前の頭を噛むなんて・・・・!口が腐る口がっ!ぺっぺっ」
「・・・・・・騰蛇、お前殺されたいか?」
「ああ?上等だ青龍。表出ろーーーーーっ!」


 その後乱闘も乱闘。地面はえぐれるわ壁は破壊されるわ柱は折られるわ。
 当然二人はじい様に小言を約二刻。
 あとでぐったりしていたもっくんに乱闘の理由を聞いてみたが教えてくれなかったので、六合に聞いてみた。
「屋根上であくびをしたら滑って転んで落ちたところに青龍がいて、そのまま頭を噛んだんだそうだ」

 馬鹿だなぁと思った。

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