「ほとぼりがさめたら」 

August 05 [Fri], 2011, 22:46
折句を取り入れて書いてみました。


By【傾向、彗星グリーン】



「ほとぼりがさめたら」


「星ヶ丘が紫色になったらまた会えるわよ」
とんかつ屋での一幕。整備課の壮行会で隣り合わせた彼女は、ロースカツをつまみにビールを飲んで、きっと悪酔いしていたに違いない。
僕にそう耳打ちしてくすくすと笑い転げた彼女は、やがて仲間と共に惑星探査に旅立った。
略称は星ヶ丘で通ずる。
G国の星ヶ丘島には同盟軍の大規模な保養所があり、長期任務に旅立つ前になると、同盟軍の兵士はそこで家族や恋人、同僚らと休暇を過ごす決まりになっている。
妻子に今生の別れを告げた者は任官式を経て、宇宙へ旅立つ。
冥土への地下通路と呼ばれているキリングワープを使って、ずっと遠く、もっと遠く、気が遠くなるくらい遠くまで行き、宇宙最果ての星を探すのが軍人である僕達の役目だ。
宝物を探している訳ではなく交流を求めているだけである、同盟軍の言い訳はこうだ。
ラジオから流れるプロパガンダに耳を傾けると、甘く色よい言葉しか使われていないけれど、僕達は知っている。
星ヶ丘が紫色に染まる瞬間が何を意味するのか。
「見て、綺麗な紫色よ」
彼女が旅立ったその日、透明な空を紫色の閃光が染めた。
母艦や戦闘機体が搭載した特殊な液体化学燃料が何らかの事故で漏れ出ると、宇宙線やデブリと反応して爆発し、その瞬間放たれる閃光は紫色にきらめいて、星ヶ丘島の上空で散り、降り注ぐ。
「素敵ね、何かしら」
道行く人がさざめいている。
彼らは最近此処を訪れたばかりなんだろう。
知らぬが仏とはよく言ったものだ。
星ヶ丘の空が紫色に染まる理由を知ることなく、保養を終えた彼らは一方通行の旅路を送り出されていく。
地球を離れる母艦は決して完璧な乗り物ではない。
長旅の合間に、母艦の内部で構造研究と改造を重ねてようやく生き延びられるくらいの性能だ。
軍は焦りすぎている、そして僕も。
僕の毒づきは彼女への弔いにもならないが、ほとぼりがさめたらまたあのとんかつ屋に行こう。
僕はそう思った。
星ヶ丘が紫色になったら会えるわよ、彼女が僕に言った戯れ事を信じた僕は、母艦に小さな戯れを施した。



-fin.-


P R
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