ウェーバーで釈明

April 25 [Mon], 2011, 23:00
ウェーバーで釈明

仙谷由人長官の自衛隊「暴力装置」発言は、自衛隊を暴力集団とする侮辱発言と非難された。マルクスやレーニンの思想との批判も受けた。参院予算委で追及された仙谷長官は発言を撤回し「実力組織」と言い換えた。当然のことだ。

暴力とは「乱暴な力。無法な力」(広辞苑)を指す。だが、自衛隊は国民の代表である国会で成立した法律(自衛隊法)に基づき、部隊運用や武器使用基準等々、厳しく統制されている。だから、その力は乱暴でも無法でもない。

菅直人首相は8月に、「改めて自衛隊について勉強したら、防衛大臣が自衛官でなく、首相が自衛隊の最高の指揮監督権をもっていることを知った」と述べ、失笑を買った。文民統制は憲法が規定している。法律家のはずの仙谷長官はそれでも「暴力装置」と言った。この失言は重い。

だから、仙谷発言は大いに追及されるべきだが、メディアの矛先が鈍いと先週、本欄で指摘した。追及しなくとも、「暴力装置」発言を支持するメディアは、よもやあるまい。そう思っていたのだが、驚いたことに毎日が「暴力装置」発言を支持する記事を載せた。25日付解説面の「木語(moku-go)」と題するコラム欄で金子秀敏・専門編集委員が「暴力装置?実際正しい」と言ってのけているのだ。

その中で金子氏はドイツの社会学者マックス・ウェーバーの『職業としての政治』を延々と解説し、ウェーバーの「暴力装置」論は秩序維持のため国家の暴力を正当とする論理だとし、「官房長官が左翼過激派だったと騒ぐメディアがあるが、これも的外れだ」と暗に産経や一部週刊誌を批判した。

さらに「『暴力と実力を言い間違えた』という仙谷氏の釈明も変だ。実力とは結局、暴力の実力のことなのだから」と釈明を批判し「暴力」を擁護、揚げくの果てに「みんなよくわからずに無駄な議論をしている」と、仙谷発言をめぐる論争をあざ笑うかのように結んでいる。

左翼用語と読売指摘

なるほど金子氏はよほどのウェーバー研究家と見える。記事では岩波文庫の『職業―』を引用しており、確かに「暴力」とある。しかし原文(ネットでも見られる)の「ゲバルト」は、日独辞典によれば暴力だけでなく強制力や権力ともしている。現に岩波文庫(脇圭平訳)の訳注には暴力装置ではなく「強制装置」とある(第26版108ページ)。日本語の「暴力」を正当と振りかざす金子氏の擁護論は、はなはだ疑わしい。

読売は「無駄な議論」と言われ、さすがに黙っておれなくなったようだ。28日付コラム欄「政(まつりごと)なび」で津田歩・政治部次長が「『暴言装置』はOFFに」と題して参戦、「暴力装置」はウェーバーよりも左翼運動でよく用いられたとして金子氏的な見解を否定し、相次ぐ仙谷長官の問題発言について「官房長官を続けるなら、『暴言装置』はそろそろオフにした方がいい」と忠告している。

それにしても仙谷長官とウェーバーは似つかわしくない。津田氏が言うように「暴力装置」は左翼の産物で、全共闘運動にうつつを抜かしていた仙谷氏の出所はそこからに違いない。それなのになぜ、ウェーバーなのか。産経の湯浅博・東京特派員が種明かしをしている(24日付「世界読解」)。

それによると、発言を撤回し「実力組織」と言い換えた後の記者会見(18日)で、ある記者が「マックス・ウェーバーが学術的に使っている言葉なので中立的で問題なし。そのあと、レーニンが暴力革命の理論としてその言葉を使った」とわざわざ助け舟を出した。仙谷長官はこれに飛びつき、「ウェーバーを読み直し、改めて勉強したい」とそらし、レーニンのことはおくびにも出さなかったという。

暴力装置に“応援団”

この記者の助け舟(ウェーバーとレーニンの先後を逆にしている)を産経19日付は鵜(う)呑(の)みにして、そのまま引用してしまった。それはさておき、この記者は金子氏なのか、それとも“ウェーバー好き”が他にもいるのか。いずれにしても「暴力装置」発言を公然と支持し、窮地の仙谷長官を助けようとする記者がいることが明らかになった。彼らが全共闘出身かどうか知らないが、マスコミの中に仙谷応援団がいるのは確かだ。

(増記代司)


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