ミッドナイト・6 

September 05 [Mon], 2005, 10:18
 突如として部屋中に鳴り響いたブザーの音で、リナは目を覚ました。
 外は雨が降っているようで、雨の雫がアパートメントの外壁と窓を激しく叩く音が聞こえていた。
 リナはぼんやりとベッドから身を起こした。意識はまだ、夢の中を、あの遊園地の中を漂っている。
 ブザーはいまだやかましく鳴り響いている。
 誰だろう? アメリアか?
 リナは上着をひっかけると、のろのろとドアまで歩いていった。
「はい――」
「寝てたのか?」

ミッドナイト・5 

August 14 [Sun], 2005, 22:23
「ねえ、ガウリイ」
 何度目かに遊園地に訪れたとき、リナはふと思いついて隣にいるガウリイを見上げた。ふたりは園内のバラ園を歩いているところだった。
「あんた、どうしてここのことを知ったの? あたし以外の天使は誰も知らないと思っていたのに」
 ガウリイは穏やかな顔でリナを見下ろした。
 リナはそもそも見下ろされるのが大嫌いだ。天界にいる天使たちはいつもリナを高みから見下ろすような、哀れむような目つきで見る。凍りつくような冷ややかなまなざし。
 だがガウリイは違う、とリナは思った。リナへ向けるまなざしは、ほかの天使のようではない。

ミッドナイト・4 

August 04 [Thu], 2005, 21:13
 夜だった。リナはさびれかけた遊園地のベンチに座り込んでいた。これまで何度もそうしてきたように、背中の翼を小さくたたんで、身体を丸めて。
 じっとしていると、はらはらと涙が零れ落ちた。
 いつまでも泣いている訳にはいかないと思いつつ、だが天界に帰る踏ん切りはなかなかつかなかった。
 膝を抱えてわびしい遊園地の光景を眺めていたリナは、ふとメリーゴーラウンドのそばに一人の男がいるのに気がついた。豊かな金色の髪、暗闇の中で明るく光る青い瞳。均整のとれた長身を白い高級そうなスーツに包んでいる。
 ふと男はリナに気づいたように振り返り、口元に笑みを浮かべた。リナが天界で一度も見たことのないような、親しげで優しい微笑みだった。
「こんばんは、小さな翼のお嬢ちゃん。夜の一人歩きは危ないぞ」
 リナは驚いて後ずさりした。自分の羽根が見えるということは、普通の人間ではない。ハーフ・ブリードか。それとも悪魔だろうか。
 もしそうだったら。リナの背中を冷たいものが走った。
 だが男はリナに飛びかかるでもなく、淡い色の瞳を優しく細めているだけだった。
「怖がらなくていいぞ。取って食ったりしないから」
「……あんた、誰よ」
 リナは依然警戒を解かぬまま、男を睨みつけた。
「お嬢ちゃんと同業だよ」
「嘘。あんたみたいな天使、見たこと無いもの」
「そうだろうなあ。オレの存在は秘密なんだ」
「秘密?」
 呆けて言う男の口調に、リナは思わずつりこまれた。
「何せ、特別任務についてるからさ。神の裏仕事担当なんだ」
 疑わしげに眉をひそめるリナを見て、男を微笑んだ。
「ほら、これが証拠」
 次の瞬間、男の背に生えた見事な羽根がゆっくりと開かれるのがリナには見えた。リナがいままで見たことがないほど大きな翼だった。
「これで信じたか?」
「天使、なの? 本当に? こんなところで何やってるの?」
「お前さんこそ、こんなところで何やってんだ?」
 男は悪戯っぽく笑いながらリナの顔を覗き込んだ。リナは言葉に詰まった。
「何か、事情があるんだろ?」
 リナは俯いた。
「オレで良かったら、話聞くぞ。誰にも言わない。約束する」
 男は軽くリナの肩を叩いた。つりこまれるように顔を上げたリナに、男は改まった顔を作ってみせた。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。オレの名はガウリイ」

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ミッドナイト・3 

August 03 [Wed], 2005, 21:06
「お疲れ様、リナ」
 家の主人からなけなしの報酬をもらった後、外に出るとアメリアが待ち構えていた。黒のカソックという典型的な修道女の服を着て、肩にトランキライザーガンを担いでいる。
「今回は危なかったわねー。首はだいじょうぶ?」
 リナは赤くなった首筋をさすりながら頷いた。
「まあ、何とかね。さっきはありがと。あたしとしたことが、油断したわ」
「人間の身体には、まだ慣れない?」
 リナは眉をしかめた。
「まあね。こんな不便なもんだとは思わなかったわ。疲れやすいし、力もないし、足も遅いし」
「そのうち慣れるわよ。いまのところ他の依頼は入ってないし、しばらくはゆっくり休んで」
 リナは肩をすくめた。
「そうするわ。あんたはこれから修道院に戻るの?」
「そうなのよー。人間ごっこもラクじゃないわ」
 アメリアは童顔をほころばせて、悪戯っぽい笑顔を見せた。リナには、そのアメリアの背に、見えないはずの白い翼をはっきり見ることができた。
 アメリアは自分の首に下げていたロザリオをはずして、リナの首にかけた。
「神のご加護を」
「……あんたもね、アメリア」
 リナは微笑み、ロザリオをシャツの中に入れると、ヘルメットを手に愛車のバイクへと歩み出した。

 二人が立ち去った家の広間では、砕けた鏡の破片に黒い影が移り、それがひっそりとした声で呟いていた。

 みつけた。

 みつけた。

 みつけた……。

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ちょっと設定をば。アメリアはハーフ・ブリードです。ハーフ・ブリードはあの世にいった魂が人間の姿をして送りかえされてきたもので、天使側に立つものと悪魔側に立つものがいます。アメリアは天使側。天使と悪魔は直接人間界に干渉することができませんが、ハーフ・ブリードは半分人間なので人間界に干渉することができるのです。

ミッドナイト・2 

August 02 [Tue], 2005, 21:01
 咳き込みながら体勢を立て直すと、女が床に這いつくばってうめき声をあげていた。
 振り返ると、トランキライザーガンをかまえたアメリアが玄関口に立っていた。あれで女を撃ったのだ。
 リナはよろめきつつも立ち上がり、急いで懐から悪魔祓いの典礼書を取り出した。
「父と御子と聖霊の名において、アーメン」
 声はまだ掠れていたが、女は床に這いつくばったまま、憎々しげにリナを見上げた。
「大聖天使ミカエルよ、闇と邪なる霊界の支配者との戦いにおいて、我らを守りたまえ。神が自らの似姿として造りたまい、サタンの支配よりあがないたまいし我ら人間を、救いたまえ」
 典礼書を読み上げるリナの足元で、女は憤怒の唸り声を上げ始めた。
「主は汝に、あがなわれし魂を天の祝福に導くよう託された。平和の神に乞い願いたまえ、かのサタンの、我らの足の下に追い落とされんことを。我らが祈りを、神の玉座に運びたまえ、主のご慈悲が、ただちにかの獣、かの年をへた蛇、かのサタンと悪霊どもをとらえ、鎖もて地獄の闇に追い払いたまわんことを、二度と我らの国を誘惑することのないように」
 リナは紫色のストールにくるんだ聖水の瓶をポケットから取り出した。聖水を女の顔に振りかけると、女は激しくのたうちまわり、耳をつんざくような悲鳴を上げた。
 色を失った顔がぐるりと仰向けになり、かっと見開いた赤い眼がリナをとらえた。
「貴様、許さんぞ! 地獄へ道連れにしてやる!」
 しわがれた、低い声だった。リナは悪魔の目を見返し、口の端だけで笑った。
「それはごめんだわ」
 リナは女の額に向けて手をかざした。
「我が手には神の力とイエスの母なる聖母マリアの威徳が宿るものなり――」
「女め、覚えておけえ!」
 アメリアがすぐ傍に用意した鏡に向かって風が吹き始め、リナの髪を吹き散らした。
「リナ、早く!」
 アメリアの声を受けて、リナが鏡を指差した。
「大天使ミカエルの名により、キリストと諸聖人の名によりて、汝を追放する!」
 風が強まり、髪を鞭打ち、悪魔を鏡の中へと吸い取ろうとする。
「天の高みより、地獄の深みへ、汝を追放せし主に代わって。この神の創造物より、退散せよ!」
「リナ、それがおまえの名か……覚えたぞ!」
 女の口から巨大な黒い靄がぶわっと吐き出され、それはすぐさま鏡の中へと吸い込まれていった。

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ミッドナイト・1 

August 01 [Mon], 2005, 20:10
 星は出ているが、暗い夜だった。
 闇の中を、ハーレー・ダビットソンXL883Rが疾走している。車体に不釣合いな小柄なその乗り手は狭い路地を入り、一軒の古い家の前でブレーキをかけた。バイクを止め、ヘルメットを外すと、栗色の長く豊かな髪が背中にこぼれ落ちた。
 辺りは静けさに包まれていた。どこか非常に高いところで、電線がわびしい歌をうたっているのが聞こえるだけだった。
 だがリナには、邪悪なエネルギーが空気を震わせているのを聞くことができた。硫黄と腐った血の匂いも。それはこの家から漂ってきている。悪魔の匂いだ。

 ぐるあああああ……

 ふいに、この世のものとは思われないような凄まじい雄たけびが響きわたった。そして、ガラスの割れる音。それを聞くとと同時に、リナはその家に向かって駆け出していた。



 広間の中央では、四つん這いになった若い女が唸りを上げていた。邪悪に歪んだ顔、灰色の皮膚。悪魔に取り憑かれているのは一目瞭然だった。
「ベッドに縛りつけておけって言わなかった!?」
 二階へとつづく階段で、手すりにつかまってへたりこんでいる中年の男に向かって叫ぶ。
「縛っていたんだ! だがいつの間にか……」
 男が悲鳴のような声で叫び返した。
 リナは思わず舌打ちした。
 おそらくこの娘の父親なのだろう。悪魔に憑かれたとはいえ、娘を両手両足ベッドに縛り付けるのは忍びなく、ついロープを結ぶ手がゆるんだに違いない。
 次の瞬間、悪魔憑きの女が血走った目を剥いたかと思うと、リナに向かって飛び掛ってきた。
 リナはとっさに身体をかわして避け、女の腕をつかんで捻りあげた。……が、女は想像もできないほどの力でリナの手を振りはらい、再び飛び掛ると、リナの首をつかんで馬乗りになった。
「ぐっ……!」
 圧倒的な力に抵抗してもがこうとした瞬間、
 ぱんっ!
 耳の近くで破裂音が響きわたり、リナの首を締め上げていた手が離れた。


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映画「コンスタンティン」が結構面白かったので(まあB級だったんですけど、B級なりに)、設定をいただいてちょっと書いてみました。とても続ける自信がないので、ここでこっそりと。

オンリー行ってきました 

June 12 [Sun], 2005, 20:14
オンリー行ってきましたあああああ。いっぱい買ってきたぜええええ。
お声かけたいなーという方もいっぱいいらっしゃったんですが、こっちは人を押しのけて買うのに必死で、あちらもお客さん対応でいっぱいいっぱいだし、結局買うだけ買って帰ってしまいました。
それにしても、好きなものにお金を使えるって素敵。ふふふふ。
あの本もあの本も買えて幸せです。うふふふふ。
イベントを企画運営してくださったスタッフの方々に感謝!!!

時間より早く目白駅(こんなことでもなけりゃ一生降りない駅)に着いてしまったので、学習院大学(これまた一生縁がなさそう)の構内を意味なくうろうろしてきました。


今日は簿記の試験があったようです。


そういえばうちのお婆ちゃんは大学といえば学習院しか知りません。
・・・とか何とかやってるうちに時間になりそうだったので、目白カルチャーセンターに向かいました。


それにしても文京区はいいところですよね。緑多いし道も広いし。以前、秋ごろだったんですが護国寺→鳩山会館→東京カテドラルと散歩しました。紅葉きれいでした。東京カテドラルでは結婚式(リハーサルじゃなくてマジです)を見学させてくれました。無関係なのに。


途中に小学校がありました。


二宮金次郎の銅像をマジで飾ってある小学校って初めて見ました。

イベント会場の様子も撮ろうかと思ってたんですがそれどころじゃありませんでした・・・。

かなり勝手にガウリイを精神分析する 

June 04 [Sat], 2005, 22:21
「こころの痛み どう耐えるか」(小此木啓吾・著)という本があります。
こころの傷や痛みとそれを癒すプロセスについて精神分析の観点から語っている、すごく面白い本なのですが、その中に「投影同一化」という話がでてきます。

たとえば、クラスメイトから仲間外れにされて寂しい思いをしている子が、道端で捨てられている子猫を見つける。その子は自分の寂しい気持ちを子猫に「投影」して、この子猫はいま寂しくて不安なんだな、と共感する。そしてその子猫を拾って、世話をやいて子猫を孤独から救い出すことによって、自分自身の孤独を癒す。
・・・という、自分が持っている気持ちを他者に写す、また自分のこころと他者のこころが一体になるようなこころの働きを「投影同一化」というそうです。

はたと気づいたんですが、これってガウリイもそうだったんじゃないでしょうか。

ガウリイが出会い頭にリナの付き添いを買ってでたのは、単に親切だったからというだけじゃなくて、リナの中にかつての自分自身の姿を見たんじゃないかと。

ガウリイはかつて、(追われたのか逃げたのかわかんないですけど)故郷を飛び出して、一人で光の剣を抱えて、わだかまりと不安と孤独を抱えながら旅をはじめた。リナと出会った頃には傭兵として身を立てていたし、それなりに年を重ねて大人になったけれど、そのこころの痛みはまだ深刻に彼の中に根をおろしていた。
だからガウリイは、まだ若くて訳ありっぽくて一人で旅をしているリナに、かつての自分の姿を重ねて、この子はいま寂しくて不安で大変なんだな、という強い共感を感じた。
そしてリナを何とか守ってあげたい、この子を不安と孤独から解消してあげたいという気持ちから、リナの付き添いを申し出てた。
ガウリイはリナの「保護者」を名乗って、彼女を体を張って守ることで、自分自身のこころの痛みを癒し、そしてリナと一緒に旅することで彼自身孤独でなくなり、愛情の対象ができてこころが癒され、「光の剣」だか「家」だかに犠牲になった(と思われていた)自分の人生を少しずつ取り戻していった。めでたしめでたし。

以上、妄想なんですけどね。なんかそれっぽくないですか?ドリーム入りすぎてますか?

バリ旅行 

June 01 [Wed], 2005, 20:56
GW(のちょっと前)、バリに旅行に行ってきました。
白い白い、周りの景色が吸い込まれそうなくらい白い太陽光と、プルメリアの香り。
サングラスしてないと目が潰れそうなくらい眩しかったですよ。


ビーチサイドのホテルだったんですけどね、海はあんまりきれいなじゃいんです。観光地だから。なのでホテルのプールで泳いだりプールサイドで本読んだり。


道端にいたバリ犬。バリでは犬が普通にただそこにいます。


レストランにいたバリ猫。そういえば猫はあんまり見かけなかったです。


ウルワツ寺院にいたバリ猿。見えてますよ!


ケチャダンスも見ました。ファイアーダンスしてましたよ。

ご無沙汰でした 

March 06 [Sun], 2005, 10:43
長々と更新もせずにほったらかしといてすみません。
Web拍手の返事もほったらかしといてすみません。
やらなきゃやらなきゃとは思ってたんですが、一度離れてしまうと戻ってくるタイミングがつかみづらいです。押入れに死体を隠してるような気分です・・・。

さて、これまで風邪なんか四年に一回しかかからなかったんですが、寄る年波、先月体調を崩してしまいました。
治ったと思ったら今度は家人が倒れました。おいおい・・・。
とはいえいまは二人とも元気に回復しております。ご飯もぱくぱく食べてます。ぱくぱく。

ちょっと、ババむさい話で申し訳ないんですが、どうも「第一次老齢化」の波がきているようです。年って、少しずつとるもんじゃなくて、あるときガタッととるものらしいです。なんか、わたしはここんとこ急に弱くなりましたね。風邪も長引くようになったし、特に胃腸の機能が衰えました。
昔は大変な肉っ食いで、消化力には並々ならぬ自信を持っていたのですが、いまやちょっと食べ過ぎると胃が痛くて眠れなくなり、脂っこいものを食べると翌日まで胃がもたれます。脂ののった魚なんかも苦しいですね。肉なんかもうテキメンです。翌日いっぱい消化に時間がかかります。お腹をこわす回数もふえました。

というわけで、最近はほんとに肉・魚を食べず、準菜食主義者みたいな食生活を送ってます。田舎のおばあちゃんになった気分です。
P R
2005年09月
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