10才の夏

February 20 [Sat], 2016, 23:01


空色のワンピースが特徴的な制服
学校指定の十字架のロゴが入ったランドセル

その日も私は
電車のドアが開いた瞬間
一目散にホームを駆けだし
改札口を抜けた

西武池袋線の黄色の電車
地元の駅は今日も人でごった返している

使い古した5年目のランドセル
閉め忘れた蓋の金具をパカパカさせながら
私が向かう先は
駅ビルの1階にある小さなケーキ屋さん

「あっ、いた!お姉ちゃんみーっけ!」

私がにっこり笑って指を差した先は
このケーキ屋さんに勤めている
若くて美人なお姉さん

「あれっ今日は学校終わるの早いね!終業式?」

「うんっ」

「いちごミルクのキャンディー、になちゃん食べる?」

「ありがとう!お姉ちゃんいつもそれ持ってるね」

「好きなの」

「うん、知ってるっ」

「になちゃん嫌い?」

「お姉ちゃんがくれるのはみんな好き!」

言わなきゃ…言わなきゃ…

お姉ちゃん、私もうお姉ちゃんに
今日で会うの最後だよ

私、遠いところ行っちゃうよ

車で何時間もかかるの
友達もいないし、東京と違ってビルが少なくて
喋る言葉も少し違うんだって

「元気ないね…になちゃん大丈夫?」

小首をかしげたお姉ちゃんの肩までの髪が
さらっと横に流れる


このケーキ屋さんには
私が小学校に入学した時から五年間
放課後かかさず通っていた

駅にお母さんが迎えに来るまでの少しの間
お姉ちゃんとお喋りする時間がとても私は好きだった

休み時間に紙飛行機を飛ばして遊んだこと
学校の裏庭にこっそり友達と秘密基地を作ったこと
かいけつゾロリの新刊が図書室に入ったのですぐ借りたこと

その日学校であった他愛もない話を
いつもニコニコしながらお姉ちゃんは聞いてくれた

「これ食べる?」
そして時々、いちごミルクのキャンディーを私にくれる

このケーキ屋さんの苺の乗ったショートケーキが絶品だった
迎えに来たお母さんがたまに買ってくれた

あまりにも自分のことばかり喋っていたので
今から思えばなにひとつ
私はお姉ちゃんのことを知らなかった

名前は何といったんだろう
結婚していたのかな…


お姉ちゃんに会った最後の日
結局私は別れを告げることが出来なかった


「あっ、お母さん迎えにきたよ」

「…お姉ちゃん!」

「んっどした?」

「…キャンディー、ありがとう」

「いえいえ、イチゴは元気になるよー!」

「うん、」

「じゃあまたになちゃん、新学期にね!お姉ちゃん、キャンディーいっぱい用意して待ってるからさ」

「うん…ありがとう、」

「またね!」

「またね、お姉ちゃんっ」


お姉ちゃんにもらったキャンディーは
引っ越し先に向かう新幹線の中で
ポケットから取り出しては何度も眺めた

新しい学校
新しいアパート

これからの知らない土地での生活のことを思い浮かべると
自然と涙が出てきた

10才の夏



それから今年で12年、
新しい土地で生活した時間の方が長くなり
私はあの時のお姉ちゃんと同じくらいの歳になった

先日グーグルのストリートビューで検索してみたんです

私の知っていた駅の面影はなく
さらに大きく活気づいた街へと発展していました

あのケーキ屋さんは今も残っているのでしょうか

名前も知らなかったあのお姉ちゃんは今日も
いちごミルクのキャンディーをポケットに入れて
「秘密だよ」と小さい子に配りながら
ニコニコとケーキを売っているのでしょうか


12年前のあの日
夏休みが明け突然ぱたりと来なくなった私を
お姉ちゃんはどう思っただろう

私が言いたかったありがとうは
キャンディーのことではなくて

そう、もっと
もっと伝えたかった言葉があったのに


キャンディーを見ると今でも思い出します

「イチゴは元気になるよー!」

そう言ってにっこり笑う

お姉ちゃんの笑顔を



プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:n i n a 、
読者になる
目を閉じると
心の音色が聴こえます
2016年02月
« 前の月  |  次の月 »
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29
最新コメント
ヤプミー!一覧
読者になる
P R
カテゴリアーカイブ
月別アーカイブ
http://yaplog.jp/ninatamago/index1_0.rdf