October 30 [Tue], 2007, 20:55
「……!」
青空
こんなにも穏やかに流れていく雲を見たことがあっただろうか
あぁ、自分には変化を告げる、あの夕暮れしか覚えがない

「おい、その桶はなんだ?」
視界を横切る影
見れば、随分と華奢な男が手桶を持って佇んでいるではないか
「あら、起きたの?」
つまらないわねと、何か不穏な一言
もれなく、なかなか目覚めない自分に浴びせようと思ったに違いない
「…?女…??」
その瞬間に、頭から冷水を浴びせられた
起き上がろうと、思っていただけに、かなりの痛手だ
「何か、見下した言い方だったわよ」
「すまない」
どう考えても、仕立ての良い背広と、こなされた所作は男のものだったし
何より目つきが男だ
こんな、ちぐはぐな女がどこにいると言うのだろう
それでも謝らなければいけない
そう感じてしまうのは、凛とした、施政者らしい物言い
「でも、この語が通じると言うなら、お前は日本人ね
どうして、人の家の庭先に倒れているのかしら」
「それは、俺も与り知らないことだ
それより、ここは…?」
あまり広くはないが、実直で勤勉な庭師に整備されただろう庭園
そして、日本家屋ではありえない、風体の家
「ここは南の国、果南(かなん)
それで、ここは巡都(じゅんと)の私の実家」
理解したか、そう言われるが、全く持って心当たりのある地名ではなく
逆に混乱を誘う
「果人(かじん)が、こんな場所に落ちるなんて、
お前は酷くひねくれている様ね」
良く分からないが、追い討ちの一言
どうして、こうなってしまったのか記憶を反芻しながら
現実逃避も試みる
「とにかく!
姓(かばね)持ちとして、お前を保護します
果人、名前は?」
面倒だが、必要なこと
弁えなければならないことは教えてやる
そう言われれば、何も知らない自分は従うしかない
「相原ユキ」
「ひねくれている割には、芸のない名前だな」
それは、自分を落ち込ませるには十分な一言だった

だから、この名前は嫌だったのだ

狭間 

October 29 [Mon], 2007, 21:01
赤紙が来た
そんなことは何と言うことはない
今までが平穏過ぎたのだ

学校を仮卒業して、茨城の研修訓練所へ
なまじ学歴が高かったのもあって、すぐに海軍中尉になれた

そんなことも、どうでも良い

上海からチンタオへ
ただ、お国の為に特攻する使命を抱えて

その使命も、特攻前夜に飛行場を爆撃されて潰えた

そこから、山口の下関へ
毎日、規則正しく、海に通い、一切の雑念も感情も混ぜず、
沖縄の本土決戦から流れてくる死体を拾い集める日々

あぁ、自分は何がしたいのだろう

真実、自分は何がしたかったのだろう

『日本は負けるのだな』
心の中で声を反芻する
所詮、日本は井の中の蛙だ

なまじ世界を知ってしまったが故に知る、苦悩

その時に知る、自分が守りたかった、帰りたかった場所

『難しいことばっかり考えて疲れない?』
水面に浮かぶ、少女・・・
生きている人間ではない
直感めいたものに、逃げの体勢を取る
『悩んでいるんでしょ?
だったら、もっと悩めば良いと思う
人の受け売りだけれど』
少女が手を差し出す
これが怨霊の類だとしたら、待っているのは苦痛の連鎖
しかし、その少女は、それとは思えなかった

『私を探して』
霞む、世界が歪んで何も見えなくなる
息苦しいのに、恍惚さえ覚える様な眩暈は何なのだろう?

※一部、祖父の実体験を交えて構成しました
P R
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