能楽マドレーヌ 24 / 善知鳥(うとう)と京都・二条若狭屋「不老泉」
May 26 [Mon], 2008, 0:00
こちらは二条若狭屋の不老泉です。
いわゆる葛湯(くずゆ)。そのとろみではんなりと寛げます。
味は3種、善哉(ぜんざい)、抹茶、くず湯
写真のようなサプライズがあるのは桜の描かれたお善哉のみ。
ともかく純度の高い、上品なお味には、
一服いただくたびに思わず笑みがこぼれてしまいます。
自宅用にも、贈答用にも、心からおすすめのスウィーツ。
noh cafe タイムしていただくならば
ぼーっとした朝、西洋茶の変わりに
このスペシャルな不老泉をいただくと、
からだの内側もあたたかくなって、
なにより、頭脳が活性化いたしますよ。
化粧箱もこのとおり。花札のようにかわいいのです。

ちょこっと替えボタンやピンを入れておいたり、
ぷちお福分けのボックスとしてもとっても喜ばれます。
それでは本題に入りましょう。
本日思いを馳せるのは「善知鳥(うとふ うとう」の物語です。
この不老泉に浮かぶ2ひきのように
情愛の深い親子鳥が善知鳥。
善知鳥安方(うとうやすかた)といわれて
親鳥が「うとう〜」と鳴くと
子鳥が「やすかた〜」と鳴き返す
そんな習性を利用して、
子鳥が巣から出てきたところを狩猟され
陸奥外ヶ浜にいたといわれている海鳥です。
ある僧が陸奥へ向かう途中
越中(富山県)はその高さで知られる立山に登山し、
その地獄とも思われる風景のなかで禅定の修行を終え下山すると、
見知らぬただならぬ風体をした老人がやってきて
去年の秋に亡くなった猟師の形見の蓑笠を
陸奥の外の濱の妻や子に言伝(ことづて)てほしいと頼まれます。
旅僧は、どこにでもある蓑笠では、
ほんとうにその者の形見の証にならないので、
なにか証になるものをと言うと
老人の着ている麻衣の片袖を裂いて渡されます。
旅立つ旅僧、見れば先ほどまで涙を流しながら
見送っていたはずの老人の姿も消え消えになって……
陸奥へ着き、忘れ形見をと、亡者の家を訪ね
立山でこの形見の品々を言伝られたいきさつを妻子に話し
思い当たることはあるかと訪ねると
話を聴き終わらぬさきからぽろぽろと涙をこぼすのでした。
これは主人の形見なのですがと
薄衣を取り出してきて、言伝られた袖とあわせてみると
不思議なことにぴったりと一致するではありませんか。
僧は亡者を思い、蓑笠を手向けて御法(みのり)をあげます。
するとどこからともなく猟師の幽霊がやってきて
渡世(とせい)の殺生の罪で八大地獄に堕ち、
こうして苦しみぬいているのも、もとはといえば身から出たさび
あぁ、みちのくの外の濱で呼ぶ声はうとうやすかたなのか
ここは質素な苫屋ながら懐かしい我が家よ。
妻子は手を取り合って立ち尽くし
亡者に声をかけてみるものの、声をかければ姿が消えてしまい
哀しみにただふたりして泣くばかり。
亡者も今になってやっと分かった親子の情愛を思うと
善知鳥やすかたを殺した罪の深さを思い知ります
きっと親鳥は子鳥が愛しかったことだろう
わが子千代童(子の名前)の髪を撫でてやろうとも、それも叶わない。
我が家、わが妻子がどんなに愛しかろうと
一歩も近づけず、この外の濱で鳴いている千鳥のように
泣くばかり、ただ泣くばかりのわが身のつらさよ。
士農工商の家にも、高尚な身にも生まれず
ただ漁猟に明け暮れ、
どんなに美しい春の日にも陽光さえ拝む暇もなく
秋の夜長といえども、漁火を灯し、眠る暇さえない。
夏の暑さも、冬の寒さも忘れ、
「鹿を追う猟師は山を見ない」ということわざどおり……
わが身の苦しさを振り返らず、ただ鳥を追い捕らえ
地獄の報いさえ忘れて猟を営んだ悔しさよ。
さまざまな殺生を犯したなかでも善知鳥やすたかの
どんなに親鳥が子鳥を隠しても、
うとうと呼べばやすかたと答えるところを、簡単に捕らえるならば
親鳥は空で血の涙を流し、雨のように降らせるので
蓑笠で隠れようとしても、あたりはくれないに染まるほど……
娑婆(しゃば)では善知鳥やすかたと見えていても
あの世では化鳥(けちょう)となって、鉄(くろがね)の嘴(くちばし)でついばみ
銅(あかがね)の爪で、眼を抉り出し、肉を裂き
苦しみに叫び、地獄の業火の煙にむせんで声も上げれなくなるのは
数々の殺生を重ね、鴛鴦(おしどり)をも殺した罪科(つみとが)ゆえ
地獄は逃れることのできない狩り野。
鷹となった善知鳥に追われる雉となり、地を走る犬に攻め立てられて。
♪あら心 うとうすかた 安き隙(ひま)なき 身の苦しみを
たすけて賜(た)べや御僧 たすけて賜べや御僧
これはかなり厳しい地獄の様相ですぞ。
舞台での地獄の苦患のさまは、それこそ鳥肌ものです。
いまも、むかしも、殺生戒はいただけません。
まわりが見えなくなるほど働くのも、ね。
さぁ、ちょっぴり立ち止まって、あくせくせず
風を感じて、空を仰いで
今日はテラスで気分転換の noh cafe です。
ささっ、不老泉、こちらは熱いので
よ〜く冷ましながらいただいてくださいね。
ハイ!ご一緒に
うとフゥ〜〜♪ なんてね。

*善知鳥(うとふ うとう)という名は、この鳥がとても善く友を愛し、もしも群れなす1ぴきが猟師に捕らわれたならば、その友を見放さないかのように、あたりを飛び回り涙を降らすように鳴くので「善知」という字があてられているそうです。また子鳥を捕るならば、母鳥がその空を狂ったように飛びまわり、血の涙を降らすので、善知鳥を捕るときには「蓑笠(みのかさ)」をつける、という伝説があります。
*越中(えっちゅう)今の富山県全域の旧国名です。こしのみちのなか、ともいいます。
*陸奥(むつ)「みちのく」に同じです。磐城(いわき)・岩代(いわしろ)・陸前・陸中・陸奥(むつ)の5か国の古称で、今の福島・宮城・岩手・青森の4県にほぼ相当する地域をさしています。
*禅定(ぜんじょう)思いを静め、心を明らかにして真正の理を悟るための仏教の修行法です。
*渡世(とせい)生活していくための職業。なりわい。生業。稼業(かぎょう)をいいます。
*苫屋(とまや)苫(菅(すげ)や茅(かや)などを粗く編んだむしろ。和船や家屋を覆って雨露をしのぐのに用いる)で屋根を葺(ふ)いた、粗末な家。苫の屋。苫屋形。
*参考までに、このような魚鳥(ぎょちょう)殺生者の罪と地獄に堕ちた苦患(くげん 仏教のことばで地獄におちて受ける苦しみをいいます。そこから一般に苦しみや悩みや苦悩にも使われることばです)を描いたお能は、他に「阿漕(あこぎ)」「鵜飼(うかい)」という曲(演目)があります。この善知鳥の曲は特に親子の情愛をからませて描かれているだけに深刻で悲惨な趣きがあります。
他の2曲についてもおいおいnoh cafe いたしてまいりますので、ちょっと頭の隅にひそませておいてくださいね。
*仏教の五戒 仏教で在家の信者が守るべき五つの戒めに、不殺生(せっしょう)・不偸盗(ちゅうとう)・不邪淫・不妄語(もうご)・不飲酒(おんじゅ)の五つがあります。つまり順番に訳すと、生き物を殺してはいけない、人のものを盗んではいけない、自分の妻(または夫)以外と交わってはいけない、うそをついてはいけない、酒を飲んではいけない というもの。罪を犯すと堕ちる地獄(八大地獄)の種類も決まっていたりします。検索で調べてみてくださいね。
[ この記事を通報する ]
- URL:http://yaplog.jp/noh_cafe/archive/35


