埃の降る部屋 花を育てる =?iso-2022-jp?B?GyRCJFIkSBsoQg= =?= 

April 25 [Tue], 2006, 21:23
桜はすぐに散ってしまう。
きれいだねえ、春だねえ、と言っているあいだに、桜はもうほとんど散ってしまい、緑の桜の葉もちらちらと見える。
「美人は早死にって言うけどねえ」
クリサンセマム・ノースポールの鉢とパンジーの鉢とガーベラの鉢に、順番に水をやりながら私は言う。
北校舎三階のベランダから見る桜はなんだか少しだけ小さく見える。見下ろしているせいだろうか。
桜が散るのはやはり寂しいものだ。しかし、私は春が早く終わればいいとも思っていた。
春の暖かさは中途半端で、春は天気も不安定だ。自分に優しくしてくれると思ったすぐあとに殴られた、みたいなそんな感じがして、春は私のような弱い人間にとって辛い季節である。だから、私は春が早く終わればいいとも思っていた。
目を閉じると生暖かい風がまぶたを滑る。私は自分がまるで春の景色の一部になったようなそんな気がして、しばらくそのままの状態で四月二十五日の放課後を過ごした。
お父さん、あなたはあのときどの花にいちばん惹かれた?
私は心の中で父に訊く。返事は返って来ない。
「何してるの」
ベランダへの扉を開けながら、同じクラスの藤森くんが私に訊いた。
私はにっこり微笑み、それから手招きで藤森くんを呼んだ。
藤森くんは少しだけ戸惑ったような顔をしながらベランダに出てきて、それから私の隣までゆっくり歩いてやってきた。
「座って」
私は、座ってほしい場所を左手でぺちぺちと叩きながら言う。
藤森くんは言われた通り、そこに腰を下ろした。
私は三つの鉢をすべて藤森くんの前に寄せ、知ってた、と訊く。
「知ってた?この花、クラスのみんなはなにげなく教室で見てたんだろうけどね、ずっと私が大切に大切に、そりゃあもう大切に育ててきてたの。知ってた?」
藤森くんはへらへらと軽い、しかし全然下品に見えないような笑い方をしながら首を横に振った。
「知るはずないでしょうね。だって私の育て方はまるで隠しているみたいな育て方だもん。誰も知るはずない。ごめんね、なんでこんなこと訊いちゃったんだろう」
私は少しだけ自分で訊いた質問に虚しさを感じてそう言った。
藤森くんは少しだけ困った顔をする。
「でもいまそれを知って、偉いなあと思ったよ」
藤森くんからそう言われ、私はにっこり微笑んで、ありがとう、と言った。
「引き止めてごめんね。戻っていいよ。まだ休み時間は始まったばかりなんだし、遊んできたら?」
「う...

埃の降る部屋 プロローグ 

April 21 [Fri], 2006, 23:19
私の中にはいつも、いつか幼いころに家族で行った花畑の記憶がある。
円状の花壇に色とりどりの花が植えられており、円の真ん中には噴水があった。そこに辿り着くまでの道はちょっとした迷路になっていて、花壇がくねくねといろんな道に続いていて、やはり花壇には色とりどりのきれいな花が植えられていた。私たち家族はバラバラに違う道を行き、誰が最初にゴールへ辿り着くかを競っていた。
私はべそをかきながらくねくねの道を歩いていった。
もう二度と、ママやパパに会えなくなっちゃうんじゃないかな。
そんなことを考えながら。
結局、私はビリっけつでゴールに着いた。 父と母はそのゴールの美しさに見とれ、しばらく私がゴールしたことに気が付かなかった。
私にやっと気が付くと、父は私のほうを見てからまた噴水のほうに視線を戻し、
おいで。
と私に言った。
父は私を抱き上げると噴水を指差し、
きれいだろう?
と言った。
ひとはな、ちゃんと苦しいことや辛いことを乗り越えると、きれいなものを見ることができるんだよ。
父は真面目な顔で私にそう言った。
それから一年後、父は自殺した。

(無題) 

April 21 [Fri], 2006, 14:44
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