19._命_視線の先
May 30 [Sat], 2009, 11:33
「さすがに寝すぎたか・・・」
そう呟きながら見上げた空は既に茜色に染まり、
眩しすぎる朱に命は目を眇めた。
朝から腹黒保健医(命目線)に説教をされ、授業なんて受ける気がなくなってしまった命は、さっさと向かう先を屋上に変えた。
幸い今日は暖かい日差しが降り注ぐ、絶好の昼寝日和だったこともあり、そのまま屋上で爆睡。
気が付いたときにはこんな時間になっていたのだった。
すでに就業時間は過ぎているし、学校にいる意味もない。
早く帰るに限ると校門まで来た命は、
げんなりとした表情で足を止めた。
「今日は厄日か・・・」
命の視線の先には、一人の教師と二人の少女の姿があった。
まぁ、今から帰るだけだし通り過ぎてしまえば問題ないだろ。
そんな風に考えながらも、早足になるのを抑えることはできない。
段々と三人との距離が縮まり、その横を通り過ぎようとした瞬間。
強い力で腕を引かれた命は、その勢いのまま体を反転させた。
「・・・なんだよ。」
「まぁ、そー怖い顔しないでよ、みこちゃん。」
「っ、てめぇ、その呼び方はやめろって言ってんだろ!」
「女性に向かってそんな乱暴な言葉を使うのは感心しませんよ?珠依君。」
自分の腕を掴んだまま無邪気に笑うクラスメイト、天国 歌流纏と、
その後ろで天国に牙を剥いたら許さないと
腹黒い笑みを浮かべる保健医、東宮寺 春日。
まさかこの二人の顔を一日に二度も見ることになるなんて。
最悪。
口にはしなくても内心を隠そうともしない命の様子を面白そうに見つめた歌流纏は、そのまま掴んでいる腕をクイクイと引っ張った。
「うん、やっぱりみこちゃんならOKかな!」
なにがOKなんだと聞くより早く歌流纏が続けた言葉に、
その場にいた歌流纏以外の人間がビシリと音をたてて固まった。
「みこちゃん、マリアのこと送っていって!」
「・・・脳みそ沸いたか?お前」
「えー、いいじゃん。あのね、今日みこちゃんに伸された人たち、また校門で待ってたんだよ?半分はみこちゃんへの仕返しもあるだろうし。だから責任持ってマリア守って?」
断ることは許さないと笑う歌流纏に、命は今まで以上に顔を歪める。
そんな命の腕を、臆することなく歌流纏は強く引く。
そして、そのまま腰をかがめた命の耳元にそっと囁いた。
「今日ずーっと屋上でお昼寝してたこと、センセイに教えちゃおうか?」
その言葉はどんな脅しよりも効果があった。
一日中授業をさぼった事が春日にばれたらと思うと、ぞっとする。
しぶしぶ文句を言うのを止めた命は、この話の当事者でありながら先ほどから一言も口を利かないもう一人の少女、華園マリアに視線を向ける。
「あんたはそれでいいのか?」
一同の視線を浴びたマリアは、小さく、それでも確かに頷いた。

