トトレと魔法使い 1 

October 23 [Mon], 2006, 23:31
ジブリの「シュナの旅」を読んで触発されました。
バイト中ずっと考えていたストーリーです。
けっこう長いのでご注意。
ちょっとSFちっくかな…読み返すと恥ずかしい;
ちなみに「トトレの木」は実際には存在しませんのであしからず。





******





あるところに、世界中を旅する魔法使いがいました。
彼はたった一人でしたが、それを気に留めたことなどありませんでした。
世界中を旅して新しいもの、珍しいものを見て回り、膨大な力を蓄えていくことは彼の喜びであったからです。
彼の力は本当に偉大でありました。
寝込みを襲う野犬も、砂漠で出会う砂嵐も、戦場で出会う戦車も、諍いになった他の魔法使いすらも彼の敵ではありませんでした。
彼は世界をもう何回見て回ったか覚えていないほど、長い長い年月の間旅をしていました。
何度か来たことがあると思う場所も通り過ぎましたが、時代が過ぎていけば同じ街も栄えたり衰えたりと変わっていきます。
彼は飽きることなく旅を続けました。
なぜ自分が旅をしているのか彼にはわかりませんでしたが、とにかく何度も何度も世界中を巡り歩きました。
ある時、彼は風を避けて眠るために大きな木を探していました。
森の中に分け入っていくと、トトレの木を見つけました。
トトレという木は、背は低いけれども大きく左右に枝を広げていて、幹は太くしっかりしているので、その下で野宿するには適した木のひとつです。
彼がトトレの木の下に入っていくと、なんとそこには赤ん坊が捨てられていました。
「こんな奥深い森の中に赤ん坊が捨てられているなんて、なんて気味の悪い」と彼は顔をしかめ、そこから逃げ去ろうとしました。
しかし、赤ん坊は彼を見て、キャッキャと笑い出しました。
その顔はとても幸福そうで、彼に向かって小さな手を伸ばしてくるのです。
このままこの赤ん坊を放置すれば、きっと夜には野犬に喰われてしまうことでしょう。
彼はそれまで神を信じたこともなければ、人に情などかけたこともありませんでした。
運命など考えたこともありませんでした。
それなのに、彼は赤ん坊を放っておくことができませんでした。
なぜかは分かりませんが、赤ん坊を連れて行かねばならぬような気がしたのです。
それからの旅は大変でした。
彼は赤ん坊を見たことはあっても、赤ん坊に触ったことはなかったのです。
赤ん坊は何を食べるのか知りません。
腹をすかせて泣く赤ん坊に困り果て、ついに頼ったことのない人里に入り、「赤ん坊には何を食わせたらいいか教えろ」と牧場の夫婦に問いました。
夫婦は突然現れた魔法使いに大変驚きましたが、泣いている赤ん坊を見て、牛のミルクをあたためてやりました。
赤ん坊がミルクをたっぷり飲んで寝てしまうと、夫婦は恐る恐る魔法使いに赤ん坊の育て方を教えました。
赤ん坊が森に捨てられていた、と聞くと、夫婦は自分たちが引き取ろうかと申し出ましたが、彼はそれを断りました。
彼は元々好奇心が強いこともあり、なんだかこの赤ん坊は自分で育てねばならないような気がしたのです。
夫婦に「助かった」と短く礼を言って、彼は赤ん坊を背負って旅立ちました。
彼はそれまでは果敢に挑んでいった危険な場所を避け、何かあったらすぐ頼れるように人里を転々とするようになりました。
赤ん坊は日に日にかわいらしくなり、傍目からも女の子だとよくわかるようになりました。
かわいい赤ん坊を連れた恐ろしげな魔法使いは、行く先々でもの珍しがられました。
名を尋ねられて、彼は「トトレの木の下で拾ったから、トトレだ」と赤ん坊に名づけました。
よく笑う赤ん坊で、どの街に立ち寄っても、トトレがミルクに困ることはありませんでした。

トトレと魔法使い 2 

October 23 [Mon], 2006, 23:27
トトレはすくすくと育ち、3つになると、彼の真似をして簡単な魔法を覚え始めました。
「師匠、師匠」と呼んで彼の後をちょこちょことついてくるトトレを、彼ももちろんかわいがりました。
彼の魔法使いとして恐れられていた厳つい表情も、いつしか柔和で人に親しまれるものに変わっていました。
トトレは真綿が水を吸うように彼の教える魔法を覚えました。
トトレが15になると、彼が教える魔法はもう何もありませんでした。
その頃のトトレは、輝くばかりの美しい娘でした。
はきはきと変わるまばゆい表情に、艶やかな長い髪、すらりと伸びた手足は、行く先々の街の若者を虜にしました。
気立てもよく、働き者で、普通の街や村の娘であればあっという間に嫁に行ってしまうような器量よしでした。
一方魔法使いは、どんなに歩いても疲れなかった足は痩せ細り、厳つい顔には無数の皺が刻まれ、腰も曲がり始めていました。
彼はもう老人でした。
「おれのようなよぼよぼの隣にいるには、トトレは美しすぎて不憫だ」
「だがゆきずりの街の男たちにくれてやる気などもちろんない」
「トトレがひとりだちをすると言ったら、おれはどうしたらいいだろう」
老人はずっとそればかりを考えるようになりました。
ある日の朝、スープを温めながらトトレは言いました。
「師匠、私は今日から師匠とお別れして、ひとりで旅をしようと思うのです」
老人は、恐れていたことがとうとう現実になったと、目をつぶりました。
もう心は決まっていたのです。
「お前の好きにしなさい」
「おれが教えることはもう何もない」
「世界中を回って、新しい発見をたくさんしなさい」
老人は悟っていました。
トトレを手放したくないのは自分のエゴであると。
自分の役目は、トトレを育て、魔法を伝授することであったと。
「師匠、待ってください」
トトレは、諦めたような老人の声を遮りました。
「師匠、私が成長してあなたに並ぶことができるまで、ここで待っていてくれませんか」
「私はここに家を建て、きっとあなたを迎えに来ます」
「それまでどうか、待っていてくれませんか」
老人は耳を疑いました。
「トトレ、お前にはおれのような老人は似合わない、どうか他のすばらしい男を探して幸せになりなさい」
「いいえ、師匠、私はきっと他の男では幸せになれません」
「私が師匠と一緒にいられる方法を探して戻ってきますから、それまでどうか待っていてください」
トトレは微笑みました。
「ああ、トトレ…きっとおれが世界中を旅していたのは、お前に出会うためだったんだな」
老人は一筋の涙を流しました。
トトレは丈夫で頑丈な家を立てると、旅立っていきました。
老人はただひたすらトトレを待ちました。
朝も、昼も、夜も、赤ん坊の頃から旅立つ朝までのトトレを思い出して、目の前のドアを開けてトトレが入ってくるのを思い描いていました。
そして老人は神に祈りました。
トトレが旅先で苦労することがないよう、無事に帰ってこられるよう、生まれて初めて毎日毎日神に祈りました。
冬が来て、世界が氷に閉ざされ、春が来て、日差しがそれを溶かしました。
それを繰り返して、1年が経ち、2年が経ち、3年が経ちました。
春が来たばかりのあるあたたかな日、ずっと閉ざされていたドアが開きました。
トトレが戻ってきたのです。
「師匠!」
トトレは叫びました。
老人は、椅子の上で石になっていたのです。
「ああ、師匠、こんな姿になって…」
トトレは涙を流して老人を抱きしめ、キスをしました。
そして、長い旅の末に見つけた、老人が若返る魔法を唱えました。
「トトレ、お帰り、ずっと待っていたよ」
優しくトトレの髪を撫でた彼は、もう老人ではありませんでした。
トトレに出会うずっとずっと前、ひとりで旅をしていた頃より、もっと若い魔法使いの姿でした。
「師匠、やっと戻ってきました」
「もう師匠と呼ぶのはやめにしないか」
「でも、私は師匠の名前を知らないわ」
「教えてあげるよ、おれの名前は…」




******



 

October 18 [Wed], 2006, 1:01
前置き
これは高校のときの現文の先生のお話が元になっています。
完全な私のオリジナルではありません。
そこんとこよろしくおねがいします。





*****



 …えー、みなさんもね、受験勉強でお疲れでしょうし、私の授業なんか聞いてもつまらないって顔してる方が多いのでね、今日は息抜きにちょっと私の話でもしようかと思います。
 どうせ私の話なんかつまらないと思いますから寝てて下さっても構いませんけどね、くれぐれも他の先生方には内緒でお願いしますよ。

 えー、ご存知の方もいるかもしれませんが、私の母がですね、今癌を患っておりましてですね、父もとっくに亡くなってるもんですから、私は休みのたんびに病院に行ってるんですよ。
 うちのチビどもなんかも連れてくんですけどね、なんせまだ小一と幼稚園のガキどもですから、おばあちゃんが入院してるっちゅうくらいしかわからんもんで、病院中駆け回って遊びやがるんですよ。
 こンのお前らって思いますよね。
 でも、母は来てくれるだけで嬉しいよって笑ってるんですよね。
 やっぱりわかってるんでしょうね、もう長くないんですよ、母は。
 私だって人の子ですからね、寂しいやら悲しいやらで居たたまれない訳ですよ。
 だからって私は医者じゃないですし、どんなにお金かけたって医者はもう手がないって言ってるんですから、何もできないんですけどね。
 何かしてやりたいなーと思いまして、聞きましたら、母は蛍が見たいって言うんですよね。
 皆さん蛍なんて見たことないでしょ?
 先生がガキの頃にはですね、夏の夜に外に出りゃあ田んぼや畑に蛍がいーっぱいいて、手で捕まえてたんですよ。
 昔はね、今みたいに農薬使って米作ったりしなかったもんですから、蛍も生きやすかったんじゃないでしょうかね。
 今でもね、農薬使わない田んぼとか、蛍がいるところはあるんですよ。
昔に比べたらうんと少ないですけどね。
 大学の時の先輩に聞いたんですが、掛井戸で有機栽培やってるところがありまして、母の外出の許可をもらってうちの子供たちも連れて行ってきました。
 行ってみたらね、本当にちらほらですけど、蛍が飛んでるんですよ。
 子供たちはそりゃ大喜びですよ。
 あっちゅう間にどっか行っちまいました。
 母は杖ついてるもんですから、あんまり歩けないので、私が手を引いてあぜまで連れて行ってやりました。
 自分で言うのも恥ずかしいんですがね、母は、こう…子供の私から見ても、きれいなひとだったんですよ。
 自慢の母親だったんです。
 それが、年をとるわ病気はするわで、やっぱり皺が寄って痩せ細ってるんですよね。
 久しぶりに立ってるの見た時も随分痩せたなぁとは思いましたけど、母の手を引いた時にはドキッとしましたね。
 おじいちゃんとかおばあちゃんと同居してる方は分かりますかね、老人の手。
ほんっとうに骨と皮なんですよ。
 ああ、私の手を引いてくれたあったかくて柔らかい手が、こんなになっちゃったんだと思いました。
 母は、ああ蛍だねぇ、何年ぶりかねぇ、と言って、満足そうに笑ってるんですよ。
 ありがとう、なんて言われたら、男の私だってもう蛍どころじゃないですよ。
 それでもぐっと堪えて、皺だらけの骨のような手を握ってました。
 それから1週間くらいですかね、母がベッドから起き上がれなくなったの。
 本当にあのとき連れて行ってやってよかったと思いました。
 幸い、母はまだ生きております。

 皆さん、生きるということは消耗ですよ。
 まだ17,18の皆さんには想像もつかないかもしれませんが、人は老いて、命はいつか尽きるんです。
 事故や病気でいきなり死ぬかも分からないし、幸い長生きしたっていつかはやっぱり死ぬんですよ。
 だったらね、やっぱりやれる限りのことをすべきだと思うんです。
 いい人生だったって笑っていたいじゃないですか。
 だからね…ほら、今目の前の受験だって、例外ではないんですよ。
 苦しいしつらいし、こんなことで人生決まらねぇやぁ、と思うかもしれませんが、悔いの残らないようにやれるだけやって損はしないと思います。

 まぁ、最後にいかにも3学年の進路指導らしい話に持っていってしまいましたが、これが私の最近のお話ですね。
 皆さんも蛍見たかったら勉強の息抜きにお父さんにでも掛井戸に連れて行ってもらってください。
 本当に蛍が見れますから。

 では授業を始めます。




*****



フィルム 

October 18 [Wed], 2006, 1:00




*****



麻里の足は細くて折れそうで、白いガーゼのワンピースをかいくぐって波間に揺れているみたいだった。
いつもノーメイクの麻里。
今日の撮影だって、わざわざいろいろ用意してきたのに麻里は絶対嫌、と言って受けつけなかった。
航太郎が8ミリのカメラを回す。
麻里は役者じゃなくて、「被写体」だ。
ただのんびりと自由に屋上で過ごす麻里を、航太郎は一心に撮影する。
歩き回ってフェンスから身を乗り出してみたり、足を組んで座ってみたりと、気温14度の冷たい風とやわらかい日差しの中で、素足にワンピース一枚の麻里は本当に自由に過ごした。
麻里に近づく航太郎は何を撮っているだろう。
まばたきする睫毛の影とか、柔らかなくちびるとか、すらりとした手足とか。
「……LaLaLa-LaLaLa-LaLaLaLa…」
フェンスにもたれてゆったりと麻里は歌いだした。
歌っているのはBUMPの「スノースマイル」だ。
一番最後の、終わりんとこ。
2年前、Zeepに一緒にBUMPのライヴに行った時、藤原基央が音楽が止んでもいつまでも一人で歌っていた1小節。
あのとき、暗闇の中にいた私たちにとってそれはほんとうにひと筋の光だった。
それほど大きくないハコいっぱいの人に埋もれて、升くんはもちろん藤原もチャマも増川くんも見えなかったけど、頭上に差し込むステージライトよりも強く激しく、私たちの中に「光」は届いた。
麻里がこれを歌うとき、彼女の心はここにない。
2年前のZeepに飛んでいるのかもしれないし、嘉治が死んだあの事故の日に飛んでいるのかもしれない。
航太郎は抜け殻の麻里を撮っている。
抜け殻の麻里を見つめている。
彼が卒制の「被写体」を麻里に頼もうと思っている、と私に告げたとき、私は何も言わなかった。
きっと今日の夜航太郎は麻里を呼び出すだろう。
麻里だってもう楽になっていいはずなのだ。
「……LaLaLa-LaLaLa-LaLaLaLa…」
私は小さな声で麻里と一緒に歌った。
恋に破れることよりも大切なことがある。
航太郎の持つ8ミリカメラがジジジと鳴って、フィルムの終わりを告げた。




*****




フレイバー 

October 18 [Wed], 2006, 0:56



*****



匂いに弱い。
昔からそんなに香りの強いものは得意じゃないし、アロマエッセンスやハーブやお香も苦手なのだけれど、何かしら印象のある匂いにはとても弱い。
雨の降った後の土の匂いだとか、冷たい冬の風の匂い。
ほんのり汗をかいたような甘い匂いは、それだけで想像が掻き立てられてしまって、困る。
香水もあまり好きじゃないけれど、5年も前の初めての人の匂いが忘れられない。
首筋に顔を埋めたときとか、マフラーを貸してくれたとき、ほんのり甘い香りがした。
それ以来香水をつける人との交際はないけど、あの匂いが好きなのはそれだけ彼が好きだったからなんだろう。
聞いたこともなかったからわからないけど、多分あれはブルガリのプルオームなんだと思う。
それをほんのちょっぴり、微量で調整して、時間が経つとあんな匂いになる。
今でも街角や教室で似た匂いを見つけると、日焼けのない白い肩やうなじにまとわりつく黒い髪を思い出してしまう。



久しぶりにその匂いを見つけた。
終電の電車の中、隣に座った男の子。
彼はセンスのいい服を着ていて、飲み会で潰れてしまったらしい女の子を抱き寄せていた。
二人の関係はわからないけれど、男の子のまなざしはとても優しかった。
しばらく特定の相手のいなかった私はとても羨ましくなってしまった。

恋愛は面倒だ。
一人の人間ととことんまで向き合って、支えて、縛られて。
だけど人の温もりや安心や、一人じゃ味わえないことがたくさんある。
私は数年のうちに薄々気づいていた。
いつも相手の向こうに誰かを望んでいること。
相手にそれを求めていること。

そういえば来月は地元で同窓会がある。
去年と一昨年は勉強が忙しいから、と断ってしまったけど、久しぶりに参加してみようか。



私は、彼のあまりの変わりように少なからずショックを受けた。
大好きだった黒い髪は艶のないオレンジで、あんなに癖毛で丸まっていたのに今は逆立っている。
まさかあの彼の白かった肌が小麦色になっていて、細かった肩ががっしりしてるなんて、本当に予想外としか言いようがない。
「榎木、ひさしぶり」
こんなに愛想よく笑う人じゃなかった。
いつだってちょっとシニカルで、私の目にはそれがちょっとかっこよく映っていたのだから。
「…なんか、すごく変わったね」
思わず本音をぽつりと漏らすと、斉藤は苦笑した。
「ああ、多分仕事したり子供できたりしたからじゃないかな。最近ボードとかもやってるし」
「子供!?結婚してるの!?」
「あれ、知らなかった?ほら、あれ。隣のクラスだった阿部由実。専門出てすぐ」
斉藤が指差したのは、大きいお腹を抱えて、少しふっくらしたかわいい人。
確かに阿部さんは斉藤と同じ専門に入ったし、私と斉藤は別れてから連絡を取ってない。
でも、話が急展開過ぎて頭がついていけない。
ふと私は、斉藤からあの匂いがしないことに気づいた。
「斉藤さ、香水つけてる?」
「は?香水?」
「うん」
「香水かぁ…仕事が工場勤務だし、つけてても汗でヘンな匂いになるし。それにあんま家に余裕ないし、もうずっとつけてないな」
「…そうなんだ」
「でも榎木は俺のつけてる香水好きだったよな。今の彼氏も香水つけてるの?」
今はいない、と言おうとして、私は初めて自分が何かを期待してここに来たことに気づいた。
無理やり口角を上げる。
私の愛する匂いが失われたことに比べれば、こんなことは何でもなかった。
「うん、別のだけどね」



*****



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