ブラームス ピアノ四重奏曲第1番 作品25

February 17 [Fri], 2006, 22:30


ブラームスのピアノ四重奏曲第1番の原曲に開眼したのは、わずか4年前のことにすぎません。しかし、シェーンベルクによるオーケストラ版を知ったのはだいぶ前のことです。マイケル・ティルソン-トーマス指揮バイエルン放響による録音がリリースされた時のことですから、20年近く前のことになるかもしれません。

派手なジプシー調の第4楽章を除けば、なんとも晦渋で親しみが湧きませんでした。その後も原曲はもちろんのこと、ヤルヴィやラトルなどの録音を聞く機会がありましたが、ますます疎遠となっていくような気がしたものです。シェーンベルクお気に入りの曲であり、室内楽というオリジナル版でなかなか演奏されないことを嘆いてオーケストラ用にアレンジしたものですが、シェーンベルクの意図とは逆に私の心はこの曲から離れていったのです。
4年前にフェスティヴァル四重奏団による「ます」とブラームスのピアノ四重奏曲全曲がCD2枚組みで復刻されたときに飛びついて購入したのですが、それは曲を聞くというよりは、この幻の(?!)演奏家集団の録音に期待が高鳴るのを抑えられなかったからです。

「ます」はとてもいい感じ。ただし私の場合、「ます」ですとか同じシューベルトならば「未完成」などはある一定の水準を満たしていれば、どんな演奏でも許容できてしまう曲なのです。ですから、その演奏の質を感じ取るにはこの曲は不適切となってしまいます。

つづくブラームスのピアノ四重奏曲第1番は、それまで永年にわたってシェーンベルク版でいい思いをしていない曲、たいして期待しないで聞き始めました…びっくり。「この曲はこんなに繊細でインティメイトな感情を隠していたのだ!」とこのとき初めてこの曲のすばらしさに開眼したのです。もちろん、それは曲そのもののすばらしさだけではなく、フェスティヴァル四重奏団という特殊な音楽家集団のなせる技でもあったことは疑う余地がないでしょう。一見朴訥で表情はあまりに控えめ、ところがそこからにじみ出る情感は、音楽への敬いが縦横無尽に織り成されているようでもあるのです。

このフェスティヴァル四重奏団、ヴァイオリンがシモン・ゴールドベルク、ヴィオラはウィリアム・プリムローズ、チェロにニコライ・グラウダン、そしてピアノがヴィクター・バビンというアスペン音楽祭のリーダー格を中心として結成されました。ゴールドベルクとグラウダンは言わずと知れた、戦前のベルリンフィルのメンバーですね。(ゴールドベルクがコンサートマスター、グラウダンは首席チェリスト。当時のベルリンフィルのシェフはフルトヴェングラー。)

ピアノ四重奏団というカテゴリーを考慮した場合、解説書の幸松肇氏の言葉を借りれば「世界唯一」ということになるそうですが、とても人気があり活動を広げていこうとした矢先、グラウダンの急逝によって解散してしまったとのこと。如何にこの4人の音楽家の結束が強かったかが窺えますね。

なお、この解説書にはゴールドベルク山根美代子さんへのインタビューも掲載されており、いくつかの逸話を知ることができます。その中でも印象的なのが、ゴールドベルクとグラウダンがロサンゼルス郊外で迷子になった際のこと。このふたりが道を尋ねようとした人物が、近づいてみると、なんと文豪トーマス・マン。とても興味深い逸話なのですが、あえてここではこれ以上記すのはやめておきましょう(笑)。このやりとりに、フェスティヴァル四重奏団のキャラクターを窺うことができるのですが、やはりこれを読まれたい方には、是非この録音を購入して聞いていただきたいのです。第2番と第3番も絶品ですから。
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