ミスマッチングフード

February 09 [Thu], 2012, 17:07
小学生の頃、温厚なオカンが一度だけおれを怒鳴り散らしたことがある。
当時、野菜嫌いだったおれは、よく夕食の野菜を残していた。
それだけではオカンは何も言わなかったのだが、ある日、姉が家庭科の宿題とかで夕食を作ることになった。
そのときに野菜炒めが出たのだ。
おれは当然の如く残した。
すると、珍しくオカンがおれに問うのだ。
なぜ残すのか、と。
おれは一言答えた。
まずいから。
その言葉にオカンが激怒した。
それは今までに見たことのないオカンで、小学生のおれが震え上がるには充分な勢いだった。
オカン曰く、私の作ったものには何を言ってもいい。
ただ、お姉ちゃんが愛情込めて作ったものに、まずいの言葉はご法度や。
と。
オカンが作るものは姉の家庭科の宿題より愛情が込もっていないのかなんて思いを抱く余裕は、そのときのおれにはなかった。
ただ怖かった。
それからと言うもの、おれは嫌いなものを出されても食べるようになったし、食べることによって好き嫌いも解消された。
今も尚嫌いなものはある。
トマトを噛んだときのニュルッと感とか、粉ふきいものパッサパサ感とか。
それでも食べられないほど嫌いなものは無くなったし、トマトや粉ふきいもが食卓に並んでもちゃんと残さず食べる。
あのときのオカンの形相は死ぬほど怖かったが、今となっては心から感謝している。
ここまではちょっとしたイイ話なんだが、イイ話で終わらせないのがおれの日記であって、みんなもイイ話じゃ終わらない話を求めていることは知っている。
このままイイ話に持っていくこともできるのだが、たまにイイ話を書いてもコメントが少なくて恥ずかしい思いをするのが最近の傾向であるので、今回はイイ話は敬遠しよう、そうしよう。
実は大人になってから、人様から出されたご飯をまずいからの理由でどうしても食べられなかったことが一度だけある。
ご飯を残したことは何度かあるのだが、それはお腹がいっぱいという理由であって、人様が作ったものにまずいと心から思ったのは本当にその一度だけだ。
3年ほど前。
以前のバイト先道とん堀の話である。
道とん堀とは、お好み焼きともんじゃ焼きがメインの飲食店だ。
おれはそこで、密かにまかないのご飯を楽しみにしていた。
なぜならば、何でもありだから。
お好み焼きやもんじゃ焼きはもちろん、焼きそばも置いてあるために麺類も食べられるし、社員の方が米や卵、豚肉などを使って創作料理を作ってくれることもあった。
実際、初めて楠木友里食べたまかないは涙が出るほど美味かった。
生まれて初めてバイトというものを経験して疲れきった後の、ぐっさんのドリアの味は今でも忘れない。
そして5回目くらいのまかない。
もちろん楽しみだった。
山下くんが同じ上がり時間だったため、一緒にまかないを食べることに。
山下くんは言った。
社員さんにまかない頼んでくるから、休んでてバイトを始めて間もないおれは疲れているだろうからと休ませ、まかないを食べたくても入ったばかりで頼みづらいだろうからと気を遣った結果のこの言葉だ。
お言葉に甘えて、おれは控え室で休憩していた。
山下くんは二個下だが、非常に好感が持てる仲良くやっていけそうだ。
そう思った。
だが、山下くんのこの判断は間違いだった。
まかない持ってきたよ笑顔で控え室の扉を開ける山下くん。
のはずだったが、まかない持ってきたよ思いのほか暗い声に、おれは驚いた。
そして、山下くんが持っているまかないを見て、もっと驚いた。
本来お好み焼き生地を入れるボウルに、溢れ出んばかりの量の麺が盛り付けられていたのだ。
通常のどんぶりよりでかいボウルなのに、そこから溢れている麺。
二人でその一杯かと思いきや、ボウルは両手にある。
イメージしにくいかもしれないので重さに変換すると、1sほどあった。
まかないに1sのラーメンいつの間におれはフードファイターになったのだろう。
そう思った。
この驚きが、これから始まる悲劇の序章にすぎないことにも気づかずに。
ごめん臼井さんって人に頼んだらこうなって山下くんは青い顔をしていた。
それは罪悪感からか、おびただしいほどのラーメンの量からか。
どちらにしろ、山下くんに気を遣わせないためにも完食しなければ。
見た瞬間こそ驚いたが、高校まで野球一筋だったおれだ。
1sのラーメン。
食べられないことはないさ。
その考えが甘かった。
おれはそのラーメンをすする。
すする。
すする。
すすすすれない。
すすれない。
麺に水気がない。
まじで悲しいほどに水気がない。
水気がなさすぎて固まってる。
麺をすすろうと4、5本箸でつかむと、そのまま麺全体が塊となってごっそりついてくる。
だからすすれない。
ラーメンだから、チュルチュルシコシコのアレだろ、と。
ズルズルッとすすれるアレだろ、と。
そんな先入観は、もうこの際ゴミ箱へクしなければならない。
だってスープねえもん。
おかしいもん。
麺、ごっそり全部ついてくるもん。
ラーメンラーメン言ってきたけど、全然ラーメンじゃねえもん。
スープねえもん。
本当に本当に麺オンリーだもん。
味付けも何もないもん。
もう麺とすら呼ぶのも怪しいもん。
もはやただの小麦粉だもん。
待ってくれこれを1s食えってフードファイターだって無理だろ。
それでも残しちゃいけない。
逃げちゃメだ。
あのときのオカンは、おれの脳裏にしっかり焼き付いている。
人様が作ってくださったものだからそう自分に言い聞かせて、ひたすらに麺を貪ると、おれはその先にある絶望を見た。
麺だけじゃなかった。
その下に米。
なんだろう。
久々にニンテンドーDSソフトポケットモンスタープラチナやろうとしてケース開いたらソフト本体がなくてうわあまじかよあの1cm四方のちっこいソフトをこの広い家の中から探すのかよくらいの絶望。
麺の下に、ご飯。
ラーメンをおかずにご飯を食べることだって、お好み焼きをおかずにご飯を食べることだって、おれには容易い。
ただ、味付けと水気が皆無の麺、小麦粉同然に劣化したこの麺をおかずにご飯パプアニューギニアだってびっくりの組み合わせである。
※ここは日本です。
まじかよありえねえ先進国日本に生まれて小麦粉丼を食うことになるたぁちーとばかし予想外だったな。
こんなこと書くと食べ物を粗末にするな的な意見が聞こえてきそうなもんだけども、あんまりお腹が空いてなかったおれには小麦粉丼1sは食えないし、仮に腹減って仕方ない状態だったにしても、下のご飯はともかく上の小麦粉を食べきる自信はない。
努力はしたんだよ。
小麦粉もご飯も食べきろうって努力はしたんだよ。
でね、努力したらね、ボウルの底にね、塩レがあったんだ。
なにこれ。
料理のりの字も知らないおれが、料理の基礎がなってねえなと感じた瞬間だった。
この際もう小麦粉とご飯なんていう夢の共演には目をつむって話を進めるが、本来、塩レをかけたかったのであれば、ご飯麺塩レの順に盛り付けるべきではなかろうか。
ところが、塩レご飯麺という不思議。
意味ないじゃんボウルの底に塩レ溜まってるだけじゃんこれ、味付けとして役立つはずの塩レなのに、全然役に立ってないじゃんそれとももしかしたらあれは塩レなんかではなく、明らかに不適切な組み合わせをされたご飯と麺によって流された、一滴の涙なのでは。
そう思えるほどの完成度を見せたあのときのまかない。
臼井さんという人は、一風変わった食生活を送っていて、決しておれたちが嫌いなわけではなく、これが臼井さんの愛情なのです。
臼井さんの偏食変食ぶりは有名で、山下くん以外はほぼ誰もが知っていました。
そして、臼井さんのまかないを食べるなんて気の毒すぎると気を遣ってくださった方が、おかずに焼きビーフンを作ってくださりました。
いじめでしょうか。
小麦粉丼のおかずに焼きビーフンです。
※おれたちは決して、炭水化物専門の業者さんではありません。
焼きビーフンは美味しくいただきました。
が。
臼井さん、ごめんなさい。
あのときの小麦粉丼1sは、新田川に流され、鯉のエサと化しました。
あのとき、いくらミスマッチだったとは言え、食べ物を粗末にしたことに罪悪感を抱いています。
もう二度と、物を粗末にしないよう、これから血眼になって、広い家の中からポケットモンスタープラチナを捜索いたします。
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