今年1月に大地震が発生し、甚大な被害を受けたカリブ海の島国ハイチ。3カ月以上たったいまも被災者はテント生活を続けている。先月から今月にか けてハイチ支援に参加したWSJ日本版コラムニスト津山恵子氏による現地リポート第2弾。
ハイチの首都ポルト・オ・プランスは、さながら非政府組織(NGO)の展示会のようになっている。ありとあらゆるNGOが世界から集中し、大地震のためにすべてを取り上げられた避難民を救援している。そこで、同性愛者の人権運動家を描いた「ミルク」でアカデミー賞を受賞したショーン・ペンに遭遇した。
ポルト・オ・プランスの郊外ペティションビルは、もともと大使館や外交官の家が集中する高級住宅地。ダウンタウンに比べて、地震の被害は軽く、輸入物の食品を売るスーパーマーケットやしゃれたレストランが立ち並ぶ。3月29日、そこのゴルフ場を本拠地にするJPHROというNGOを訪ねた。
ハイチ人の警備と米陸軍の厳重なガードをくぐりぬけて、ゴルフ場の中に入る。米陸軍兵士に「なんでここにいるの?」と聞くと、「命令されたからです」という答え。瀟洒(しょうしゃ)なゴルフ場ゲストハウスまで歩き、その前にある、巨大テントの中に入ると、私たち一行の横を通ったのは、迷彩服のズボンに、真っ赤に日に焼けたショーン・ペンだった。「ハロー」。ペンが私たちのカメラを嫌ったのか、ほどなくテントの外に出された。
JPHROは「Jenkins-Penn Haitian Relief Organization」の略。ペンは大地震の直後にハイチ入りし、ゴルフ場を抑え、緑の芝生を約1万個のテントがひしめく避難民村に変えた。避難民の数は5万人という。資金は彼とジェンキンスという人物が出した。現在、多くのボランティアや医療関係者を抱え、避難民の生活を支援している。
テント村があるゴルフコースに向かう途中、巨大な迷彩色のテントがあり、「歯科」「クリニック」という看板が立っていて、資金の豊かさをうかがわせる。
テント村入口で警備している陸軍オフィサーには、ガイドなしに奥まで入らないように言われた。ほどなく、9歳という男の子が交渉に来た。
「ガイドが必要でしょ」「いらない」「通訳がいるでしょ」「今、君とはフランス語が通じるからいらない」「僕の家に案内したい」「遠くに行く時間はないから」。この子が去ると、さらに年上の子が交渉に来た。ガイドをした後、「お金」というに決まっている。固辞していると、やせた幼い女の子が来て、クレオール語で「お腹がすいた」と言う。ほかの子が来て見上げながら「お金」。何かものを出せば、大混乱になるのは目にみえていた。案の定、連れの一人がガムをポケットから出して、押し倒されそうになった。
現地で世話になった通訳のアンドレによると、ペンは今、超多忙だ。実は、善意と資金力で手に入れたゴルフ場は、これから始まる雨期に土砂崩れが起きる可能性が指摘されている。ゴルフコースはすり鉢状で、土砂崩れが起きなくても、少しの雨で、テントの中が洪水状態になるのは目に見えている。
アンドレからの報告によると、4月9、10日の両日、ハイチ閣僚とプレバル大統領がペンを訪問し、20キロ北にある場所にテント村の「大移動」を申し入れ、土砂崩れの危険性が指摘されている場所にいた避難民が2回に分かれ、移動した。
クリスチャン・サイエンス・モニターによると、ペンは無線機を片手に動き回り、通訳を通して、移動を嫌がる子供を説得したりしている。
一行の仲間でハーバード大ビジネスシステムズ・アナリストのイヴェット・アセヴェドは、NGO間のつなぎ役になるという目的で一緒に来た。ペンを見た翌日、彼女は何と、JPHROからクレヨンとフルーツ皿、ジャガイモをごっそりもらってきた。すぐに私設孤児院に渡した。
「あまっていたから」「あまっていたって、どういうこと?」「JPHROでは1万個ないと平等じゃないから配れないものがたくさんあるの」「えー?!」
その翌日、イヴェットはまたどこからか、飲み水を3000ガロン(約11.4キロリットル)もらってきた。これは、ベルギー領事館が敷地内で養っている孤児に持っていったが、運ぶトラックを見つけるのに苦労した。
ハイチ大地震からもう3カ月。しかし、ペンの苦闘と、イヴェットのお手柄をみると、まだまだハイチは混沌としていて、それがいつ終わるのか予想もつかない。今週から、ハイチには雨が降り始める。
津山氏のハイチ・リポート第1回はこちら>>
*****************
津山恵子(つやま・けいこ) フリージャーナリスト
東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。2003年、ビジネスニュース特派員として、ニューヨーク勤務。 06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任まで取材し、AERAに執筆した。米 国の経済、政治について「AERA」「週刊ダイヤモンド」「文藝春秋」などに執筆。著書に「カナダ・デジタル不思議大国の秘密」(現代書館、カナダ首相出 版賞審査員特別賞受賞)など。
津山氏のコラム「ワシントン雑記帳」はこちら>>
【4月15日11時57分配信
ウォール・ストリート・ジャーナルhttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100415-00000005-wsj-int