異邦の騎士7

November 19 [Fri], 2010, 4:34
8





最近、自分でも抑えられないくらい苛立っている事に気づいている。


『如月塔真と久我春樹の仲が親密』


という、噂が駆け抜けたのは2日前のこと。

根も葉もない噂だと一蹴することができなかったのは目の前の光景を目の当たりにしたからだ。


「春樹、今日も和食かい?」

「はぁ、まぁ、そっすね」

「じゃあ、俺もそうしようかな」

「はぁ」

「俺がトレイを持って行くから、春樹は席をとっていてくれるか?たぶん、葛原たちも来てると思うから」

「わかりました、ではカードを・・」

「いいよ。これくらい俺が払うから。春樹には感謝してもしきれないんだ」

「・・・そんなに大事だったんすか?あれ」

「――ああ。宝物だから」


塔真の切なくなるような儚い微笑に、周囲が息をのむ。

食堂での先輩後輩のただのワンシーンだが、出演者があの塔真となれば、周囲の生徒は放っておかない。
少しでも情報を得ようと、いつの間にか2人の周りに輪ができていた。

久我は輪を潜り抜けて、葛原たちのいる食堂内の一画に足を進めていった。
塔真が1人きりになったとたん、小柄な生徒が耐えきれず、といったように彼に話しかけた。


「あの!・・き、如月先輩。さっきの転校生とは・・・」


どういう関係なのですか?



皆が知りたいと思っていることだが、本人を目の前にして不躾な質問ができるほど、
生徒は彼に近しい人物ではない。
歯がゆい思いをしているのか、生徒の両の拳は固く握られ、震えていた。


「久我のことかな?俺の恩人だけど」

「恩人・・・ですか?」

「そう、大切なものを、見つけてくれたんだ」


そう言ってまた淡く微笑んだ。



大切なもの…。


義経はその言葉を聞いて息苦しさを覚えた。
塔真の大切なものに、久賀がそれを知ってることに酷く嫉妬したし、何も知らない自分に苛立ちを覚えた。
もっとも、自分に知る資格も無いのだが。

当事者は周囲の騒めきをものともせず真っ直ぐ食堂を突き抜けていく。


ーーーガシャン


食器の割れる音が響き渡り、周囲の一帯が息をのむ。

音を発した席を見ると小柄な生徒が座っていた。
義経も面識のある顔がそこにいる、塔真の親衛隊の幹部だった。

余計なことをと思ったが、咎める気にはならなかった。
向かいに座る浅木はちらりとこちらを見たが、食べかけの食事の消化に戻った。
自分の食事をぶちまけた生徒は席についたまま、久賀に声をかける。

苛立ちと嫉妬に焼かれた焦げ付いた瞳で、彼を見上げた。


「ごめんねぇ。虫がいたから驚いちゃって…掛かったかな?
大丈夫?」


明らかに久賀のシャツにはパスタのソースが掛かってオレンジに染まっていた。


「いや、見れば大丈夫じゃないのは解るだろ?…まさか、アンタ目が見えないとかか?だったら失言だった。すまん」

「・・・・はぁ!?」


被害者であるはずの久賀がそう言ってペコリと頭を下げた。
その姿勢に茶化そうとする空気は全く無い。

どうやら、彼の中で加害者の生徒は目が悪く、誤って食器を落としたのだろうという事になってるらしい。

恐ろしく自己完結でだ。

周囲はこの転校生の天然なのか分からない言動に唖然とした。




異邦の騎士6

November 19 [Fri], 2010, 4:30
6



「親衛隊会議」



という名のくだらない愚痴の言い合いに興味はなかったが、義経は敬愛する如月塔真の親衛隊長を務めており、会議に主席する義務がある。

学内の有名人、特に各科の総長や班長に憧れている者は多く、時には行き過ぎた行動をとることもある。それを未然に防ぎ、ファン同士を牽制しあう為、厳しい規則をおき、違反した者は厳しく罰せられる。

軍学校のという日々押さえつけられた環境に置かれ、特に黎明館は男子校である為、容姿のよい生徒は性のはけ口となることも多かった。
そのような生徒を救済するのも親衛隊の役目とされている。


スクリーンの前に立ち、目を血走らせて宣言する少年は宮城という葛原の親衛隊長だ。

転入生が誘惑しただのと騒いでいるが、実際下半身のだらしない彼の「夜のお誘いを」嬉々として受ける者を管理・監視、自らが参加するみだらさを棚に上げてよく言うと内心鼻で笑う。

あの葛原のことだ、大方あの緋色の瞳が気に入ったとかそんな事だろうと踏んでいる。
会議室の半数以上の生徒は似たり寄ったりの意見のはずだ。

「御三家」である如月塔真の親衛隊長である義経をはじめ、戦略科・医療科・支援科、総長の親衛隊長は宮城のことを冷めた目で見ている。

葛原は生徒から絶大な人気があるし人望も厚いが、孤児院出身であるというそれだけで「高級志向」の子息からは軽く見られがちだ。
彼らにしてみれば『気に入れば手当たり次第の悪食の葛原が拾い食いした』という程度のものなのだ。


「宮城っちぃ。葛原先輩わぁ、拾い食いしても大丈夫なタイプだと思うよ?
 この前も学食で3秒ルールとかっていってたしね!
 ホント見てて面白いよねぇ?宮城っちが夢中になるの分かるなぁ。ね、浅木?」


白けた空気を読んで義経は宮城に声をかけた。

馬鹿にしたつもりはない、思ったことを言っただけだったのだが、くすくすと周囲から失笑が起こり、余計な気を使われた本人は顔を真っ赤にして義経をにらんだ。

失敗したかなと舌をぺろりと出したら、左の席からたしなめる声がした。


「吉良、真剣な宮城を茶化すな。
 会議の内容は分かった。がこの程度で制裁に踏み切るなど、親衛隊の恥だ。我々は学生ではあるが、同時に軍席の身。軽はずみな行動は控えるべきだ・・・分かるな宮城?」

「浅木先輩・・・すみません。少し熱くなりすぎました。僕からは以上です」






「では、他に議題が無ければ解散。各自持ち場に戻れ」


浅木の凛とした声が会議室に響くと生徒たちが一斉に動き出す。
支持を出すことに慣れた、有無を言わせない雰囲気をこの男は持っている。

センター分けのさらりとした黒髪が日を反射し、蒼みを帯びていて綺麗だ。
流水のような涼やかな顔は戦争で伝統の途絶えた歌舞伎役者を思わせる。

実際、彼はその傍流の家系だったそうだ。

没落し、吉良工務店の社長秘書として慣れないスーツを着ることになった浅木の父親は彼そっくりで、どんな時でもその清廉さを失わず、決して媚びない。


とても綺麗だと思う。


ーーー踏みにじってやりたいと思うぐらいに。


「さぁすが、戦略科の優等生だね?あさぎぃ、皆お前に従っちゃうんだから」

「不用意な挑発は感心しない」

「だってさぁ、宮城って変だよ!葛原先輩なんてゲテモノ好きが良いなんて」

「・・・・同じ科の総代をそんな風にいうもんじゃない。先輩は尊敬に値する人物だよ」

「葛原先輩、この前の合同戦闘シュミレーションで俺の足踏んずけたんだよ? 痛かったなぁ・・・しかも『足手まといはすっ込んでろ!』だって!あははは!!」


葛原は気付いているのだろう、孤児院出の己が一部の上層階級から疎まれてることを。
彼もまた自分可愛さに媚びる事はしないから。

そして、義経が身体能力が劣るにもかかわらず、防衛科に在籍する理由
――如月が居るから。
ということに。

浅ましいと、思われているのだろう。


「あさぎ?足が痛いんだ・・・その五月蝿い口で慰めろ」


ふわりと小悪魔の顔をして、目の前の「友人」にお願いした。

絶対命令という名のもとに。


「・・・・・・・・・」

「少し生意気だったね?・・・正孝さんに言おうかな『浅木にいじめられた』って」


浅木が義経の前に搏く。

敬愛する父親が、こんな子供に頭を下げるのは、彼のプライドが許さないのだろう。


「ほんと・・・・・・・・・むかつく」


義経の白くて細い左の素足に口づけた浅木の背中を、靴を履いたままの右足で蹴った。





異邦の騎士5

November 19 [Fri], 2010, 4:24
5


琴線がいとも簡単に切れたきっかけは、夏前の雷雨とともにやってきた。


久我 春樹。


朝のテレビで送り梅雨だと小柄な女性キャスターが予報どおり、登校した時点ですでに、窓の外は薄暗い雲から閃光が走り、地を殴りつけるような激しい音が豪雨と相成り、不協和音を奏でていた。

久我はそんな歓迎されざるべき環境の中で門前でひとりぽつんと佇んでいたという。


防衛科総代である、葛原清明が同じ科の長として彼を迎えに行った。
傘もささずに佇む彼と接触し、何があったのか2人にしか分からなかったが、その時点で葛原は久我という少年を別格扱いしたのだ。



『防衛のヘッドが緋色の転校生に落ちた』



それは、貴族のような腹の探り合いが日常で、家柄や希少な能力で己の立ち位置を常にランク付けして安心していた(彼らのほとんどが純然たる能力主義の軍に属せば「腐抜けた士官」として歯牙にもかけられないという運命が待っているとは露とも知らない)者たちに激震が走った。

しごく平凡な容姿からアンバランスに彩る、人を魅了するような緋色の瞳が異彩を放つ。

笑えば少しは愛嬌のあると思われる顔はいつもつまらなさそうにしていたし、このひと月の能力検査では武闘・学術は可もなく、不可もなくというところであったが、要領がいいのか、戦闘サポートの技術は優秀だ。

久我春樹はその虹彩と人を見る目、動かす力を持ってはいたが、軍に入ってしまえばただの部隊長として配置されるだけの、ごく平均的な学生だった。


それがなぜ。


防衛のカリスマとして頂点に君臨する王者が。


なぜ。


どうして己ではないのか。


家系も、能力も、容姿でさえ己よりも劣るただの外部者。


この受け入れがたいスキャンダルに、葛原清明の親衛隊が動き出したのだ。

視聴覚室に集まった神妙な顔で座る少年達は大勢の信奉者を統制するための幹部たちだ。
作戦デモに使われる大型スクリーンの前で仁王立ちした少年が静寂を破った。

「皆も知ってのとおり転校生、久我について、葛原様に対する過度な接触、我々の度重なる警告無視に、そろそろ行動を持って本人に知らしめる必要があると思います。」

鈴のなるような変声期前の声が、完全防音の空間に唯一の音として発せられた。




黎明館には、防衛・戦略・医療・支援の4つの科を置いている。


防衛科はローゼンメイデンやディープネスを始めとする「世界の敵」に対抗するために各国軍の中でも戦闘に特化した戦士を育成する事を最大の目的としている為、校内で最も能力主義を謳っている。

英雄として名を残すのには最も近道だが、リスクが高すぎると金に物を言わせる親は少なく、在籍生徒の半数以上は一般家庭や施設あがりの子供達だ。

純粋に力や運、人間に元々備わっているスッペック次第で軍の上級士官に上り詰める事ができる為、野心家も多いが、脅威に家族を奪われた遺児が復讐、あるいはこれ以上の惨劇を止めたいという、切実な思いから入学する者も少なくない。

良くも悪くも人としての強い意志が宿る兵を現在率いるのは、現在防衛科総代・葛原清明(くずはら せいめい)という6期生だ。


度重なるブリーチでくすんだアッシュブロンドは仲間内から頭髪の将来を心配される程やわらかな猫毛で、めったに現れない朝の寮内の食堂に姿を表すときは、ふわふわとあちらこちらに寝癖を付けて来る。
本人も初めは自らの頭髪と戦うのだが、ものの数分で諦めてしまうらしい。

彼が髪をきちんとセットして登校する時は、数いる夜のお相手とよろしくやったのだと、生徒の間では暗黙の了解だった。

いつも眠そうにしている切れ長の目は漆黒で、戦闘と名のつくものであれば、たとえコンピューターシュミレーションであっても獲物を狙うようにぎらつく。
半径50m範囲の標的を、驚くべき脚力で捕食する姿を、生徒たちが敬意と畏怖を込めて呼ぶ「銀豹」という二つ名を持つ。
肉食獣を思わせるその生徒が牙を抜かれた小猫のようにおとなしく転校生の周りをうろちょろとするようになった。

実際は純粋に気の合う友人として認められたということだったのだが、この歪んだ習慣に慣れ切った生徒たちは、かつてはあったはずの「社会の常識」を失っていた。

それは軍が再び力を持ち、戦で血が流れる混沌とした世界が出した膿だ。



20年という短い月日で環境も人の心もこの状況に順応せざるを得なかったのだ。



それは進化なのか、退化だったのか考えようとする者はいない。




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November 19 [Fri], 2010, 3:40


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が!!・・・・なんだかエロくなって使いどころが・・・・・(笑)

異邦の騎士4

November 19 [Fri], 2010, 1:01
4



 一見すると討ちっぱなしコンクリートが無骨な印象を受けるが、繊細なデザイン理論の元に設計されている黎明館高校は最先端の研究施設のような外観を保つ。
その中の一室「視聴覚室」とプレートの付いた教室の中に10人ほどの少年が座っている。

吉良義経は長椅子の一つに座り空を見上げていた。



視聴覚室に集合が掛かるのは、校内の有力者や、生徒会等の親衛隊、その中でも幹部クラスの生徒たちが有事に話し合いの場を持つ時だ。
黎明館高校はかつて捨て去った「軍」という特殊な地位に就くべく設立されてはいるが、表向きは、有名公立男子校という仮面をかぶっている。


教室内に居る少年たちは皆、どこか育ちの良さが窺える。

プライドだけは高い、欲望にまみれた傲慢な子供たち。

心の中で悪態をつく自分こそ、その体現者だと思いなおし自嘲した。



義経の両親は、発光プラチナクスという特殊繊維を開発し、世界にその名を轟かせた。
この繊維はディープネスの体液に反応し発光する。かつ、融解度の非常に高い体液への耐性も高く、現在正式な標準軍装備に採用されている。
小さな職人だけの町工場だった吉良工務店のプラチナクスの特許は、戦争とともに復古した巨大財閥、「如月機関」の傘下におかれた。



男にしては女々しい笑い声に、グラウンドを見やると、小柄な少年たちが背の高い青年を取り囲んで談笑している。
どうやら、体育の授業中がちょうど終わったようで、少年たちが我先にと青年にタオルやウォーターボトルを渡しているようだ。

中心で静かに微笑む青年、如月塔真に取り入る為に。

その様子を見て、義経はギリ、と歯を食いしばった。


「如月さまに近づかないで・・・」


怨嗟のごとく、絞り出すような声で蛾のごとく群がる少年たちを見つめ、義経は呟いた。




如月塔真。


如月財閥の現総帥、嫡男の長男。

この黎明館においても絶大な権力をもつ。

学内の備品はすべて如月機関の製品で統一されていることかららも一族の影響力の強さがうかがえる。
学外のインフラ整備に関しても如月が一枚かんでいるのは確証のない真実だ。

サラサラとした黒髪を生ぬるい風になびかせたその涼しげな表情は作り物のように端正だが、いざ戦闘訓練となれば映画のワンシーンのように美しくも残虐な戦士の一面を見せる。

黎明館の英雄として矢面に立つ存在。

一方学内の彼は誰にでも分け隔てなく接する。


穏やかで、思慮深い。


完成された人間。


誰もが彼を欲しい。彼を知りたいと思っている。

義経もまた貪欲に彼を求めた。


だけれども、塔真はすべてを、平等に扱う。
まるで、精密機械工場の検品作業をするように、淀みなく確実に均一にする。
不良品は彼の中に存在しない。万が一あったとしても、予め誰かが排除する。

義経も彼の親衛隊として日常に行ってきたことだ。


誰も彼の特別になれない。


それは恐れ多いことだから。

誰も対等になどなれないのだから。



分かっているはずなのに、噛みしめた唇からはどす黒い感情をにじませた血が滲んだ。




異邦の騎士3

November 19 [Fri], 2010, 0:53
3



黎明館高校 12時


校内の中心にそびえ立つ時計塔のカリヨンが何時ものように生徒たちに次の行動を促す。
早々に教材を机に放り込んだ青年たちの今の話題は、昼の定食のおかずは何かとか、購買のオムそばパンは早く行かないと売り切れてしまうとか、年相応の素直な欲求に満ちたもので溢れかえった。
終礼もそこそこにガタガタと机を鳴らす彼らに苦笑しつつも進学校の学生であることに教師は自覚を持ってもらう為に釘をさす。


「お前ら〜!メシで浮かれるのはいいけど、満足して午後をお昼寝タイムにしやがったらその分俺が“僕たちの放課後★補習”でみっちり頑張ってもらうかんな〜」


学生用のジャージを着たこのクラス2-S担任の道長晴彦が名簿を片手に、食堂に向かう生徒の背中に大声をかける。

何時もと変わらないこの少し暑苦しい、いや、教育熱心な担任に吉良義経は苦笑する。


「先生ぇ、毎回そのだっさいネーミングなんとかなんないのぉ?なんか卑猥だし、わいせつで PTAにうったえるよ?」


自慢の蜜色をした、少し長い襟足を指でくるくるといじりながら上目づかいで棘をさす。
物騒な生徒の発言に、大げさに振り返った道長は頭2つ分は低い吉良を認めて顔をしかめる。


「吉良〜、卑猥ってなんだ、コラ!俺はいち教師としてこの黎明館の品格をだな〜」

「あ〜、はいはい。京都の明星とかすっごいお上品ってウワサだもんね〜」


吉良と呼ばれた少年は、小動物のように道長の周りをくるりと一回りし、また担任に上目づかいをした、ただし今度は小悪魔のような小馬鹿にしたような瞳で。


「でもさぁ、結局ボクらのほうが全然強いしぃ、士官学校は戦績がいかに優秀かでしょう?」


そう言って、吉良は攻撃的で艶やかな笑みを浮かべた。






国立黎明館高校



正式名称・国際同盟軍日本新宿支部士官養成所。


この学校は国内でも、優れた身体能力、知能に優れた青少年が集められ、将来軍上層部にて活躍を期待する人材を育てるのが目的として、国際軍事法の元に設立された士官学校だ。




20年前に、雪深い季節の北陸のとある地方で、突如原因不明の大爆発により、日本の国土の一部が消失した。
陸が消え、汚染された海からは専門家も未知の生物としか言いようのない異様な海洋生物が異常発生した。
この現象は世界で同時に起こり、未知の生物は人智を超えたスピードで進化を遂げ人類に牙を向く。

この世界的異常事態はある組織のテロと判明したのはその3年後。




真っ赤な飛行船を空母とするRozen Maiden(ローゼン・メイデン)という傭兵部隊が法外な金額で交渉の席に着いたことがきっかけだ。

異業種の殲滅と、汚染された人々の浄化。
そのための代償として彼らは金だけではなく「世界」そのものを要求してきた。
現在の科学技術では太刀打ちできない脅威に対して救世主が如く現れたのは、事態の根源そのもの、圧倒的な知恵と力を持った侵略者であった。

各国は金銭的な事情や、国民への威信をかけて断固としてその要求を阻止し、早急に「国際政府」を設立し軍・医療・研究部門を作った。
「ディープネス」と名付けられた異形は、あくまでも海から生まれたということから、早い段階で火や乾燥に弱い事が判明し、襲来には軍と名の変えた自衛隊が奮闘した。
一方で圧倒的な身体能力と魔術としか形容できない不思議な能力を持っているローゼンメイデンに対抗すべく、特殊な訓練を受けるため軍事学校が復活し、現在3つの拠点を置いている。

その一つが新宿に舎を構える黎明館高校だ。

新しい世代の子供たちを、自然の摂理に反し、研究対象として強引な進化を遂げさせ侵略者に対抗する唯一の盾と矛とした。

新世代の「英雄」を家系から輩出したいと、成金や、名のある由緒正しき一族までこぞって年頃の子息・子女を入学させた。





そして、どこか歪な「英雄」たちがこの学校には集まったのだ。


異邦の騎士2

November 19 [Fri], 2010, 0:48

2


少年の声は焦りと怒りに、足元が震えていた。

転校生は特定の生徒に接触しすぎた。

少年の敬愛する黎明館の「英雄」とも揶揄される程の人物だ。
些細な彼の行動に周囲は一挙一動する。

生徒の規範となり対外的なプロパガンダとして、感情を完璧に自制することのできるかのように思われていた彼への自分勝手な思い込みが、昨日脆く崩れ去ったのだ。



演習で意図的に狙われた転校生を庇い負傷したのだ。


普段穏やかな姿勢を崩さない彼からは想像もつかない激昂ぶりで、周囲に転入生への執着を見せつけた。


その時の様子を思い出した少年は一気に殺気だつ事を抑えられなかった。


本当に消えてしまえばいいと思った。


張り付いていたような足を引き剥がせば、次の行動は早かった。


一気に転校生のいるフェンスへ走り出し、自分の体ごと叩きつけた。


錆びついた金網からこぼれる燃えるような赤が目にしみる。


この赤が目の前の男の緋色の瞳に燃え移り、焼き尽くしてくれればどんなにいいかと、恐ろしい思考を、転校生の声が遮った。



「待っていた。この時を」


「君を。彼を」


「歯車がが動き出す」


緋色の瞳を持つ転校生はパーティーに行くかのような浮かれた声色で少年に甘く、囁く。



悪魔のように。


「彼って…何言って…っ!?」


本能的な防衛反応で後ずさったが、少年は腕を掴まれてしまった。
転校生を背にしていたフェンスの一部が、酸でもかけられたようにしゅわり、と、溶けて消えた。


優しく腕が惹かれる。


震えた足が屋上の縁にたどり着く。




ふわり。



「さあ、全ての始まりは此処に!!」



高らかに宣言した転校生と少年は屋上から中に舞った。



ふわり



――ああ。



消えるのは、自分だったのか。


少年の意識は緋色の瞳に取り込まれていった。




異邦の騎士1

November 19 [Fri], 2010, 0:38
黎明館高校18:00


黎明館高校屋上  


「お前なんかいなくなればいい!」


少年なのか少女なのか判別がつかない中世的な声が、春とはいえ日が傾けばまだ十分冷え込む空気に突き刺さる。

子供の癇癪のような言葉を発したのは、小柄な人影。

此処が都内でも有数な進学校、黎明館高校の屋上ということから、彼は此処の生徒か関係者なのだろう。
彼、と断定したのはここが男子校だからだ。

彼が敵意をむき出しにしていた先にもう一人の人影。

フェンスに凭れたシルエットは余裕さえ感じさせるように、音もない世界のなかに輝く夕焼けを見上げている。

空に浮かぶのが満月であれば、さながら伝承の獣のような神秘的な雰囲気さえある。


何時もの「転校生」ではない。



しかし頭に血が上った彼は、そのことに気づかない。


「ねぇっ!聞いてるの!?」


彼は相手の己の存在など忘れたかのような沈黙に焦れて足踏みをし喚きたてた。
そのシルエットは第三者が見れば恋人の浮気を糾弾する女とも、玩具売り場を前にして駄々をこねる子供のようでもあり、場違いで、酷く滑稽に映っただろう。

だが屋上には夕焼けに伸びた人影が二つのみ。

嘲笑する者は誰もいない。

もっとも、他者が居たとして、彼に対してそのような行為が許されるかは疑問だ。
彼はこの男ばかりの学内で飛び抜けて美しい容姿を持っていた。
滑稽な話だが、近隣女子高の生徒よりも可憐で繊細なその造作は思春期の青年たちの性へのベクトルを歪に歪めてしまったようで、自ら「親衛隊」を名乗り、彼を聖女のように崇めた。

「親衛隊」の存在を認め、そして彼自身も生徒会の「親衛隊」として憧れる存在があった。
傍にいるだけで幸せだった時間がある時、1人の人間によって壊されたのだ。


正面に悠々と立つ陰、「転校生」によって。




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