1/16(月)晴れ 

2006年01月17日(火) 22時17分
オレの名は「ChaO」。生まれは由緒正しいネコの貴族の出身だ。
といってもいろんなワケがあって、今では洋食屋をやっている一ノ瀬家の居候の身分だ。

名前の由来はこのオレの淡い茶色の毛皮を見て、一之瀬家の息子真司がつけたものだ。なかなかシャレた名前だろ?

一之瀬家はここら辺のネコのネットワークでも有名なお人よしの家族だ。さらに真司ってヤツはは「イイヒト」すぎると思う。まぁこんなヤツだから自然と周りには人が集まってくるのだろう。同級生の幸広やオレのお気に入り、友里嬢。そして真司の出来立て(?)の彼女(??)こずえ嬢。

これから、また物語が生まれそうなカンジだが、その前にオレがこの一ノ瀬家に来るまでの話をしよう。

オレは今2歳半。人間で言えば真司よりも年上なのかもしれない。実際に波乱万丈な2年半だったと思う。オレは親父からは、ネコの貴族たる証、魔法の力を。母親(といってもすでに顔は覚えていないが)から、この自慢の毛の色を授かった。といってもオレは(少なくとも母親の飼い主の人間からは)望まれて生まれてきたネコではない。その証拠にオレは一人で外を走り回れるようになった頃、あっさりと捨てられた。それまで待ってくれたのは、せめてもの情けというのだろうか。

そして親父と二人で落ち着ける場所を探して旅をするようになった。

1/15(日)晴れ 

2006年01月15日(日) 16時48分
昨日の雨は夕方にはやんで、夜には月が出ていた。雨で洗い流された空はいつも以上に澄んでいて青白い月の光に照らされた雲が足早に流れていた。

今日ようやく真司がうちにこずえ嬢を連れてきた。といってもデートの最中に寄っただけだが。なんでもこずえ嬢の読みたい本を真司が持っていたから、それを取りに来たらしい。その際にこずえ嬢も車から降りてきたのだ。白いコートとロングブーツ、薄い口紅、キレイに整えられた長い髪が強い風で吹かれて乱れているのを気にしている。なるほど、人間の女のコらしいカンジだ。友里嬢には失礼だがまるで別の人種のようだ。真司はこういう女が好みなのか。

「あ〜っ!このコがChaO?かわいい」
呼び捨てかよ。かわいいってのは、まぁその通りだが。
彼女がオレに近づいてきて頭をなでようとしたとき、オレは嫌な記憶がよみがえってきて、さっと身を引いた。

「私嫌われてる?」
「あれ、コイツそんな人見知りするほうじゃないんだけどなァ。」

確かにオレは人見知りしないし、別にこずえ嬢が嫌いなわけじゃない。正確にいうと、こずえ嬢の匂い、使っている香水が嫌いなのだ。

「ChaOは香水がダメなのかな?」
真司が言った。
「え〜残念だな。私この香水好きなんだけど。それじゃ触らせてもらえるのはまた今度ね。ChaO!」

真司とこずえ嬢はまた車に乗って出かけていった。二人には申し訳ないことをしたかな。

ただ・・・匂いは記憶と直結する。あの香水には嫌な思い出があるのだ。

これからしばらくは、昔の話をしようか・・・。

1/14(土)雨 

2006年01月14日(土) 12時16分
久しぶりの雨だ。乾いた地面に雨が染み込んでいく。オレは軒下の花壇の空いたスペースで丸くなった。濡れた毛は凍るように冷たくなっていた。

あとで聞いた話だが、今まで真司の家で飼われたネコというのは、みな特徴的な名前をつけられていたらしい。
灰色の毛のネコには『グレ』、真っ白なネコには『シロップ』、ふわふわの毛のネコは『シシ丸』。どれも考えるだけでも恐ろしい名前だ。確かにお世辞にもネーミングに関してはセンスがいいとは思えない。

「おい、カルボナーラ!」「ベーグル!」「タマ!」
「親父、こいつどれも気に入らないみたいだよ。コーンフレーク!・・・ダメか。」
当たり前だ。オレはネコの貴族だぞ!そんなコテコテの和風な名前や食べ物と一緒にされてたまるか。
「ねぇ、コイツ、オス、メス?」
親父さんがひょいとオレを抱きかかえた。おいッコラ!
「オス!」
「じゃあ毛の色をとって・・・チャオ、違うな?ChaOって言うのはどう?」真司が大声で言った。
おッ!ちょっといいゾ。洒落たカンジと若さがある。なによりネコくさくない響きが気に入った。
「コイツ、気に入ってくれたみたいだ。じゃあお前の名前は『ChaO』で決まりだ!」
親父さんの手からオレをとって同じ目線でにらめっこする。なんだ?コイツは。まるで昔からの友達みたいに馴れ馴れしい。

アレから1年半、真司は何も変っていない。今思えばアレが真司らしさなんだろうな。ただそんな真司を好きになってくれるヤツが現れた。オレにとってもうれしいことだった。

1/13(金)曇り 

2006年01月13日(金) 20時35分
久しぶりにどんよりした天気だ。こういう日は気が重くなる。がこんな天気のほうがあったかかったりもする。天気というのはオレ達以上に気まぐれだ。

しばらくして、親父さんがオレに向かって「カルボナーラ」と話しかけるようになった。不思議に思っていると、おふくろさんと口論を始めた。
「呼びにくいわよ。そんな名前。このコはネコらしく『タマ』でいいの!」「せっかくウチに来たんだ。洒落た名前がいいだろ。こいつカルボナーラが好きみたいだし、毛の色もそっくりじゃないか。」「毛の色でいうなら『ベーグル』なんてどう?「なんかイメージに合わないな」
どうやらオレの名前について話し合っているようだった。

ちょっと待ってくれ。確かにメシをくれるのはうれしいが、まだここに世話になるとは決めてない。しかも思いつく名前がどうもピンと来ないものばかりだ。オレがバツが悪くなってとっとと逃げようとしたとき、家の中からもう一人出てきた。真司だった。
「日曜の朝から何騒いでるんだよ。」
また新しいのがでてきた、と思って振り向いたオレと真司は目があった。
「あ〜ッ!こいつか。ウチに来たカルボナーラ好きのネコって。ホント、ふわっとしたきれいなベージュだね。砂糖をまぶしたコーンフレークみたい。」
げっ!コイツも食べ物の名前をつけようとしているのか?

そういえばあのサキ姐さんはこの家を紹介するときにこうも言っていた。

「店の味はいいんだよ。ただね、センスがないんだよね」と。

1/12(木)晴れ 

2006年01月12日(木) 20時13分
オレは毎日の散歩コースを決めている。今日はこっちで、明日はあっちと。陽気やその日の気分で変えることもあるが、決まった日に決まったコースを歩かないと、落ち着かない。他のネコは気まぐれで散歩しているらしい。こういったものごとをきっかりするのは、真司に似たのかもれない。

名前というのは大事だ。オレ達は自分達ネコ同士でで名前をつけることはしない。それがたとえ親兄弟であってもだ。なぜかって?そんなのは知らない。オレの生まれるずっと前、何代も前のご先祖様の時代からそう決まっているんだ。ただオレが思うにオレ達は昔から自分を大事にしてきた。勘違いしないでほしい。それは自分勝手に生きるという意味ではなく、「他者と共存していく中でも自分を見失わない」ということだ。
だから、共存していくことを選んだ相手がつけた名前であれば素直に受け入れる。ただし、もちろん名前をつけられる側の好みも聞いてほしいが。

そういった意味では真司のつけてくれた「ChaO」という名前は結構気に入っている。
が、この名に至るまでが、実は大変な道のりだったのだ。

オレがサキ姐さんから聞いてこの家に来たとき、オレは名無しだった。別に気にもしていなかったし、あの頃のオレは、一緒だった父親と別れ、この町に来たばかりで、そんなことより生きていくために必死だった。

オレを見つけたのは親父さんだった。親父さんは残りもののカルボナーラをオレにくれて、その食べっぷりを気に入ったらしい。次の日もその次の日もオレの姿を見つけると、急いで家の中からメシを持ってきてくれる。オレとしてみたら、とにかくただ腹が減っていただけだったが、正直うれしかった。人間なんてろくなヤツがいないと思い込んでいたからだ。

「とにかくあきれるくらいお人よしの人たちが集まった家なのさ」

サキ姐さんはそんなオレを見抜いてこの家を紹介してくれたのかもしれない。

この話の続きはまた明日にしよう。

1/11(水)晴れ 

2006年01月11日(水) 17時46分
相変わらず寒い日が続く。なんでも遠く離れた町では信じられないほどの雪が降っているらしい。食べるものも全部雪の下では、オレ達のような宿無しのネコは食事もできない。オレは遠く離れた仲間の無事を祈った。

真司についてもう少し話そうか。
真司というやつは言えばどんなやつなのか?と訊かれたらオレはこう答える。

・バカがつくくらいお人好し。
・「イイヒト」が服を着て歩いている。
・全てにおいて平均的

なんか冷たいことをいっているようだが、仕方がないのだ。

真司の長所と短所は紙一重なのだ。

たとえば、誰にでも優しすぎるのは、特別な優しさを与えられないから。
「イイヒト」も度をすぎると、周りに気を使いすぎて「自分」を見失う。
あと、身長・体重といった容姿も同い年の連中と比べて、平均すぎて、逆に特徴が無い。

少しくらいマイナスがあったほうが愛嬌があるというものだ。

友里嬢も言っていたが、しっかりしすぎてると入り込む隙がないのだと思う。オレから見ると、結構隙だらけな気もするが。もしかすると真司は特に婦女子の前では照れ屋なのかも知れない。

真司の日記B 

2006年01月10日(火) 23時27分
1/9(月)晴れ
昨日は朝からこずえちゃんとデートだ。前の日、電話で話していたら、二人と同じ映画を観たいって思っていた、ということで午前中に映画を観にいった。こういう何気ないところで気が合うのはうれしかった。連休だから混んでいるかと思ったけど、思ったよりも空いていた。
終わってからドライブしていると、街中で晴れ着の人を見かけた。今日成人式をやっているところも多いようだ。みんな携帯電話に向けてポーズをとっている。

「俺達のとき盛り上がったな。幸広は昼間から酔いつぶれてたよ。」
「あーっ、なんとなく想像できる。調子乗っちゃうタイプッぽいもんね。」
そう言ってくすっと笑う時に右手で唇をさわるのが、こずえちゃんのくせだった。
「いいなぁ、私ももう一度着たいな。でももう似合わないか。25歳だもん。晴れ着よりウエディングドレスとか着たいって考えちゃう。」
この一言にはどきッっとした。

彼女はときどきすごくこどもっぽくて、ときどきすごく大人だ。

1/10(火)晴れ 

2006年01月10日(火) 23時05分
真司は朝から元気に仕事に行った。一昨日のこずえ嬢とデートもバッチリだったようだ。とにかく最近の真司は調子がいい、というか活き活きしている。以前から明るいヤツではあったが、どこと無く頼りないというか、のほほんとしたカンジだった。今は心身ともに充実しているのが、周囲にも伝わってくる。

真司というのは不思議なヤツで、人間くさくない。いうなればオレ達に近い雰囲気を持ったヤツだと思う。
生きるために必死なのは、オレ達も人間も一緒だ。だが人間というヤツは適度な食事、ゆっくり眠ること、そして大事な誰かがいる、オレ達はそれだけで十分だと思っている。しかし人間にはそれだけでは満たされないこともいろいろとあるようだ。自分を良く見せたいとか、偉くなりたいとか。

それなのに真司は、そういうものをまるで欲しようとしない(もしかしたら本当はオレの知らないところでしているのかも知れないが、少なくともオレの前では感じさせない)。
理由はわかる、なんとなくだが。きっと不自由なく、お人よしの親父さんとお袋さんに育てられたから。っていうとなんかオレが惨めになる。でもきっといいことだと思う。
こういうヤツが多ければ、オレ達と人間の距離はもっと縮まるのに。

いけねぇ。どうもサキ姐さんのこと以来、オレは深く考えるようになりすぎているようだ。

さてもう寝るか。
昼間あったかいと夜の寒さが一段と辛い。

1/9(月)晴れ 

2006年01月09日(月) 22時58分
魔法を使った疲れはそう簡単には抜けない。まして今回はオレも感情的になりすぎた。オレも真司のことは言えないな。でもそれは恋愛感情というより憧れ、みたいなものか。

今夜はこの辺のネコの臨時の集まりがあった。
勝手気ままに生きてるように見えるオレ達だって仲間意識はある。そりゃ縄張りを荒らされたり、さかりの時期は争いごとが多いが、3月に一度はこんなふうに集まって情報の交換をする。結局誰だって一人(一匹?)では生きていけないのだ。
今日は例のサキ姐さんの事故の件での臨時の集まりだ。オレもサキ姐さんの最期を見た立場上、疲れた体を無理矢理押して出席した。
雄ネコに人気のあったサキ姐さんだったから、普段は厳つい顔のゲンさん(トラネコ、飼い主は大工)やキザなフラット(ピアノの先生のうちに暮らすアメリカンなんとかやつだ)も今日は「ぅお〜ん」と声を上げ嘆いている。そして「お前がサキを弔ってくれたんだってな。すかしたヤツだと思ってたが、いいヤツだよ。なんか困ったことがあったら俺ンとここいやッ」と言ってきた。ゲンさんの言い方はいつもストレートだ。褒められてるんだが、弱ってる今のオレにはちょっときつい。

「おい、坊主。疲れてるだろ、今日はもう帰っていいぞ!」

ブチ爺が言った。これには驚いた。オレはまたブチ爺の長話を聞かされるかと覚悟していたからだ。まぁいい。お言葉に甘えて帰らせてもらうとしよう。
そう思って振り返ったオレはもっと驚く言葉を耳にした。
「ChaO、ご苦労だった、ありがとよ。」
ブチ爺が初めてオレの名前を呼んだ。ただそのことに驚いて、そのあとの「ありがとよ」の意味が分からなかった。
その言葉の本当の意味が分かるのは、もう少しあとのことだった。

1/8(日)晴れ 

2006年01月08日(日) 22時01分
今日のオレは疲れている。そして機嫌が悪い。また真司がなにかやった、とかではない。真司は今朝こずえ嬢とのデートへ楽しそうに出かけた。そこまではオレも機嫌がよかったのだが。

今朝サキ姐さんが死んだ。車に轢かれて即死だったらしい。

サキ姐さんは、真司の家からちょっと離れたところにある居酒屋の飼い猫だ。シャムの血が入っているためか、しなっとしたスタイルで、オレより2歳ほど年上だというが落ち着いた物腰でもっと大人に見える。この町に迷い込んだオレに真司の家を教えてくれたのも彼女だった。だからオレは彼女には頭が上がらなかったし、彼女はオレを『坊や』と呼んではかわいがってくれた。

サテンのぬいぐるみのようなサキ姐さんが、さらに車に轢かれたり、他の連中の好奇の目にさらされないように、オレはありったけの魔法を使った。

不思議に思ったことはないか?

道の真ん中で轢かれたネコの亡骸がいつの間にかなくなっていた、なんてことあるだろ。
どこかの誰かがどこかに移した。それもあるかもしれないが、多くの人間はそんな親切じゃないだろ。
カラスに食べられた。それもあるだろうが、それでは世の中無情だと思わないか。

それはオレ達魔法が使えるネコが仲間の亡骸を丁寧に葬っているからだ。人間で言えば坊さんや神父さん、といったところだ。
だからオレは他のネコに疎まれていても、からまれたり町から追い出されたりしないのだ。どんなヤツだってせめて最後は安らかに死にたいと願うだろ。

車に轢かれて死ぬなんて、珍しいことじゃない。だけどオレはその度に怒りを覚える。この町で、この星で暮らしているのは人間ばかりじゃないんだと。

今日はもう体が動かない。それにもまして心が重い。
■プロフィール■
名前:ChaO
年齢:2歳半
家族:親とは気づいたらはぐれていたが、ネコ族のエリートの家系。現在は一ノ瀬家をメインの住家にしている。
特技:魔法★
CAUTION
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