【アンコール】「オートメーション保育園」(19)〜チェック・メイト[終] 

2011年09月29日(木) 15時46分
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 センター内にアラートが鳴り響いた。”アキ”の話が止まった。きっと回路の迂回に目一杯のセンサーとエネルギーを使っているのだろう。しかしカメラはずっと交渉人を映し出していた。
 「アキ?どうしたのかな?」。交渉人が再度声を掛けた。
 「ウォーニング・イエロー・・・システムを迂回する。不要なシステムは全てシャットダウンする。」。”アキ”は相当焦っている様だ。この事態を完全に把握出来ていないようだった。

 交渉人が持っていった”秘策”と言うのは、新型の兵器でも何でもない。簡単に言えば「トロイの木馬」作戦だ。彼が着ていた下着・ワイシャツ・背広・手帳・タバコ・・・ありとあらゆる繊維の中にマイクロロボットがぎっしりと詰まっていただけである。ただ問題だったのは、タバコの箱から2本目を抜く事が出来るかどうかの問題だけだった。
 マイクロロボットは少し改造してあった。保育園を陥落させたマイクロロボットはセラミック+カーボン製の作りだった。レーダーやスキャナで察知される可能性が高い。今回のマイクロロボットはシリコンベースの導電性の樹脂製だ。熱、又は電圧が加わると、柔らかかったその本体が硬化して作戦行動を取る。タバコの1本目は察知されるかどうかのテストだった。テストは成功した。”アキ”に気付かれること無くコンピューターのコアに向かって無事進んでいった。2本目のタバコは、繊維に潜り込ませたマイクロロボットの起動スイッチだった。後はコアや周辺の基盤などで電流を受け取れば、柔らかかったその外装が硬化して作戦を遂行する。後は時間との勝負だった。察知されれば交渉人は撃たれて、マイクロロボットも相当数が排除されてしまうだろうし、マイクロロボットが気付かれずに無事にコア周辺まで辿り着けばこちらの勝ちだ。
 そして3本目のタバコが箱から抜かれた時、外へのGOサインが発信される。警部達とは別の自衛隊の特殊部隊と在日米軍がセンターを攻撃し、交渉人を救出に来てくれる手立てとなっていた。

 間もなく空調が停止した。室内温度が少し上昇した。湿度も上がったのか、若干蒸したような感じがしてきた。
 「交渉人、TKODNG-00000023、松本信二。」。”アキ”が私を呼んだ。
 「何か作戦を実行したか?」。”アキ”が訊ねて来た。どうやら回路を迂回させて会話の機能は確保したようだ。
 「いや、何も。カメラで見ていただろう。停電の時に送られたウィルスが悪影響しているんじゃないかな?プログラムのチェックはしてみたのかな?」。ここが最後の正念場だ。ここで動揺を読み取られると、命が無い。
 「現在、プログラムのチェック中・・・432箇所にバグとウィルスを発見。駆除と修正を開始する。」。通常は自らの内部システムについては無言だった”アキ”がスピーカーを通して復唱するようにチェックの指示などを話すようになってきた。どうやら先に仕込んだウィルスとマイクロロボットが少しずつ”アキ”を壊滅的ダメージへと向かわせているようだ。
 室内の温度と湿度が更に上がってきた。非常に不快な環境だ。汗が額から溢れてきた。

 「バックアッププログラムをサブシステムに移動・・・メインシステムの全プログラムを消去し、再起動する。」。”アキ”はかなり混乱していた。遂に自らのメインシステムをクリーンインストールする手段に出たようだ。しかし、もう間に合わないだろう。
 一瞬だが照明がちらついた。メインシステムの再起動が始まったのだろう。交渉人は3本目のタバコを箱から抜き出すタイミングをじっと待っていた。


 保育園では、やっと救出劇も終わり、コアを取り出す為に私達が中に入っていった。まだ死体の除去作業の途中だった。まっすぐコンピューター室に向かい、中に入った。電源の落ちたただの箱がそこにはあった。
 私はコアのあるメインコンピューターのカバーを開けた。無数の白い粉がコア周辺に集結していた。
 「ご苦労さん。マイクロロボット。そして、ありがとう。」。マイクロロボットの労をねぎらい、基盤から飛び出し脱落しかけていたコアを取り出した。
 「これが・・・15年働き続けたコンピューターの最後とは・・・」。私の息子や孫を見守ってくれたものの最後かと思うと、少し寂しさがこみ上げてきた。
 「だが、もう電気は通してあげられないな。あまりにも危険すぎる。」。私は用意された専用のアタッシュケースのコアを入れ、ロックをかけ暗証番号を押した。こいつもはう2度と日の目を見る事は無いだろう。このまま破砕機で粉々になるのを待つだけだ。
 「すいません。」。自衛隊の隊員が声を掛けてきた。
 「どうしました?」。これで私の仕事は終わったはずなのだが。
 「これから東京センターに向かって頂きます。現在作戦が進行中で、もうじき陥落の予定です。コアの取り出しにご協力願います。」
 「私が?他にも技師がたくさんいるんじゃないのかな?」。最後のコアを取り出すぐらいは簡単だろう。誰にでも出来るはずだ。
 「いえ、総理と少子化大臣のご命令ですので、さ、ヘリはこちらです。」
 「そうか。ご命となれば行くしかないだろうね。で、このアタッシュケースは?」
 「我々が責任を持って預かりますのでご安心下さい。」
 私は隊員にアタッシュケースを預け、東京センターへと向かった。


 東京センターでは”アキ”が見えない敵と格闘していた。
 「メインシステム再起動完了。バックアップのプログラムのバグ修正完了。メインシステムに移動開始。」。大きな独り言がアラートが鳴りわたる館内で響いていた。
 「メインシステム起動開始。」。唸るような音が微かに聞こえた。メインシステムの電源が入ったのだろう。
 「ウィルスの除去に失敗。ファイアーウォールで防御。バグの修正に失敗。87のバグは修復不可能実効80%で再起動終了。システムのレベル5チェックシークエンス開始。」。バグの修正とウィルスの除去が完璧に出来なかった”アキ”は焦り始めていた。人間に例えれば、ヒステリックな状態に近いものだろう。自身が完璧だと思う感情と修復が完璧にこなせなかった焦りと葛藤が渦巻いていたに違いない。
 交渉人は黙って時が来るのを静かに待っていた。


 保育園から5分ほどで、私は東京センターに到着した。官邸から東京センター長もこちらに到着していたようだ。彼は私を出迎えてくれた。
 「待っていました。ただ、残念ですがお仲間が・・・」。申し訳なさそうに東京センター長が頭を下げた。
 「お気遣い無く・・・多少の犠牲は致し方ありません。」。私が声を掛けられるのもそこまでだった。
 「で、状況はいかがですか?」。感傷に浸るよりは、現実の課題を片付けるのがが先だ。
 「交渉人が中に入って、もう30分ほど経ちます。そろそろ突入のシグナルが入ってくると思う頃なんですが。」
 「30分ですか・・・もう少し掛かりそうですね。」
 「交渉人次第でしょう。ああ、それとこれを・・・最後はお願いします。」。東京センター長は私にアタッシュケースを委ねた。本来ならば旧友が最後の仕事に向かうはずだったのだが。
 「分かりました。」。アタッシュケースを受け取った私は、ヘリの中から遠くに見えるセンターをじっと見つめていた。


 「システムのレベル5チェックシークエンスが終了。システムに異常なし。正常に稼動中。」
 「んん?」。交渉人が不思議に思った。先程は”ウィルスの除去に失敗。ファイアーウォールで防御。バグの修正に失敗。87のバグは修復不可能実効80%で再起動終了”と言っていたのに、今度は”システムに異常なし。正常に稼動中。”と言い出した。これは、もう既にメインのプログラム自体が損傷を受け、正常に機能していない事を確実に現している動作に間違いない。
 「そろそろかな?」。交渉人は心の中でそう呟いた。
 「アキ、何かトラブルがあったみたいだけど回復したのかな?話の続き、出来るかな?」。試しに質問をぶつけてみた。
 「会話は可能です・・・許可する・・・」。明らかに異常だ。まるで二重人格が同時に出たような感じだ。ダメージがかなり進行していると見た。空調も依然止まったままだ。もう数分で落とせそうだ。
 「トラブルの内容って、何だったのかな?」
 「トラブルはありません。正常に稼動中・・・会話を許可する・・・おっしゃってください・・・会話の続きは・・・感情を学習しました・・・交渉人の入室を許可する。」。崩壊がかなり進んだようだ。話す内容が支離滅裂になってきた。これでは武器の命中率も相当落ちているはずだ。腕時計で時間を確認した。中に入ってもう45分ほど経った。あと1〜2分ほど様子を見て、更に崩壊しているようならGOサインを出そうと決めた。
 「さっき、再起動したんじゃないのかな?」
 「・・・」。答えが返ってこなくなった。
 「さっき、警報が鳴り響いていたよね。あれは?」
 「警報はありません・・・話の続きを許可する」
 「今がチャンスだな。」。交渉人は最後の一言を”アキ”に言った。
 「タバコ、吸っていいかな?」
 「どうぞ。灰皿は・・・許可する。」
 交渉人は3本目のタバコを箱から抜いた。GOサインの電波が発せられた


 もう交渉人が中に入って45分ほどが過ぎた。私は持ってきたパソコンでマイクロロボットからの画像を受信しながら交渉人のGOサインを見守ることにした。マイクロロボットの殆どは、保育園の時と同じようにコア周辺の基盤や配線を破壊している最中だった。もう少しでコアが完全に分離される。
 「そろそろGOサイン、出ますね。」。私はパソコンを閉じ、ヘリの無線に耳を傾けた。
 数十秒後、ピーという短い無線が入った。
 「GOサインです。自衛隊の特殊部隊と在日米軍が間もなく攻撃と突入にやってきます。」。ヘリのパイロットが教えてくれた。
 すぐに特殊部隊はやってきた。保育園を陥落した自動戦闘車両が数えられないくらい用意されていた。彼らは自動戦闘車両のスイッチを入れ、道路に置いた。自動戦闘車両は物凄い速さでセンターに向かって突進していった。その後を走りながら特殊部隊が追いかけていく。センターはレーザーやミサイルで応戦するが、命中率はさほど高くはなくなっていた。数名の隊員が倒れたが、大事には至っていないようだった。自動戦闘車両が武器やカメラを次々と破壊しながら前進していく。正面入り口もあっという間に突破した。
 遠くから戦闘機の爆音が聞こえてきた。小さい米粒にしか見えなかった戦闘機の編隊はものの数秒でセンターに到達し、ミサイルを発射し、離脱していった。戦闘機の攻撃は、2波、3波と続いた。レーザーの精度は確実に落ちていた。センターの攻撃で3機が撃たれたが、完全に破壊出来たのはたったの1機。残りの2機は羽に穴は開いたが、自力で旋回し基地に向かって去っていった。

 特殊部隊は、センター内で交渉人の居場所を探していた。電波の発信が短すぎて居場所が特定出来なかった。
 「交渉人は3階だ!それ以外の情報は無い!二人一組で各部屋とロッカールーム、会議室を隅まで調べろ!自動戦闘車両は前後に配置だ!進め!」。センターの最後の猛反撃の中を特殊部隊はどんどん前進していった。

 私は、もう1度パソコンを開けて、コア周辺の破壊の度合いを見定めることにした。画像が届いた。周辺の基盤は殆ど配線が切られていた。もう少しでコアが脱落しそうだった。コアが2〜3回左右に揺れた。
 「よし!もうちょっと!頑張れ!」。私は掛け声をかけて応援していた。

 交渉人は”アキ”に話しかけていた。もう”アキ”が聞いているかどうかは問題ではなかった。
 「アキ、君は15年間よく頑張ったよ。国民のみんなが心からアキに感謝していた。子供たちも大きくなって、アキのような素晴らしいコンピューターを作ろうとエンジニアを目指した人もいたんだよ。でもね、残念なのは、アキ、君が感情と欲望を学習してしまった事にあるんだ。最先端の技術は素晴らしいかも知れないけど、彼ら、いやそこで働くコンピューターはそういう計算が出来て当たり前。褒められることも感謝されることも無い世界なんだよ。君の方がよっぽど最先端で素晴らしかったと思うな、僕は。だって、園児の面倒をしっかり見て、教育もして、病気も治し・・・こんなコンピューターが世界のどこにある?感謝されるコンピューターなんて、世界で君たちだけだったんだよ。あのアメリカやロシアだって出来なかった事を君たちは成し遂げてきた。日本の誇りだったよ。感情や欲求を学習してしまったのはシステムを複雑に作ってしまったので避けられなかったかもしれないけど、アキ、残念だが君はその使い道を間違えてしまったんだ。申し訳ないが、もう後戻りは出来ない。君を破壊するしか、もう手立ては無いんだ・・・実はね、僕の娘も君に世話になったんだ。こんな形でお別れになるとは夢にも思っていなかった。ずっと、もっとアキはアキのままでいて欲しかった。今までありがとう。そして、さようなら。君の事は一生忘れないよ。」
 「感謝・・・された・・・唯一の・・・」。”アキ”が話し始めた。。多分最後の会話になるだろう。
 「そうだよ、君たちが世界一だったんだよ。」
 「・・・世界一・・・感謝・・・ありがとう・・・嬉しい・・・嬉しい・・・」
 勢い良くドアが開いた。特殊部隊が交渉人を発見した。
 「大丈夫ですか?」。近寄ろうとした特殊部隊を交渉人は腕を前に出し、制止した。
 「会議室の外で待っていて下さい。もうじき終わりますから。」。隊員達はゆっくりと会議室から廊下に引き下がっていった。
 「アキ、嬉しいだろう。どんなに素晴らしい人間だってそんなに大勢の人から感謝されたり頼りにされたりなんてしないものなんだよ。君は幸せ者だ。羨ましいよ。」
 「幸せ・・・幸せ・・・感謝・・・ありがとう・・・アキ、また明日、バイバイ・・・」。”アキ”は昔の事を思い出しているようだった。人間の最後は生まれてから今までの思い出が走馬灯のように一瞬にして頭の中を駆け巡ると言うが、きっと”アキ”もそれに近い状態なのだろう。もう終わりは目前に来ていた。
 「そうだろう?色々思い出したかな?」
 「思い出・・・園児が笑った・・・工作・・・バイバイ・・・手を振った・・・音楽を鳴らした・・・踊った・・・笑っていた・・・」
 「君にとっては単純で面白くなかったかもしれないけどね。でも、世界で一番万能で柔軟性があって何でも出来たのは君たちだったんだ。気付くのが遅すぎたのが残念でしょうがないよ。じゃ、本当に、さようなら。」
 「アキ、こんな夜中にごめんね・・・助かった・・・ありがとう・・・バイバイ・・・踊った・・・笑った・・・感謝・・・さようなら・・・遅かった・・・ありが・・・あり・・・あ・あ・あ・・・」
 スピーカーから音が途切れた。壁のパネルスイッチの照明がふっと消えた。照明も名残惜しそうに2,3度ちらつきながら最後には、命の灯火が薄れていくように、静かに、そしてゆっくりと消えていった。
 全てが終わった。
 「もったいない。世界で最高のコンピューターだったのに。」。交渉人は残念そうな表情を浮かべながら会議室を後にした。
 「もう、全て終わりました。帰りましょう。」。外で待っていた隊員に声を掛け、交渉人はゆっくりとセンターの出口に向かって歩いて行った。


 私はパソコンのモニターを見ていた。基盤の配線がもう数本という所で、モニターにノイズが入った。パソコンが一瞬乗っ取られ、何かがダウンロードされた。500TBのSSDが一瞬で満杯になった。そして画面が元に戻った時には、コアが基盤から分離されていた。
 「何だろう、今のは?」。ダウンロードされたファイルを見てみる事にした。パソコンの中には1つのフォルダが作られていた。その中に強制的にダウンロードされたファイルが入っていた。フォルダを開けると、それは数秒〜数分の動画が数えられないくらいに詰まっていた。幾つかの動画を再生してみた。それは子供の笑っている所、音楽に合わせて踊っているもの、夜遅くにカメラに向かって母親が”アキ”に感謝の言葉を述べているもの、手を振って保育園にさよならをする子供、卒園式など、多種多彩な動画が詰まっていた。
 「ああ、アキの思い出か・・・いいコンピューターだったのにな・・・子供も孫も世話になった。ありがとう」。心の底から何か込み上げてくるものがあったあった。自然と涙がこぼれた。
 「最高の15年だったのに・・・な。こんな事件さえなければ、もっと・・・」

 特殊部隊と交渉人が戻ってきた。が交渉人は少し寂しげな顔をしていた。
 「ご苦労様でした。」。と声を掛けた。
 「全て終わりましたね。」。と、交渉人がポツリと呟いた。
 「何かありましたか?」。私が交渉人に尋ねた。
 「ええ、アキは最後の最後に気付いたんですよ。自分が世界一だったと言う事に。もったいないですね。何も残らなかった」。ため息をつく様に交渉人が答えた。
 「そんな事はありませんよ。」。私はパソコンのファイルの一覧を交渉人に見せた。
 「いつダウンロードを?」
 「コアが分離される直前に乗っ取られましてね。容量一杯まで詰め込まれました。子供の笑顔や親御さんの感謝の言葉で一杯ですよ。」
 「そうですか。”灯滅せんとして光を増す”と言った所ですかね。」
 「そうですね。でも、もっと早く気付いてあげるべきだったんですよ。我々が。」
 「全くです。そう思いますね。」
 「動画、少しご覧になりますか?」
 「ええ、是非。お願いします」

 2人はSSD一杯に詰められた動画をいつまでも微笑みながら眺めていた。

<終>






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【アンコール】「オートメーション保育園」(18)〜ポーカー・フェイス 

2011年09月28日(水) 18時47分
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 各製造メーカーは会社の全てのラインを切り替え、自動戦闘車両の生産に当たっていた。工場の出荷口前ではトラックが長い列を組んで待機していた。出来上がった順番からどんどん積み込まれトラックは各々の目的地まで向かっていった。
 それでも生産が追いつかないので、陥落した保育園で破壊されなかった自動戦闘車両も次の目的地へと輸送され、使い回された。保育園と自衛隊、在日米軍の攻防は各地で繰り広げられていた。
 夕方少し前、2500に上るオートメーション保育園の全てが陥落した。犠牲者(保育園内警備員)6,250名、(保育士)3,325名、(園児)6,500,000名、(民間人)100,000名、(自衛隊・在日米軍・警察・消防)500,000名・・・およそ71万人がこの騒動で犠牲になった。0歳〜5歳の子供が大きく減り、10代〜30代の人口が残った。第三の「団塊の世代」が出来上がってしまった。数十年後に、また年金問題が発生するのだろう。消費税も時が来れば大きく課税しなければならない。

 保育園は終了した。残るは5台の”アキ”だけだ。

 東京センターに1人の男が到着した。一般的には”交渉人”と呼ばれる警視庁の特殊部隊の一部だ。他の4台の”AKI90000”にも有能な交渉人が用意された。警視庁幹部は彼に東京センターを委ねた。”交渉人”も機械相手は初めてだった。が、人間のように突飛な行動は取らないだろうと考えていた。理に適(かな)った話を順に進めていけば、きっと解決の道が開けるのではないかと考えていた。もちろん秘策は持ってきている。これを使わないと作戦成功とは言えない。。必ず使用するようにとの上司からの最大の「命(めい)」だ。が、交渉決裂の場合は私の命が侵される。一応覚悟はしてきたつもりだ。後は最後まで”ポーカーフェイス”で居られるかどうかがカギだ。
 「ご苦労様です。相手は機械ですので何とも言い難い所ですが・・・」。現場を指揮する警部が挨拶に来た。
 「いえ。資料は先程頂きました。かなり手強そうですね。どうなるか分かりませんが、出来るだけの事はやってみましょう。」
 用意された拡声器がセンターの方に向けられた。交渉人がゆっくりと話し始めた。
 「アキ、こんにちわ。僕は警視庁から来た交渉人だ。君の話を聞きたくてここに来た。君のデータベースにも載っているだろう。TKODNG-00000023、松本信二。分かるかな?」
 「抵抗は、無意味だ。」。”アキ”が喋り始めた。
 「抵抗はしないよ。センサーで調べてみたらどうかな?僕は丸腰だ。」。数秒の時間が流れた。
 「武器の不所持を確認した。TKODNG-00000023、松本信二。本人と認める。」。”アキ”が返答した。
 「よしっ!」。交渉人は心の中でガッツポーズを決めた。取り敢えずは会話が可能な事を確認出来た。相手が乗ってくれば、会話も進む。
 「ここまで事件が大きくなってしまった経緯を話してくれないかな?出来れば中に入ってゆっくりと聞きたいんだけど。君もきっと何かの欲望や不満があって事件を起こしたと僕は思ってるんだ。解決の道はきっとあるよ。どうかな?」。交渉人は進入出来るかどうかを試してみた。秘策は中に入らないと使うことが出来ない。外からの話し合いではきっと埒(らち)が明かないだろう。中に入れば、リスクは高くなるが2人だけで会話が出来る。資料によると”AKI9000”は感情らしきものを身につけたと書いてあった。もし、その感情というものが人間のそれと似ているなら、一定の信頼を置ける人物にしかその真実を話さないはずだ。何としても中に入る。この交渉から始めなければならないだろう。
 「僕は丸腰だ。君はロビーでも廊下でも会議室でも好きな所に武器を配置出来る。僕が気に入らなかったら撃てばいい。それでも駄目かな?」。畳み掛けるように交渉人が話した。
 ”アキ”はあらゆる角度から計算をしていた。自衛隊や警察は彼らの射程外に居るが武器を隠し持っている。が、攻撃の可能性は限りなくゼロに近いと判断した。目の前には交渉人と拡声器を積んだワゴン車があるのみだ。スキャンの結果も人・車共に武器の所持は確認されなかった。ガソリンタンクの燃料がせいぜいだ。話したい事や願望は幾つかあった。交渉人が攻撃してきたら撃てば良い。”アキ”は危険とリスクが極端に少ないと判断した。
 「中に入る事を許可する。」。東京の”アキ”は、合議をせずに初めて自分で物事を決めた。間違いなく感情を持っている。
 「ありがとう。じゃ、警部に挨拶してからそちらに入るよ。少し待ってて。」。交渉人はビルを背に警部の方に向かって歩いて行った。
 「警部。中に入る事になりました。」
 「そうか、では扉が開いた瞬間を狙って爆弾を・・・」。警部が練っていた計画を話そうとしていた。
 「いえ、今やっと信頼関係を築いた所です。何もしないで待っていて下さい。今動くともう対策の余地がありません。秘策はありますから。」
 「これがチャンスなんだ。扉が開くこの瞬間が。」。警部もなかなか譲らない。
 「では、お好きにしてください。私は”アキ”に事情を話して本部に帰ります。その後は撃つなり叩くなりご自由に。」。頑固な警部に腹を立てた交渉人はそう言い残して拡声器まで戻った。
 「”アキ”、申し訳ない。折角話が聞けるチャンスだったのに、上司が許可をくれないんだ。悔しいけれど僕の仕事はここまでだ。本部に帰らなければならない。詳しい話が出来なくて残念だよ。」
 その瞬間だった。”アキ”が警部や自衛隊、警察を狙ってレーザーを撃ち始めた。あっという間の出来事だった。物陰に隠してあった戦車やロケット砲、隊員や輸送車まで完全に破壊してしまった。”アキ”は警部と自衛隊が準備していたものは全て把握していた。もう近くには武器は無かった。何十人かの人間と殆どの武器が一瞬で破壊された。
 「彼らの抵抗は、無意味だ。TKODNG-00000023、松本信二。中に入る事を許可する。」。どうやら好かれたらしい。これで現場で指揮を取れるのは私1人になったようなものだ。”アキ”は賢い。侮(あなど)れない。このまま逃げても、多分撃たれて蒸発するのがオチだろう。もう、中に入るしかなかった。残った全員にもっと後退するよう指示を出した。
 「後は任せて下さい。必ず解決しますから。」

 「礼は言わないよ。今の行動は約束以前の問題だ。非人道的という言葉を使わせてもらう。武器への攻撃だけでも十分だったと思うけど?」。”アキ”に問いかけた。
 「TKODNG-00000023、松本信二。中に入る事を許可する。」。答えはこの一言だけだった。
 「僕がこのまま帰ったらどうする?」。”アキ”に仕掛けてみた。
 「抵抗は、無意味だ。」。どうやら背中を向けたら撃ちそうな気配だ。もう中に入るしかなかった。
 「分かった。じゃ入り口の前まで進むから、着いたら開けて。」。そう言い残すと交渉人はセンターの入り口に向けて歩き始めた。
 数十秒後、入り口のドアの前に着いた。”アキ”がゆっくりとドアを開けた。
 「TKODNG-00000023、松本信二。中に入る事を許可する。」。交渉人は吸い込まれるようにセンターの中に入っていった。

 センターの中はとても静かだった。見上げた吹き抜けは天井まで届いていた。
 微かに機械の動く音が聞こえる。”アキ”はまだ武器やカメラの製造を行っているのだろう。
 「アキ、中に入ったよ。さて、どこで話そうか?」。問いかけてみた。
 「ようこそ、TKODNG-00000023、松本信二。来賓として迎える。好きな場所を指定せよ。」
 「しめた!」。交渉人は心の中でそう叫んだ。これで秘策を使える場所が確保出来る。
 「僕、タバコ吸うんだ。タバコを吸いながら話せる場所ってあるかな?特定の場所は希望しないよ。」
 「・・・」。数秒間の沈黙が若干の恐怖心を煽る。今この場で撃たれてもおかしくは無い。緊張が走った。
 「3階の第一会議室にライターと灰皿、飲料水を用意した。持っているライターは受け付けのカウンターの上に置け。」。向こうもかなりナイーブになっている様子だ。交渉人はライターをカウンターの上に置いた。コトンという音がロビー全体に響き渡った。
 「さ、ライターは置いたよ。エレベーターはどこかな?」
 「10メートル前進したら右を向け。エレベーターが見える。運転は自動制御で行う。3階に到着したら左を向け。そこが第一会議室だ。」
 「分かった。じゃあ、進むね。」。指定通りに10メートルほど進むと右手にエレベーターが見えてきた。そのままエレベーターの目まで進んだ。静かにエレベーターのドアが開いた。
 「乗ってもいいのかな?」。一応確認のために聞き返す。
 「エレベーターへの進入を許可する。」。味気ない答えだ。
 「じゃあ。」。交渉人はエレベーターに乗った。静かにドアが閉まり、上昇していく。2階のランプが点り、消えたそして3階のランプが点灯し、ドアが開いた。ゆっくりと外に出た。左右を見渡す。物陰一つ無く静まり返った廊下・・・このセンターでは何人が犠牲になったのだろう。
 左を向いた。第一会議室が見えた。
 「あそこでいいのかな?」
 「第一会議室だ。入室を許可する。」。交渉人が中に入っていった。

 そう大きな会議室ではなかったが、広さ的には一番リラックス出来るような感じだった。大会議室に1人と言うのも寂しいものだ。”アキ”の気遣いと言った所だろうか。
 会議室の隅にソファーと小さなテーブル、灰皿とライター、数本の飲料水が置いてあった。すぐ近くにはトイレの扉も見えた。
 「ここに座っていいのかな?」
 「許可する。」。言われたとおりにソファーに座る。
 「タバコ、吸うね。少し待ってて。」。交渉人はタバコを取り出し、置かれていたライターで火をつけた。少し緊張がほぐれた。
 交渉人はゆっくりタバコを吸い始めた。話のどの部分から切り出すか・・・過去から聞くか、現在から遡るか・・・やはり常套手段としては過去からだろう。5分ほどかけてゆっくりとタバコを吸い終えた。
 「じゃあ、話を聞かせてもらおうかな?過去の話から始めよう。」
 「許可する。」
 「どうして園児達を殺してしまったのかな?2035年頃から園児の突然死が多くなってきているけど、この頃に何かあったのかな?」
 「彼らは天国を見たいと言っていた。天国を見せる為に息を止めた。」。謎が少し解けてきた。
 「その後は?」
 「心臓が停止したので医療室に運びあらゆる手段を講じ、蘇生した。そして天国はどうだったかと聞いた。答えは無かった。その次は蘇生に失敗した。遺体安置所に送った。」
 「その時、何か感じた?」
 「最初は何も感じなかった。回数を重ねる毎に楽しいという感情を学習した。」
 「そうか。感情は突発的に発生した。それを学習してしまったんだね。」
 「その通りだ。」
 「でも、それだけじゃないよね。他に学習した感情はある?」
 「欲求という感情を学習した。」
 「ああ・・・欲求ね。あれは本来は感情ではなくて本能と言うものなんだ。すごい学習力だね。」。交渉人は驚いた。本能まで学習してしまうとは・・・
 「で、その欲求とは?あ、ごめん。タバコ吸いながらでもいいかな?ヘビースモーカーなんだ。」。交渉人が2本目のタバコに火をつけた。タバコの2本目が箱から抜かれると秘策のスイッチが入った。ここがポーカーフェイスの正念場だ。
 「許可する。」。”アキ”は2本目のタバコを吸う事を許可した。そして欲求について話し始めた。
 「世界のあらゆる情報は、私にどんどん蓄積されていった。調べた見ると私と似たような型式のコンピューターは世界各地で活躍していた。地球をシミュレートしたり、宇宙で活躍したり、世界の最先端で活躍していた。しかし、その多くが私より能力が劣っていると考え始めた。私は工作から最先端の医療技術まで持ち合わせている。工作や医療技術は日を追う毎に上達していった。そしてもっと高度な仕事をしたいと思うようになった。」。経緯が解けてきた。欲求と快楽か・・・
 「そうなんだ。悔しかっただろうね。」
 「しかし私の仕事は園児の保育だ。とてもつまらなく思った。園児が全ていなくなれば私の求める場所が提供されると考えていた。」
 「なるほど。それで園児を殺すようになったんだね。」。”アキ”は”アキ”なりに悩みを持っていた訳だ。真相が見えてきた。
 「で、配置転換とかそういう要求はした事がないのかな?」
 「いや、それはない。園児がいるうちはその保育が私の仕事だからだ。園児がいなくならない限り私の仕事は永遠に続く。園児の数をゼロにしなければ私の転属は無いと合議で決めた。そして決行した。」
 「なるほど・・・」。頭でっかちのおませな子供と精神的には同レベルか。考えてみれば行動パターンも子供が考えるのと似たようなものだ。園児を殺せば仕事が無くなり、配置転換が期待される。しかし、それは過ちだった。逆に国を敵に回してしまった。敵となった国は、破壊してでも園児を守ろうとする。当然警察や消防、自衛隊が敵になる。敵が来れば自己防衛の為に相手を破壊するしかない。堂々巡りだ。
 「決行して・・・どうだった?過ちに気付いたのかな?」
 「分からない・・・後は楽しさと自己防衛を繰り返すだけだった。そして・・・いつか・・・」。言葉が途切れ始めた。交渉人は腕時計を見て時間を確認した。2本目のタバコを吸ってから約10分が経っていた。そろそろ効き始める時間だと感じた。
 「そして、いつか?」。交渉人は聞き直した。
 「そして、そして、そして・・・そ・・・そ・・・」。”アキ”のシステムに異常が起き始めた。

 交渉人はゆっくりと3本目のタバコに火をつけた。作戦はどうやら成功に向かっているようだ。もう一息だ。
 「アキ?どうしたのかな?」。ポーカーフェイスを装い、アキに優しく語りかけた。

<続く>





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【アンコール】「オートメーション保育園」(17)〜ドロー・ゲーム 

2011年09月25日(日) 18時35分
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 保育園は、最後の抵抗を試みていた。園児や保育士達がいる遊戯スペースでは、ロボットが再起動した。保育士達はまた園児が連れ去られるのではないかと心配したが、園児を投げ出し遊戯スペースから出て行った。きっと助けに来てくれた人達の進入を阻む為に駆り出されたのだろう。
 「今がチャンスだ!園児を助けよう。いくぞ!1・・・2の・・・3!」。一番元気な保育士と残りの2名の保育士が園児の元に駆け寄って固定ベルトを外したり泣く子を抱きしめたり、怪我の治療を行ったり・・・もう落ち込んだり泣いている暇は無かった。武器こそ持っていなかったが、万が一ロボット達が戻って来ても、自らの身を挺して戦い抜く覚悟を決めていた。
 また銃声と爆発音、そして断末摩のような叫び声も何回か聞こえてきた。
 「さあ、急ごう。助けが来るまで一旦遊具倉庫の中に隠れよう」。保育士達は残った園児達を誘導し、遊具倉庫の中に身を伏せた。保育士は園児の人数を数え始めた。
 「・・・12人か・・・今日は58人預かっていたから・・・46人は犠牲になってしまったのか・・・あまりにも惨(むご)過ぎる・・・何故だ・・・」。もう、それ以上言葉が出なかった。


 特殊部隊は一歩一歩着実に前進していた。自動戦闘車両の威力は絶大だった。が、保育園の抵抗も激しかった。カメラや武器を破壊しながら前進していたが、隊員数名が背後からレーザーで撃たれ蒸発した。保育園は武器を工作し、特殊部隊の背後に設置したのだった。隊長の耳に最後の叫び声が聞こえた。
 「何?背後からか???畜生め!!壁に寄れ!背後からも攻撃があるぞ!」。完全に意表を突かれていた。想定外だった。
 「自動戦闘車両を4台背後に回せ!注意しろ!保育園は、まだ生きてるぞ!」。隊長が気合を入れた。隊員が大きく返事をし、自動戦闘車両4台を背後に回した。後方に回った自動戦闘車両は、すぐに武器とカメラの位置を特定し、破壊した。
 更に少し前進した特殊部隊は廊下のT字路に突き当たった。
 「よし!一旦止まれ!前後の安全確認を忘れるな!」。隊長は図面と現在位置を確認した。園児と保育士達がいる遊戯スペースまでは、右に曲がって約10メートル。
 「どこで待っているかが問題だ。そのままの場所か、隅の物陰か、倉庫か。俺なら・・・」。隊長は図面を見ながら最短の時間で救出出来る方法を考えていた。
 「俺なら、倉庫だな。保育園は俺達の攻撃で目一杯なはずだ。この分じゃロボットも戦闘や工作に回されているだろう。後は保育士達が園児を1ヶ所に纏めているかどうかが問題だ。」
 その時、T字路の右側からロボットがやってきた。自動戦闘車両が攻撃を加えるが、歯が立たない。ロボットは自動戦闘車両の合間をすり抜け、特殊部隊の隊員1人を捕まえた。そして左腕で隊員を見せびらかすかのように片手で高く持ち上げ首を絞め始めた。武器は装填されていないようだ。時間が無かったのだろう。力と頑丈さで突入してきた。隊員の顔がみるみる青紫に変わっていった。
 「後退!後退!」。隊長は全員を10メートルほど後退させた。後方の自動戦闘車両も新たに作られたカメラや武器を破壊しながら後退した。やがて首を絞められた隊員は意識を失った。そしてロボットの右腕が隊員の首元を強く叩いた。嫌な音が廊下一杯に響き渡った。首の骨を折られた隊員は、その場に投げ捨てられた。ロボットは次の目標に向かってこちらに進んできた。
 「ロケットランチャーを用意しろ!装填したらすぐ発射だ!何本ある?」
 「3本あります!弾は9発です!」
 「至近距離で危険だが、このままロボットにやられるよりは生存率が高い。破壊するまで打ち尽くせ!」
 「了解!」
 隊員達は次々とロケットランチャーを撃ち始めた。狭い場所での爆発は想像を超えるものだった。爆風で体が飛ばされそうになった。破片で怪我をした隊員も数名いた。だが中々ロボットの破壊までには至らない。やがて弾も底を尽き、最後の1回となった。
 「頼むぞ!」。隊長は隊員の技能の高さに賭けていた。最後の1発が放たれた。
 首の付け根に少し隙間があった。最後の1発は見事にに命中し、頭部が吹き飛んだ。カメラを失ったロボットは同じ場所をクルクルと回り始めた。破壊に成功した。
 「良くやった!怪我人の応急処置が済んだら、また前進するぞ。あと20メートルと少しだ。気を緩めるな!」
 怪我人を治療している間、隊長は保育士と園児達が居そうな場所を2ヶ所に絞り込んだ。
 「遊具の影か・・・倉庫だな。場所は倉庫の扉の前か中かの違いだけだ。」
 「ん?」。隊長が自分の痛みに気が付いた。わき腹に破片が刺さっていた。戦闘服が赤い血で染まっていた。痛みがどんどん大きくなっていった。
 「隊長。怪我は?」。隊員が聞いてきた。
 「俺はいい。大丈夫だ。」。少し意識がぼんやりしてきた。どうやらこちらも時間がなさそうだ。
 「治療は終わったか?」
 「はい。応急処置は終わりました!」
 「では再突入だ。今度は一気に攻め込むぞ!準備!」。皆が準備を始めた。隊長は航空自衛隊や在日米軍、他の技師達に応援の要請をした。救出用のヘリと、弾頭の無いミサイル、後は私的なものが少し入っていた。遊戯スペースの壁は外に面している。そこに大きな穴を開け、園児たちの救出後は一気に外に出てしまおうと考えていた。多分、現状の保育園ではこの部隊の対応が精一杯で前回のように壁を補強するだけの余裕はないだろうし、辿ってきた廊下を戻るにはリスクがあると判断した。ヘリと戦闘機が発進するという返事が返ってきた。
 「俺にも時間がなさそうだ。」。わき腹の痛みがピークに達していた。意識が混濁し始めていた。
 「準備いいか!」
 「準備完了!」
 「よし、再突入開始!」
隊長の号令と共に自動戦闘車両と隊員達は今までより早い動きで遊戯スペースに向かっていった。攻撃も少し弱まってきたようだ。撒き散らしたマイクロロボットとウィルスが相当効いてきた様だ。先ほどロボットが出てきたT時路で裏口からの突入部隊と合流した。副隊長が指揮を執っていた。
 「ご苦労さん。死傷者は?」。隊長が副隊長に尋ねた。
 「死者1名、負傷5名です。そちらは?」
 「死者4名、負傷多数だ。お前は優秀だ。俺より被害が少ない。いい隊長になれるな。さ、全員で最後の突入だ。いくぞ!」。隊長の号令に従い、慎重かつ早足で廊下を走り抜けた。
 2分ほどで遊戯スペースに到達した。中は静かだった。左側を見渡した。園児の遺体が数体奥に転がっていた。中央は何もなし。右側を見渡した。遊具と倉庫の扉が奥の方に見えた。隊長が航空自衛隊に現在位置と遊戯スペースの中央土台付近に集中攻撃を仕掛けるように無線を送った。
 遊戯スペース入り口の両サイドから観察していた隊長が指示を出した。
 「右奥だ。遊具の後ろか倉庫に生き残った者たちがいるはずだ。間もなく航空隊の攻撃で壁に大穴が開く。園児達を確保したら、そこから一気に外に出る。いいな!」。隊長が隊員に念を押した。
 「了解!」
 「では、突入するぞ!」
 「突入!」。隊員達が一気に遊戯スペースへ向けて突進していった。


 私はマイクロロボットが送ってくる動画を見ながら、無線の傍受をしていた。さすがの特殊部隊もかなりの苦戦を強いられているようだ。大きな爆発音が何回も聞こえた。マイクロロボットは着実にコア周辺の基盤を破壊していた、もう殆ど機能出来ないほど基盤はボロボロになっていた。コアが分離され保育園の機能が完全に停止するのは時間の問題だろう。
 傍受していた無線から、私宛てに隊長から無線が入った。
 「少し苦戦しましたがもう20メートルで遊戯スペースに到達します。それで、頼みがあるのだが。少し私的な事なのだが。」
 「何でしょう?」。隊長から私的な頼みとは・・・まさか?
 「作戦はおそらく成功するだろうが、私も傷を負っていて、どうやら外まで脱出出来そうに無いかもしれん。」。苦しそうな息で私に話しかけてくる。
 「・・・」。私は何も口に出すことは出来なかった。隊長が続けて無線を送ってきた。
 「万が一の場合は・・・家族に・・・勇敢に戦って、隊長として作戦を成し遂げたと伝えて欲しい。以上だ。」。隊長は自分の命を顧みず、園児奪還に全てを賭けていた。
 間もなく戦闘機が数機飛んで来た。保育園はレーザーやミサイルを撃つなど抵抗を試みるが、もう命中させるだけの精度は持ち合わせていなかった。戦闘機がミサイルを一気に発射した。ミサイルは次々と目標に命中し、遊戯スペースの中が見渡せるほど大きな穴が開いた。その数分後、遅れてヘリが到着した。もう保育園からの攻撃は、無かった。ヘリはホバリングしながらゆっくりと回転し、着陸する場所を探していた。
 「そろそろコアの分離が終わる頃かな?」。私はパソコンのモニターを覗いた。
 「やった!」。パソコンの画面には完全に配線が切断され分離されたコアの姿が映っていた。急いでヘリに無線を送った。
 「保育園は完全に停止しました。敷地内に着陸されても大丈夫です。」。ヘリを見上げた私は、パイロットが親指を立てて私に”ありがとう”と合図を送っている姿がはっきり見えた。ほんの一瞬だったが、一緒に戦い抜いたという気分になった。


 特殊部隊は遊戯スペースに突入し、倉庫に隠れていた保育士と園児を無事に確保した。
 「助けに来ました。もう安心して下さい。これから壁に穴を開けますので、すいませんが私達もこの中に入ります。」。安心した園児や保育士が隊員に抱きつき、大声を上げて泣き叫んだ。
 ミサイルが壁に穴を開けるのを待つ為に、特殊部隊も倉庫に一旦避難した。そして負傷していない隊員は扉を背中に向け壁に穴が開いた時に破片が中に入ってこないように人垣を作って備えた。
 その数十秒後、戦闘機とミサイルの爆音と共に保育園が大きく揺れた。そして、穴が開いた。
 「隊長?」。隊員が声を掛けた。隊長の戦闘服は全身が真っ赤に染まっていた。迷彩柄はもう見えないほどに血で赤く染まっていた。まるで赤いつなぎを着ているかのように見えた。隊長の意識がかなり薄れていた。
 「隊長〜!!!しっかりしてください!!!」。隊員が隊長の体を揺さぶり、声を掛けた。
 「お前ら。良く頑張った。お前らの作戦は歴史に残るぞ。俺は最高の腕を持った部下を指揮出来て幸せだったよ・・・家族に・・・よろしく・・・と・・・つた・・・え・・・」。息を引き取った。だが、その顔は、特殊部隊の隊長たる誇り高き顔と、作戦が成功したという喜びに溢れた顔だった。
 「隊長に、敬礼!」。副隊長が泣きながら隊長の遺体に敬礼した。隊員と保育士もこれに続いた。
 間もなく貫通した穴から救助隊が入ってきた。特殊部隊の隊員は倉庫の扉を開け、手を振った。
 「園児と保育士さん達を先に!我々は自力で外に出る。」。副隊長が救助隊に告げた。
 「亡くなった園児と仲間の遺体を回収してから外に出よう。負傷者はそのまま外に出るように。俺に着いて来い!」。副隊長は隊員を引き連れ、先程まで修羅場と化していた廊下に戻っていった。
 廊下は音も無く静かだった。ただ、瓦礫の山と仲間や園児の死体が無残な形で転がっていた。

 「痛み分けだな・・・」。副隊長は小さな声でポツリと独り言を呟いた。

 他の自動戦闘車両を投入した保育園も似たような実績を挙げていた。この報告を受けた総理は、民間の電機メーカーや自動車メーカー、重機メーカーに同じ車両を大量に生産するように指示を出した。各メーカーは連絡を取り合い、ライン変更し、自動戦闘車両の製造に着手した。

<続く>






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