8月11日 デジャヴ4
どうにもぼくは淋しがり屋らしい。
東京の板橋の家が懐かしくなって、
午前中の銀座観光のあとは、その家を目指して歩いていた。
ここから引っ越すときに、
もう二度と来ないのだろうと思っていた都立城北公園。
ここにまた、ぼくはやってきて、たたずんでいる。
過去には縛られない。
でも、ときどきものすごく愛おしくなるのだ、あの楽しかった過去が。
王子へ向かい、
世話になった自転車屋さん「サイクルセンタースズキ」のドアをたたく。
今回東京に来た一つの目的は、ここにあった。
自転車の旅人と、自転車屋というのは、切っても切れない仲だ。
ここのオヤジがメンテナンスしてくれた自転車で、ぼくは世界を夢見た。
毎度毎度、せっかくの自転車をぼろぼろにぶっ壊してきても、
オヤジは文句をたれながらも、ちゃんと直してくれた。
「次はどこにいくんだい?」とにやけながら。
そのオヤジとの付き合いも、もう5年。
オヤジは、北海道を目指した大学一年のぼくから、
世界縦断を目指す社会人一年のぼくまで、
ずっと知っている数少ない人間の一人になってしまった。
「走り続けますよ、ぼくは。」そう宣言すると、オヤジはうれしそうに「そうかい」と言った。
東京駅に着いた。
あとは、新幹線に乗って帰るだけだ。
この東京は沢山の幸せな思い出をぼくの人生に刻み込んでくれた。
自転車の旅、大学生活、大切なあの人、
そう、あの・・・・・・
あのデジャヴは、今、こうしてぼくの目の前に立っていた。
まだ、夢を見ているのか、一度、疑いもしたが、
それは、すぐに掻き消えた。
彼女の長く柔らかかった髪は、肩のところでばっさりと切り落とされていたのだから。
東京で見た長い夢を、
ぼくはずっと独りで追っていて、やっと追いついたと思った。
変わっていたのは外見だけで、
笑うときにはにかむところだとか、
不満だとすぐに黙り込むところだとか、
なんにも変わっていない。
「レシート、ちゃんととった?」と聞くと、バツの悪そうな顔で、手を広げて見せ、その中には、くしゃくしゃに丸められたレシートが入っていた。
(まだ、家計簿つけてないのか・・・・・・笑)
ぼくは、あまりに愛おしくて、どこかに自分がいってしまいそうになりながらも、
懸命に、自分を保とうとしたけれど、
どうにも、言葉がどもってしまい、情けない。
終電の新幹線で、ぼくは広島へと帰る。
彼女は別れ際に、髪を再び伸ばすことを約束してくれた。
今思えば、ショートも結構可愛かったので、
「やっぱりショートの髪には浴衣が似合うと思うんだ」とメールすると、
「今年浴衣買ったんだぁ☆」と返信が帰ってきた。
東京にいって、よかった。
―――過去はこうして、未来となる。
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