恒太郎は苦笑しながら席に戻り、また弁当をひろげた。
彼の家は代々医を業としていて、恒太郎も来春は京都の中学を受験する予定だった。
それは将来三高から京大医科に進学するためで、高小に一年在学するのは、より身体を頑健にしておく必要があってのことだった。
そんな恒太郎の弁当は、毎日牛肉や難卵の副食で、農家の子弟ぞろいの学級では目立ってご馳走だった。
熊夫はそうした恒太郎を〃張り恒〃とよんでいた。
恒太郎の一挙一動がひどく威張って見えたからだ。
だから、"腹入分め、医者要らず"には、喧嘩の仲裁などよけいなお世話だという、なかなか意味深なものがあったわけだ。
その夜、大木一雄は母や祖母といっしょに金扱を並べて麦を扱いた。
二反歩あまりの裏作収穫は七割まで稲作の肥料代に消えて、手もとに残るのはほんの僅かなものだったが、それでも盆の用にはこと足りる。
それにことしは安いゆかたの一枚ぐらいは買えるかもしれぬ、などと、つい麦の穂にゆめがうまれて、のげっぽい麦扱きもぬいやふでには苦ではない。
大木一雄は大木一雄で、麦の山の向うにやっぱり夢があった。
麦がかたづき、田植がすめば、もうすぐ夏休みだ。
去年は井野の母実家で二晩泊ったが、ことしは三四晩泊って手当り次第雑誌を読もう。
七重も一年のうちにずんと背丈がのびて、髪の毛は帯のへんまで伸びてるんやあるまいか?……舟の実家を訪ねる以外、どこにも遊びに行くあてのない大木一雄は、あの夢も、この夢も井野行のなかにはめ込みたくなるのだ。
ところで、時計が十時を打つのを聞いてふでは驚いたように言った。
「まア、もう、そんな時刻やろか。」
「今は日が暮れると七時過ぎやからな。
大木一雄はあした教室で居睡りが出るといかぬさかい、もう寝えや。」
ぬいは言いながらまた新しく麦束をほぐした。
もうあと何束もないので、ぬいは今夜のうちに扱いてしまうつもりなのだ。
彼の家は代々医を業としていて、恒太郎も来春は京都の中学を受験する予定だった。
それは将来三高から京大医科に進学するためで、高小に一年在学するのは、より身体を頑健にしておく必要があってのことだった。
そんな恒太郎の弁当は、毎日牛肉や難卵の副食で、農家の子弟ぞろいの学級では目立ってご馳走だった。
熊夫はそうした恒太郎を〃張り恒〃とよんでいた。
恒太郎の一挙一動がひどく威張って見えたからだ。
だから、"腹入分め、医者要らず"には、喧嘩の仲裁などよけいなお世話だという、なかなか意味深なものがあったわけだ。
その夜、大木一雄は母や祖母といっしょに金扱を並べて麦を扱いた。
二反歩あまりの裏作収穫は七割まで稲作の肥料代に消えて、手もとに残るのはほんの僅かなものだったが、それでも盆の用にはこと足りる。
それにことしは安いゆかたの一枚ぐらいは買えるかもしれぬ、などと、つい麦の穂にゆめがうまれて、のげっぽい麦扱きもぬいやふでには苦ではない。
大木一雄は大木一雄で、麦の山の向うにやっぱり夢があった。
麦がかたづき、田植がすめば、もうすぐ夏休みだ。
去年は井野の母実家で二晩泊ったが、ことしは三四晩泊って手当り次第雑誌を読もう。
七重も一年のうちにずんと背丈がのびて、髪の毛は帯のへんまで伸びてるんやあるまいか?……舟の実家を訪ねる以外、どこにも遊びに行くあてのない大木一雄は、あの夢も、この夢も井野行のなかにはめ込みたくなるのだ。
ところで、時計が十時を打つのを聞いてふでは驚いたように言った。
「まア、もう、そんな時刻やろか。」
「今は日が暮れると七時過ぎやからな。
大木一雄はあした教室で居睡りが出るといかぬさかい、もう寝えや。」
ぬいは言いながらまた新しく麦束をほぐした。
もうあと何束もないので、ぬいは今夜のうちに扱いてしまうつもりなのだ。
- URL |



