観能の記 / 第十回 和歌の浦 万葉薪能 in 片男波公園

October 14 [Tue], 2008, 0:00
●第十回 和歌の浦 万葉薪能 in 片男波公園
  2008年10月12日(日)

♪若の浦に 白波立ちて 沖つ風
 寒き暮(ゆうべ)は 倭(やまと)し思ほゆ (万葉集 藤原卿)


第十回目を迎える、
和歌山は和歌の浦「万葉薪能」に出かけてきました。
大阪から一時間弱の気軽さで、車窓に青い紀の川を渡り
和歌山駅からは、車で15〜20分ほどの小さな旅。
この日は見事な空澄みわたる秋晴れです。

会は、NPO「和歌の浦 万葉薪能の会」が主催する薪能で、
片男波公園野外ステージの会場は大変友好的な市民の手によって、
薪能には珍しく保温シート性の座布団なども一枚ずつ配られ、
たいへん雰囲気のよいなか、心のこもった運営がなされています。


会場はその周囲を海に囲まれた小さな半島がここ。
万葉の小路(こみち)と名づけられた路々に万葉歌の石碑が水先案内。

松林、波の音、海風、夕波……暮れなずみ、月しらじらと
鈴虫が音をふちどりに照り添えて、なおあまりある風情。
対岸に紀三井寺をいだいた名草山(なぐさやま)のやさしくなだらかな……
浮かぶ宵闇にいまはむかしの玉津島が秋灯下。


会場前方には、能のワークショップに参加したとおぼしき子どもたちが
居ずまい正しく演能をいまやおそしと行儀よく待ち、
中学生、あるいは高校生の一群が袴を着つけているなど、
運営のさまざまな要素の、今日のこの日に限らない
時間をかけた盛り上がりの「いま」が手に取るように見えるようで
大変ほほえましく思いました。来場者は軽く千人を越える観。

聴けば、能面打ちの教室から謡曲教室までのセミナーの実施や、
万葉薪能のこれまでをたどる展覧会の開催。ワークショップは、
観世流シテ方 小林慶三師(和歌山県文化功労賞受賞)のご指導によるとか。
能楽を一石にした協働の輪の広がりも、地元の根気強くさめない熱ある自治の
たやさぬ工夫の賜物。十年を経てその真意が試され、
こうして花咲くものなのでしょう。

狂言は「附子(ぶす)」。
太郎冠者、次郎冠者の飽くなき食欲に
子どもたちに大うけの、その歓声につられて、笑声もほのぼのと伝播。

舞台天空高く十三夜の名残もさやけき小望月
影を横切るうろこ雲の、静かな流れに秋冷のときをも忘れます。

お能は観世流 片山清司師の「土蜘蛛(つちぐも)」。
千筋の糸の応戦に目をうばわれ、ぐっと身をのりだした子どもたち、
そして芝生の会場そのものが、ステージに向かってなだらかな傾斜につくられ
自然におとなも子どもも集中力が高まる気。


漆黒に炎舞の紅と散る火の粉、
なまり玉の、観客席にかかるほどの派手な放出が繰り出され、繰り出され……
清司師には、前場のでんぐり返しに、
後場の仏倒れと、あっという間の60分、たいへん見事な舞台でした。
終演後、道ゆく観客の口々に感動の声々。

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片男波(かたおなみ)の由来は、
万葉の宮廷歌人山部赤人(やまべのあかひと)が詠んだこの歌から。

♪わかのうらに しほみちくれは かたをなみ 
 あしつをさして たつ なきわたる

「若の浦に 潮満ちくれば 潟を無み 葦辺を指して 鶴鳴き渡る」

潮が満ちても引いても美しい和歌の浦の、感動を詠むこの歌に
平城京の都、大和の国から、たたなづく青垣を越えて、
その道四日ともいわれる旅程のすえに、焦がれ続けた名勝和歌の浦の
雄大な海原を前にした万葉人の歓喜もしのばれます。

まるで一枚の絵画を眺めるような、いにしえの時間をうつす
夕陽はやがて、炎へととってかわり、
歴史の地 片男波公園野外ステージの芝にむれなす
見所をこそ、鶴(たづ)の一群。

うるわしき万葉薪能。また来年度も、と
果てなき思いを秋のひと夜にはためかせます。





※山に囲まれた奈良、平城の都人の海への憧れはきっと格別なものだったことでしょう。往時の都人の憧憬をかきたてた紀伊万葉の代表歌「かたをなみ」の歌は、和歌山、そして、片男波の地名にしっかりと残りました。

潮の満ち引きに現われ、また消える干潟の様、えさを求めて鳴き飛ぶ鶴の群舞に、時の移ろい、空間の広がりが目に見えるようです。

もう一首、今回の感動をどう伝えようかしらと胸ときめかせたお能カフェスタッフの気持ちをうつしてくれているような万葉歌をご紹介いたしますね。

♪玉津島 よく見ていませ あをによし 
  平城(なら)なる人の 待ち問わばいかに

(玉津島をよく見ていらっしゃい。青丹よし奈良の都で待っているひとに、
どうでしたかと尋ねられてもちゃんと答えられるように……)

このたびの観能の記はいかがでしたでしょうか。

※お問合わせ:NPO 「和歌の浦 万葉薪能の会」
和歌山市新和歌浦2-2 木村屋旅館
Tel : 073-444-0155 / Fax : 073-445-0301
片男波公園をネットで歩いてみよう!
※なお、今回の和歌の浦への道行きを後日ブログアップいたします。
 カルチャーはもちろん、ご当地名物あり、伝統工芸品のショッピングあり!
 お楽しみに。
  • URL:http://yaplog.jp/noh_cafe/archive/105
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