血眼になって

June 27 [Thu], 2013, 17:27
 宝石商(ほうせきしょう)は、この損(そん)をきっと償(つぐな)うだけの宝石(ほうせき)をもう一度(ど)、北(きた)の国(くに)へいって集(あつ)めてこなければならないと決心(けっしん)しました。彼(かれ)の頭(あたま)の中(なか)はそのことでいっぱいになりました。
 彼(かれ)は、昼(ひる)も夜(よる)も、ろくろく眠(ねむ)らずに、宝石(ほうせき)のことばかり考(かんが)えて北(きた)の国(くに)にやってきました。
 北(きた)の国(くに)は雪(ゆき)で真(ま)っ白(しろ)でありました。そして、寒(さむ)い風(かぜ)が吹(ふ)いていました。町(まち)から、町(まち)へと歩(ある)きましたが、一度(ど)、自分(じぶん)の歩(ある)いた町(まち)には、もう珍(めずら)しい宝石(ほうせき)は見(み)つかりませんでした。
 すると、宝石商(ほうせきしょう)は、いまさら、失(うしな)った赤(あか)・青(あお)・緑(みどり)・紫(むらさき)の宝石(ほうせき)が惜(お)しくてしかたがなかったのです。夜(よる)も外(そと)に立(た)って、そのことばかり考(かんが)えていました。
 このとき、青(あお)・赤(あか)・緑(みどり)・紫(むらさき)の宝石(ほうせき)が、夜(よ)の目(め)にも鮮(あざ)やかに、凍(こお)った雪(ゆき)の上(うえ)に糸(いと)につながれたまま落(お)ちていて輝(かがや)いているのです。彼(かれ)は、うれしさに胸(むね)がおどって、それを拾(ひろ)おうと駈(か)け出(だ)しました。すぐ目(め)の前(まえ)に落(お)ちていたと思(おも)った宝石(ほうせき)のくび飾(かざ)りは、いくらいっても距離(きょり)がありました。彼(かれ)は、血眼(ちまなこ)になって、ただそれを拾(ひろ)おうと雪(ゆき)の中(なか)を道(みち)のついていないところもかまわずに駈(か)け出(だ)したのでありました。そして、疲(つか)れて、目(め)がくらんでついに雪(ゆき)の野原(のはら)の中(なか)に倒(たお)れてしまいました。
 その夜(よ)は、いつになく空(そら)が晴(は)れていました。さえわたった大空(おおぞら)に、青(あお)・赤(あか)・緑(みどり)・紫(むらさき)の星(ほし)の光(ひかり)が、ちょうど宝石(ほうせき)のくび飾(かざ)りのごとく輝(かがや)いていたのであります。寒(さむ)い風(かぜ)は、悲(かな)しい歌(うた)をうたって雪(ゆき)の上(うえ)を吹(ふ)いて、木々(きぎ)のこずえは身震(みぶる)いをしました。永久(えいきゅう)に静(しず)かな北(きた)の国(くに)の野原(のはら)には、ただ波(なみ)の音(おと)が遠(とお)く聞(き)こえてくるばかりでありました。
 哀(あわ)れな宝石商(ほうせきしょう)は、ついに凍(こご)えて死(し)んでしまったのです。明(あ)くる朝(あさ)、野(の)のからすがその死骸(しがい)を発見(はっけん)しました。


大阪 晩飯
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