猫開発物語@

December 29 [Wed], 2010, 22:13
 夏が終わりを告げ始めた9月の事だ。
「なんの為にギターがあるか考えてみたんだけど」
 長い髪が汗びいた首筋に鬱陶しいのか、フワっと右手でそれをかき上げながらmikiが言った。
「え?なにが?」
 ゴロゴロと布団の上でTVのリモコンを片手に、そしてスナック系の菓子をボリボリ食べながらいろはは尋ねた。
「いや、ほらギターあるじゃん。ここに」
「あるってゆーか拾ってきたんでしょーが、あんたが」
「拾ったとか言わないで!見つけたの!」
「は?一緒でしょそんなのどっちでも」
 鼻息をフンっと一つ吐いてまたいろははバリバリと菓子を食べながらTVに見入りだした。mikiはそれを見ながらギターを手に取りジャカジャカと弾き出した。
「あれ?なにあんた弾けんの?」
 いろはがキョトンとした顔で尋ねる。mikiは呆けたような声で
「え、超弾けるけど」
「なんで?」
「なんでって…さぁ?」
「…CM7…D」
 mikiの弾くギターを聞きながらいろはが呟く。
「…いろはちゃん、なんでコードわかんの?聞いただけで」
「…さぁ…なんでだろ」

 二人は気付いていなかった。いや、むしろ知る由もなかったのだ。今二人が居る空間が何故、現実空間なのか。どうして意思を持って喋っているのか。スナックをバリバリ食べてTV見ながらギターまで弾けるのは何故なのか。

 実は二人は捨て子だった。
 
 何に捨てられたかだと?そんなもん決まってるじゃねぇか。人間だよ人間。ボーカロイドというソフトに飽きてしまった人間がアンインストールして捨てたのだ。

 どんな因果か、何が原因か分からないが、アンインストールされた二人はPCから現実空間に放り出されたのだ。

「ねぇ、ちょっと歌ってみたくない?」
 mikiがいろはに尋ねる。
「うん…まぁ、別にいいけど」
 気の向くまま二人は渋谷の駅前に出かけた。人通りの中でmikiがギターを鳴らす。不思議と歌詞とメロディが二人の頭に浮かぶ。

 -なんだろう。なんか初めて歌う曲なのに体にこびりついてる感じ-

 アンインストール前に持ち主が彼女達に調教させたものだろうかね?もう歌える歌える。もはやウケるわ。はは。
 
 二人は駅前で名も無い曲を歌った。

 何度でも 嘘ついていいだなんて お前が言うから
 甘えてもいいだなんて 悪い癖だ 笑っちまうな

「miki、タイトルなんなのこの歌」
「さぁ?わかんない」
 そう、二人が歌い終わって喋っていると傍らから
「虚言癖とか、どうだろうか」
 1人の男が話しかけてきた。日も暮れてきた薄闇の中でグラサン。もう夏も終わったのにアロハシャツ。どういうセンスで選んだのかわからない妙な柄の短パン。あやしい。あやしすぎんだけどマジ。
「えーと…誰ですか?」
 mikiがぼそっと尋ねる。
「おれ?あーまぁ、通りすがりの音楽関係者」
「音楽関係者〜?」
 いろはが不審そうに訊く。
「そんなカッコで?」
「カッコ?んな変なカッコしてっかな。ナウいと思うんだけどなう」
「…うぜ」
 いろはの不審そうな態度をよそ目に男は名刺を取り出した。
「これこれ。ほらね、ホンモノホンモノ」
「こんなもん、誰だってつくれんだろが」
「まぁ、まぁ、いろはちゃん…」
 mikiがいろはをなだめるのを見ながら男は
「近々ね、オーディションあんの。事務所のね。君ら、受けなよイケるよ、うん」
「オーディション?」
「そそ。まーまた後日にでも連絡ちょんまげ」
「喋り方いちいちウゼェ」
「いろはちゃん…まぁまぁ」

 いろはの暴言を気にも留めず男は笑いながら去って行った。笑い方が気持ち悪かった。最悪だった。本当に気持ち悪くて仕方なかった。気持ち悪いなんてもんじゃなかった。もはやありえなかった。許せるレベルじゃなかった。

「オーディション受けてみようよ」
「は?」
 mikiの発言にいろはが驚く。
「あんたマジで言ってんの?」
「うん。なんかさ、人に聴いてもらいたいなーって。別にオーディションが嘘とかでもいいんだ。聴いてもらえれば」
「あー…」
 頭をボリボリかきながらいろはは言った。
「なんとなく…うん、わかる」
 mikiはいろはを見て笑いながら、いろはは何となく釈然としないといった様子で帰路に着いた。

 部屋に戻り、いやここで『え?部屋ってなに?なんで部屋とかあんの』とかいうツッコミはナシね。ナシナシ。
 部屋に戻った二人は自分達の目を疑った。どういう訳かピアノとタップシューズが置かれている。
「あんた、また拾ってきた?」
 いろはの問いにmikiはブンブンと首を振った。
「拾ってない…でも…なんだろ。あたし、たぶん弾ける」
「え?ピアノを?」
「うん。たぶん超弾ける」
「え?超弾けんの?」
「いろはちゃんも、ほらシューズ」
「…これってタップのシューズだよね…あれ?なんだろ。あたし、多分めっちゃ踏めるわタップ」
「ふふふ」
「は?なに?なんで笑ってんの?」
「いや〜、一緒だなーって思って」
 ニヤニヤするmikiを細い視線で見ながら
「…まぁ、いいわ。あ、そうだ。ねぇあたし達の名前なんにする?」
「名前?いろはちゃんはいろはちゃんでしょ」
「いや、そうじゃなくてグループ名ってゆーかユニット名よ。オーディションでるんでしょ」
「あー」
 mikiがピアノをポロンと奏でながら
「ねーいろはちゃんフルネームなんだっけ?」
「猫村いろは。あんたは?」
「開発コードmiki」
「…なにその名前。苗字?それ」
「そんなの知らないよう」
「だって開発コードって…」
「そうだ!二人の苗字あわさない?」
「え?なに苗字でいいのそれ?」
「うん」
「適当だな…」
「二人の苗字合わせてぇ…」
 mikiはそう言いながらパンと手を叩いた。
「猫開発ってどう?」
「ねこかいはつ〜?」
 いろははアゴに指を当てて数秒黙り
「うーん、まぁいいか」
「じゃ決まりね!」

 さて。こうして猫開発が誕生した訳で、まぁアレですよ。今後どうなっていくか楽しみですか?そうでもないですか。あぁ、そうですか。て事で二人はオーディションを受ける為にピアノとタップに挑むみたいっすね。どうなるか見ものですね。はは。

 


                                                                  続く
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