エンジェルフォール紀行ー5
2012年06月01日(金) 13時21分

「吉田さん、眠りにつく前に教えてもらいたいことがある」と、またしても知りたがりの湯ノ街ネヲンは、話しの腰を折った。
「ところで吉田さんは、未開のジャングルみたいな所へ踏み入ったわけだよね。で、現地には、蚊や虻、ヒルなどの毒虫がいっぱいいたんじゃないの。そいつらに刺されたり食いつかれたりはしなかったの?」
「それからさ、大きな滝の裏側をくぐり抜けたり、滝つぼではウォータースライダーみたいなことをやって遊んだんでしょう。一日中そんなことをやっていたら大量の水をあびて、服や靴はもちろん、シャツやパンツまでグチョグチョになってしまったでしょう。熱帯のジャングルは湿気も多そうだし気持ち悪くなかったの…?。」と、湯ノ街ネヲンは、現地での様子に興味津々であった。
「あ、ゴメンネ!、ネヲンさん。」
なにしろ話すことが一杯あって、ついついはしょってしまった。で、疑問があったらその都度なんでも聞いてと、吉田さんは快く応じながら話しを続けてくれた。
現地では、ガイドさんから特別な防虫予防の指示があったわけでもないし、また、僕自身もこれといった虫除け対策に気を使ったことは一度もなかった。なのに、日本の夏ように蚊やハエなどに悩まされたという記憶は全くない。今思うと、とっても不思議な気がします。
熱帯のジャングルというと日本人は、うだるような蒸し暑い日々と蚊に悩まされる日本の夏を思い浮かべ、それ以上に苛酷な世界だろうと想像するだろうが、旅行中の現地では、そんなことをちっとも感じさせない日々だった。
虫の心配よりも、多くの観光客は日焼けに悩まされていた。日本人の僕はへっちゃらだったが、白人なんかすぐに真っ赤になってとても痛々しかったよ。
そして、服と履き物の件だけど…
と、話し始めて吉田さんは、その前にネヲンさん、僕が体験したこの旅行は、日本のツァー会社が募集する安直なインスタントのツァーとは、まったく趣が違うものだから、しっかり頭を切り換えて聞いてね、とことわりを入れた。
まず履き物ですが…、
水遊びといえばビーチサンダルですよね。だからといってネヲンさん、ひと夏限りの安物のスポンジ製のビーチサンダルを想像してはダメですよ。あんなものは大自然のなかでは使い物になりません。
クロックスのゴム草履ですよ!。
ただ僕が履いていたのはイタリア製で、底が頑丈で足首とつま先が固定できたのでとても便利でした。
また履き物といえば、ここのホテルでは、日本の旅館・ホテルのように館内ではスリッパ、外出時は下駄というように、いちいち履き替える必要がないのでとても快適だった。だって、床が汚れていても気にならず、シャワーを浴びるのもサンダル履きのままでOKなんだもの…。
それと、旅行中に身につけていたのは、おもにTシャツと海水パンツでした。なにしろ熱帯ですからね。あっ、もちろん、海水パンツはロングのヤツでしたよ。
若いということは素晴らしい。
ベッドにもぐり込んだと思ったら、あっという間に朝が来た。
いよいよエンジェルフォールにむかう日が来た。
出発の際にガイドから指示があった。
帰りは明日になるが、最終的にはまたここへ戻るので、貴重品と余分な荷物の類は、すべてフロントに預けて置くようにと…。そんな訳で、身なりは相変わらずTシャツにロングの海パンという気軽なスタイルでした。
いくら熱帯のジャングルの旅とはいえ、そこはそれ一泊のツァーなので、夜の備えを怠ってはいけないので、長ズボンと長そでシャツ、それと、防寒用のジャンパーなどをザックに詰め込み背負った。身の回りの手荷物はこれだけであった。
やがて、まるでオランウータンかチンパンジーの集団かとみまちがうような我々ツァー客たちは、旅の第一歩を踏み出した。エンジェルフォール行きの舟(船ではない)に乗るために、きのう遊んだ滝のところにある船着場へむかった。道のりは20分ほどである。
ホテルを出るとすぐにガイドは、これから皆さんをパラダイスにご案内しますといった。

それを聞いた僕は、極彩色の蝶や小鳥が飛び交い原色の花々が咲き乱れる熱帯のジャングル園を想像した。
しかし、案内されたところは、僕がきのう泊まったホテルのすぐ裏手にあったごく普通の小屋でした。僕は投宿以来、ホテルの裏手には現地人の住む小屋が幾つか建ち並んでいるぞ…、と思って見ていたうちの一軒でした。
外見はただの小屋でしたが、実は、そこは売店だったのです。ガイドに案内されるままに屋内に立ち入ると、目の前はとても薄暗かったが、ややして目が慣れると、そこにはさまざまな生活雑貨や食料品が無造作に並べられていた。
僕は、なんでここがパラダイスなんだ!、といぶかしんだ。
ネヲンさんだってそう思うでしょう。だって、この建物ですよと写真を指差した。
しばらくして僕は、パラダイスだと言ったガイドの言葉の意味がようやく解った。
実は、ここは国立公園内なので、法律により、ホテルの館内以外でのアルコール類の販売は一切禁じられていたのです。だから僕は、エンジェルホールツァー中の二日間は禁酒を覚悟していた。
が、ここで買えたのです。ビールが!!!。
嬉しさがこみあげてきて、さらに気分はウキウキとなりました。
ネヲンさん、僕はアル中ではないので心配は無用ですよ。
これに応じて湯ノ街ネヲンが聞いた。
「貴重品はすべてフロントに預けたのでは?」と
「その通りです!」と言って、吉田さんが話を続けた。
ガイドの指示があって、お金は、すべてホテルに預けました。だから僕は、本当に一銭も持っていませんでした。
が、店内に入るとガイドが言った。ここでの買い物の代金は、すべてガイドが立て替えますと…。勿論、僕だけでなく誰にでも貸してあげると言った。
狭い店内は、昨日のツァーで顔見知りになった人達で溢れかえった。それぞれが夢中になって買物しているとき僕は、店の片隅でなにやらひそひそ話をしている、身体の大きなメキシコ人の夫婦とガイドのことが気になった。なにやらコソコソと悪だくみをしている雰囲気だったからである。
声は聞こえてくるが、もちろん僕には、話の内容は全く解りません。その会話がスペイン語で交わされているからです。余談ですが、南米の国々の人達の日常生活は、スペイン語で成り立っています。そして、これらの国々の人達は、英語を理解しようという考えは全くないそうです。だから、このメキシコ人夫婦が喋っているは、間違いなくスペイン語なのです。
英語がやっとの僕には解らなくて当たり前です。
だけど僕には、密談という雰囲気が伝わってきたので、そしらぬ顔で様子を窺っていた。
そのうちガイドが、店の人に何かを告げた。
すると、なんと、なんと…!!!。いったん店の奥に消えた店主が、さりげなくウィスキーをぶら下げて再びあらわれたではないか。
これで商談成立かと思いきや、ウイスキーを目にまえにして、メキシコ人の態度がちょっとおかしかった。
その様子から察するに、ウィスキーの値段を聞いて買うかどうかで、迷っているようだった。
このとき、酒好きの僕のカンが働いた。その一角にそっと近寄った。そして、「オレもウィスキーが飲みたい!」と、単刀直入にガイドにせまった。
ガイドは、慌てる様子もなく、僕のこの要望を店主とメキシコ人とに通訳をした。するとそこへ、オランダ人も寄ってきて、オレも飲みたいと言って参加を求めてきた。
酒飲み同士、相通じるモノがあるらしい。
結局、3人の割勘でウィスキーを買うことにした。
お金をホテルに預けてしまった僕とオランダ人はそれぞれ持ち合わせがなかった。それを知ったメキシコ人は、なんと、リュックの中からごそっとキャッシュの束を取り出して、二人分を立替えて代表でウィスキーを買った。
その代金は、エンジェルフォールから戻ってから、それぞれが、メキシコ人に払うということで決着した。国際的な闇取引が成立した瞬間である。
ちなみに、この時の様子から、このメキシコ人夫婦は相当のお金持ちらしかった。もう一つおまけに、このウイスキーの値段は、日本円で千円ちょいだった。僕はこのとき、日本人はとっても凄いと思った。










