ダウンタウンのガキの使いやあらへんで

July 08 [Fri], 2011, 11:49
所轄署の捜査係が現場に来て検視したが、山辺澄子は腰紐を頸に捲かれて窒息死していた。その顔には蒲団《ふとん》の端がかけられてあった。死後の推定時間を逆算すると、ダウンタウンのガキの使いやあらへんで DVD二十六日の午前零時から二時の間ということになる。
 部屋は乱れていた。犯人の侵入口を見ると、裏側の戸の横にガラス窓があり、この中の一枚を蝋燭で焼き切って破り、外から手を入れて内側の捻込錠《ねじこみじよう》を外している。それから台所に入って二階に上がっているが、足跡がはっきりしていなかった。指紋を検出してみたが、これも不明瞭だった。箪笥《たんす》が掻き回されて、どの引出しからも衣類がはみ出ていたが、母親の証言によって一枚も盗《と》られていないことが分かった。また金銭的な被害もなかった。
 そこで警察では、犯人は物盗りに見せかけて、実は初めから澄子を襲う目的だったと断定した。
 澄子の遺体は、その後の精密解剖によって検視の所見とは少しはずれて、午前一時過ぎから三時の間という推定になった。
「だいたい、これで間違いないと思います」
 解剖したのは或る大学の法医学教室の教授だったが、警察医の死後推定時間を約一時間ばかりあとにずらしたことに、かなりの自信を持っているようだった。
 警察では、ここで目撃者の順序をもう一度並べてみた。
 @午前一時ごろ──出張から帰った会社員。A同三時ごろ──マージャンから帰った銀行員。B同四時半ごろ──ヤミ米のかつぎ屋。C>同六時ごろ──進駐軍立川基地労務者。D同七時ごろ──新聞配達の少年。
 これら五人の証言者は、いずれも二階の澄子の部屋に灯が点いていることを目撃している。凶行を警察医の死後推定による午前零時から二時の間に考えても、また解剖医の推定による午前一時から三時までとしても、彼女の部屋に電灯が点けっ放しになっていた状態の中での犯行ということははっきりとしていた。
 警察医と解剖医の死後推定時間がダブっているところは、午前一時と午前二時の間である。してみると、出張から帰った会社員の午前一時ごろの目撃と、マージャンから帰った銀行員の三時ごろの目撃との間が、最も凶行時間としての可能性が強いわけである。
 なお、犯人が台所の窓を蝋燭の火で焼き切って侵入したことなどから、一応|窃盗《ノビ》の前科のある者と考えられた。
「澄子の父親は、当夜、商用で東北地方に出張して留守だね。母親は、いつも娘とは別に階下に寝る習慣だった。だから、娘が殺されても、母親は気がつかなかった。こういう家の中の事情を知った者の凶行ではないか」
 この意見は捜査員の間に強かった。
「あの家は一応骨董商となっているが、ターミネーター:サラ・コナーてきた会社員相当いかがわしいものを客に掴ませていたという評判だ。同業の間ではあまり好意を持たれていない。インチキな道具屋が相当出入りしている。こういう連中なら、娘が独りで二階に寝ていたことも、また父親が前日から東北地方に出張していたことも知っていたわけだ」
 流しの凶行ではないことは一致した意見だった。
P R
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