儒教とは何か

July 11 [Sat], 2015, 15:45
『儒教とは何か』
 加地伸行著
 中公新書
 初版:1990年

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 この書は儒教の宗教性について考察することに多くをおいている。

 ‘原儒’において、宗教性と礼教性(倫理や道徳規範)は一体不可分だったものが、時代が下り、‘原始儒家’になると、徐々に教えが整合化されて行き、礼教性が優位になっていく。儒は‘巫祝【ふしゅく】’(シャーマン)を示す語で、この儒は‘大儒’(孔子のいう‘君子儒’。『王朝の祭祀儀礼・古伝承の記録担当官と遠く関わりを持つ知識人系上層』)と‘小儒’(孔子のいう‘小人儒’。『祈祷や喪葬を担当するシャマン系下層』)に分かれ、徐々に前者がピックアップされることでそうなったらしい。

 儒は死後の説明として、魂魄の分離(死によって魂と肉体が別々になる)後、魂は天上に、魄は地下に行き、それぞれ残るものとする。魂魄を再び一致させれば当然死者は甦る理屈で、巫祝(シャーマン)が天上から魂を呼び戻し、肉体の方の魄は死者の頭蓋骨で代用し、生きた人間にかぶせてそれを通して言葉を聞く。だから死後の骨(頭蓋骨以外は埋葬するが)も魄の名残として大事にする。
 そういうところから死者の魂魄を大事に扱い、思う思想が連なっていくうち、自分に至る過去の祖霊全てを大事に祀るようになる。単なるシャーマニズムでなく、そうした祖霊崇拝の思想、体系こそに儒教の偉大さと独自性があると著者は説く。

 これを布教のため、中国人に受け入れやすいように仏教は取り入れた。本来仏教では成仏できるまで、死後輪廻転生を繰り返し、死者は他の何かに生まれ変わっていくはずが、この思想が中国人には受け入れられない。著者はこれを、生を苦とみなすインド人と、楽しいものであるとみなす北東アジア人の気質の違いからと説き、また現世利益を追求する中国人にとって不老長生を目指す道教の方が魅力的で、そちらに押されたため、仏教側は盂蘭盆【うらぼん】経などというものを中国側で偽作してまで、死後の魂を認め、それがひとえは 死後魂の実在+死後の世界=浄土の存在 というところにまで発展する。原始仏教に触れずに、中国側を通して輸入した日本にはこの儒教とハイブリッドされた仏教がそのまま本当の仏教であると勘違いして受け入れられ、儒教由来の祖霊崇拝をそのまま何の疑問もなく仏教のものであると考えて実行している。儒教側は儒教側で、こうして思想を曲げまでして布教をした仏教の隆盛に危機感を抱き、仏教を攻撃するため、死後の世界について語ることを批判し、魂の存在も認めなくなった(范シンが著名)。つまりここで儒教本来の内にあった宗教性は儒家自身によって否定され、礼教性優位独立が決定的になっていく。

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 原始仏教に興味持つ身としては、浄土という概念が仏教からどうしてできたのか疑問に思っていたので、これが儒教由来のものと知って驚いた。著者は日中韓の北東アジアを『儒教文化圏』と定義するが、上に引いた通り、日本人は儒教由来の思想を、仏教のものと誤解して行っている。前書きから少し引用していくと――

『仏教徒であるならば、その寺院の本堂中央に安置されている本尊をこそ拝むべきである。』
『個人の写真を仰ぎ、棺に向かって礼拝し、個人を思い、泣き、何回も香をつまんでは焼香し、(略)。本尊に対してはまったく素知らぬ顔で退場する』
『では、人々はなぜ棺を拝むのか。これは実は、仏教ではなくて儒教のマナーである。厳密に言えば儒式葬儀の一段階なのである』
――等々。

 厳密にいえば、釈迦本来の思想から、弟子たちによって体系された原始仏教の時点で、本来の仏教から離れているとはいえるが、それにしても儒教が加わることで仏教本来の思想は大きく捻じ曲げられたと言っていい。

 生きている以上社会習俗、様式にとらわれるので、それにいたずらに抗うのは愚かしいが、これは単純に興味深い。

 儒教について、この書では他にも多く述べられているが、最も問題意識を駆り立てられたところについて感想を述べてしまった…。特に江戸時代の朱子学の知識を通して、私も儒教(この場合は儒学だが)はガチガチの学問、思想体系と思っていたので、この書によってその先入観が多く溶解したことはありがたい。陰陽道やらとの関わりがどうかはちょっと把握しかねたが、それは今後他の書も読んで勉強していきます。
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