英雄、それは時に妨げられる… 

February 01 [Thu], 2007, 21:12
 
 陽司は憂鬱であった。恋には失敗し、大学受験でも志望した大学を落ちてしまった。今までやっていたことが何もかも否定され、自分自身を見失っていた。
 なぜこうなったかと、カタツムリになった頭の中で考えを巡らせていた。しかし、どれも自己弁護をしているようで答えが出てこない。そして、ため息を漏らしている。
「所詮、俺はそんな人間だ。」
誰にも話しているわけではない。しかし、繰り返すうちに声は大きくなっていた。周りの人間はその声の持ち主に対し、白い目を投げつけている。だが、今の彼にとってそのことに気付く術はない。
 ここのところ、彼はずっとこういう日々を過ごしている。しかし、これといった答えは出てこないから、どうすることもできない。そのことは清々しかった彼の顔が一転、見違えるように痩せてゴツゴツとした顔に変わってしまったことからも分かる。
「所詮、俺はそんな人間だ。」
 今日、何度言ったことだろう。さらに、声は大きくなっている。乗っている電車の車内はだんだんその声が響いていた。買い物帰りの中年の主婦、学校帰りの高校生、塾に向かう小学生、様々な人間がここにいた。皆、彼に対し白い目を投げては知らないフリをしていた。
 二十分ぐらい経ったとき、電車は終着駅に止まった。少し呆然としていた彼も、流れに任せるようにしてやっとのことで降りていた。そして、別に乗り換える必要がないのに、違うホームで電車を待っていた。
 彼はそのことに気付いていたのに全く動かなかった。
「いいんだ、別に。」
そして、いつものセリフを吐いた。
「所詮、俺はそんな人間だ。」
その声は大きかった。思わずびくっとした者、チラッと見た者、その場から離れた者。多くの者が白い目で対応していた。さっきの主婦や、高校生に小学生もいた。
 その時だった。悲鳴が背中の方向から聞こえてきた。思考がほとんど止まっている彼も振り向いていた。
「人が落ちた。」
ヒステリックなその声に、全ての者は驚いた。そして、固まった。
 その時、無情にも機械のアナウンスが電車が迫ってきたことを告げた。至ってその声は美しく感じ取れた。彼にとって。
 気付いたら、彼は線路に飛び降り、その人を起こしていた。ヒーローの自分が想像できた。彼は英雄になって、一人の人間を助けていた。だが、足が安定しない。酒の臭いがその落ちた人を包んでいた。
「何だ、お前。人のことを気安く触るんじゃねぇ。」
そんなことを言いながら、ホームに手をかけてよじ登ろうとしていた。陽司はホームにいるに人と連携して、よじ登る酔っ払いを支えていた。
 残りは左足という時だった。不意に彼の右耳に警笛が響いた。思わず、彼はその方向を見た。無理だと思った。
 酔っ払いが、上から怒鳴ってこう言い出した。
「早く足を離せ。俺を殺す気か。」
もがいた足から彼の手が離れた。あぁ、こんな奴のために俺は死ぬのか。俺の人生はそんなに価値が無いものなのか。そんなことを思いながら、またつぶやいた。
「所詮、俺はそんな人間だ。」
 火花を散らしながら、列車が彼のいた場所を過ぎ去った。酔っ払いはかすり傷で済んだ。

 その日のニュースで、ある事故現場を映していた。目撃者が言った。
「彼は勇敢にも人を助けたのですが・・・。」
白い目を向けた一人だった。

 


============================================================

これは2年前の授業中に作ったものです(笑)製作時間は1時間と言うあっという間の短編小説です。
 
多分、新大久保の事故に影響されたものでしょう。。。

そういえば、その事故をモデルとした映画が作られましたね。今度見てみたいと思ってます…w





ブログランキング

はじめまして… 

January 31 [Wed], 2007, 21:10
皆さんこんにちは。

僕は理系の学科に所属する大学生です。

高校生だったある日、友人の書いた小説を読んで、何か背中に強い力が走りました。その日から、いつも文というものが僕の脳の中を駆け巡ってます。

下手なので、読めるよう代物ではないかもしれません。でも、書く事は人間の社会的営みだと思い、書き続けていこうと思います。いつか、皆さんに読んでもらえる日まで、頑張っていきたいと思っています。

なお、作者三本松堂は、なんだかんだと言い、マイペースな人間です。小説が進んだり、進まなかったりするかもしれません。その時は、出来上がるまでしばらくお待ちください。

では、よろしくお願いします↓
プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:三本松 堂 (ペンネームです)
読者になる
理系のくせに、小説・詩などを書きます。書きたくなったからです。
面白くないかもしれませんが、書くのに意味があると思ってやってるので許してください。
2007年02月
« 前の月  |  次の月 »
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28
最新コメント
Yapme!一覧
読者になる